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巻頭言 ネットワークって何だろう
こんなところ・あんなところ・どんなところ?
  東北地方 その2 ─宮城県─
地域情報ア・ラ・カルト
  武蔵野市教育委員会 「帰国・外国人教育相談室」
行政・施策
  ★厚生省から ★文化庁から
研修会情報
教材・教育資料
とんとんインフォメーション
事例紹介

巻頭言

ネットワークって何だろう?… ニューズレターの3年間から見えてくるもの

 ――編集担当者のひとりごと――

 私たちが「同声・同気」の準備号を出したのは平成6年7月でした。この準備号を出すまでにほぼ1期(4ヶ月)の間、何をどんなふうに作るのか作り手である私たちでさえ皆目見当もつかないまま、あれやこれやと議論を重ねたものでした。それから3年、「同声・同気」も第9号を迎え、2000部以上を全国の皆さんにお届けできるまでになりました。去る3月10日には、同名のホームページも開設しました。
 さて、私たちはネットワークを広げようとニューズレターを発行したのですが、日頃ネットワークといっているもの、この実態はいったい何なのでしょうか。ネットというからには「網」のようなものでしょう。その網は、「同声・同気」の創刊号でセンター教務課長の小林がいっているように「自立した組織・グループまたは個人が自主的に結びつ」くということであり、さらにその網が活動することで「単に情報の交換を行うだけでなく、結果として新たな価値を生み出していく」ということであると思いますが、日々携わる業務から見えてくるネットワークとはどのようにイメージできるか少し考えてみたいと思います。
 ニューズレターを発行するにあたって私たちは何よりもまず、全国の支援者が抱える問題がどのようなものであるかを知りたいと思いました。センターで私たちが日常的に出会う問題は、果たしてどの程度共通したものなのかということです。実際、様々な方から相談やお問い合わせを頂きました。それに対して私たちは、出来うる限りの情報をお送りし、また読者の皆さんからも多くの情報や示唆を与えられたのです。そうして少しずつ、各現場が抱える問題もまた、私たちと同じものであるという認識や実感が生まれてきました。当然といえばこれほど当然なことはありません。しかし、そうした実感がもてるようになったことで、私たちには帰国者教育に携わる読者の皆さんの顔が見えてきたという思いがあります。これはとても大切なことのように思います。網を結んだ相手の顔が見えた上での情報交換、そこで交わされる情報は、たぶん必要な、生かされるべきものとしてあるでしょう。さらに、この網はセンターと読者というだけでなく、読者の皆さん自身が編んだ別の網と、私たちもまた繋がっていけるということでもある、とそう思います。
 ネットワークの実態は、単なる情報網というだけでなく、そこに関わる人々の顔が見え、具体的な問題をお互いが共有しているということに尽きるのではないでしょうか。それがなければ、どのような情報も、敢えていえば組織もあまり意味があるとは思えません。そのような認識の上に、「新たな価値」が生み出されていくのだと考えます。その「新たな価値」とはどのようなものなのか、例えばそれは、行政に働きかけてその施策の転換を求めるということかも知れませんし、あるいは広く日本社会に価値観の転換を求めるということであるかも知れません。いずれにしても私たちは、ネットワークというはやり言葉(!?)を、共有する問題でしっかりと裏打ちをした上で、繋がっていきたいと思います。

<こんなところ・あんなところ・どんなところ?>

東北地方 その2 ─宮城県─

1.宮城中国帰国者定着促進センター

 中国残留邦人等を平成7年度から3カ年計画で受け入れるために国が新たに設置したセンターのうちの1カ所です。平成7年7月の開設以来、国の委託を受けて社会福祉法人宮城県社会福祉協議会が運営しています。永住を目的として国費で帰国した中国残留邦人及びその同伴家族に対し4カ月の研修を行っています。毎期15世帯以内の受け入れが可能で、これまで56世帯207名を受け入れました。現在は第6期生5世帯(24名)が研修を受けています。月曜日から金曜日まで一日6時間、日本語指導と生活指導を行っています。そのほか、社会体験学習(買い物、交通等)や公共機関の見学、職場見学、またレクリエーションとして市民センターを借りてのゲーム大会やスポーツ大会、研修生が主体となって司会進行を行う歌や踊りといった活動も行っています。
 〒983 仙台市宮城野区安養寺3-1-2
TEL/FAX 022-293-0974

2.中国帰国者のための県単事業

@ 宮城県では中国からの引揚者の親睦団体であるアカシア会ボランティアクラブに委託して日本語教室を開設しています。昭和60年10月から行われており、現在日本語を教えているのは小、中、高校を退職した教師11名と中国人4名の計15名です。ここでは3世までの帰国者家族及び呼び寄せ家族が学んでいます。教室は県庁の本町第2分庁舎の会議室(2階、3階)で、授業は毎週水曜日から土曜日まで(9:30〜15:30)行われています。クラスは6クラスで、入門、初級、中・上級程度、高齢者向けのクラスなど、能力、習熟度に応じた指導を行っています。中・上級クラスには雇用促進事業団の能力開発センターや県高等技術専門校へ進む人もいます。同教室では日本語教育だけでなく、各種施設等を見学する地域体験研修から生活相談や公的機関での手続きの援助、就労指導等幅広く対応しています。学習希望者は随時受け付けており学習期間は18カ月までとなっています。受講生の多いときには100名程にもなります。
 アカシア会ボランティアクラブ
  〒982 仙台市太白区桜木町6-11 太田直之 TEL: 022-229-1676

A 県内に永住・一時帰国した残留邦人に対し、慰労金及び記念品を交付しています。

3.(財)宮城県国際交流協会(MIA) 

 MIAでは、世界各地からの人々が宮城県で快適な暮らしができるよう各種プログラムを実施しています。特に、日本語教育に関する情報は充実しており、自主事業である「MIA日本語集中講座」はもちろん、ボランティアによる日本語教室の紹介やプライベートレッスンのアレンジなど相談に応じています。また、中国語をはじめとする外国語による生活ガイドブック(無料)の発行や中国語による相談窓口(平日9:00〜17:00)の開設のほか、相談内容によっては各種専門機関を紹介しています。
 〒981 仙台市青葉区是通雨宮町4-17
     宮城県仙台合同庁舎7F
 TEL:022-275-3796  
 FAX:022-272-5063 

地域情報ア・ラ・カルト

武蔵野市教育委員会 「帰国・外国人教育相談室」

 武蔵野市には「帰国・外国人教育相談室」があります。海外からの帰国あるいは外国人の児童・生徒が市内の小・中学校に入学や編入の手続きをすると、教育委員会からこの相談室の存在を知らされることになっていて、相談室では子供や保護者の必要に応じて、相談に乗ったり、手助けをしたりしています。
 現在、武蔵野市に中国帰国者の子女は少ないのですが、市内在住の外国籍児童・生徒の半数以上は中国語を母語とする子供たちだそうです。
 武蔵野市教育委員会「帰国・外国人教育相談室」は、現在6人の嘱託スタッフで運営されています。帰国や外国人の子供が通学する学校や、保護者から依頼があると相談にのっています。主な相談内容は、@日本語の問題、A未習の教科に関する問題、B母語または外国で習得した第二言語の保持、C日本の学校生活の中で出会う習慣や文化の問題、などです。

@日本語の問題
 レベルチェックをした後、相談室から各学校へ日本語教師を派遣し指導する。指導は学校と相談の上、授業時間内や放課後に行う。常に学習言語を念頭において指導している。

A教科補充指導
 歴史や地理などを中心に、教科の指導を子供の母語で行っている。

B母語や外国で習得した第二言語の保持
 現在は英語と中国語について、ネイティブによる言語保持教室を開催している。中国語は1か月2回開催され、中国で教職だった人が授業をしている。この教室に通うようになって初めて心を開き、自分の国のことを担任やクラスの友達に話すようになった中国人の子供もいるという。

Cその他の学校生活の問題
 日本の学校生活での戸惑いや悩みの相談に対応しているが、習慣や文化の違いによる誤解が生じないよう、学校側と外国人家庭双方に必要な情報を提供し、さまざまな援助を行っている。また、一昨年からは、外国籍児童・生徒保護者会を開いたり、新一年生の外国人保護者対象の学校用語の説明会を開いている。
 以上は、同相談室が行っている活動の一部ですが、この他にも母語以外でのスピーチ大会や、お正月交流会等も企画しています。この武蔵野市の取り組みの特色は、相談内容が多方面に渡っていること、それらにきめの細かい対応をしていること、また、これらの活動を支援するために登録されているボランティアの活動分野がバラエティに富んでいること、といえるでしょう。この相談室の運営は、「海外からの外国人の子供たちにとって、武蔵野市が住みやすい所になるように」という精神に基づいているとのことでした。

<行政・施策>

★厚生省から

1. 中国残留邦人等の援護対策関係予算

平成8年度予算額 → 平成9年度予算額
31億6千9百万円 → 31億2千6百万円

1 永住帰国者援護

  ア.高齢帰国者の範囲の拡大

  成年の子供世帯を伴って帰国できる帰国者の範囲の拡大
  60歳以上 → 55歳以上

  イ.定着自立制度の充実

  a.帰国後2年目の自立指導員の派遣回数の増
     全世帯 月1回 →  全世帯  月1回
     1/3世帯 月3回加算 1/3世帯 月4回加算

  b.自立研修センターの充実
  ・職業訓練オリエンテーションの実施
  ・日本語再研修クラスの増設    1クラス → 2クラス

2 一時帰国者援護 3億5千4百万円  → 3億1千8百万円

3 肉親調査(訪日調査時) 4千7百万円  →   4千6百万円

2.平成8年度厚生省「適応促進対策研修会」

平成9年1月30日(木)、31日(金)
 今回の研修会は埼玉県大宮市で2日間にわたって行われました。参加者は定着促進センター、自立研修センターの日本語講師、就労相談員、生活相談員等が53名、都道府県職員が6名の合計59名でした。
 1日目は厚生省による行政説明の後、適応の問題に取り組んでおられる2人の先生方に講義をしていただきました。まず、中川泰彬先生から、帰国者が適応過程において陥りやすい症状について、統計を交えた講義がありました。その中では、心の病は誰にでも起こり得ること、決して怠けの気持ちから生じるのではないことが強調され、何らかの症状が出てしまってからは、とにかくその人の話を聞いてあげること、それが本人の心の整理につながるのだとの話でした。
 また、相原和子先生には、先生ご自身が問題行動のある帰国者に接した時の体験談と帰国者への具体的な指導方法を話していただきました。帰国者と接する時、時には強く叱ること、本気でぶつかることでお互いに信頼し合えるようになること、さらに、帰国者を理解するには、通し目玉(過去をふりかえる)、観察目玉(個別性を見いだす)、驚き目玉(感情を移入する)、分析目玉(偏見にとらわれない)の4つの目玉が必要なことなど、興味深いお話をしていただきました。講義の後には参加者の抱える事例の相談にも答えていただき、参加者からは「大変参考になった」、「もっと時間を増やしてほしい」との声が多く聞かれ、たいへん好評でした。
2日目は、参加者が5つのテーマに分かれてグループ別に意見交換を行いました。意見交換では個々の経験や知識を提供して悩みを解決し合ったり、新たな対処方法を考えたり、と1時間半の時間では語りつくせない程活発なやりとりが行われました。
1)定着促進センターにおける日本語指導上の諸問題、
2)定着促進センターにおける生活指導等の諸問題、
3)自立研修センターにおける日本語指導上の諸問題、
4)自立研修センターにおける就労問題、
5)自立研修センターにおける生活指導等の諸問題、

3.平成8年度中国帰国者定着促進センター施設長会議の開催

平成9年2月21日 東京都千代田区法曹会館
 全国各センター、および分室の所長等14名、厚生省職員5名が出席して、平成8年度の事業報告、質疑要望・意見交換等が行われました。
冒頭、本田中国孤児等対策室長より挨拶があり、平成5年12月に作成した厚生省の向こう3年間の受入計画は平成8年度中に概ね果たせる見込みであること、平成9年度以降は新たに孤児と認められた者、残る帰国者の受入れ等を予定しているので、定着促進センターでの受入れについて今後も協力をお願いしたいこと、並びに平成9年度予算等について説明が行われました。
次に、中国孤児等対策室より中国残留邦人に対する援護施策、並びに平成9年度予算の概要等について説明が行われました。さらに、各センター、分室より事業報告が行われ、運営上の問題点等についても併せて説明されました。
質疑要望・意見交換では、今後の帰国者とセンターの運営見込みについて質問がありましたが、中国孤児等対策室からは、今後帰国者の減少に伴ってセンター縮小は避けられないことであるが、具体的な閉所計画等については帰国状況等を勘案しながら検討を進めていきたい、との説明が行われました。

4.平成8年度身元引受人会議開催

 ・ 甲信越・東海北陸地区  
   開催日:平成8年12月4日〜5日
   参加身元引受人:27名
 ・ 関東地区         
   開催日:平成9年1月29日
   参加身元引受人:52名

長野県と東京で開かれ、全体会議とグループ討議の形態で身元引受人の体験発表や意見交換等が活発に行われ、特に、住宅確保の問題、二世三世の教育等の問題、呼び寄せ家族の問題、生活保護の問題等、様々なことについて現状と問題点が報告されました。
 また、厚生省に対する質疑・要望事項も出され、厚生省より援護施策等についての説明が行われました。
厚生省では、今回の会議の成果を踏まえ、身元引受人あっせん事業についての諸問題を検討するとともに、平成9年度も、地区別に宮城県と岡山県で身元引受人会議を開催する予定です。

★文化庁から

 文化庁文化部国語課は、平成9年4月下旬に2冊の手引き『中国帰国者のための日本語教育Q&A』『技術研修生のための日本語教育Q&A』を大蔵省印刷局より出版します。予定価格は1,400円です。『中国帰国者のための日本語教育Q&A』は、4月中に定着促進センター、自立センター、都道府県担当課等に無償配布する予定です。また、8月上旬に予定している文化庁の「平成9年度 日本語教育研究協議会」では、2冊の手引及び平成8年度の各種報告書を参加者全員に無償配布する予定です。
 手引きの内容については9ページの教材教育資料をご覧ください。
(※編集部補足:すでに一般の書店で1400円(税抜き価格)で販売されています。)

研修会

埼玉日本語ネットワークの「就学児童・生徒の日本語教育相互研修部会」

 3月28日(金)、埼玉県大宮市で「就学児童・生徒の日本語教育相互研修部会」が行われました。この研修部会は埼玉日本語ネットワークの活動から生まれたもので、今回が2回目、「取り出し授業についての考え方、実践例について」というテーマでした。参加者は県及び市から派遣されて埼玉県内の小中学校で取り出し授業を担当している先生方、帰国者及び外国人児童生徒の教育にかかわるボランティアの方々等15名で、中には秋田県のボランティアグループから参加された方もいました。
 この日は、1回目で報告された実践例のレビュー(日系三世への読解の指導法、帰国児童の指導について)から始まり、意見交換、情報交換が行われました。また、別のネットワークの現状報告として「秋田にほんごの会」の活動が紹介されました。お話からは地域に散在する学習者を支援して行くには行政との連携が重要なことが伺えました。行政に対して支援を呼びかけていく必要性は、この会の中でも話し合われましたが、具体的なアクションを起こすためにも、地道に実践例を蓄積していくことが大切だと思われます。
 また、この会では大宮市の教育研究所が作った教材「はじめくんとまりちゃんのにほんごきょうしつ2」が紹介されました。昨年度発行された教材の続編で、児童に適した場面で文型練習ができるように工夫されています。10部ほど残部があるそうです。お問い合わせは下記まで。
 〒330 埼玉県大宮市堀崎町48-1 
     大宮市立教育研究所
 TEL:048-688-1453  FAX:048-688-1464 

 現在小中学校では帰国・外国人児童生徒に対して取り出し授業を行っているところも増えてきましたが、その際担当者が孤軍奮闘しているケースが多いようです。ほかの現場の様子を知る機会がなかなかないことから、この会のような情報交換の場が多くの地域でもたれるようになるといいと思いました。
 なお第3回は下記の要領で行われます。

  日時:7月25日(金)11:00〜15:00
  場所:中国帰国者定着促進センター
  内容:一次受け入れ機関としてのセンターの見学と講師との懇談
  定員:40名
 お問い合わせ、申し込みは7月11日(金)までにファクスかはがきでお願いします。
  連絡先:〒333 川口市芝園町3-2-1415      行名則子 TEL 048-266-9305

厚生省「適応促進対策研修会」に出席して ─適応への心のケア─

 通訳兼相談員として、帰国者の支援に携わってから2年近くが経ちました。過日「平成8年度適応促進対策研修会」に出席した際、“帰国者の方々の帰国から適応までの過程”を理論的に分析した講義を聞き、その内容が当センターに通所している方の状況と酷似しているのには、頷くばかりでした。「言葉ができない」ということが、どれほど人を不安にし、自信を喪失させるかとうことです。 私が所属している静岡県中国帰国者自立研修センターは、平成7年5月に設立されましたが、今回の研修会時点では7世帯16名の帰国者がセンターに通っていました。そのうちの一人は、49才の男性で、中国で従業員800名の工場の工場長を経験した方ですが、修了間近、センターが慣例の就労相談会を開き、修了生と関係者の希望とアドバイスを聞く機会を作った席で、「自分を皆さんに紹介するいい機会ですので、是非、日本語で、自分で話してほしい。できない時は、その場で通訳します」と私が言ったのですが、彼は迷った結果「やっぱり通訳してほしい」と、俯いたままでした。しかし、その後、センター主催の日中料理交流会で中華料理を一品作って頂くことにしましたが、その日は一日中彼の顔が輝いて見えました。
 帰国者が、地理的移動、経済的下落、言葉の障害、習慣の違いなどによって受けるショックは大きく、それにより精神的混乱に陥ってしまい、いわゆる混乱期にはいります。これを乗り越えれば、社会への適応が出来てくるという理論的な分析を理解したうえで、私は帰国者の周辺にある者として、先輩の方々に見習い、帰国者の精神状態を敏感に感じ取り、帰国者に勇気と自身を持たせるような接し方をとることが大事ではないかと思うようになりました。これも自分の体験から得たものなのかもしれません。
 私は、10年前に、残留孤児の義母に連れられ主人と一緒に日本に来ました。若かったため、怖い物知らずとはいえ、慣れるまでには精神的に相当辛いものがありました。先輩に声を掛けられ、この仕事に就きましたが、年配の帰国者と接触しているうち、精神的な悩みが適応への妨げになってはいないかと考えるようになり、他方面のサポートと同時に、心のケアも欠かせないと研修を終えたいま、今後の目標を新たにしました。
(静岡県自立研修センター通訳兼相談員 榑林智子)

「外国人子女の日本語指導に関する調査研究 −日本語教育担当者研究会−」

「同声同気」紙上でも再三話題になっていますが、日本語指導が必要な児童生徒が増加し、指導体制の充実が望まれています。そんな折り、3月18日、東京外国語大学留学生日本語教育センターにおいて「日本語教育担当者会議」が開催されました。この研究会は、文部省が実施している「外国人子女の日本語指導に関する調査研究」の一環として行われたものです。ここでいう「担当者」とは外国人児童生徒への日本語教育を直接実施している担当者という意味で、全国各地から50名近くが集まりました。参加者の所属は小学校、中学校、高校、教育委員会など様々でした。当日のプログラム内容は次のとおりです。

・実践報告(13:10〜14:30)

「コンピューターを利用した日本語教育」 (豊橋市立南部中学校/青田健司先生)
「マルチメディア活用による日本語指導」 (市川市立新浜小学校/大津山正先生)

・分科会(15:00〜16:40)

「外国人児童生徒に対する日本語教育の現状と課題」
  小学校と中学高校の部に分かれて協議

・全体会(16:40〜17:00)   分科会の報告とまとめ

 実践報告では、児童生徒の学習ニーズに沿って現場で開発された教材が紹介されました。また、分科会ではそれぞれの現場が抱える問題点が出され、協議が行われました。系統だった教材やカリキュラムが不足している、児童生徒の母語をどうするか、担当者が継続して指導にあたれない、教科学習につなげるための日本語教育はどんなものか、日本語担当者の守備範囲はどこまでか等々、問題は多岐にわたっています。こうした問題を抱えて全国各地で奮闘中の担当者が、実践報告で紹介されたような教材や工夫に容易にアクセスできるシステムが望まれています。また、各現場で作られた教材やカリキュラムを別の現場で使用するためには、ある種の「雛形」のようなものも必要なのではないでしょうか。 
今回の「研究会」の成果は「外国人子女の日本語指導に関する調査研究」の中でまとめられていくようです。この「調査研究」では各種アンケート調査の他、評価法やカリキュラムも作成されるようです。「調査研究」の今後の成果に期待したいと思います。(所沢センター 池上)

・「第18回異文化間教育学会」

が、5月31日と6月1日の2日間にわたって開かれます(『同声・同気』第8号既報)が、プログラムによると、両日ともに「自由研究発表」の場があります。その中に、「中国残留孤児の子弟の日本における社会文化適応とその言語発達」(1日目)、「中国人の日本文化理解に関する研究−中国人の日本語習得を通して」(2日目)、「外国人子女の日本語習得と学校適応−公立小学校における1年間の教室観察を通して−」(2日目)等、興味あるテーマがならんでいます。

教材・教育資料

・「渡日のこどもをむかえた学校のてびき」 大阪府豊中市

 大阪府豊中市内の小、中学校には現在、中国やブラジル、韓国、フィリピンなど、さまざまな文化的背景を持つこどもたちが多く通っています。そのようなこどもたちをはじめて受け入れる学校や担任の先生は、まったく日本語のわからないこどもたちに対し、何から取り組むべきか、彼らとどのように理解し合っていくべきかという疑問を抱えて、戸惑うことが多いです。この手引きは、そのような疑問が生じたとき、解決策を求めて簡単に手にとって読めるものとして、またひとりでも多くの人々に「渡日のこどもの教育」への関心と理解を促すものとして、豊中市内の小中学校の先生方により編集作成されました。
 全5章からなる手引きは、編入学の際の受入れ、担任と保護者の相互理解の方法、日本語指導にあたっての基本的な考え方や留意点、テキストの紹介、各教科、行事、クラブ活動、校則などの指導における配慮等について具体的に述べています。さらに、保護者の日本語習得の必要性から、市内の公共機関で開校している日本語教室の紹介や、日本での生活に関する相談窓口の一覧が掲載されています。
 渡日のこどもにとって未だ厚い壁である高校進学については、経済面でのきびしさや、学力面でのハンディな現状を説明するとともに、入試の際の特別措置の内容、高校との連携方法などを紹介し、保護者を含めた入念な進路相談の必要性が述べられています。
手引き全体を通じて強調されていることは、渡日のこどもとその保護者の持つさまざまな文化的特性を理解し、尊重することの重要性です。日本的価値の押し付けや異文化に対する理解不足はアイデンティティの喪失や、いじめや差別を助長する恐れがあります。多様な価値観を認め、渡日外国人自らが選択する「民族的アイデンティティ」を保障することこそが、渡日のこどもたちの日本における学校生活を豊かにし、同時に日本のこどもたちにも異文化に接するという貴重な体験を与えることになる、と手引きは語っています。(てびきの残部は無いとのこと。読みたい方にはセンター所有のものを順番に貸し出します。190円切手を貼り、住所・氏名を明記したB5版封筒を同封し、センター教務課まで申し込んでください。なお、インターネットにアクセスできる方は、センターのホームページから全文をダウンロードすることもできます。)

★ニューズレター第8号でご紹介した『学校用語集』(川崎市総合教育センター)と『生活保護指南』(明石市福祉事務所)へ多数の問い合わせがあったとの御報告をいただきました。

・『学校用語集』

 紹介時には残り80部ほどだったそうですが、今回みなさんに紹介したことで足りなくなり、改めて200部印刷したとのことです。問い合わせて来た方は、学校や公的機関(二次センターなど)、県の教育委員会、帰国者の子どもを教えるボランティア等です。なかには子ども一人に一冊ずつという希望もあったようですが、部数も少ないためコピーしてくださるようお願いしたとのことでした。→(8号を見る)

・『生活保護指南』

 残りの30部では足りず、すでに関係する職員に配布したもののうち未使用のものを回収して当座をしのぎ、今までに60部以上を希望者に送付しました。まとめて10部ほしいと言うような場合にも1部でご勘弁願ったそうですが、それぞれの希望部数に応じていれば100部以上になっただろうとのことです。問い合わせて来た方は6割が全国の自立指導員で、あとは福祉事務所の現場及び県の担当者、小学校の先生、大学の研究者等、中国帰国者からは1件あったそうです。
この冊子は、3年ほど前に新聞紙上でも紹介され、その時は500部ほどを送付したそうですが、今回の希望者はマスコミが取り上げた時とは違い、その必要さにおいては切実なものが感じられたとは担当の寺谷さんの感想です。
この4月には100部増刷しますので、まだ希望に応じられるとのことでした。→(8号を見る)

・『中国帰国者のための日本語教育Q&A』

    文化庁国語課  1997
 この手引では、これまでの成果をまとめるとともに、実践の場で活用できるよう様々な工夫がなされています。例えば、教育方法としては「クラス形式の日本語教育」だけでなく、日本語教育未経験の一般のボランティアなどが、地域社会の中で日本語を教えるのに適した「マンツーマン形式の日本語教育」についても詳しく解説されています。以下はその目次です。

1.中国帰国者と日本社会 

  1)中国帰国者の問題とは
  2)定着地での学習支援
  3)職場で
  4)子どもたちは
  5)家族のきづな
  6)地域で

2.マンツーマン方式の学習支援

  1)出会いとつながり
    ・知り合うこと
    ・人間関係
  2)友人の日本語の勉強を手伝う 
  3)教室でのマンツーマンの運営

3.クラス方式の学習支援

  1)日本語クラスは今
  2)クラス方式の長短
  3)多様な学習者への対応

4.あとがき

5.資料

  1)日本語教育機関関連
  2)生活相談関連
  3)子どもの就学関連
  4)日本語教育関連
  5)その他

・『技術研修生のための日本語教育Q&A』  文化庁国語課  1997

 一般的に非実務研修が短く、逆に実務研修の長い技術研修生の場合、研修でかかわりを持つ様々な人々(技術指導員、生活指導員、職場の同僚等)との実際のコミュニケーションが、彼らの日本語習得に大きな役割を果たしています。この手引は日本語の専門家だけでなく、日ごろ研修生と接することの多い技術指導員や生活指導員など、日本語教育の専門家以外にも活用してもらえるように構成されています。また、この手引を就労している帰国者の日本語教育の手引としても利用することができます。

・「再研修プログラム-再研修を実施する際の、参考として-」

 厚生省 社会・援護局  1997年
 『同声・同気』の第8号12ページで紹介している厚生省の「再研修カリキュラム」開発プロジェクトチームが、カリキュラムモデルを作成しました。
   @ 再研修講座の目的…定着後の長期的学習の支援
   A 再研修講座の内容…学習者のニーズやレベル、適性に合わせる(すべてのニーズに合わせるのではなく、特定のニーズに絞るようにしないと対応しきれない)
   B 指導体制、役割分担…より一層の協力体制が必要である
という認識のもとに、参加した二次センターのうち、神奈川センター、大阪YWCAのカリキュラムモデル(実施に基づいてモデル化したもの)と 所沢センターのもの(想定)が収録されています。
 資料として、@運営条件チェック項目リスト例 Aニーズ調査票(日・中)例 B学習者募集案内例 C学習者カルテ例 D学習者タイプ特定の基準案と E教材リスト(各コース別)が載っています。

とんとん

 C君は平成7年2月に中国残留孤児であるお父さん、お母さんの家族3人で日本に来た。当時17歳、中国の高校を2年で中退して来たが、日本の大学に進学したいと思っていた。所沢の中国帰国者センターで四ヶ月日本語を学習したが、C君は中国でも中学1年の時から日本語を勉強していたので、日本語のレベルは日本語検定2級ぐらいだった。C君はセンターを出た後、大学検定試験を受験することに決め、平成7年8月に大検を受験、11科目中10科目に合格した。残る1科目も平成8年8月に受験し、みごと合格した。更に大学受験の勉強を続け、{今年3月帰国者特別枠で埼玉大学工学部に合格した。以下は勉強方法や受験の際の気持ちを綴ったC君の作文である。(原文のまま) 

 二年前、憂うつな気持ちで両親と日本に来ました。一番心配だったのは何よりも進学のことでした。そのとき私は17歳、高校を2年の途中で中退したのです。日本の高校に入学したとしたら卒業する時はもう21歳です。これは一番いやでした。

 最初北京である日本人の友人から大検のことを知りました。これは大学への最短距離かもしれないと思っていました。日本に来てから帰国者センターの先生とも相談していろいろな情報を集め始めました。熱心な身元引受人から問題集を一冊いただいて、それを見てから大検のレベルがだいたい分かって、受ける決心を下しました。試験の結果が良くなかったら夜間高校に行くつもりでした。

 6月、帰国者センターを出てから試験の準備を始めました。試験までわずか二ヶ月。後から考えてみるとこの二ヶ月はつらかったです。勉強より心の負担が重かったのです。合格するために必要な11科目中好きな数学から始めて、国語はぜんぜん見もしませんでした。中国では「傷其十指不如断其一指」という古い教えがあります。敵の指を十本怪我させるよりも一本切ったほうがいいという意味です。こんな少ない時間で国語の合格は不可能だと思って、最初からあきらめました。10科目合格の結果を知った時は大喜びでした。

 二年目の国語の勉強は思っていたよりずっと難しかったです。以前、学校の外国語の授業で日本語を勉強したことがあるといっても外国語としての勉強と国語、文学の勉強とは大違いだからです。最初どこから手をつけたらいいのかぜんぜん分からなかったです。教科書より問題集をよく利用しました。どうせ文章を読むなら試験に近いほどいいと思ったからです。古典は一番の難関でした。マークシートの試験ですから、知識半分、山勘半分以外仕方がありませんでした。これと反対で、漢文は書き下し文のやり方を勉強したら案外に大きな問題はありませんでした。確かに漢文は私たち中国から帰ってきた子供にとってはやり易い所であると思います。

 私は北京で楽しい高校生活を送りました。一人で勉強するのはそれと比べものにならないほど寂しかったです。でもやっと、北京の友達と同じように大学の教室に座れて、さらに新しい友達が作れるようになりました。楽しい大学生活を過ごしたいと思います。この二年間たくさんの人たちが私を励まし、勇気と希望を与えてくれました。私は心から感謝しています。

中国語ボランテイア・ネットワーク(CVN)

 過日、2年半前に来日したという呼び寄せ家族から、“「関西生命線」のようなものが、関東にもないのでしょうか”と問い合わせがあり、東京のCVNのことを紹介したのですが、全国の皆さんにも紹介したいと思います。

 CVNは中国語圏(中国、台湾、香港、マレーシア、シンガポール、ミャンマーなど)から日本に来ている外国人及び中国帰国者を援助する団体で、中国語圏への留学経験者、中国語学習者、および中国、台湾、香港などの中国語圏から来て、日本に長く住んでいる日本語のできる中国人などで構成されています。

 主な活動は 1)電話あるいは面談での相談を中国語で受けること、 2)もし、問題解決のために行政機関、弁護士事務所、裁判所、病院などに行く必要があると判断したときは相談者に同行すること等です。

 CVNは1993年に活動を開始し、賃金未払いの裁判や、労働災害の補償問題の通訳を長期に勤めるなど、日常的に活動してきました。去る2月21日から23日までは、東京国際フォーラムで開催された「地球市民フェスタ’97」で、医療・福祉・教育・国際結婚など暮らしの困りごとになんでもアドバイスしましょう、と「外国人なんでも相談」というブースを設けて、3日間で442件(内中国人137件)の相談に応じたとのことです。通常の相談受付は下記の通りです。

日時:毎週木曜日 15:00〜 19:30
TEL:0422-48-4823 FAX:0422-44-1191

スポットライト

 『AERA』の3/17号のインタビューページでたまたま目にしたのが「母親は中国人の養父母に育てられた日本人」「遼寧省から家族とともに東京に移り住んだのが18年前」という一文。美術・音楽・映像などのジャンルを往還するアーティスト金大偉さん(32)を紹介した記事だった。開催中の「循環の相ウロボロス・金大偉展」会場の画廊に金さんを訪ねた。
 個展は映像と音と光の融合する時空間を出現させ、これをウロボロス(自分の尻尾に食らいつく蛇、古くから両性具有や循環性など様々なイメージの象徴として用いられる)に見立てたものだ。木々や炎、水の音と彩りのインスタレーションを前に、金さんは <Wャンルの統合への思いを語った。(作品の一部は当センターのホームページで紹介中)
 さまざまな分野での帰国者二世三世の活躍を目にする機会が増えつつある今日この頃、帰国者二世という呼称自体への異議申し立てもなされるようになった。金さん自身は呼称にはこだわっていない。ただ、「自分に受け継がれたDNAから自然に出てくるもの」の中から、自分の中を流れる3つの血(日本と漢族の血、そして満族だった父方の祖父の血)を統合させたいという意志を金さんはみせる。彼の活躍が、どの分野であろうと同じように志を持つ若い帰国者二世三世の励みになることを願っている。     (所沢センター 安場)

※2枚めのCD『waterland』(CXCA-1018、MIDI Creative)発売中。

「埼玉の日本語教室多言語案内’97」

 埼玉県には現在約6万9千人の外国人が住んでおり、それに応じて日本語教室も約80を数えるまでになっています。しかし、これまで、学習したい人に教室の情報が届きにくい状況がありました。
 そこで、埼玉日本語ネットワークでは、日本語教室の案内用冊子を作成しました。これには、69の教室の状況が各市毎にあいうえお順に掲載されており、開講場所・日時、受講の条件、支援者の状況、指導方法、保育態勢の有無、受講料などが日本語で記されているほか、教室名、最寄りの駅名、開講日時が英語、中国語、ハングル、ペルシャ語、 ^イ語、ポルトガル語、スペイン語、ウルドウ語の8カ国語で付記されています。
 同事務局では、「この冊子の情報をもとに学習希望者が自分に最も合った教室を選んだり、各教室がネットワークを作るために利用してほしい」と話しています。(購入方法:郵便局の振替用紙に希望冊数、郵便番号、住所・氏名、電話番号を明記の上申し込む。一冊1000円/送料310円、振替番号:00160-2-161585 宛先:埼玉日本語ネットワーク、問い合わせ先:〒331大宮市桜木町1-7-5 ソニーシテイビル郵便局私書箱69号 埼玉日本語ネットワーク)

見てみよう!ホームページ「同声・同気」

 第8号でお知らせしましたが、3月10日,インターネット上に中国帰国者および支援者のためのホームページ「同声同気」(http://www.kikokusha-center.or.jp/)がオープンしました。

 現在見ることができるコーナーには、次のようなものがあります。
 ○中国帰国者支援ガイドマップ…都道府県別の支援機関・団体のリスト(各機関のページにリンクしています)
 ○未判明孤児…肉親探しをしている未判明孤児1265人の情報
 ○リソースルーム(資料室)゙c「教材」「カリキュラム資料」「進学、進路資料」「文化庁資料」「所沢センター紀要」など
 ○「同声同気」…号別、分野別バックナンバー
 ○ちょっとひと休み…学習者の作品や作文、実習記録写真等(このほかにも、つい最近、中国帰国者の絵や書、切り絵等の作品が見られる「美術館」コーナーがオープンしました。金大偉さんのCGは必見です)
 ○おすすめリンク先…「中国関連」「日本語教育関連」「官公庁・マスコミ関連」「ボランティア関連」「日本事情関連」のホームページ

 このホームページは、全国の中国帰国者の支援者が地域を超えて情報や資源を共有化できるようにとの願いから生まれたページです。「リソースルーム」では、ダウンロード(ここに掲載され榮いる資料を利用するために自分のパソコンに取り込むこと)できる資料をどんどん増やしていきます。他の支援者にも活用してほしい有用な教材等がありましたら、ぜひご提供ください。所沢センターの様子は「センター近況」でご覧になれます。また、「中国帰国者支援ガイドマップ」では、希望する支援機関や団体に情報掲載のページを提供していますので、ぜひご活用ください。詳細についてお知りになりたい場合は、お気軽にお問い合わせください。

 現在「工事中」の「中国帰国者事情」のコーナーも間もなく(?)オープンの予定です。特定のプロジェクトのための「会議室」の開設も予定されています。

 インターネットにアクセスできる方はぜひご覧ください。メールもお待ちしています。今は見る機会がない方も多いと思いますが、いずれ機会も増えていくと思います。このページがあることをお忘れなく。

パソコンネットから 97・2・16〜4・18

2・16 KKC詐欺被害者─引き揚げ孤児や在日中国人に200人
3・02 残留孤児が16年後の同窓会開催
4・04 残留孤児肉親捜し集団方式は今秋限り
4・12 浅草寺でまんしゅう地蔵開眼供養
4・18 中国帰国者用に文化庁が日本語学習支援の手引き書を作成