第51号(2011年6月23日発行)  PDFファイル
東日本大震災特集
 被災地の帰国者安否について
 帰国者による支援活動等
 東北中国帰国者支援・交流センター近況
 帰国者向け災害(復興)支援情報
行政・施策
厚生労働省から
 平成23年度中国残留邦人等支援関係予算の概要
文部科学省から
 「外国人児童生徒に対する支援施策について」
援護基金から
 援助額変更のお知らせ
 義援金受付のお知らせ
研修会報告
 中国帰国者の老後生活と介護 〜要介護者支援セミナーに参加して〜
教材・教育資料
 新刊『シリーズ 多言語・多文化協働実践研究』(No.12〜14)
 『新・日本の生活とことば−4 学校(上・下)』 
 『ニーハオマ?げんき?あたらしい友だち 異文化理解ハンドブック―日本・中国―』
とん・とんインフォメーション
 2011年度 高校進学進路ガイダンス 各地の情報
 『わたしたちは歴史の中に生きている−「中国残留邦人」と家族 10の物語』
 人物紹介コラム 「鈴木則子さん」
 『ボランティア日本語教室ガイド2011 東京』
 お知らせ:人事異動
 ニュース記事から  2011.02.08〜2011.06.01
遠隔学習インフォメーション
 「平成22年度の遠隔学習課程(通信教育)受講者の傾向」 
 〈自己表現作文(1)『日本語学習』Aコース〉受講者の作文紹介
事例紹介
 「あり得ない〜!」Aさんの異文化体験

東日本大震災特集

 地震、津波、そして原発事故と相次ぐ悲劇に見舞われた「東日本大震災」被災者の方々に 心よりお見舞い申し上げます。

【被災地の帰国者の安否について】

 当センターで把握している被災地(青森、岩手、宮城、福島、茨城等)の帰国者は253名である。当センターでは、東北中国帰国者支援・交流センターから情報を得たり、自治体への問い合わせをしたり、遠隔学習課程の募集要項にお見舞いとともに安否を尋ねる葉書を同封したりして把握に努めている。4月27日現在、安否が確認できた方々はこの253名中150名。そのうち、無事で自宅にいるという方が81名、国内の他地域や中国へ避難した方が37名、家屋等に被害があった方が31名であった。大変残念だったのは、宮城県女川郡の津波で76歳になられる帰国孤児一世の方が亡くなったことだ。帰国13年目のことであった。この方は、遠隔学習課程の受講生として、日本語を熱心に学び続けていた。家族も呼び寄せ、女川の地で子や孫に囲まれて幸せに暮らしていらっしゃったと思う。一瞬にして、やっと帰国した祖国での幸せが奪われたことを何と表現してよいかわからないが、心からご冥福を祈りたい。
以下は、センターに返信された安否確認葉書から、帰国者の声を直訳したものである。
・タンスが倒れ、台所は落下して壊れた物で埋まった。…頭を打ってこぶができ、青紫になった。手もガラス片で切って出血した。今思い出すだけでも恐ろしい。地震は怖かったが、私は日本人の発奮精神を信じている(茨城)
・長女夫婦のラーメン屋と住居が津波でだめになった。2台の車も流された。全ての作業道具を失い、生活用品のほとんども失った。失業中の状態で、営業を再開することは難しい。(宮城)
・私も家族も肉体的には傷を負っていないが、精神的に非常な恐怖を覚えた。毎日緊張して夜も寝付けない。余震が心配だ。住宅の基底部に亀裂が入っていた。私の住んでいるところは、海から10キロもない。毎日びくびくしながら生活を送っている。地震がなくてもいつも住宅が揺れているような感じがする。長い間よく眠れず、頻繁に頭痛の症状が出る。(宮城)
・原油の爆発事故は私たち家族に大きな不安をもたらした。加えてあの日から頻繁に起きる余震で夜もよく眠れない。毎日安定剤を服用している。毎日船の上にいるようで、頭がはっきりしない。毎日、不安だ。(千葉)
・突然襲ってきた大災害に私は笑うしかなかった。一ヶ月続いた余震で私の生活から静寂は消え去り、原発炉1号2号3号の放射線に不安を覚えて、心が落ち着かない。(福島)
・余震が多いため、私や家族は毎日寝不足で、余震のない日も身体の揺れを感じ、時々起こるめまいや吐き気が大変だ。加えて、原発の不安、このまま身体が持つだろうかと思うときもある。(福島)
当センターが知ることができた安否・被災状況はまだまだ限られている。今後も継続して状況把握に努め、得られた情報を関係機関、自治体などへ伝え、具体的な支援に繋げていくことができればと思っている。

【帰国者による支援活動等】

 震災直後から、支援の輪が全国に広がり、巷では義援金募金をする人たちの姿も多く見かける。帰国者にもこの支援の輪は広がり、素早い対応で、広島、福岡、京都、鹿児島、神奈川の帰国者の間で、義援金や支援物資が集められたり、街頭募金を行ったりと、被災地域への支援が行われた。その金額は、10万、20万、50万、多いところでは短期間に90万円以上に上った。決して経済的に恵まれているとは言えない帰国者にとって、義援金は自らの生活費を削って行われたもので「『貧者の一灯』の気持ちを込めた」ものだった。東京の帰国者達は、「祖国、日本に少しでも恩返しをしたい」と被災地に出かけ、温かい手作り水餃子8千個の炊き出しを行っている。この行動力や素早い対応は、やはり、危機的体験をし、人に助けられるということの意味を深く理解している帰国者達の共感力のなせる技ではないだろうかと思う。また、中国からも、残留孤児・婦人に縁の深い黒竜江省方正県や、ハルビン市に住む養父母などからも義援金が送られたという。

●震災・原発関係の情報については、『天天好日』第55号にも中国語訳付きで載っています。
http://www.sien-center.or.jp/magazine/index.html

●東北中国帰国者支援・交流センター近況: 宮城県仙台市青葉区
《同センターからの連絡・お知らせより》

3月11日:大震災当日の通所者、職員とも全員無事に避難。
3月14日:帰国者世帯への連絡がつかず安否の確認・被災状況把握は困難。同センターでの日本語教室、交流活動については当面中止。生活や就労の相談業務や通訳斡旋は継続。
※同センターが入っている「宮城県社会福祉会館」は、宮城県災害ボランティアセンターとして宮城県の被災各市町村災害ボランティアセンターの後方支援の拠点施設となる。
5月9日:幸いにも大きな被害を受けた通所者がいなかったこと、仙台市内のライフライン、公共交通機関もほぼ通常の状態に復旧したことから、教室再開を待ちわびる帰国者の声に応え、6月1日より、日本語教室、交流活動を再開することを決定。
6月1日:活動再開! 中国へ一時帰国していた帰国者も戻り、50名程が集合。

【帰国者向け災害(復興)支援情報】

1.被災した帰国者のための政府等の相談窓口(日本語と中国語のみ対応可)
 厚生労働省では、この度の地震により被災した中国帰国者とそのご家族に対する支援として、被災された方々のための「情報提供・相談窓口」を開設している。
 @厚生労働省社会・援護局援護企画課中国孤児等対策室
   電話番号03-3593-7890(臨時直通電話)月曜〜金曜9:00〜17:45
 A首都圏「中国帰国者支援・交流センター」
   電話番号03-5807-3172 火曜〜日曜9:30〜17:45
 B財団法人「中国残留孤児援護基金」
   電話番号03-3501-1050 月曜〜金曜9:30〜17:00

2.多言語の震災情報
●〈日本中国語学会〉の「多言語・情報弱者対応災害支援リンク集」
外国の言語だけでなく、視覚聴覚弱者のための情報も掲載されており(こちらは日本語のみ)、非常に幅広く情報が集められている。参考リンク先も非常に便利。
→http://www.chilin.jp/dz/dz.html
●〈台湾行政院原子能委員会〉の原発・放射能関連のQAコーナー
中国語圏ならではの情報として、中国と台湾政府発の原発・放射能関連のQAコーナーあり。(中国のは3/18時点のものであるのに対して、台湾の同サイト内「福島核災専區」は日本の政府等公的機関の発表を日々更新している) →http://www.aec.gov.tw/www/fukushima/index_1.php
●〈東京外大〉及び〈大阪大学世界言語研究センター〉多言語震災情報
多言語情報ブログは東外大のものが有名ですが(http://nip0.wordpress.com/)、大阪大学上記センターでも東外大同様、留学生のボランティア作業による「多言語震災情報」を発信している。(http://riwl-disaster.info/)
東外大の方は更新が終わっているが、阪大の方は今も更新が行われており、最近の、特に原発・放射能関係のQAも更新されている。ただ、言語によって翻訳されている内容は異なり、全ての言語で全ての内容が掲載されている訳ではないようである。ロシア語情報は東外大のみが扱っている。
※阪大の福島原発関連のQAをまとめたものは→http://riwl-disaster.info/?page_id=1178
●上記以外のロシア語情報
・NHKラジオニュース http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/english/info/select.html
・Землетрясение Японии 2011  Последние 
http://www.earthquakejapan2011.com/ru/earthquake-information-released-japanese-government-not-improving-confidence/
・北海道庁のサイト内に 道内各地の放射線測定結果 ロシア語あり
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/foreign/russian.htm

 

行政・施策

☆厚生労働省から

平成23年度中国残留邦人等支援関係予算の概要

【22年度予算額】    【23年度予算額】
11,371百万円  →  11,506百万円

「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律」に基づく満額の老齢基礎年金等の支給、老齢基礎年金等を補完する支援給付の実施など、中国残留邦人等への支援策を着実に実施する。

1.中国残留邦人等に対する生活支援

10,277百万円 → 10,468百万円

(1)満額の老齢基礎年金等の支給
410百万円 → 312百万円
満額の老齢基礎年金等の支給に必要な保険料納付のための一時金を支給する。
(2)中国残留邦人等に対する支援給付の実施
9,297百万円 → 9,679百万円
支援給付を実施するとともに、その実施機関に支援・相談員を配置する。
(3)地域生活支援事業の実施
562百万円 → 468百万円
自治体を実施主体として自立支援通訳の派遣や日本語学習の支援、交流事業等を行う。

2.定着自立援護

479百万円 →  462百万円

中国帰国者自立研修センター及び中国帰国者支援・交流センター運営事業を実施する。

3.帰国受入援護

563百万円 →  534百万円

中国帰国者定着促進センター運営事業を実施するとともに、永住帰国旅費等を支給する。

4.身元調査等

52百万円 →   42百万円

中国残留孤児の身元調査のため、訪中調査等を実施する。

※上記の他、職業安定局及び職業能力開発局において永住帰国した中国残留邦人等の2世・3世に対する就労支援を実施

 69百万円 → 52百万円

ハローワークにおけるきめ細かな職業相談や試行雇用の実施等の就労支援を促進する。

☆文部科学省から

「外国人児童生徒に対する支援施策について」

 文部科学省では、外国人児童生徒の公立学校への円滑な受入れに資することを目的として、平成22年度に「外国人児童生徒受入れの手引き」※1を作成いたしました。
 本書では、外国人児童生徒教育にかかわる様々な人々が、それぞれの立場で具体的にどのような視点を持ち、どのような取組を行うことが必要かを示すこととしました。この教育に初めてかかわる人はもとより、これまで取り組んできた人にとっても、具体的な取組の指針を明示し、外国人児童生徒に対する支援の継続性を確保するとともに、担当者同士の協力・連携を強化することにより、外国人児童生徒教育の一層の充実を図ることを目的としております。

 また、帰国・外国人児童生徒教育のための情報検索サイト「かすたねっと」※2を平成23年3月30日より公開いたしました。
 このサイトは、関西大学総合情報学部(情報検索システムの開発・管理)、豊橋技術科学大学情報メディア基盤センター(サーバーの提供・運用)、各都道府県・市町村教育委員会(著作物の公開・登録)等の協力を得て運営されており、多言語による文書や日本語指導、特別な配慮をした教科指導のための教材等、様々な資料を検索することができます。
 帰国・外国人児童生徒教育に関係する皆様に、ご活用いただきますようお願いいたします。

 このほかにも、平成22年度から3か年の委託事業として、「外国人児童生徒の日本語能力の測定方法の開発」、「現職教員等を対象とした実践的な研修マニュアルの開発」を行っています。

※1 「外国人児童生徒受入れの手引き」は、下記URLにて閲覧・印刷が可能です。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/1304668.htm
※2 情報検索サイト「かすたねっと」は、下記URLからアクセスできます。
http://www.casta-net.jp/

(文部科学省初等中等教育局国際教育課)

☆中国残留孤児援護基金から

〈援助額変更のお知らせ〉

(財)中国残留孤児援護基金では、中国または樺太帰国者をはじめ、二世・三世並びにその配偶者が介護関連資格の取得を目指すために受講するホームヘルパー養成講座等の受講料の一部を援助しています。H23年度より、援助額は当該講座受講料の50%で、上限は50000円となりました。
※援助対象となる講座:ホームヘルパー1級講座、ホームヘルパー2級講座、介護福祉士受験対策講座、ケアマネージャー(介護支援専門員)受験対策講座
詳しくは、
http://www.engokikin.or.jp/jigyo/241.pdf
〈援護基金事業概要U-4「ホームヘルパー養成及び介護関連資格取得援助事業」〉
問い合わせ先:Tel:03-3501-1050
fax:03-3501-1026

(財)中国残留孤児援護基金では、帰国者への義援金を受け付けています。

受付は9/30まで。詳細は、援護基金ホームページをご覧ください。
→ http://www.engokikin.or.jp/20110311kikokushagienkin.htm
問い合わせ先:電話 03-3501-1050 メールアドレス info@engokikin.or.jp

研修会情報

中国帰国者の老後生活と介護 〜要介護者支援セミナーに参加して〜

 平成23年2月26日(土) (財)中国残留孤児援護基金主催による上記セミナーが東京都千代田放送会館で開催され、定員180人の会場がほぼ満席となる盛況ぶりでした。
 セミナーでは、介護施設運営側の立場から、2008年に開設した社会福祉法人三芳厚生福祉会の石川宏施設長とNPO法人「中国帰国者等のための介護・福祉の会ニイハオ」の中平龍興理事長により、施設を立ち上げたきっかけや現状、今後の課題についてのお話がありました。
 帰国者及びその配偶者は長年中国で暮らしてきたことから、帰国婦人を除き孤児本人も、日本人でありながら日本語が話せない、両国の文字も読めない、という方が多くいます。また、中国での習慣や伝統的な価値観から、施設に入所させることは好ましくないという考え方も強くあります。さらに、日本語が不自由なため、必要な情報が入手しにくい、相談できる相手が少ない、その結果として必要な介護サービスを有効に利用できないという問題があります。
 では、帰国者やその配偶者が適切な介護サービスを受けられるようにするために大切なポイントは何か。まず、帰国者2、3世など日中両言語が話せる人材を活用し、そうした人材が親世代の老後を支えることの重要性です。そのためにも、2、3世の雇用を確保していく仕組や、彼らが介護現場で活躍の場を得られるような環境作りが大切であり、今後も様々な面で工夫して取り組んでいきたいとのことでした。
 次は、どのような介護施設を目指すかという視点です。「これまで帰国者の方々は、日本に帰国したのに、生活環境・習慣の違いから疎外感を感じることが多かったと思うが、高齢になり一層孤立するということをさせないためにも、介護サービスを通して相互理解を果たしていきたいし、家族の方との情報交換や相談にも応じていきたい」との話がありました。「施設を心の寄り所にしてもらいたい」、「施設と言うよりも第二の我が家にしてもらいたい」という強い熱意が感じられました。さらに、介護サービスを通して地域交流を広げていくためには、これまで以上の努力が必要であることはもちろんだけれども、帰国者の介護の問題については、社会の理解と財政支援が欠かせないということも強調されていました。そして、帰国者本人の思いを支えることが介護の原点であり、何よりも大事なことなのだというお話が印象に残りました。(所沢:加藤)

教材・教育資料

東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター
新刊
『シリーズ 多言語・多文化協働実践研究』(No.12〜14)

「2006-10年度 多言語・多文化教育研究プロジェクト報告書」を送料のみ負担、無料で入手できます。
入手方法:
〈http://www.tufs.ac.jp/blog/ts/g/cemmer/publication.html〉
サイトからのダウンロードも可能

『新・日本の生活とことば−4 学校(上・下)』CD付
(財)中国残留孤児援護基金 発行 A4判 3400円

 2月より開講した遠隔学習課程(通信教育)の生活場面日本語「学校」コースのテキストです。このシリーズの「消費」「医療」「交通」に続く、4冊目のテキストです。
運動会や授業参観、保護者会、三者面談、また、子どもが学校を欠席する時に連絡をしたり、学校から来るいろいろなお知らせプリントに目を通して、必要な対応をすること等保護者が関わることは大変多いものです。このテキストは、それぞれの場面で必要となる知識と会話練習から成り立っています。事前にどのようなことが起こりうるか知識として知っているだけでも対応は容易になります。保護者として積極的に学校と関わっていくことができれば、同級生の保護者や担任の先生とも親しくなれるだけでなく、より多くの情報も得られることでしょう。

このテキストでは就学前の保育園、幼稚園も取り上げました。主な内容は、以下の通りです。
第1課 日本の学校(日本の学校の制度全般、学校の種類)
第2課 就学前(保育園・幼稚園についてシステムや入園方法などの知識、連絡帳の記入の仕方の練習、保育園での会話)
第3課 学校の生活(学校の施設、1日、1年のスケジュール、テスト、お知らせ、連絡網、学校会話)
第4課 学校と家庭(授業参観、保護者会、PTA、家庭訪問、個人面談)
第5課 課外活動・規則(学級活動、生徒会活動、クラブ・部活動、校則)
第6課 放課後(学童保育、児童館、ファミリーサポートセンター、学習塾、習い事、会話)
第7課 編入学・進学(小学校への編入学、外国人児童生徒向けの支援、進学と教育費、いろいろな相談先、会話)
 インターネットがご利用いただける方は以下のセンターのホームページより教材の一部をご覧いただけます。
同声同気:http://www.kikokusha-center.or.jp/
→ 中国・樺太帰国者のための日本語通信教育遠隔学習課程

『ニーハオマ?げんき?あたらしい友だち 異文化理解ハンドブック―日本・中国―』
『トゥド・ベン?げんき?あたらしい友だち 異文化理解ハンドブック―日本・ブラジル―』
作成:愛知教育大学 2010年4月A4判79頁

 本紙50号で、同大学の外国人児童生徒リソースルームの教科学習教材を紹介しましたが、本号では、子どもたちの異文化理解を目指した教材を紹介します。
 「日本と中国/ブラジルどんな国?」「学校生活」「毎日の生活」等のテーマに沿って、両方の言語で両文化が比較して紹介されており、本書をきっかけに、自分の地域(家・学校)ではどうなのか、調べたり振り返ったりするような異文化理解活動のリソースとして活用することができます。
●日本語学習支援者が教材の入手を希望される場合、問い合わせは以下のところに。
送料自己負担で入手可能→愛知教育大学外国人児童生徒支援リソースルーム
電話・fax:(0566)26-2219
E-mail:gendaigp@auecc.aichi-edu.ac.jp
http://www.resource-room.aichi-edu.ac.jp/

 

とん・とんインフォメーション

2011年度 高校進学進路ガイダンス 各地の情報(2011.6.23現在)

(→HP上では随時更新しています。最新情報をチェックしてください。)

 本年度の進学ガイダンス実施情報をお知らせします。ガイダンスの内容、開始時間、参加申し込み・通訳の予約が必要かどうか等の詳細は、事前に連絡先にお問い合わせください。
新情報は当センターHPにて  http://www.kikokusha-center.or.jp/ →新着情報コーナー

宮城県】9月(予定)仙台市 他
主催:日本語を母語としない子どもと親のための進路ガ
イダンス実行委員会
連絡先:e-mail jets@sda.att.ne.jp
Tel&Fax 022-375-5639

栃木県】7月3日(日)佐野市勤労者会館 
主催:佐野市教育委員会 連絡先:Tel 0283-86-3492 Fax 0283-85-4647
10月(予定)宇都宮大学 峰キャンパス(予定)
主催・連絡先:宇都宮大学HANDSプロジェクト 028-649-5196

埼玉県】7月10日(日)大宮ソニックシティ
4階 市民ホール
主催:(財)埼玉県国際交流協会http://www.sia1.jp/
連絡先:Tel 048-833-2992 e-mail ito@sia1.jp

千葉県】9月25日(日)船橋市立中央公民館 
10月9日(日)松戸市民会館
10月10日(日)千葉大学けやき会館 
市川市でも開催予定 
主催:進路ガイダンス実行委員会
連絡先:白谷080-3175-9539

東京都
(1)6月26日(日)虎ノ門・海洋船舶ビル10階講堂
*対象地域 東京20区
(23区のうち、目黒区・品川区・大田区を除く)
(2)7月10日(日)武蔵境・スイングビル11階 
*対象地域 東京都多摩地区
(3)7月18日(月・祝)蒲田・大田区役所 
*対象地域 目黒区・品川区・大田区
(4)10月2日(日)広尾・JICA地球ひろば 
*対象地域 東京20区(23区のうち、目黒区・品川区・大田区を除く)
(5)10月(予定)品川区内(予定)
*対象地域 目黒区・品川区・大田区
(6)10月30日(日)八王子市クリエイトホール
(予定) *対象地域 多摩地域

主催:(1)(4)特定非営利活動法人多文化共生センター
東京 Tel 03(3801)7127  e-mail:tokyo@tabunka.jp
(2)公益財団法人 武蔵野市国際交流協会(MIA) 
Tel 0422-36-4511 e-mail: mia@coral.ocn.ne.jp
(3)(5)一般社団法人 OC Net Tel 03-3730-0556 
e-mail: jimukyoku@ocnet.jp
(6)八王子国際協会 Tel 042-642-7091 
e-mail: koko-8@nifty.com

神奈川県】9月19日(月・祝)さがみはら国際交流ラウンジ
9月23日(金・祝)かながわ県民センター2階ホール 
9月25日(日)いちょう小学校
10月1日(土)ひらつか市民活動センター 
10月10日(月・祝)厚木ヤングコミュニティセンター 
主催:NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ、神奈川県教育委員会
連絡先:NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ Tel&Fax 050-1512-0783
E-mail: me-net@nexyzbb.ne.jp

長野県】9月予定 県内4か所 
主催:(財)長野県国際交流推進協会、各地区実行委員会
連絡先:Tel 026-235-7186 Fax 026-235-4738

岐阜県】8月21日(日) 可児市総合会館分室 
主催:可児市教育委員会 
連絡先:0574-62-1111(内線2412)

静岡県】9〜10月(予定) 浜松市内 
主催:浜松NPOネットワークセンター
連絡先:小林 e-mail:info@n-pocket.jp

三重県】9〜10月(予定) 津市内(会場は未定) 主催:津市教育委員会(予定)
連絡先:津市教育委員会事務局人権教育課 
担当:外岡Tel 059-229-3249

滋賀県】7月31日(日) G-netしが 大ホール 
主催:(公財)滋賀県国際協会 http://www.s-i-a.or.jp
連絡先:(公財)滋賀県国際協会
光田(みつだ)Tel : 077-526-0931  Fax : 077-510-0601

京都府】7月31日(日)京都教育大学附属桃山中学校
主催:渡日・帰国青少年(児童・生徒)のための京都連絡会
連絡先:京都教育大学附属桃山中学 または 京都市伏見青少年活動センター

大阪府】府内7地域で開催
10月 泉北地区・泉南地区 
11月 豊能地区・三島地区・北河内地区・中河内地区・南河内地区
主催:大阪府教育委員会 連絡先:大阪府教育委員会事務局市町村教育室児童生徒支援課進路支援グループ

奈良県】9月30日(金) 会場未定
主催:奈良県外国人教育研究会 連絡先:0742-62-5555

福岡県】8月7日(日)福岡市立博多小学校 
主催:ともに生きる街ふくおかの会
連絡先:和田玉己 090-5739-3988 

NPO法人 中国帰国者の会編
『わたしたちは歴史の中に生きている−「中国残留邦人」と家族 10の物語』(2011年3月15日発行、A5判270頁)

 中国残留婦人の聞き取り集『道なき帰路』に続く第2弾です。今回は、残留婦人の聞き取り4編の他に、残留婦人の配偶者、残留孤児の聞き取りがそれぞれ1編、残留孤児とその配偶者の二人からの聞き取りが1編、残留孤児二世、残留婦人三世の聞き取りがそれぞれ1編、計10編が収録されています。聞き取りには、会で帰国者とともに活動してきた人計18名が参加、大学生や残留孤児二世も含まれており、1編ごとに聞き取りを終えての感想も添えられています。
 この残留邦人家族の10の物語は、遠い過去だけではなく、歴史を背負って現代を生きる帰国者の今の思いを知ることができるものとなっています。語り手と聞き手、両方の立場で参加した残留孤児二世の聞き取りでは、中国で育ち中国の歴史観を持つ「帰国者」としての葛藤と、過去の歴史を負いつつ、それを現在・未来の日本社会に繋げていこうと模索する心の動きが、印象的でした。同様に全編で、語り手が中国・日本の両国で経験したいろいろな出来事において、どのような思いで過ごし、今どのような心境に至っているのか、様々な心の軌跡を読み取ることができます。また、その事実の奥に見える社会・人のあり方は、私たち自身の今と明日のあり方を考えるうえでの多くのヒントを提示してくれていると感じます。
 最後には「中国残留邦人問題の歴史」がまとめられている他、「用語解説」や資料、「『中国残留邦人』関連年表」なども収められており、コンパクトでありながら情報量も多く、中国帰国者全般のことを知るための入門書としても適しています。これから新たに帰国者の支援を始めようとする人にぜひ手にとってほしい内容となっています。

 頒布価格は1部1000円(送料無料)、売り上げは全て会の活動資金として活かされるそうです。購入の申し込みは、以下までお願いします。

電話:03-3815-2954(後楽園事務所)
03-3353-0841(石井法律事務所、月〜金10:00-17:00)
Fax :03-3815-2954(後楽園事務所、24時間)

詳細はホームページ(http://www.kikokusha.com/images/pdf/2011kikitori.pdf)をご確認ください。

『ボランティア日本語教室ガイド2011 東京』
東京日本語ボランティア・ネットワーク(TNVN)
 2011年2月発行

 冊子には180団体、232教室が掲載されています。前号まで目次は区市別だけでしたが、本号は曜日別、路線別の目次が追加され便利になりました。大使館、東京都区市の外国人関連部署、中央図書館、各地の国際交流協会、飯田橋の東京ボランティア・市民活動センターで閲覧が可能。
web版 http://www.tnvn.jp/(但しweb公開希望の団体のみ)

お知らせ:人事異動

(財)中国残留孤児援護基金常務理事
 退任 中沢勝義 氏(4月30 日付) 就任 小林悦夫 氏(5月1日付)
中国帰国者定着促進センター所長
 退任 小林悦夫 氏(4月30 日付) 就任 柿原洋二 氏(5月1日付)
中国帰国者支援・交流センター(首都圏センター)所長
 退任 柿原洋二 氏(4月30 日付) 就任 小澤一夫 氏(5月1日付)

ニュース記事から 2011.02.08〜2011.06.01

2011/03/08 中国残留孤児、72歳の高校生卒業/広島市
2011/03/28 募金で「日本に恩返し」 中国帰国者ら呼び掛け/福岡市
2011/04/07 京都市内の中国帰国者たちが義援金託す
2011/04/07 被災地で水ギョーザ炊き出し 中国残留日本人孤児ら
2011/04/09 「中国帰国者の会」会長・鈴木則子さん お別れの会
※鈴木さんの人物紹介コラムが下※にあります。
2011/04/13 鹿児島県内の中国残留孤児らが義援金
2011/04/16 帰国から25年、中国残留孤児の身元が判明
2011/04/16 中国「残留孤児」国家賠償訴訟原告団等 救援募金に寄付
2011/04/20 生活保護申請の46中国人、資格取り消しへ/大阪市
2011/04/28 東日本大震災:中国残留孤児75人、横浜市に義援金寄託/神奈川
2011/05/11 東日本大震災 残留孤児の故郷が義援金 中国黒竜江省方正県
2011/05/25 99歳=県内で最後の中国人養母亡くなる/神奈川
2011/06/01 駐中国大使、残留孤児の養父母に感謝状、初めて直接手渡す
 

※人物紹介コラム 「鈴木則子さん」

 1928年生まれ。1943年に一家で中国東北部(旧満州)に開拓団として入植。45年、旧ソ連の侵攻後に逃避行が始まり、その後生きるために中国人と結婚した。78年に帰国後、仕事をしながら82年に「中国帰国者の会」を立ち上げ、帰国支援、生活相談、日本語教室の開設、住宅や仕事の世話など帰国者のために粉骨砕身した。
 「国が自分の国の歴史に責任を負わないのなら、国民は誰を信じたらよいのでしょう。私たちを、中国に送った責任、置き去りにし、長年放置した責任が国にあるのは明らかではないでしょうか。そのためには、国がきちんと責任をとることだと思います。過去の歴史を振り返って反省して、これからの日本を築き上げていくために、そして子孫のためにも、どうかよく考えて責任をとっていただきたいと思います。」として、2001年末に、日本で初めて国家賠償を求めて提訴した原告の1人。
 2011年1月26日逝去。享年82歳。(引用:「鈴木則子会長お別れの会」より)

遠隔学習インフォメーション

「平成22年度の遠隔学習課程(通信教育)受講者の傾向」

 平成22年度の遠隔学習課程の新規受講者数は延べ約2600名でした。前年度から引き続き学習を続ける受講者を入れると、一年間の在籍者数は、延べ約4500名に上りました。
平成22年度も全国47都道府県全てに遠隔生が在籍しており、受講者が居住する地域で実施されている対面指導(スクーリング)に参加した者は、在籍者の30%程度の約1300名でした。平成22年度から、厚生労働省が定める「スクーリング実施方針」で実施頻度の上限が定められたことにより、全体的にスクーリング実施件数が若干減ったと考えられます。
 受講者数の多かったコースの内訳を見てみますと、開講以来ずっと人気ナンバーワンだった「医療コース」が2位となり、1位は日本語の基礎を学ぶ「入門日本語文法文型コース」となりました。3位〜6位までは昨年と同様、3位「漢字ゆっくりコース」、4位「続・入門日本語Aコース」、5位「近隣交際コース」、6位「消費生活コース」でした。昨年までは、世界同時不況の影響で派遣切りやリストラ等に遭い、職を失った2,3世が多かったせいか「就職対応コース」が7位に続いていましたが、平成22年度は10位内から消え、7
位は「続・入門日本語Bコース」、平成21年度は10位だった「自己表現作文コース」が8位になりました。
平成21年度より受講者数が増えたコースは、「続・入門日本語Bコース」「自己表現作文コース」「漢字学習コース」でした。遠隔学習課程が始まり10年が過ぎましたが、一番易しい「入門日本語コース」から始めて、遠隔学習課程での日本語学習を継続していく内にレベルアップしていき「続・入門日本語Bコース」レベルまで達した人が増えているからと思われます。また、「漢字学習コース」についても「漢字ゆっくりコース」を修了した人が、更に漢字学習を続けたいとこのコースを取るケースも多いです。「自己表現作文コース」は、平成22年度に新たなテーマでコースを開講したことと、書く力をつけたい、帰国以来の自分のことについて表現したいというニーズを、じわじわと捉えて来た結果ではないかと思います。遠隔学習課程開設から10年を過ぎているにもかかわらず、入門レベルの基本的日本語力を学習する層は相変わらずしっかりと存在するものの、初級後半から中級に進む学習者層が増えてきているということでしょう。
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 〈遠隔学習課程〉「自己表現作文(1)『日本語学習』Aコース」に在籍中の原田春海(はるみ)さん(35歳)の作文をご紹介します。帰国者二世の原田さんは1992年にご両親と共に帰国。これまでの自らの日本語学習について、反省を込めて「底の抜けたバケツに一生懸命水を汲んでいたようなもの」と表現するなど、毎回独自の感性が光る作文を提出しています。

「日本語と中国語の比較」

 中国語は語彙が豊富なため、とても華やかです。一つの単語の意味は大抵一つしかなく、かつ、直接的に表現することが多いので、使う時も理解する時も迷うことが少なく、とても単純でわかりやすいです。
一方、日本語は中国語に比べて、一つの言葉が多様な意味を持っています。例えば「若い」が挙げられます。人に「お若いですね」と言われると、誰でも嬉しいでしょう。しかし、「考え方が若いです」と言われたら、あまり嬉しくないかもしれません。このように、日本語は一見素朴ながら、実は言葉に隠れている奥深い表現力はとても素晴らしいものだと思います。
 私が日本語の奥深さに興味を持ち始めたのは、去年、友人が「は」と「が」の使い分けについて、次のように教えてくれたのがきっかけです。
 「お茶は好きです」の場合は、この言葉の裏に幾つかの対象物があり、その中でお茶以外は好きじゃないというニュアンスを含んでいる場合があります。
 「お茶が好きです」の場合は、そうしたニュアンスをあまり含んでいません。
 この時、私は日本語には言葉に含まれているニュアンスで話し手の気持ちや相手への配慮が込められているのだということを知りました。日本語そのものについて、立ち止まって心で感じてみました。この時の友人の説明で私は日本語の素晴らしさに初めて気付かされたのです。以前は必要だから日本語を勉強していましたが、今は好きだから勉強しています。
 よく料理番組で「隠し味」という言葉を耳にします。私は「隠し味」という言葉の裏に「そのものに込められている独特の良さや味わい」というニュアンスも含まれていると理解しています。改めて考えてみると、日本の言葉、文化、日本人の考え方は、全部隠し味を持っているような気がします。日本人の優れた察知力、豊かな感性を培わせたのはこの「隠し味」の存在かもしれません。
 私は日本のその隠し味というものをまだ完璧に使いこなし、理解できている訳ではありません。しかし、このように日本が内包している豊かな深みをもっとたくさん知りたい気持ちは日に日に高まってきています。
今となれば、友人の一言がいわゆる「赤い糸」であり、素晴らしい日本を私と結んでくれたのではないかと思っています。
 繊細な隠し味に魅了された私は、この国・日本に恋しているのです。

事例報告

 来日16年になるAさんが所沢を訪ねてきてくれた。来日当時20代前半、この間多くの異文化を体験した。Aさんにそんな体験の中からいくつか紹介してもらった。

「あり得ない〜!」Aさんの異文化体験

 所沢修了後の十数年で、中国との違いで驚いたことはたくさんあったのだが、慣れるにつれ忘れてしまった。今思い出してみると、まず驚いたのは、医学部を受験したいと言ったときの周りの日本人の反応。中国では医学部といっても単に数ある学科の一つに過ぎず、医学部志望者が特に優秀だったり金持ちだったりする訳でもないのに、日本では驚かれ、「大丈夫!?」と心配された。しかし、日本語学校の先生方は本当に親切で受験指導もよくしてくれ、留学生枠で受かることができた。帰国者枠で受けなかったのは、滞日9年まで受験資格があるのだが、滞日年数の長い受験者がいた場合、当時来日後まだ1年だった自分はハンデが大きいと思ったため※。学費と生活費の工面は学費免除と奨学金、自治体からの借金に加え、アルバイトで賄った※※。
 大学時代は楽しかった。たまたま私の入った年がその大学の社会人枠の初年度に当たり、JRの車掌だった人、海外協力隊OB、東大卒や京大卒のエリートなど、社会経験のある変わり種の学生が多かったため、皆親切で、ただ一人の中国出身者だった自分も居心地がよかった。一つ上の学年も一つ下の学年もこんな多様な構成ではなかった。新卒者ばかりだったら話も合わなかったと思うので、本当にラッキーだった。一緒に海に行ったりご飯を食べに行ったりするうちに、日本語も自然に覚えていった。自分の頭の中の考えを整理して日本語で書かなければならないレポート提出も1年生の時には大変だったのだが、何でも気楽に同級の仲間に尋ねることができ、直してもらっていくうちに力がついていった。4年生の頃には言葉では苦労しなくなっていた。
 この間もたくさんの異文化体験があった。覚えている思い出の一つは、アフリカの海外協力隊OBがアフリカ料理を作って皆に振る舞ってくれたときのこと。まずくてどうしても食べられなかったのだが、他の人は残さず食べていた。後でこっそり「まずくなかった?」と尋ねたら、「いや、まずかったよ〜」と言う。「えっ!まずくても食べるの!?」「Aさんは(普通の日本人じゃないんだから) 食べなくてもいいよ。でも普通は出されたものはまずくても食べるものだよね」と教えられ、そうかーと思った。
 もっと驚いたのが、男子学生が家事をしないこと!泊まりで地方の病院に実習に行くと、当番制で自炊をするのだが、ある男子学生は一切何もせず、「男子厨房に入るべからず」と教育されて育ったし、台所に入ると姉も母も怒ったと言う。その代わりに皆の米を提供するから勘弁して、と10kgの米袋を担いで来た。洗い物だけはどうしても必要あれば練習すると言っていたが、結局周りの人も、そんなもんか、という反応で何もさせず。自分としては、基本的な生活能力がなくて平気でいるなんてあり得ないと思った。他の男子は一応芋の皮むきとかの手伝いはしていたのに。この男子に「着てる服とかはどうしてるの」と聞いたら、「お母さんが買ってくる」と言う。「好みに合わなかったらどうするの?」「嫌でも、何も言わない」と。性格はとてもいい人で頭もいい、ただ家事ができないだけ。今は結婚して医者もちゃんとやってるらしい。
 人づきあい上の習慣で違和感を感じたのは、友だち同士なのにお金の計算を細かくするところ。計算機でいちいち頭割りにする。友だちだったら、そこまでしなくていいんじゃないかと思った。旅行で撮った写真を一緒に行った友だちに焼き増しして配ってあげたら、一枚一枚の値段を計算して返そうとされた。中国ではこんなことをしたら友だちとは言えない、と嫌な気持ちになった。しかし、後で尋ねてみると、「皆学生で互いにお金がないとわかってるからやっぱり払う」とのこと。友だち甲斐とこのこととは別で、単にそういう習慣であると皆が考えていることもわかり、この件以降、写真を撮ったら一覧を見せて、ほしい写真に○をつけてもらって焼き増しして精算するようにした。焼き増ししてもらったときも自分も同じように払うようにした。しばらく違和感がありつつもそのように行動していたが、今はもう慣れた。中国人留学生はやはりこのような事例に遭遇すると怒るが、「このことと友だちかどうかは別なんだよ」と伝えるようにしている。「何てけちなんだ」と中国人は思うだろうけれど。そして、「逆に、日本人の友だちから写真とかもらったときも代金を払った方がいいよ」ともアドバイスするようにしている。そのときもし要らないと言われたら、そのままもらっておけばいいと。
 割り勘は中国でも関係によってあり得る。親しい友だちなら割り勘ではなく自分が出す。友だちが困っていれば貸すし、そのお金は返ってこなくてもいいと考える。普通の関係だったらそこまではしない。どちらにしても、日本人とは違うが、こういうことも、時間がたてば慣れるものだ。最初は嫌でも慣れなければいけないと思うし、そのうち慣れる。変だと思ったら、誰かに聞いて確かめればいい。自分は気楽に聞ける人が身近にいてよかった。そういう人が身近にいないと、壁を感じて孤独に思うだろう。異文化体験、社会経験の豊富な仲間がいてくれてよかったと思う。
 卒業後、日本国籍を取得した。国籍取得についてはそれまでもずっと迷っていたし、今もすっきりした訳ではないけれど、卒業もし、就職もしたからと自分で区切りをつけた。卒業後体験した異文化についてはまたいつか。
 日本人と話す時、相手は自分のことを100%日本人としか思っていないから、そのつもりで話しかけてくるが、考え方が違うという違和感は今もある。かといって日本のやり方も知っているし、自分もそのように行動しているから口には出さないけれど。

※ 医学部の留学生枠の入試は他の理系学部の留学生入試と同じだが、成績のラインはそうは言ってもやはりかなり高い。理系科目の二次試験と英語の小論文に面接も課される。

※※ 私大医学部の学費は年間400〜1千万、公立で百〜2百万。自分が入った地方の国立大学で年間50〜60万円だったと思う。大学によって基準は違うが、成績がよく、かつ親の収入が少なければ、留学生の場合、学費が免除される。自分もその恩恵に浴した。医学部6年間のうち、3年間は留学生向けの月4〜6万の奨学金ももらっていたが、医学部の場合、一冊5千円から2、3万円もする専門書を買わなければならず、本代が結構かかった。市から年間50万ほど修学資金も借り、就職後に返還した。この他、生活費のために、中国語教室や通訳の他、飲食店などのアルバイトもやった。(an)

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