中国・サハリン帰国者教育の相互支援ネットワーク

2011年8月26日号

編集・制作:中国帰国者定着促進センター
          教務部講師会
発行者:中国帰国者定着促進センター

《同声・同気》はこれまでWEB版として年に3回発行していましたが、本号からは随時発行していきます。

今号を印刷してお読みになりたい方は、こちらのPDFをご利用ください。2011年8月26日号PDF

<目次>

とんとんインフォメーション

・『下伊那のなかの満洲 聞き書き報告集9』
・『「医療通訳の実学・実技・実践」−通訳者のためのトレーニング・ガイド−』
・「HSK入門級」と「C.TEST(筆記試験)」、中高校生は受験料が無料!
・東北中国帰国者支援・交流センターから
・更新 進路ガイダンス

事例紹介

「人生の分岐点」

とんとんインフォメーション

『下伊那のなかの満洲 聞き書き報告集9』

 満蒙開拓を語りつぐ会 編 飯田市歴史研究所 発行
2011年7月 367頁 B5判 定価1000円

 本紙28号、49号でご紹介した『下伊那のなかの満洲 聞き書き報告集』の第9集が発刊されました。
 戦時中、全国で最も多く満洲開拓移民や青少年義勇軍を送り出した長野県飯田・下伊那地方。「満蒙開拓を語りつぐ会」(筒井芳夫代表)は、年に1集ずつ刊行を重ね、10周年を迎える来年の10集で活動を終えます。
 9集では、開拓団や義勇軍の記録写真を撮影した熊谷元一さん(H22年11月に他界、101歳)、中国残留婦人・孤児の帰国支援に生涯を捧げた中島多鶴さん(86歳)、集団自決の直前に脱出したという体験をもつ竹内和市さん(H23年2月他界)など12人の聞き書きが収録されています。

問い合わせ:飯田市歴史研究所 電話 0265-53-4670 FAX 0265-21-1173 
Eメール iihr@city.iida.nagano.jp

『「医療通訳の実学・実技・実践」−通訳者のためのトレーニング・ガイド−

特定非営利活動法人 多文化共生センターきょうと発行
2010年12月 B5 186頁 定価2000円

 本紙50号(6頁)で医療通訳者のための研修会について報告したが、本号では医療通訳者のためのトレーニング・ガイドブックを紹介する。
 本書は、医療通訳者にとって必要な知識や技術、倫理について、医療通訳者を養成するための講座、または医療通訳を目指す者が独学である程度まで学べるように構成され、NPOや自治体などの通訳派遣団体から医療現場に通訳を派遣するという想定で作成されている。そのため、現在の医療現場が抱えるニーズにぴったりのテキストといえる。
 4部から構成されている。「第1部 医療通訳者への道」では、外国人医療の現状、医療通訳には何が必要か、医療通訳者が学ぶべきことなどについての概要を示している。
 「第2部 医療通訳者に必要な知識・技術・倫理」では、通訳者の役目、患者の文化背景、医療知識、通訳技術、通訳の心得などについて、項目ごとに講義や講演を実施するためのテーマや要領を提示し、それをもとにグループワークなどを行いながら学ぶことができるようになっている。
 「第3部 場面から学ぶ(ロールプレイ)」では英語、中国語、ポルトガル語、韓国朝鮮語による医療機関での受付会話や受診時の会話シナリオを掲載し、複数の人たちで配役を決め、ロールプレイを通して医療現場での通訳の疑似体験を行うことができる。
 「第4部 医療通訳の現状と課題」では、医療通訳が抱える課題、全国の通訳養成及び派遣団体、京都市での取り組み等について紹介している。
 巻末には「巻末資料集」として科目別問診票、人体各器官名称(日本語/中国語/英語併記)、検査の種類、医療現場でよく使われる表現や用語、感染症、病院の種類や分類など通訳の現場で役に立つ資料が掲載されている。

多文化共生センターきょうと http://www.tabunkakyoto.org/

「HSK入門級」と「C.TEST(筆記試験)」、中高校生は受験料が無料!

 中国語学習者のための水準認定テストの一つとして、北京語言大学HSK(中国漢語水平試験)センターが行っているテストがあります。今回はそのうちの「HSK入門級」と「C.TEST」についてご紹介します。
 HSK入門級は、最も易しいレベルの試験で、聴解、読解、総合的な表現力を測定します。試験問題の説明が日本語でなされているため、入門レベルの学習者が受験しやすくなっています。中国語学習時間80〜300時間の人を対象者としており、900点満点中470点以上が合格です。
 C.TESTは、実践的な中国語力を測定する試験で、中国人とのコミュニケーションに必要な語学力を実践的な問題を通して測定します。試験は、A−Dレベル試験(学習時間1000時間以上)、E−Fレベル試験(学習時間400時間以上)の2種類があり、それぞれ試験のスコアによって、レベルが認定されます。E−Fレベルの試験内容は、リスニング及び文法・読解です。
 2012年までは、どちらのテストも中・高校生は受験料が免除(無料)となっています。中国語が母語ではない人の中国語力を測定するために作られた試験ですが、中国帰国者子女の母語保持や中国語学習へのきっかけとしてみてはいかがでしょうか。
 HSK入門級は年2回、C.TESTは年3回実施されており、次回の試験実施日は、HSK入門級が12月18日(日)、C.TESTが11月13日(日)です。詳しくは、以下のサイトをご覧下さい。問題のサンプルも見られます。

C.TEST/HSK入門級日本事務局 http://c-test.jp/xp

東北中国帰国者支援・交流センターから

 東北中国帰国者支援・交流センターから、東日本大震災についての記事が届きました。首都圏センターの情報誌『天天好日』に掲載されています。以下のサイトからも見られます。
http://www.sien-center.or.jp/

更新 2011年度 進路ガイダンス

宮城県、三重県、奈良県の実施日時、会場が追加されました。

http://www.kikokusha-center.or.jp/ → 新着情報コーナー

 

事例紹介

 今号では遠隔学習課程「自己表現作文」を受講された帰国者二世配偶者(19年前来日)のAさんの作文をご紹介いたします。

「人生の分岐点」

 日本に帰国すると決めたのは突然のことでした。既に日本に帰っていた義父が病に倒れ、危篤状態になりました。そのために長男である夫と一緒に日本へ来ました。気がつけばもう私は、今までに人生の三分の一を日本で過ごしています。初めは、日本に永住するとは想ってもいませんでした。
 旅行は青春時代からあちこちに行きました。違う環境で生活するのには、それなりに自信がありました。ですが、外国に永住となると話は別です。単純に好きな旅行ができると浮かれていて、このことに気がついたのは、いざアパートを借りて、日本に暮らし始めたときでした。
 初日アパートに入ると、主人と子供が私を見つめました。私は不安と緊張で少し体が震えました。主人と子供は外国で暮らすのは始めてという初心者です。彼らもまた不安でいっぱいのはずでした。こちらの不安を悟られないように、まずは思いっきり大きな声で「今日はおいしいものを作るよ!」と言いました。向こうからも負けないくらい大きな声で「手伝うよ!何をすればいい?」と返事が返ってきたので、その返事を聞いた瞬間、私の不安と緊張はどこかに吹き飛んでしまいました。「家族がいるから、なにもこだわらなくてもいい。家族がいるから、みんなで楽しめることができればいんだ。」こう考えたら、とても気が楽になりました。もう怖いものは何にもないと思いました。それに、空港まで見送りに来た父が「辛くなったら、帰りたいときにいつでも帰って来ていいよ。こっちに帰る家があるんだから。」と言ってくれました。私は帰る所があると思って、とても気楽な気持ちで日本の生活の幕を開けることができました。
 最初はうまく話せないときがあり、いろいろなことがなかなか伝わらず苦労しましたが、子供はどんどん上達していきました。日本に来て3ヶ月で、私の通訳として、何でもできるくらいにまで上達しました。それから二年後、子供が「母ちゃん、日本に連れてきてくれてありがとう。」とお礼まで言われたことは、忘れることのできない思い出です。日本に来て以来の苦しさと子供にお礼を言われた嬉しさを同時に味わいました。この国でもうちょっとがんばりたいと思うようになりました。
 生活するうちに喫茶店やカラオケバーにも行きました。電車の中ではゴミを捨てる人が見当たりません。スーパーやバイト先で見る日本人は積極的にルールを守り、仕事に一生懸命な姿が印象的で、いろいろ教わりました。なかでも、バイト先の店長は毎日深夜1時まで仕事をして、翌日は時間通り9時には既に店におられます。さらに土日もバイトを指導するために店によく見えました。私の日本人観に大きな影響を与えてくれました。そして、私も一生懸命がんばりました。
 また、経済条件が許す限り年1〜2回中国へ行って、両親・友人と楽しいひとときを過ごすことができたのはなによりでした。帰るたびに変化していくふるさとでも、人間の気持ちは昔のままです。
 私にとっては、中国は心の安まる場所であり、日本は気を張ってがんばれる場所です。これからも、このような生活を続けていくつもりです。人生の生き方とは思わぬことからつくられるものだと感じています。