異なった文化を持つ者たちが平和で充実した生活を送る社会のモデルを、今までの人類の歴史の中に見いだすことは難しい。あまりにも権力の衝突、争い、抑圧の歴史が長いためである。多文化共生は私たちがこれから試される最も切実な課題であり、チャレンジである。外側のチャレンジだけではなく、内側のチャレンジすなわち心の持ち方の見直しともいえよう。それは一人ひとりが持っている価値観や概念、心の隅にある差別感、感情、わがままを認識することから始まる。
移民政策によって移動する人、出稼ぎ労働者として移動する人、夢を迫いかけて移動する人、好奇心によって移動する人、企業に送り出されて移動する人、国際結婚によって異文化の中に飛び込む人、様々である。そこには必ず生活があり、異文化の中で生きる者としての緊張感、不安、孤独、寂しさ、弱さがある。
オーストラリアで生じた問題は、今、日本で生活している外国人の問題と重なるものが多い。伝統的な家族の絆の喪失、住宅問題、外国人女性の孤立、世代(親と子)の衝突、雇用及び失業によるストレスなどである。世界経済がつくった南北問題に対し、移民を送る側の国も送られる側の国も取り組まなければならない問題はたくさんある。そして、その問題に地域から取り組む時代ともなっている。
これだけ世界規模で人間が移動している時代において、マイノリティのグループがマジョリティの中でどう生きていくかについて考え、整備することは緊急の課題である。共生の根本にある、人間が生まれながらにして持つ人権の保障に対して、法、制度、支援、組織がどのようにあるべきかを明らかにしておかなければならない。その対策のひとつとして、共生への道を研究し開拓する拠点が求められる。この冊子は、そのような問題意識を地域福祉実践に投影する際の参考資料としてまとめたものである。多くの人に手に取り読んでほしいと考えている。
地域から世界へ、多文化の交流、お互いを認め合うこと、そこから生まれる絆は、何よりも強い平和への橋を築くことができる。誰もが自分らしく生き、また、その人生の価値を社会で見いだせることを願う。
”The futuer is
not a place we are going to, but one we create”
(未来は、私たちがいつか辿り着く所ではなく、私たちが築く所である)
”MAKE A WORLD OF DIFFERENCE”より
1996年 3月
豊住 マルシア