小学校国語教科書におけるオノマトペ
−− 日本語補助教材作成のために −−
三宅ちぐさ・田中洋子
T はじめに
日本語を母語としている者にとって理屈なしにわかると思われるものほど、そうでない者にとっては理解や認識が難しいということがある。その一例としてオノマトペが挙げられよう。
オノマトペは、小学校の国語教育において、指導対象として特別に取り上げられてはいない。せいぜい、平成7年版『こくご 二上』において、次のように取り上げられている程度である。
『ふきのとう』(P.13)
●ようすを かんがえて 読もう
「よが あけました。」の ところは、どんな ふうに 読めば いいでしょう。「ふかれて、ゆれて、とけて、ふんば
っ て、 もっこり。」は、どうですか。ようすを かんがえて、よく わかるように、読みかたを くふうしましょう。
『えいっ』(P.77)
「どんどん」「だんだん」について、一文ずつ本文の使用例をあげた上で次のような課題が出されている。
・車が、 どんどん 通っていきます。
・だんだん あたりが くらくなって きます。
「どんどん」や 「だんだん」を つかって 文を 作りましょう。
いずれの場合も、「もっこり」「どんどん」「だんだん」というオノマトペ自体を、それとして理解させることを目指してはいない。『ふきのとう』の場合の問題の主眼は、音声言語として読み方を工夫し表現することができるかにある。『えいっ』の場合は、様子を表すことばを連用修飾語として正しく使うことができるかにあるようだ。
『こくご 二下』の場合には、『力太郎』(P.47)に次のような課題がある。
「力太郎」には、つぎのような昔話らしい言い方やことばが出てきます。どんなようすか、考えましょう。そして、 ようすがあらわれるように、くふうして読みましょう。(中略)
・「ぼろんぼろん」のような、ようすをあらわすことば。
・「ふわっ。こらま、すげえ力だ。」のような話しことば。
(みどうっこ太郎の「やいやいやい。」は、元気なこえで、だんだんつよく読むといいね。)
「ぼろんぼろん」は体の垢がたくさん出てくる様子、「ふわっ」は驚きの言葉で、いずれもどちらかというと特殊な状況・用法と言える。しかし、音読することにより、文脈中で充分に感じ取らせることができるものとして扱っている。そして、この場合も、問題の主眼は、音声言語として読み方を工夫しより良く表現することができるかという点にある。
このような例からもわかるように、オノマトペがどういうものであるかは、日本語を母語として育った者を対象とする国語教育では取り扱われていない。なぜなら就学以前に既に身につけており、どれほど自覚的であるかは別として誰でもが知っている事柄だからである。表現方法としても、むしろ幼児語的・感覚的で易しいものと認識されている。しかし、オノマトペが感覚的な言葉であるからこそ、日本語を母語としない者に理解してもらうためには困難が予想されるのである。
U 調査目的・調査範囲
前述のような理由から、今回は小学校国語教科書に使用されているオノマトペの構造上の長さ(音節数)・複雑さ(型)、文法、意味などの分析を通して、その特徴を数量的な面からとらえ、小学校での国語学習に必要なオノマトペはどのようなものかを明らかにする。さらに、それらを、日本語を母語としない児童に対してどの段階でどのように指導したら良いかを考えることとする。
ここで言うオノマトペは、・擬声語の研究・(明治書院 平成元年2月20日発行)における大坪併治氏の「音声の持つ特殊な情感を利用して、端的に事物の状態を描写する言葉である。」という定義に基づくものとする。オノマトペは、聴覚によって知覚される事物の状態を表す場合に「擬音語」、他の事物の状態を表す場合に「擬態語」と呼んで区別することもあるが、擬音語と擬態語とを厳密に区別することは困難である。従って、これらを合わせて「オノマトペ」といい、特に区別する必要がある場合に限り、「擬音語」「擬態語」と呼ぶことにする。
調査資料とした平成3年版、及び平成7年版の国語(ただし、「2、調査資料」に記したように平成7年版については差し替えられた教材・大幅に書き換えられた教材のみを対象とする。以後、前者を旧版、後者を新版と記す。)の本文に使用されているオノマトペを扱う。「3-3-1 文節タブレの場合 F文章の種類」に記したように、本文と課題に二分した上でどちらも調査したが、課題における使用例は、本文からの引用であることが多く重複するため、今回は調査範囲から除外したわけである。
V 調査項目・分析基準
今回は、大坪併治氏の・擬声語の研究・(前記)にならって調査項目を設定し、分析した。
調査項目、及びその分析基準の概略は次のとおりである。
(1)使用件数
使用されているオノマトペの全体像をみるため、延べ語数・異なり語数などを学年別に調査する。
(2)音節数
構造上の長さをみるため、音節数を調査する。促音・撥音・長音・拗音についてはそれぞれ1音として数えた。 例、キャ−ッ(と) 3音節/はっきり(する) 4音節
(3)型
構造上の複雑さをみるため、型について次のように分類する。
A 単一型<音節数の多少によらず構造の単一なもの>
単一型の中に、a「0っ0り」型、b「0っ0ら」型、c「0ん0り」型が含まれている場合は、別途、その件数を調査す る。
例、ふ(と)/にっこり 「0っ0り」型
B 複合型
a単純反復型<単一型をそのまま反復したもの>
例、にこにこ/めちゃめちゃ/ずんずんずん
b修正反復型<単一型を反復する際に一部を変形・削除したり、他の要素を添加したりしたもの
例、ほっかほか/ぴょんぴょこ/ざあらざら/めちゃくちゃ
c複合合成型<単一型と単一型、または単一型と反復型を組み合わせたもの>
例、もっこらむっくら/キ−カラカラ/ひょいころ
(4)文法
文法については、次の1(A〜E)から9の基準によって分析する。
1 副詞のうち、
A 常に助詞トを伴うもの。(一音節語・二音節語の全部と、三音節語の大部分と、四音節以上の語で語末に促 音・撥音を持つものの一部とで、擬音語・擬態語を含む。)
B 常に助詞ニを伴うもの。(二音節以上の語の一部で、形容動詞の連用形と見られるものが多く、擬音語はなく、擬態語に限られる。)
C 助詞トを伴ったり伴わなかったりするもの。(四音節以上の語の大部分で、語末に促音を持つものの全部と、撥音を持つものの一部とを除く。擬音語と擬態語とを含む。)
D 助詞トやニを伴ったり全く助詞を伴わないもの。(四音節以上の語の一部で、語末に促音・撥音を持つものを除く。擬音語はなく、擬態語に限られる。)
E 常に助詞を伴わないもの。(四音節以上の語の一部で、擬音語はなく、擬態語に限られる。意味から言えば、程度の副詞に近いものが多い。)
2 副詞のほか名詞としても用いられるもの。
3 名詞としてしか用いられないもの。
4 特殊な接尾語を伴って動詞となるもの。
5 特殊な接尾語を伴って形容詞となるもの。
6 特殊な接尾語を伴って形容動詞となるもの。
7 独立性に富み、感動詞とみなすべきもの。
8 他語と結合して合成語を作るもの。
(1)その形がそのまま独立して用いられ、かつ、複合語にもなるもの
(2)そのままの形では独立して用いられない語基が、他語と結合して合成語を作るもの。
(3)付属的な成分が、他語と結合して合成語を作るもの。
9 特殊な成句を作るもの。
(5)意 味
事物のある状態を表現しているオノマトペを、その状態の把握の仕方(知覚の過程)と、把握される事物そのもの(知覚の対象)との二つの基準から分類し特徴をみる。分類項目は以下のとおりである。
1 知覚の過程によって、目・耳・肌・手・鼻などの五官と感情(生理的感覚や情緒)とに分類する。
2 知覚の対象によって、人・動物・植物・事物・自然に分類する。ただし、擬人法の場合は「ギ」と注記した。さら に、その対象の音・声・表情・行動・感情(内部感覚、情緒など)・動き・様子のいずれを表すものであるかを調べた。また、程度の副詞と考えられるものについては、その意味も付記する。
意味に関しては、厳密に分類しようとすると判断に苦しむ例が少なくない。しかし、国語審議会が決定した「かなの教え方」(昭和30年7月)により、オノマトペのうち擬音語は片仮名で、擬態語は平仮名で書くことに定められていて、小・中学校の国語の教科書は、すべてこれに従っているという。そのため、知覚過程が目によるのか耳によるのかを判断するにあたっては、表記を参照した。
例、ぱこぱこ 目・事物・動き
この例は、「風にあおられて、背中のランドセルのふたが、ぱこぱこ裏返った。」(『風の強い日』六年上P.73)と 使 われている。確かに、ランドセルのふたの動きを表わしているのだが、同時に音も感じられる。しかし、表記に従い上記のように分類した。語形が同じ次のような場合も同様、表記により分類した。
例、サヤサヤ 耳・植物・音/さやさや 目・自然・様子
(6)多用語
多用語について、学年別分布状態にも留意しながら調査する。
(7)ジャンル別使用件数
ジャンル別使用件数について、学年別に調査する。
W 調査結果と考察
(1)使用件数の調査結果と考察
オノマトペの使用件数に関して学年別に調査した。その結果は、[表1]から[表4]のとおりである。
[表1]は、旧版について、学年別の延べ語数とその総計を上段に、総計に対する学年別延べ語数の比率を百分率で下段に示したものである。百分率などの数値は、小数第2位を四捨五入した値である。以下、特にことわらない限り同様に扱うこととする。
[表2]は、旧版について、学年別に、その学年のみの使用例における異なり語数を上段に、各学年の延べ語数に対するその学年の異なり語数の割合を下段に示したものである。
[表3]は、旧版について、学年別に、全学年の使用例における異なり語数とその総計を上段に、その総計に対する各学年の異なり語数の割合を下段に示したものである。
[表4]は、旧版について、各学年における総文数を上計 (100%)
段に、各学年における一文あたりの使用件数を下段に示したものである。
<旧版>
[表1]
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1年 2年 3年 4年 5年 6年
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延べ語数
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132件 163件 183件 202件 277件 171件
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計 1128件
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比率
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(11.7%) (14.5%) (16.2%) (17.9%) (24.6%) (15.2%)
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計 (100%)
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[表2]
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1年 2年 3年 4年 5年 6年
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異なり語数
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60件 115件 115件 127件 161件 104件
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比率
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<45.5%> <70.5%> <62.8%> <62.9%> <58.1%> <60.2%>
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[表3]
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1年 2年 3年 4年 5年 6年
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異なり語数
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60件 100件 80件 81件 94件 47件
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計 462件
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比率
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(13.0%) (21.6%) (17.4%) (17.5%) (20.3%) (10.2%)
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計 (100%)
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[表4]
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1年 2年 3年 4年 5年 6年
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総文数
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473文 828文 1033文 1208文 1457文 1361文
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1文あたりの
使用回数
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<0.3件> <0.2件> <0.2件> <0.2件> <0.2件> <0.1件>
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旧版の場合、[表1]により延べ語総件数に対する学年別延べ語数の比率を見ると、5年が最も高く24.6%、次に4年、3年、6年、2年の順で続き、1年が11.7%と最も低い。5年は本文の量が最も多いので、これは当然の結果と言える。しかし、[表4]により、一文あたりに何語オノマトペが使用されているかを見てみると、逆に1年が最も高く0.3件、6年は最も低く0.1件である。2年から5年の間には、差がない。つまり、一文あたりのオノマトペ使用件数については、低学年が高く、6年が低い点が特徴的である。
[表2]によって、その学年のみの使用例における異なり語の場合を見ると、2年が70%強、3年から6年が60%前後、1年が45%強である。これによって、2年では他学年より多種のオノマトペを使用していることがわかる。5年の場合は、延べ語数が多い割に使用しているオノマトペの種類が少ないといえる。1年は、一文あたりでの使用件数が一番高いのだが、オノマトペの種類は少ないことがわかる。
[表3]により、2年と5年で異なり語が増える率が高いことがわかる。つまり、新しいオノマトペがたくさん使用されるということである。比率だけで見ると2年と5年の差はあまりないが、増加率を比較すると一年から二年にかけては9%弱(件数にして40件)の増加であるのに対し、4年から5年にかけては3%弱(件数にして13件)の増加に過ぎない。従って、学習者の負担感は2年次の方が高いといえるだろう。2年で語種が豊富になり、6年を除いて学年ごとに80件から100件前後の語が増えていくわけである。6年で最も低くなる原因としては、上級生では様子を表現するにあたってオノマトペに頼る率が減少するからだと考えられる。児童自身のオノマトペ使用率も高学年になるほどやや減少すると報告されている。(「小学生の日記に見られる語彙の研究−象徴語を中心として」 昭和58年4月 島根大学学生石橋順子氏の卒業研究)
新版については、前述のように本文全体を調査したわけではないので、使用件数に関しては述べない。
(2)音節数の調査結果と考察
オノマトペの構造について、その長さを知るため音節数を調査した結果は次のとおりである。音節数別に、件数と全件数に対する音節数別件数の比率を出し、その例を示した。
<旧版>
音節数 件数 比率 例
1音節 6件( 1.3%) ピュ/ふ(と)/や
2音節 72件(15.6%) うん(と)/きゅっ(と)/ぐう(と)/ずん(と)
3音節 116件(25.1%) がちん(と)/ぐうん(と)/すっく(と)/ぽつん
4音節 220件(47.6%) うきうき/がぶりっ(と)/じたばた/ちんまり
5音節 10件( 2.2%) うんとこさ/きらきらっ/ざっくざく/くっちょいん
6音節 23件( 5.0%) すっとんとん/くるりくるり/ぽつぽつぽつ
7音節 5件( 1.2%) のっしじゃがんが/すってんころり/ぼかぼかぼかっ
8音節 7件( 1.5%) やっとこすっとこ/ぺったんころりん/ポンポンポンポン
9音節 2件( 0.4%) のっしじゃんがずしん/ほうほうほほほほう
11音節 1件 のっしじゃがんがずっしん
( 計 462件)
<新版>
音節数 件数 比率 例
1音節 3件( 1.9%) ふ(と)/そ(と)
2音節 25件(15.4%) ふっ(と)/すっ(と)/そっ(と)
3音節 38件(23.5%) きちん(と)/そうっ(と)/からり
4音節 91件(56.2%) うっとり/そううっ(と)/はらはら
5音節 2件 はっはっは/ほっかほか
6音節 3件 ポロンポロン/ぴっかぴっか/じわりじわり
(計 162件)
旧版の場合、4音節語が約50%を占めており一位である。二位は、3音節語で25%弱、三位としては2音節語が16%弱と続く。前記した大坪併治氏の現代日本語のオノマトペ調査結果では、散文・韻文ともに4音節語が一位、3音節語が二位。4音節語を中心とし、2音節語から6音節語の範囲に、大部分(93〜96%)が集中しているという。今回調査した国語教科書の場合も、4音節語が一位、3音節語が二位である点、現代日本語の場合と同じであり、4音節語を中心とし2音節語から6音節語の範囲に大部分(95.5%)が集中しているという全体的傾向にも変りはない。
新版でも4音節語が56%を占め、3音節語が23%強、2音節語が15%強と続いている。4音節語・3音節語・2音節語の三位までで95%強になる。音節数からみると、旧版とほぼ同傾向であるといえる。
(3)型の調査結果と考察
オノマトペの構造について、その複雑さを知るために型を調査した結果は次のとおりである。
型ごとに学年別の件数とその総計を示した。総計に付した百分率は、全異なり語数に対する型別件数の比率を表す。
<旧版>
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1年 2年 3年 4年 5年 6年
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A単一型
B複合型
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33件 65件 51件 49件 51件 21件
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計 270件 (58.4%)
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a単純反復型
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23件 20件 23件 31件 37件 23件
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計 157件 (34.0%)
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b修正反復型
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4件 7件 5件 1件 4件 2件
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計 23件 ( 5.0%)
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c複合合成型
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5件 4件 1件 1件 1件 0件
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計 12件 ( 2.6%)
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複合型の計
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32件 31件 29件 33件 42件 25件
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計 192件 (41.6%)
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全計 462件(100%)
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<新版>
A単一型
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92件(56.8%)
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B複合型
a単純反復型
b修正反復型
c複合合成型
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65件(40.1%)
5件
0
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複合型の計
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70件(43.2%)
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全計 162件(100%)
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旧版では、単一型が全件数の約60%を占めている。複合型は、全件数の40%強を占めている。その複合型の中では単純反復型が81%強を占めている。単一型と単純反復型で全件数の92%強を占める。学年別にみても、単一型と単純反復型が中心であることに変りはない。
修正反復型・複合合成型の使用は、1年・2年の物語に集中している。そのオノマトペは、下記に例示したように、各物語に特有のものである。このようなオノマトペは、その物語を学ぶ時だけに必要なもので、日常生活で必要となる可能性はまずない。したがって、出会った場合のみ、その音の響きから文脈中での様子をとらえさせ、感覚的に楽しませれば良いと言えよう。
例、1年 すっとんとん/ざあらざら/ざっくざく/うんとこしょ/キ−カラカラ
2年 やっとこすっとこ/もっこらむっくら/えんさわんさ/のっしじゃんがずしん
単一型の中の「0っ0り」「0っ0ら」「0ん0り」3型に注目してみると、下記の表で明らかなように、単一型内でそれらが占める比率は21%強である。目立って多いのは「0っ0り」型で、その比率は、単一型の17%弱にあたる。少なくとも、3型のうちの「0っ0り」型は補助教材に取り上げる方が良いだろう。
<旧版>
「0っ0り」型 6件 7件 8件 6件 15件 3件 計 45件(16.7%)
「0っ0ら」型 0件 0件 2件 0件 1件 0件 計 3件( 1.1%)
「0ん0り」型 0件 3件 0件 0件 3件 3件 計 17件( 3.3%)
全計 57件(21.1%)
<新版>
「0っ0り」型 16件(17.4%)
「0っ0ら」型 1件
「0ん0り」型 4件 全計 21件( 22.8%)
次に、型と音節数との関わりに注目してみる。
単一型中の4音節語は84件だが、3音節語が113件、2音節語が65件と短音節語が多いことが特徴的である。
複合型192件のうちでは、4音節語の単純反復型が中心で136件ある。それは、単純反復型の語の87%強にあたる。複合型の総件数に対する比率では70%強、全異なり語数に対しては約30%を占めていることになる。
220件ある4音節語の型としては、単一型である「0っ0り」「0っ0ら」「0ん0り」3型が57件使用されており、4音節語の総件数の約26%にあたる。この3型と単純反復型の4音節語を合わせると、その比率は90%弱となり、4音節語である3型と単純反復型が圧倒的に多いことが分かる。
ちなみに、4音節語は修正反復型23件中でも、最も多く7件ある。
11件ある5音節語の型としては、単一型・修正反復型が各4件、複合合成型が3件である。
23件ある6音節語の型としては、単純反復型・修正反復型が多く16件あり、それらは2音節あるいは3音節の語基を反復したものである。13件ある単純反復型は、次のような語である。
例、2音節 語基反復 ぽつぽつぽつ/ずいずいずい
3音節 語基反復 くるりくるり/ぼろんぼろん
修正反復型は3件、次のような語である。
例、えんさわんさ/すっとんとん/えいえいおう
新版では、162件のうち単一型が57%弱、「0っ0り」型は単一型の中で17%強である。複合型の中では単純反復型が93%弱である。音節数との関わりに注目してみると、4・3・2音節を中心とし、単一型・「0っ0り」型・単純反復型が全体の約95%を占めている。つまり、旧版と同様の傾向にあるといえる。
(4)文法の調査結果と考察
「調査項目・分析基準」で記したとおり9種に分類し、比較的使用度の高い語を例としてあげた。結果は次の通りである。ただし、使用例の少ない細分類項目については省略することもある。
<旧版>
1 副詞
A 常に助詞トを伴うもの 115件 例、ふと/ずっと/そっと/はっと/ぐいと/にこっと/
ちゃんと/さっさと/ぴたっと/きちんと/ぴょこんと/ちょこんと/しゃりっと
B 常に助詞ニを伴うもの 1件 例、とどろに(古語)
C 助詞トを伴ったり伴わなかったりするもの 144件 例、にこにこ/ぐんぐん
D 助詞トやニを伴ったり全く助詞を伴わないもの 43件 例、ぴかぴか/がさがさ
E 常に助詞を伴わないもの 2件 例、すっかり/やっとこすっとこ
2 副詞のほか名詞としても用いられるもの 43件 例、がさがさ/つぶつぶ/とげとげ/
どきどき/パチン
3 名詞としてしか用いられないもの 0件
4 特殊な接尾語を取って動詞となるもの 7件 例、ばた(つく)/ぱく(つく)/
ささ(やく)/つぶ(やく)/よろ(めく)/きし(む)/ゆる(める)
5 特殊な接尾語を取って形容詞となるもの 1件 例、でっか(い)
6 特殊な接尾語を取って形容動詞となるもの 7件 例、ぴったり(だ)/そっくり(だ)/
つんつるてん(だ)/へっちゃら(だ)/めちゃくちゃ(だ)/どろどろ(だ)
7 独立性に富み、感動詞とみるべきもの 67件 例、えい/ああ/あれっ/キャ−ッ/
うんとこしょ/どっこいしょ
8 他語と結合して合成語を作るもの 59件
(1)その形がそのまま独立して用いられ、かつ、複合語にもなるもの
例、名詞 ぶんぶん(ごま)/とんとん(ぶき)/ふわふわ(毛)/きらきら(まなこ)
動詞 すっ(とぶ)/しっかり(する)/びっくり(する)/ちょん(ぎる)
形容動詞 (あせ)びっしょり(だ)
(2)そのままの形では独立して用いられない語基が、他語と結合して合成語を作るもの。
例、名詞 びしょ(ぬれ)
動詞 ぶん(まわす)/ぶん(なげる)/ばら(まく)
形容動詞 (はら)ペコ(だ)
(3)付属的な成分が、他語と結合して合成語を作るもの。
例、形容詞 (しろっ)ぽい/(おとなっ)ぽい/(ほこりっ)ぽい
9 特殊な成句を作るもの 1件 例、あっ(というま)
<新版>
1 副詞
A 常に助詞トを伴うもの 31件 例、にこっと/ちょっと/ほっと
B 常に助詞ニを伴うもの 1件 例、さやかに(古語)
C 助詞トを伴ったり伴わなかったりするもの 40件 例、うっとり/はっきり/みしみし
D 助詞トやニを伴ったり全く助詞を伴わないもの 35件 例、つるつる/ぎざぎざ/
よたよた/ぐらぐら
E 常に助詞を伴わないもの 1件 例、すっかり
2 副詞のほか名詞としても用いられるもの 24件 例、ぴょん/ぽんきち/こんた
3 名詞としてしか用いられないもの 0件
4 特殊な接尾語を取って動詞となるもの 0件
5 特殊な接尾語を取って形容詞となるもの 1件 例、でっか(い)
6 特殊な接尾語を取って形容動詞となるもの 2件 例、ぺこぺこ(だ)/ぴったり(だ)
7 独立性に富み、感動詞とみるべきもの 16件 例、えいっ/よいしょ/キャ−/そりゃっ
8 他語と結合して合成語を作るもの 28件
(1)その形がそのまま独立して用いられ、かつ、複合語にもなるもの
例、名詞 だんだら(もよう)
動詞 がくがく(する)/うきうき(する)/ぴったり(する)
(2)そのままの形では独立して用いられない語基が、他語と結合して合成語を作るもの。
例、動詞 ぶら(さげる)/のし(歩く)
9 特殊な成句を作るもの 1件(あっというま)
旧版についてオノマトペを文法的にみると、オノマトペの本来の用途である状態を表す副詞として使用されたものが圧倒的に多く、総件数の約70%を占める。その中でも、Cの助詞トを伴ったり伴わなかったりするもの、Aの常に助詞トを伴うものがそれぞれ100件を越えている。使用例は少ないが、Dの助詞トやニを伴ったり全く助詞を伴わないものやEの常に助詞を伴わないものの存在も指導にあたっては留意しておかなければならないだろう。
副詞以外の用法としては、名詞としても用いられるもの、使用例は少ないが形容動詞となるもの、動詞となるものがあることに留意しておく必要があろう。名詞としても用いられるものの中には、例「どきどき」「パチン」などのように通常は名詞として使用しない語や、新版の1年に見られる例「ぴょん」「ぽんきち」「こんた」のように固有名詞として用いられている語もあるからである。動詞となるものは、例示したように、「つく」「やく」「めく」「む」「める」を伴う7件であったが、一般には他に「かる」「ぐ」「ける」「ばる」「もす」「る」「ろく」など種々の接尾語を取り、用例も多いからである。また、形容動詞となるものも一般的現代日本語には用例が多く、副詞Bの常にニを伴うものとの関わりがあるからである。
3の名詞としてしか用いられないもの、一般的現代日本語にも使用例の少ない5の形容詞となるもの、7の感動詞とみるべきもの、9の特殊な成句を作るものについては、必ずしもオノマトペとして扱う必要はないのではないかと考えられる。
8の他語と結合して合成語を作るものの場合は、サ変動詞「する」と結合するものが36件で、61%を占めている。これを中心に指導すると良いと考えられる。
新版の場合も、旧版とほぼ同じような傾向である。
具体的な語に即してみると、旧版では「がさがさ」が、「と」を伴って(1年下)、主語として(3年上)単独で(5年上)、「する」を伴い動詞として(6年上)と4様の使い方をされている。「ぴかぴか」と「はっきり」の場合はそれぞれ、「の」を伴う(1年下)・単独(2年下)・形容動詞(4年上)、「する」を伴う動詞(1年下)・「と」を伴う(3年上)・単独(3年下)と3様の使い方をされている。新版では「ぴったり」が、「する」を伴う動詞(3年上)・「と」を伴う(3年上)・形容動詞(4年下)と3様の使い方をされている。ちなみに、「ぴったり」の場合、旧版では、「する」を伴う動詞(4年下)・単独(5年上)形容動詞(5年上)の3様に用いられていた。この事実から、このように文法的使用法の種類も多く、使用頻度も高い語に留意した指導を早いうちしなければならないことが分かる。
(5)意味の調査結果と考察
「調査項目・分析基準」で記したとおり分類調査した。結果は次のとおりである。
<旧版>
A 知覚の過程によるもの
(1)耳 138件 例、ガサガサ/サヤサヤ/ドサッ/バサバサ/バ−ン
(2)目 355件 例、にこにこ/きらきら/ぴかぴか/ゆっくり/そっくり
(3)手や肌 13件 例、すべすべ/つるつる/ねちねち/どろどろ
(4)鼻 2件 例、クンクン/つうん(と)
(5)舌 2件 例、とろうり/ほくほく
(6)内部感覚 11件 例、うきうき/ぶるぶる/うっとり/どきどき
(7)感情・情緒 46件 例、ほっ(と)/そっ(と)/はっ(と)/しんみり
B 知覚の対象によるもの
(1)人間の音声 37件 例、うんとこしょ/どっこいしょ/シイ−ッ
(2)人間の容貌・表情 33件 例、にこっ(と)/にこにこ/にっこり/しゅん(と)
(3)人間の体つき 2件 例、ぐんぐん/もっこらむっくら
(4)人間の服装 1件 例、つんつるてん
(5)人間の行動 131件 例、ぱくん/ふらふら/ぶらぶら/ぐい(と)/ぽい
(6)人間の性情 2件 例、ぼんやり/のんびり/せかせか/きびきび
(7)人間の内部感覚・情緒 55件 例、がくがく/びっくり/わくわく/どきどき
(8)自然界の音響 8件 例、ゴ−ゴ−/パチパチ/サラサラ/バ−ン
(9)自然界の様子 37件 例、そよそよ/ぽかぽか/からっ(と)/きらきら
(10)植物の立てる音響 7件 例 ガサガサ/バサバサ/サヤサヤ/ひそひそ(擬人)
(11)植物の様子 26件 例、つぶつぶ/とげとげ/ぐったり/さわさわ
(12)動物の鳴き声 31件 例、ピ−ピ−/チュンチュン/ワンワン/チ−チ−
(13)動物の立てる音響 13件 例、ドサッ/ビュ−ン/ガラガラ/バタバタ
(14)動物の様子 55件 例、ふわふわ(毛)/ふうっ(と)/ちいっ(と)
(15)動物の動き 60件 例、ぱくぱく/ぐるぐる/くるりくるり/ごろり
(16)事物の立てる音響 26件 例、キ−カラカラ/カタカタ/ゴロゴロ/ブ−ン
(17)事物の様子 65件 例、ゆらゆら/ぴかぴか/ばらばら/ぎらぎら
(18)事物の動き 16件 例、ころころ/ぱこぱこ/くるくる/ゆっくり
(19)事物の程度・確実さ・進行など 14件 例、ずっ(と)/ちょっ(と)/はっきり/
しっかり/ちゃん(と)/だんだん/どんどん
<新版>
A 知覚の過程によるもの
(1)耳 48件 例、ジュウジュウ/ガシャン/カンカン/ジャバジャバ
(2)目 114件 例、はっきり/どっさり/ころころ/にこっ/ぎざぎざ
(3)手や肌 3件 例、すべすべ/つるつる/ほっかほか
(4)鼻 0件
(5)舌 0件
(6)内部感覚 10件 例、きりきり/はらはら/びりびり/がくがく/どきどき
(7)感情・情緒 45件 例、うっとり/ぽっかり/のんびり/ほっ(と)/はっ(と)
B 知覚の対象によるもの
(1)人間の音声 19件 例、えへへ/わあい/うわっ/そりゃっ/ゴホン
(2)人間の容貌・表情 11件 例、ぷんぷん/しょんぼり/かんかん/にやっ/ちらちら
(3)人間の体つき 0件
(4)人間の服装 1件 例、つんつるてん
(5)人間の行動 33件 例、つうっ(と)/ゆっくり/がぶがぶ/ぐいぐい
(6)人間の性情 2件 例、のんびり/うっかり
(7)人間の内部感覚・情緒 24件 例、うきうき/ほっ(と)/がっかり/はらはら/びくびく
(8)自然界の音響 5件 例、ゴ−ゴ−/ヒュ−ヒュ−/ジャバジャバ
(9)自然界の様子 8件 例、はっきり/だんだん/ずっ(と)
(10)植物の立てる音響 1件 例、よいしょ(擬人)
(11)植物の様子 2件 例、もっこり(擬人)/びっしり
(12)動物の鳴き声 4件 例、ガオ−ッ/チュッチュッ/えいっ(擬人)
(13)動物の立てる音響 2件 例、トボン/バタバタ
(14)動物の様子 13件 例、くすくす(擬人)/くりくり/もたもた/のそのそ
(15)動物の動き 22件 例、ぱたぱた(擬人)/ぴょんぴょん/よたよた/じわじわ
(16)事物の立てる音響 19件 例、ポキン/カンカン/ガシャン/ジュウジュウ/ちいん(狂言)
(17)事物の様子 32件 例、しっかり/ずらり/ぐらぐら/ゆっくり/ひたひた
(18)事物の動き 9件 例、くるくる/ころころ/ふわふわ/ゆっくり
(19)事物の程度・確実さ・進行など 4件 例、ちゃん(と)/はっきり/ずっ(と)/どんどん
旧版の場合、Aの知覚の過程によるものでは、(2)の目によるものが355件と圧倒的で、総件数(567件)の62%強を占める。続いて(1)耳138件、(7)感情・情緒46件の順である。(4)鼻および(5)舌によるものはきわめて少ない。前記の大坪併治氏の現代日本語調査でも(2)が最も多く、(1)がこれに次ぎ、(4)(5)はきわめて少ないということである。
Bの知覚の対象によるものでは、(1)から(7)の人間を対象とするものが最も多く261件、(12)から(15)の動物を対象とするものがこれに次ぎ159件、(16)から(19)の事物を対象とするものが121件と続く。大坪氏の調査結果では、1位は同じ人間を対象とするものであるが2位は事物を対象とするものであった。ただ、教科書では擬人法のものが、動物66件、植物13件、自然5件、事物2件、計86件ある。これは、人間以外を対象とする件数358件の約24%にあたる。これらを人間に含めると2位は事物となる。擬人法は、児童向けの物語などではよく使われる手法で、小学校国語教科書にも多くみられる。本来は人間に対してしか使用しないはずのものを人間以外のものに使って表現している場合もあるから、オノマトペ指導に際しては、そういう語に留意し混乱を起こさせないようにすることが大切だろう。
新版の場合、A知覚の過程によるものでは、(2)の目によるものが114件で最も多く、次に(1)耳48件、(7)感情・情緒45件と続く。B知覚の対象によるものでは(1)から(7)の人間を対象にするものが最も多く89件(擬人法も含めると97件)で、次に(16)から(19)の事物64件、(12)から(15)の動物41件(うち、擬人法6件)と続いており、やはり旧版と同じ傾向を示している。
しかし、これらは一応の分類であって、あまり厳密なものではない。オノマトペの中には、同時にいくつかの過程を通して知覚できるものもある。また、同じ語で異なった対象に使用されるものも少なくないからである。目・耳、あるいは肌でもとらえられ、音はもちろんその様子や動きをも想起させられる語の例として、「ぴゅうぴゅう」「ごろごろ」「バタバタする」などがあげられる。「ぶるんぶるん」「バタリと」「きらきら」などは、人・動物・事物など異なった対象に使用される語の例である。
このように、文脈の中では目でも耳でもそして内部感覚でもと、種々の知覚により複合的にとらえられる表現がある。ひとつのオノマトペからどのようなものが見え、どんな音が聞こえ、どんな感触が伝わってくるのかを考え想像させるのには、複合的なものほど指導すべき良い教材例ではあるが、日本語学習者にとっては難しいと考えられる。オノマトペが多面的な意味を含んで使用されていることをふまえて指導する必要があるだろう。今回は比較的どの分野に重きがあるかに注目して分類したが、ごく初期の段階では、使用例の多い分野に限定して教える方が分かりやすいだろう。つまり、目によって知覚するもので人間を対象とする語を取り上げていくと良いことになる。
新・旧版ともに、「ひっそり」「ぼんやり」「のんびり」「うんざり」などが1・2年で出てくる。新版では「うっとり」が1年に出てくる。このような語は、単に外部感覚ではなく、主として内部感覚でとらえたものを表現する語で、説明するとなると特に難しいのではなかろうか。内部感覚的なオノマトペを低学年の、しかも日本語を母語としない児童に十分理解させることには困難な面があるのではないだろうか。教科書編纂の課題として学年を考慮する必要性があるように思われる。また、高学年になって出てくる語に「ふ(と)」があるが、しぐさの中に心理的なものを反映している点でこれも説明しにくい面がある。そういった語感を伝えるむずかしさを常に心にとめておかねばならないだろう。
(6)多用語の調査結果と考察
多用語について、どのような語がどの学年でどれくらい使われているかを調査した。結果は次のとおりである。ただし、使用回数が2件以下の語は除外した。
<旧版>
(イ)全学年にわたるもの
ずっ(と) 26件、すっかり 19件、びっくり(する) 19件、そっ(と) 16件、
にこにこ 9件 以上5語
(ロ)5学年にわたるもの
[1年を除く全学年]ちょっ(と) 22件、だんだん 18件 以上2語
[4年を除く全学年]ずうっ(と) 10件、そっくり 10件、ぐんぐん 6件、以上3語
[5年を除く全学年]どんどん 13件 1語
[6年を除く全学年]じっ(と) 17件、ぴかぴか 5件、そろそろ 5件 以上3語
(ハ)4学年にわたるもの
[1・2・3・5年]しっかり 15件 1語
[1・3・5・6年]ゆっくり 22件、がさがさ 7件、うきうき 4件 以上3語
[2・3・4・5年]ほっ(と) 11件、さっさ(と) 4件 以上2語
[2・4・5・6年]はっ(と) 8件、ひょい(と) 7件、うん(と) 5件 以上3語
[3・4・5・6年]はっきり 11件、きらきら 9件 以上2語
(ニ)3学年にわたるもの
[1・3・5年]ころころ 7件、あっ 7件 [1・2・3年]あっ(というま) 4件
[1・4・5年]ひっそり 4件 [1・2・4年]ぴん(と) 3件
[2・3・4年]そうっ(と) 4件 [2・5・6年]ふうん 9件、しん(と) 3件
[2・3・5年]にこっ(と)、ひょっ(と)各 3件
[2・4・5年]ぐったり 4件 [2・3・6年]黒っ(ぽい) 4件
[3・4・5年]にっこり 5件 [3・4・6年]どっ(と) 5件
[3・5・6年]ちゃん(と) 9件、ひょっ(と) 3件、ぎゅっ 4件、どきどき 4件
[4・5・6年]ふ(と) 7件、がっかり 6件、さっぱり 4件
(ホ)2学年に出てくるもの
[1・3年]ころりん 16件 [1・4年]あれ 4件
[1・5年]ころころ 6件、ああ 5件、ちらり(と) 4件
[1・6年]つぶつぶ 5件 [2・3年]びっしょり、とん(と) 各3件
[2・4年]ぼんやり、のんびり 各 4件、カ−ン 3件
[2・5年]かたかた 3件 [2・6年]空っ(ぽ) 7件
[3・4年]きゅっ(と) 4件、くんくん、ちょこん(と) 各3件
[3・5年]すうっ(と) 6件、さやさや 5件、くるくる 4件、
ぴょん(と)、ぴたっ(と)、どろどろ、トントン、ふらふら 各3件
[3・6年]ぶるぶる 4件 [4・5年]ぶらぶら 3件
[4・6年]ごろごろ 7件、わっ 4件、ちょろちょろ 3件
[5・6年]ぱっ(と) 8件、わくわく 6件、ちょっぴり、パチン 各4件、
さらさら、さっ(と) 各3件
(ヘ)1学年のみに出てくるもの
[1年]すっとんとん、ころりん 各13件、うんとこしょ、どっこいしょ 各6件、
キ−クルクル 5件、キ−カラカラ 4件、ちょろ 3件
[2年]えいっ 12件、ぶんぶん(ごま) 6件、のっしじゃがんが、よいしょ 各4件
[3年]えいやら 6件、ドサッ、ガリ、は 各3件
[4年]ガオ−ッ 10件、ファホ−ッ 6件、クック、ケルルン、こっそり 各4件、
ごろり、ワオ−ッ 各3件
[5年]ほうほうほほほほう 6件、ぐっ(と) 4件、こっくり、ヒュ−、ピュ 各3件
[6年]ごろりん、ゆらゆら 各4件、ちっ(とも)、かぷかぷ 各3件
<新版>
[全学年] はっきり 15件
[3・5・6年]ちょっ(と) 14件、しっかり 6件、ゆっくり 5件
[2・5・6年]ずっ(と) 10件 [3・4・5年]どんどん 4件、そっ(と) 3件
[4・5・6年]あっ、どきどき 各5件
[1・2年] ぴょん 10件、ぴょんぴょん 4件
[4・5年] じっ(と)、ちゃん(と) 各5件、びっくり 3件
[4・6年] のんびり 6件
[3年のみ] キャ− 3件 [4年のみ]ふっくら 4件
[5年のみ] のっし、はっ(と) 各4件、きちん(と)、そうっ(と) 各3件
[6年のみ] おお 8件、ああ、そりゃっ 各4件、くるくる 3件
使用頻度と学年分布という観点からみると、使用頻度の高い語ほど全学年にわたって使用されている。従って使用頻度の高いものから教えていくようにすればよいということになる。上の(イ)(ロ)(ハ)の欄にある「ずっ(と)」「すっかり」「びっくり」「そっ(と)」「ちょっ(と)」「だんだん」「じっ(と)」「どんどん」「ゆっくり」「しっかり」「はっきり」などが優先されよう。これらは日常的によく使われる語でもある。4学年以上にわたっている割には件数が低い語として、「にこにこ」「ぐんぐん」「ぴかぴか」「そろそろ」「うきうき」「さっさ」「がさがさ」「うん(と)」「きらきら」などがあるが、これらも日常的によく使う語であり大切である。また、これらの他に低学年で出てくる「そっくり」「そろそろ」「はっ(と)」「あっ(と)」「ひっそり」「ぴん(と)」「ぐったり」「にこっ(と)」「しん(と)」「ちらり(と)」などは早い段階で与える必要があるだろう。
なお、新版での使用頻度の高い語は上記のとおりであるが、旧版と同じ語が多い。
新版の、ある学年に出てくる語で、旧版ではその同じ学年には出てこなかった語を学年別に調査し、列挙すると次のようになる。括弧内の数字は、旧版で初出する学年を示す。#印は新版において、当該学年より下の学年で既出の語であることを示す。「初」は旧版のどの学年でも使用されていなかった語であることを示す。ただし、旧版に類語がある場合はその語と学年を括弧内に付記する。
例、2年 ほっかほか(初ほかほか6) この例の場合、「初」と記すことで、「ほっかほか」が新版の2年で初出しているが、旧版ではどの学年でも使用されていないということを示している。ただし、「ほかほか6」と付記することで類語である「ほかほか」が旧版の6年に使用されていることを示している。
1年 こん(2)、うっとり・がくがく・はっきり(3)、ぽん(ぽんぽん4)、シャンシャン(4)、
カンカン(5)、シャラシャラ(初)、ぴょん(初ぴょんぴょん1) 以上9語
2年 ころころ・ぴょんぴょん(1)、うきうき(3)、ぶつぶつ(4)、くすくす(5)、
ずらり(初ずらっ(と)4)、 ほっかほか(初ほかほか6)、ドボン・ぱたぱた・ひたひた・
ぷんぷん・ブルン・ぺらぺら・びゅんびゅん(初)、はっきり#・ぴょん# 以上16語
3年 ピュ−ピュ−(1)、どっさり(2)、がらがら・ぐいぐい・そよそよ・つるつる・ぼきり・
ひっそり(4)、くりくり・パチン・パチパチ・ぴったり(5)、ちっ(とも)・ゆらゆら(6)
ぐらぐら・しくしく・でんぐり(がえる)・ドシン・ひっくり(かえる)・ボキン・
しょんぼり・みしみし・よたよた(初)、どきっ(初どきどき3)、
ビュ−ビュ−(初 ビュ−ン3)、ヒュ−ヒュ−(初ヒュ−5) 以上26語
4年 ふわふわ・ポチャン(2)、ちゃん(と)・どきどき(3)、ぱっ・ぽっかり・わくわく(5)、
くしゃくしゃ(6)、トド−ッ(初)、チュッチュッ(初チュンチュン2)、
ふっくら(初ふっくり3)、ぴったり#・うきうき#・ころころ# 以上14語
5年 どんどん(1)、すっ(と)(3)、ちらちら・ちょろちょろ・ふわっ(と)(4)、
にやっ(と)・ふっ(と)(6)、シャバシャバ・ジュウジュウ・ガシャン・コホン・
だんだら・がぶがぶ・のっし・ちいん・でっかい・ぎざぎざ・じわじわ(初)、
つうっ(と)(初つう(と)6)・そううっ(と)(初そうっ(と)2)、かんかん#・
ぐらぐら# 以上22語
6年 しっかり(1)、のんびり(2)、くるくる・ぺこぺこ(3)、ばらばら・(からっ)ぽ(4)、
きちん(と)・どうどう・はらはら・バタバタ(5)、からり(初からっ(と)4)・
のそのそ(初のっそり4)・びくびく(初びくっ、びく(とも)4)・がらり(初がらん5)、
うっかり・きりきり・もたもた・ざらり・てっきり・どんみり・ふ(と)(初)、
さやか・ゆるり(初古語)、ちいん#・つうっと# 以上25語
新・旧版をとおして、前述した語の他に2学年以上にわたっている語には日常的なものが多い。例えば、「がっかり」「さっぱり」「びっしょり」「ぼんやり」「のんびり」「どっさり」「くっきり」など多数あるが、これらも早い段階で教えた方が良いものであろう。一方、1学年のみに出てくる語には、件数が多くてもその学年の特定の作品にみられる特殊なものが多い。他でも触れたが、例えば、「すっとんとん」「ころりん」「ガオ−ッ」「ファホ−ッ」などはその語が出てくる時期に指導すれば良いものであろう。
(7)ジャンル別の調査結果と考察
ジャンル別使用件数について、学年別に調査した結果は次のとおりである。
[表1]は旧版について、[表3]は新版について、それぞれジャンル別延べ語数を計として、また学年ごとの使用件数などを示したものである。括弧内の数字は、延べ語総件数に対する(イ)(ロ)(ハ)三分野を合わせた文学的ジャンル、(二)説明文的ジャンルの各合計件数の百分率である。[表2]は旧版についてジャンル別に各学年ごとの異なり語数を示したものである。
<旧版>
[表1]
|
1年 2年 3年 4年 5年 6年
|
|
(イ)物語
|
108件 57件 152件 153件 192件 127件
|
計 789件
|
(ロ)昔話・民話
|
18件 66件 0件 17件 0件 10件
|
計 111件
|
(ハ)詩
|
3件 11件 3件 17件 57件 12件
|
計 103件
|
学年別小計
|
129件 134件 155件 187件 249件 149件
|
1003件(88.8%)
|
(ニ)説明・要約など
|
3件 29件 28件 15件 28件 22件
|
計 125件(11.2%)
|
学年別件数
|
132件 163件 183件 202件 277件 171件
|
合計1128件(100%)
|
[表2]
|
1年 2年 3年 4年 5年 6年
|
(イ)物語
|
49件 34件 104件 105件 126件 79件
|
(ロ)昔話・民話
|
6件 60件 0件 15件 0件 9件
|
(ハ)詩
|
2件 7件 2件 8件 40件 11件
|
学年別小計
|
57件 101件 106件 128件 166件 99件
|
(ニ)説明・要約など
|
3件 24件 16件 12件 19件 14件
|
<新版>
[表3]
|
1年 2年 3年 4年 5年 6年
|
|
(イ)物語
|
14件 5件 4件 13件 50件 25件
|
計 111件
|
(ロ)昔話・民話
|
0件 0件 0件 0件 0件 33件
|
計 33件
|
(ハ)詩
|
1件 5件 13件 9件 22件 9件
|
計 59件
|
学年別小計
|
15件 10件 17件 22件 72件 67件
|
203件 (66.8%)
|
(ニ)説明・要約など
|
7件 12件 36件 14件 13件 19件
|
計 101件(33.2%)
|
学年別件数
|
計 22件 22件 53件 36件 85件 86件
|
合計 304件(100%)
|
旧版については、[表1]から次のような傾向が指摘できる。延べ語数では、物語・昔話・詩などの文学的ジャンルに使用されるものが、総件数の約89%を占める。特に1年では、1年における使用件数132件に対して129件と98%弱を占めている。続いては、4年92%強、5・6年90%弱、3年85%弱、2年82%強の順である。
これを[表2]と合わせて、ジャンル別に学年ごとの延べ語数に対する異なり語の比率をみると、1年は128件に対し57件で44%強と最も低く、続いて5・6年66%強、3・4年68%強、最も高いのは2年で75%強となっている。文学的ジャンルにおいて、1年ではオノマトペの使用件数が圧倒的に高いけれど同語の繰り返しが多く、2年では他学年より使用件数が低い割には語種が豊富だといえよう。4年は使用件数、異なり語数ともに高いといえる。
説明文的なジャンルは、[表1]の延べ語数でみると総件数の11%強である。1年が最も低く、
2.3%、2年が最も高く18%弱である。他の学年は、8%弱から15%強の間で推移する。[表2]の異なり語件数でみても、2年は24件で他学年よりも新出語が多い。
具体的な語をみると、文学的ジャンル、特に昔話には、その作品独特の造語ともいうべきものが使用されることが多いと分かる。例えば、「すっとんとん」「キ−クルクル」(1年)「ごんごろ」「のっしじゃんが」(2年)「ぼろんぼろん」「わしわし」「もっこらむっくら」「わやわや」「ざんざか」「びゅわんびゅわん」「げろん」(3年)「ガオ−ッ」「ファホ−ッ」(4年)「ほうほうほほほほう」(5年)「ピ−ヨン」(6年)などである。これらはその作品の中で鑑賞させれば良いものだろう。こういう語を使用した作品の多い2年次は、オノマトペの特色や楽しさを充分に伝えられる好機といえよう。
説明文に出てくるものでは、「ゆっくり」(7件)「はっきり」「しっかり」(各6件)が多い。これ以外に「ずっ(と)」(5件)「そっ(と)」「だんだん」(各4件)「どんどん」(3件)などがある。この結果は、多用語調査結果で出た優先的に教えた方が良い語と全く一致している。これらの語は他のジャンルにももちろん多用されている。ただし、その場合心理が反映されていることが多い。例えば、物を「そっと置く」ような時、特にその物を大切に思う気持ちがこめられている。それが説明文の場合になると、単に動作として事物を丁寧に静かに扱うことだけを表す場合が多い。同じ語であっても、ジャンルによってニュアンスに違いがでてくることにも留意しておくと良い。
新版においては、説明的文章の差し替えの割合が大きかったため[表3]のような結果になったが、文学的ジャンルの比率がやはり高く、ジャンルによって現れる傾向も旧版に同じと考えて良いだろう。
X まとめ
教科書に使用されたオノマトペは、そのほとんどが物語・詩・作文などのジャンルに使用されていた。これは、音により直接的に何かの状態や情緒などを表現する言葉であるオノマトペの特徴がよく出た結果であろう。細々と説明しなくとも、人の気持ちや表情、事物の様子などを端的に表し伝えることができ、しかもわかりやすくおもしろいからである。オノマトペとして特におもしろいものには、その場限りの特殊なものが多かった。教科指導のためには、そういうおもしろいものだけでなく、オノマトペの中でも基本となる語を、低学年の早い段階においてこそ大系的に指導する必要性が高いことが明らかになった。調査結果で述べたように、基本的なオノマトペとは次のような語ということができる。音節数と型という面からは、4音節語の単純反復型・「0っ0り」型、4音節語の単純反復型との関わりも深い2音節語、3音節語の単一型である。知覚過程・対象という面からは、目や耳という外部感覚によってとらえられる人の様子を描写する語である。さらに、文法という面からは、トを伴ったり伴わなかったりする、あるいは必ずトを伴う単一型の副詞である。だが、「0っ0り」型の類型として「0っ0ら」型「0ん0り」型があること。文法面でも、副詞以外に、名詞・形容動詞・サ変動詞となる場合があることなど、様々なパターンの存在を考慮し大系化に配慮しておくことが大切だ。
オノマトペを導入するには、具体的な場面を想定して、使用例の多い人の行動やしぐさ・表情などを表す語を中心に取り上げることから始めていくと良いだろう。例えば「にこ」という語基からは、次のような展開ができる。
にやり(と・とする)→ にやりにやり(と・する)
↑
にやにや(と・する)→ にやっ(と・とする)
↑
・にこ → にこっ(と・とする) → にっこり(と・する)
↓
にこにこ(と・する)→ にこにこっ(と・とする)
ここでは、調査して得られた使用度の高い語を対象にして、「型」を基本として、音韻・意味による「語の広がり」という観点から、補助教材に取り上げると良いと考えられる順序でオノマトペを示してみる。
●印は使用頻度の多かった語、◇印はその語と同じ「型」の語、◆印はその類語または派生語、▲印は対義の語であることを示す。
●ずっ(と)<時間的、空間的、距離的な程度、分量を表す中に感情が込められる例が多い。
↓ 主観的にとらえる長さ、多さの強調 例、ずっと好き/ずっと早い/ずっと使われた
物理的ではなく、感覚的、情緒的にとらえる長さを強調するのに使いやすい。>
◇ずうっ(と)<「ずっ(と)」の強調>
↓ <必ず「と」を伴う単一型に発展させる。>
◇ちょっ(と) → ◆ちょこっ(と)◆ちょっぴり
↓ <類語に発展させる。>
◇じっ(と) → ◆じっくり
◇そっ(と) → ◆そうっ(と)
◇ちゃん(と) → ◆ちゃあん(と)
◇はっ(と) → ◇ぱっ(と) → ◆ぱっぱっ ◆ぱっちり
◇ふ(と) → ◆ふっ(と)
◇すっ(と) → ◆すうっ(と)
◇ほっ(とする)→ ◆ほうっ(と)
◇ひょい(と) → ◆ひょっ(と)◆ ひょっこり◆ひょいころ
◇うん(と) → ◆ううん(と)◆うんとこさ
◇どっ(と) → ◆どさっ(と)◆どっさり → ◆たっぷり
◇ぐっ(と) → ◆ぐい(と)◆ぐう(と)◆ぐうん(と)◆ぐん(と)
↓ ↓
◆ぐいぐい ◆ぐんぐん→◆ぐんぐんぐん
◇ちらり(と) → ◆ちらっ(と)◆ちらちら▲じっ(と)
▲まじまじ(と)▲しげしげ
◇きゅっ(と) → ◆ぎゅっ(と)◆ぎゅうぎゅう ◇さっ(と)→◆さっさ(と)
◇ぴん(と) → ◆ぴいん(と)◆ぴんぴん◆ビーン(と)
◇ぴょん(と) → ◆ぴょうん(と)◆ぴょんぴょん◆ぴょこん◆ぴょんぴょこ◆ぴょこり
◆ぴょい(と)
◇ずん(と) → ◆ずんずん◆ずんずんずん
◇びくっ(と) → ◆びく(とも)◆ぴくっ(と)◆ ぴくん(と)
●ゆっくり<トを伴ったり、サ変になったりする。動作の速度の遅さを表す使用例が圧倒的に多いが、
人の気持ちのくつろぎ、念押しなどの気持ちがこめられているものもある。>
↓
◆ゆったり
↓ <「0っ0り」型に発展させる。ト、ニを伴うもの、伴わないものなどにも配慮する。>
◇すっかり <ふつうトを伴わない。> → ◆すっぽり
◇びっくり(する)→ ◆びっくら(する)
◇しっかり <堅固な様子、人の性情、行動などを表す。>
◇はっきり <人に関する場合は、態度や行動の明瞭さを表す。> → ◆くっきり
◇そっくり <容貌が似ていることを表す使用例が圧倒的に多いが、分量も表す。>
◇がっかり → ◆がっくり
◇にっこり → ◆にこっ(と)◆にこにこ◆にやにや◆にやっ(と)
◇ひっそり → ◆ひっそり → ◇こっそり
◇ぐったり
◇びっしょり → ◆ぐっしょり◆びしょびしょ
◇ぎっちり → ◆きっちり◆ぎっしり◆びっしり◆きちんと
◇ぴったり → ◆ぴたっ(と)◆ぴたり(と)
以下には、使用度は高くないけれど、前記以外の「0っ0り」型、及び「0っ0ら」型・「0ん0り」型を参考までにあげておく。
◇ぽっかり→◆ぽっこり ◇もっこり→◆もっくり ◇のっそり ◇とっくり
◇うっとり(する) ◇ぐっすり ◇ふっくり→◆ふっさり ◇しっとり→◆じっとり
↓ <「0っ0ら」型に発展させる。>
◇もっこらむっくら ◇びっくら<前出> ◇えっちら ◇おっちら ◇へっちゃら
↓ <「0ん0り」型に発展させる。>
◇ぼんやり ◇のんびり ◇うんざり ◇ちんまり ◇しんみり
◇あんぐり ◇こんもり ◇ひんやり ◇とんがり(鼻)
●だんだん
↓ <「単純反復型」に発展させる。>
◇どんどん<物音を表す場合もある。> ◇にこにこ<前出>
◇きらきら<輝く様や表情を表す。>→◆きらきらっ◆きらっ(と)◆ぎらっ(と)◆ぎらぎら
◇ごろごろ<物音や転がる様子を表す。>→◆ごろん◆ごろり(と)◆ごんごろ◆ごろりん
↓
◇ころころ<動きを表す>→◆ころりん◆ぺったんころりん◆ころん(と)
◆ころり(と)◆すってんころり◆ひょいころ
◇がさがさ<物音や様子。耳障りな音、野蛮、味気ない様子などマイナスイメージを表す。>
↓
◆がくがく ◆がたがた ◆ガーガー ◆ガラガラ ◆がやがやがやがや ◆がちん(と)
◆がっき(と)◆がぶりっ(と)◆ガリ◆ガーガー◆ガオーッ◆ガオ◆ガオガオガオ
◇ぴかぴか
↓<「ぴ」の音によって発展させる。>
◇ぴゅうぴゅう ◇ぴたぴた ◇ぴしぴし ◇ぴぴぴ
◇ひらひら → ◆ひらりひらり ◇ひくひく
◇そろそろ<急がない静かな行動、ある時分となることを表す。>
↓<静かな感じを与える「そ」の音によって発展させる。>
◇そよそよ 〔ほっそり ぼそり(と) ひそひそ ひっそり こっそり そっ(と)〕
◇さやさや<植物や自然の音や様子を表す。>
↓<「さ」の音によって発展させる。>
◇さらさら ◇さわさわ ◇さっぱり ◇ふっさり
以下には、使用度はさほど高くないけれど、上記以外の単純反復型を参考までにあげる。
◇つぶつぶ ◇とげとげ ◇うきうき→◆いそいそ ◇くりくり(する) ◇こちこち
◇ぱくぱく→◆ぱくん(と) ◆ぱくっ(と) ◆ぱく(つく)
◇ぶんぶん(ごま)→◆ぶん(まわす)、ぶん(なげる)、ぶん(なぐる)
◇ほくほく ◇かたかた ◇こんこん ◇ごしごし ◇じりじり
◇すくすく→◆すっく(と) ◇とろとろ ◇わしわし ◇わやわや ◇わいわい
◇ふわふわ(と)→◆ふわっ(と) ◆ふわりふわり ◆ふわり(と)
◇おいおい ◇くるくる ◇くんくん ◇しばしば(する)→◆しぱしぱ(する)
◇しげしげ→◆じろじろ ◆じろり(と) ◇しぶしぶ ◇きんきん
◇ごちゃごちゃ→◇めちゃめちゃ(に)→◆めちゃくちゃ(だ)
◇ちょろちょろ→◆ちょこちょこ ◆ちょろ ◆ちょろっ(と)
◇すべすべ(する) ◇せかせか(と、する) ◇ぶらぶら
◇ぼろぼろ ◇ばらばら ◇ぶつぶつ
◇もごもご→◆もぐもぐ ◇ぺろぺろ
以上のデ−タを示す上での観点のひとつともした音韻は、今回の調査項目にはあげなかったけれど、オノマトペを教材化する場合、他の項目に負けず劣らず重要な観点であると考える。音から感じられるイメ−ジにより、語彙を豊かに広げていくことができるし意味用法の理解の助けにもなるのである。オノマトペ自体が持つ音感とそれに伴う意味がわかれば、物語文などに用いられている特殊なオノマトペの理解にも、おおいに役立つと思われる。ちなみに旧版の本文に出てくる語の頭音とその件数は、次のようである。行頭の数字は、行ごとの合計件数である。下線は15件以上の音と拗音中最多の音に付した。
35「あ」<10>「い」< 1>「う」<11>「え」< 7>「お」< 6>
50「か」< 8>「き」<11>「く」<13>「け」< 2>「こ」<12>「きゃ」< 2>「きゅ」< 1>「きょ」< 1>
49「が」<17>「ぎ」< 4>「ぐ」<16>「げ」< 1>「ご」< 9>「ぎゃ」< 0>「ぎゅ」< 2>「ぎょ」< 0>
46「さ」 < 6>「し」<13>「す」<15>「せ」< 2>「そ」< 6>「しゃ」< 3>「しゅ」< 1>「しょ」< 0>
22「ざ」< 3>「じ」< 8>「ず」<10>「ぜ」< 1>「ぞ」< 0>「じゃ」< 0>「じゅ」< 0>「じょ」< 0>
50「た」< 3>「ち」<15>「つ」< 6>「て」< 1>「と」<11>「ちゃ」< 2>「ちゅ」< 1>「ちょ」<11>
12「だ」< 1>「ぢ」× 「づ」× 「で」< 1>「ど」<10>「ぢゃ」× 「ぢゅ」× 「ぢょ」×
16「な」< 0>「に」< 5>「ぬ」< 2>「ね」< 1>「の」< 6>「にゃ」< 2>「にゅ」< 0>「にょ」< 0>
55「は」<13>「ひ」< 6>「ふ」<21>「へ」< 1>「ほ」<10>「ひゃ」< 0>「ひゅ」< 1>「ひょ」< 3>
43「ば」<10>「び」<10>「ぶ」<11>「べ」< 1>「ぼ」< 9>「びゃ」< 0>「びゅ」< 2>「びょ」< 0>
54「ぱ」<11>「ぴ」<15>「ぷ」< 2>「ぺ」< 3>「ぽ」<13>「ぴゃ」< 0>「ぴゅ」< 2>「ぴょ」< 8>
14「ま」< 1>「み」< 0> 「む」 < 2>「め」 < 2>「も」 < 8>「みゃ」< 1>「みゅ」< 0>「みょ」< 0>
9「や」< 4> 「ゆ」 < 4>「よ」< 1>
0「ら」< 0> 「り」 < 0> 「る」 < 0> 「れ」 < 0> 「ろ」 < 0> 「りゃ」< 0> 「りゅ」< 0> 「りょ」< 0>
12「わ」<12>
1「ん」< 1> 特殊な頭音 「ちぇ」「ふぁ」<各1>
例えば、「す」で始まる語、「すっ(と)」「すうっ(と)」「すっく(と)」「すらり(と)」「すぽん(と)」「すっかり」「すっぽり」「すいすい」「すべすべ」などから感じられる軽やかで滑らかでさわやかな様子など、「す」以外のさ行音の語と共通する点しない点、濁音ざ行との比較など音の持つ感じを味わわせる工夫が必要だろう。
オノマトペに依存する割合は低学年ほど高い傾向があるということからも、規則性を前面に出さず、音の持つ楽しさを優先して早いうちから与えていく工夫が要ると考えられる。おもしろいオノマトペには多音節のものが多い。これらは、2音節・3音節を語基とした単純反復や修正反復であることが多いので、反復することの効果やおもしろさを、繰り返さない場合と比較しながら味わわせるのも良い。2年次の『力太郎』に、力太郎の家来が一人二人とだんだん増えて一緒に歩いていく場面があるが、そこに用いられている下記の語などは、オノマトペの語形を変化させることによって様子の変化が分かりやすく表現されていて、楽しみながら想像し味わえる好例であろう。
・のっしじゃんが→ のっしじゃがんが→のっしじゃんがずしん→のっしじゃがんがずっしん
そこで、次には、音の反復・修正・清濁などに注目した場合、教科書に使用されていた語からどのように語彙を広げることができるかを例示してみた。括弧内の数字は使用されている学年を示す。
・ざあらざら(1)← ざらざら → ざらざらっ → ざらっ → ざらり → ざらりざら
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
さあらさら ← さらさら → さらさらっ → さらっ → さらり → さらりさらり
・ざくざく → ざくっ → ざっくざく(1)→ ざっくざっく → ざっくり → ざくり
↓ ↓ ↓ ↓
さくさく → さくっ → さっくさく → さっくり
・ふわりふわり(4)← ふわり ← ふわふわ → ふわふわっ → ふわっ → ふんわり → ふうわり
↓ ↓
ぷわぷわ → ぶわぶわっ
・がやがやがやがや(4)← がやがやがや ← がやがや → がやがやっ → がやがやがやっ
・きらきらっ(6)← きらっ ← きらきら → きらり → きらりきらり → きんきら
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
ぎらぎらっ ← ぎらっ ← ぎらぎら → ぎらり → ぎらりぎらり → ぎんぎら
また、3音節の語も大切だろう。型にはまるものが多い2音節や4音節のものと比べると、下に示すように、2音節の語基に1音加えたり、4音節のものから1音減らしたりすることによって変化が出、多音節語と同様、さらに生き生きとした表現になる。2音節語を3音節にする場合は「と」に続けるため「っ」「ん」「う」(長音)を加える例が多い。
例、・2音+1→すうっ(と)、ぴょうん(と)、つうん(と)、ぎらっ(と)、がらん(と)、
・4音−1→さっさ(と)、せっせ(と)、ふっふ(と)
オノマトペは、音と語形の変化によって様々な表現効果を持つ。語基を繰り返すことにより継続・複数のイメ−ジが生じ、強調もされる。清濁音を使い分けることにより軽重や滑らかさと抵抗感、快・不快のイメ−ジが生じる。促音により瞬間的なイメ−ジが生じ、強調もされる。撥音や長音によりおだやかさのイメ−ジや余韻が生じる。これらの特徴や言葉としての他の規則性をふまえた上で、音の楽しさと共に語の広がりを学習初期段階で指導できると良いと考える次第である。