子どもの権利条約 市民・NGO報告書を作る会(第2回報告書を作る会)

「日本政府第2回報告」に対する市民・NGO報告書
〈移民労働者及び中国帰国者の子どもに関する権利━
新しいマイノリティグループの登場〉領域

この報告書は2003年8月に第二回政府報告書に対する市民・NGO報告書として国連「子どもの権利委員会」に提出したものです。
  「第2回政府報告書」と、市民・NGO報告書を踏まえて出された国連「こどもの権利委員会 日本に対する総括所見(第2回)」を合わせて掲載します。


<<インターネット上参考資料>>

@国連子どもの権利委員会 日本に対する総括所見(第2回)

A日本政府第2回報告(外務省HP)

子どもの権利条約 市民・NGO報告書を作る会(第2回報告書を作る会)

「日本政府第2回報告」に対する市民・NGO報告書
〈移民労働者及び中国帰国者の子どもに関する権利━
新しいマイノリティグループの登場〉領域

 

斎藤里美 (東洋大学教授)
横山文夫 (日本語フォーラム全国ネット事務局長) 
関本保孝 (東京都世田谷区立新星中学校教諭)

はじめに−総合的な施策と制定法の包括的な見直しを−

日本は、戦後、アジア諸国や世界から、侵略戦争と植民地支配への反省と戦後処理が不十分だと多くの批判を受けてきた。「中国帰国者問題」はその典型例の一つである。
 第二次世界大戦まで日本が植民地としていた中国東北部等は日本の敗戦で全て解放され、戦後、多くの日本人が帰国した。しかし、数千人にのぼる子どもたちが中国から日本に帰国できず、「残留孤児」として中国人によって育てられた。1972年の中華人民共和国との国交正常化後、ようやく残留孤児等が家族とともに日本へ帰国できるようになったが、それまで、日本政府による「帰国」実現の努力はほとんど行われなかった。そのため、戦後数十年を隔てての帰国となり、当然この「帰国日本人」の多くは日本語や日本の習慣が全くわからなかったが、その受け入れ体勢が十分整備されず大きな問題となってきた。これが、「中国帰国者問題」であり、そのような日本人と家族を「中国帰国者」とよんでいる。1972年度から2002年度までの国費により永住帰国した「中国帰国者」の数は19,898名である。しかし、私費による「中国帰国者」はその数倍はいると言われる。(最近少し改善されたが、長い間、国費帰国は残留日本人とその配偶者、未成年の子どもなどに限定されていた。)
 この中には、当然学齢期の子どももおり、学校での受け入れ体勢の不備の問題も大きな問題として指摘されてきた。(この10年間に限って小学校・中学校・高校に在籍した「中国等帰国児童生徒数」をみると、以下の通りである。1990年576人、91年434人、92年558人、93年392人、94年355人、95年430人、96年421人、97年393人、98年277人、99年181人となっている。〈文部省「学校基本調査」〉)

 また、難民受入についても、難民認定数がきわめて少なく(資料1)、諸外国から、その閉鎖的な対外政策を批判されてきた。

 さらに、1980年代の労働力不足から、中南米等に住む日系人を単純労働者として受け入れようと、1990年に出入国管理法が改正され、この間、外国人居住者が大幅に増加してきた(資料2)。

(韓国籍・朝鮮籍などの特別永住者=「戦前来日した旧植民地出身者と家族」は、ほぼ50万人代を推移しており、新渡日外国人が、特に1990年代以降、大幅に増加したことがわかる。)

 しかし、外国人政策が人口政策、経済政策の観点からのみ捉えられていて、国際人権規約に定められた内外人平等原則を実現するための人権政策の視点から位置づけられておらず、外国籍住民の言語保障、教育保障、医療保障など、国としての包括的な政策がない。
 外国籍の子どもについても、その困難に関する全般的実態調査も実施されず、外国籍の子どもの教育の権利実現のための国・自治体の義務を明記した法律も整備されていない。そのため、外国籍の子どもの教育に関する権利を保障するための包括的な政策がなく、外国籍の子どもの増加にともなって、問題は深刻になってきている。

A、国連「子どもの権利に関する委員会の最終見解:日本」の「c主な懸念事項13」(1998年6月)での指摘は改善されたか。

 「子どもの権利に関する委員会の最終見解:日本」の「c、主な懸念事項13」では、以下の内容が指摘された。
 「委員会は、差別の禁止(第2条)、児童の最善の利益(第3条)及び児童の意見の尊重(第12条)の一般原則が、とりわけアイヌの人々及び韓国・朝鮮人のような国民的、種族的少数者に属する児童、障害児、施設内の又は自由を奪われた児童及び嫡出でない子のように、特に弱者の範疇に属する児童の関連において、児童に関する立法政策及びプログラムに十分取り入れられていないことを懸念する。
委員会は、韓国・朝鮮出身の児童の高等教育施設への不平等なアクセス、及び、児童一般が社会の全ての部分、特に学校制度において、参加する権利(第12条)を行使する際に経験する困難について特に懸念する。」
 前者は、マイノリティの子どもに関する立法政策及びプログラム作成の問題についての懸念であり、後者は、学校制度への参加する権利に関する懸念である。
それでは、この二つの問題について、「第2回政府報告」(2001年11月)では、どのように述べているか。以下が報告内容である。
 「(外国人児童生徒等への教育)255、我が国の場合、学校教育に規定する『学校』で学ぶ外国人児童生徒は、基本的に日本人子弟と同様の教育が施されている。その際、外国人児童生徒の我が国への実際の受入に当たっては、それぞれの出身国の言語や習慣などを踏まえ、学校に適応できるよう各学校で外国人児童生徒の能力・適正に合わせて、外国人児童生徒一般の学級から個別に取り出して指導を行ったり、一般の学校では複数の教員が協力してティームティーチングで指導を行う等の工夫がされているところである。また、政府としても、日本語指導教材や指導資料の作成・配布、外国人児童生徒を担当する教員の研修、外国人児童生徒の母語ができる者を学校へ協力者として派遣する事業及び外国人児童生徒を受け入れている学校への教員の加配を行っているほか、外国人児童生徒の受入のあり方等について調査研究するため、推進地域の指定を行っている。このほか、課外において、外国人児童生徒に対して、当該国の言葉や文化を学習する機会を提供することは差し支えないこととされており、実際にもいくつかの自治体において、そのような学習機会が提供されている。」
 以上の内容は、第一回政府報告とほぼ同様の内容であり、依然として「学校制度への参加する権利」については、述べられていない。また、マイノリティの子どもに関する立法政策及びプログラム作成の問題についても、問題点を充分反映する表現になっていない。
 以上の2点について、以下、現状と課題を述べる。

B、公教育に平等にアクセスする権利を保障しているか

1、外国人学校卒業生に進学の受験資格を認めない問題(30条違反)
 この問題については、 国連「子どもの権利に関する委員会の最終見解:日本」 「c、主な懸念事項13」 の中で「韓国・朝鮮出身の児童の高等教育施設への不平等なアクセス
〜中略〜について特に懸念する。」と、非常にはっきりとした表現で懸念を表明した。
 しかし、この間、文部科学省による根本的改善のためのリーダーシップは見られなかった。以下の資料は、「民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会」が2000年に日本の全ての大学618校を対象に行った受験資格の認定状況の調査結果である。

 上記資料から明らかなように、公立大学・私立大学の約半数が受験資格を認めているのに対し(本来これでも不十分である)、国立大学(学部)は一切門戸を開放していない。
 この間、文部科学省は、多くの批判を受け、一定の「改善策」なるものを打ち出した。しかし、それは、欧米系のインターナショナルスクールには受験資格を認めるが、民族学校(朝鮮学校、韓国学園、中華学校)には、それを認めないと言うもので、関係者のさらなる批判を浴び、引っ込めざるをえない状況に追い込まれた。
 また、外国人学校出身者には、学校教育法上、「学歴」が認められず、各種国家試験受験・資格取得や就職で大きな差別を受けている。
さらに、外国人学校への行政による助成金は、まったくないか、日本の私立学校の数分の一程度しかなく、ここに通う児童生徒の保護者の経済的負担はきわめて大きい。
以上の問題については、2001年3月の国連・人種差別撤廃委員会における「最終所見:日本」の勧告、及び1998年2月20日の日本弁護士連合会の勧告の中でも、改善を強く求めており、重大な人権侵害と言わなければならない。
 一刻も早い改善を求めたい。

2、外国籍の子どもの外国人登録が未登録の状態にあり、そのために多くの権利を享受できなくなっている
未登録外国人を保護者にもつ子どもの場合、日本で出生しても、出生届が提出されず、登録されていない場合が多い。また、未登録外国人の保護者がなんらかのルートで子どもを呼び寄せ、そのまま子どもも未登録になってしまうケースもある。さらには、家族全員が超過滞在となり未登録になることも多い。これらの未登録外国人の場合、あらゆる行政的サービス、とくに子どもの福祉、教育にかかわる権利保障の対象から除外されている。たとえば、就学の権利だけでなく、予防接種、健康診断など基本的な子どもの福祉にかかわる権利が保障されない状況にある。これらは、明らかに条約違反である。(第7条1に関連)
 すべての子どもの権利を保障するためには、外国籍をもつ保護者が在留資格を持っているか否かに関わらず、子どもの外国人登録がすべての自治体において受理されるよう、国が指導する必要がある。そのためには、子どもの保護者として、親権者だけでなく、NGOまたは児童福祉委員や市町村区長等が保護者となって外国人登録を行い、保護者となった者にはその子どもの親について秘密を守る権利を認めることが必要である。それによって外国籍の子どもの親が滞在資格のないことを理由に子どもの外国人登録を行わないという現状を解決することができる。
 3、外国籍の子どもには不就学・未就学が多く、不登校も多いにもかかわらず、放置されたままとなっており、基礎教育の保障および定期的な登校の奨励が政府によってなされていない。また、その実態が把握されておらず、必要な政策が樹立されていない。

(1)教育の機会に関する情報の提供と周知の不十分さ
 外国籍の子どもの不就学、未就学、不登校が多い。この原因は、外国籍の子どもとその保護者に対する教育の機会に関する情報の提供と周知が適切に行なわれていないことにもある。外国籍の子どもを持つすべての保護者に対して「就学案内」が送付されているとはいえない状況がある。自治体によっては、外国人登録をしているにもかかわらず、就学年齢に達した子どもの保護者に「就学案内」を送付していないところがある。また、国はすべての自治体が就学案内を送付しているかどうかについて十分に把握しているとはいえない。送付されても、「就学案内」が保護者の母語で書かれていないため、理解できない保護者が多い。就学案内の送付先の宛名と保護者宅の表札の表記が異なるために配達されないこともある。外国籍の保護者の中には、日本の学校制度や始業時期などがわからないため、最初から就学をあきらめてしまったりするケースもある。
 子どもの就学にかかわる情報を外国籍の住民が正しく理解するためには、個別に案内や通知を送付するだけでなく、母語による情報提供が不可欠である。また、子どもの外国人登録の際、その場で教育に関する情報を提供することが大変有効だと考えられるが、外国人登録のセクションと教育委員会との連携はほとんど見られず、そのため、「学校への参加」が遅れるケースも少なからず見受けられる。
 さらに、不就学、未就学が明らかになった場合には、保護者の理解できる言語による就学指導、就学援助を行うよう、国が自治体に対して指導・助言する必要がある。子どもの就学にかかわる役所、教育委員会、学校、郵便局などに情報を周知徹底する必要がある。

(2)不就学・未就学・不登校の実態把握に基づく政策の欠落
 南米日系人が多い静岡県浜松市などの市・町は、外国人市民の施策などについて情報交換をしたり問題の解決などのため、2001年5月に「外国人集住都市会議」を設立した(現在14の市・町が参加)。これらの都市にとって、不就学の問題は大きな問題であり、2002年にこの問題を調査し結果を発表した。
 以下、データが明確な11の市・町のデータを示すが、この数字(全体の27、1%が不就学)からも、問題が大変深刻であることがわかる。

 今までも、外国籍の子どもの不就学、未就学、不登校が多いことが指摘されてきた。しかし、その実態(実数)は、学校、自治体、国のいずれもが把握していなかった。今回の調査によって不就学率が27.1%にものぼることが明らかになったことは、問題の深刻さを物語っている。(子どもの権利条約第28条1(a)(b)(e)に関連)
 外国人登録をしているか否かにかかわらず、外国籍をもつ子どもすべてを対象にした実態調査を国の責任で行う必要がある。子どもの国籍、母語および家庭での使用言語、就学状況(未就学、不就学、不登校)、日本語教育の必要性の有無などを把握し、それに基づいて施策を立案する必要がある。  
4、外国人の子どもの抱える困難を受け入れに当たって国・地方自治体が考慮していないために、公教育への平等なアクセスが実現されていない

 外国籍の子どもは、それぞれ固有の困難を抱えており、その固有の困難を解決できるにふさわしい教育を受けてはじめて、公教育に対する平等なアクセスを保障されるはずである。しかし、国および地方自治体は、現行の法律を形式的に適用し、外国籍の子どもの特別のニーズを無視している。外国籍の子どもの公教育への平等なアクセスを実質的には否定するような次のような具体的な問題が生じている。

(1)義務教育年齢の形式的な適用
 外国籍の子どもが中学校に入学を希望した場合、9年間の義務教育を修了していないにもかかわらず、年齢によっては中学校への入学を拒否される場合がある。これは、出身国・地域の事情により、小学校入学が6歳を超えていたり、学期開始が日本の学期と異なっていたりするために、来日時にすでに日本の義務教育修了相当の年齢になっている場合があるからである。
 このような場合に、各自治体もしくは教育委員会がその児童・生徒を受け入れる義務はないとして、入学を拒否する事例が多発している。
2002年12月13日、東京都夜間中学校研究会は、最近7年間で、学齢超過を理由に東京都内に住む34名の帰国者・外国人の子どもが昼の中学校への入学を拒否され、やむを得ず夜間中学校に入学したと発表した。

(経過・A=学齢超過(又はもうすぐ学齢超過になる)という理由で区市教育委員会に断られたケース、B=学齢超過という理由で区教育委員会及び昼の中学校に断られたケース、C=学齢超過等のため昼の中学校から入学を断られたケース 

この問題については、全国紙でも大きく取り上げられた。
〈資料6、毎日新聞1999年1月27日付夕刊〉
 「教育鎖国日本?学齢超過した外国人お断り・受け入れ態勢なく夜間(中学校)へ・『友だち欲しい』訴え切々」というタイトルで取り上げ、以下のように報じている。
 「義務教育の学齢の15歳を超えた外国人の子供が、昼間の公立中学校への入学を拒否され、やむなく(中学校)夜間学級に通うケースが東京都内で相次いでいる。学齢超過の子供の入学の是非は区市町村教委の判断にゆだねられているが、『受け入れ態勢にない』と断るケースが多いためだ。しゃくし定規な判断で意欲のある子供を締め出していることに、現場からも批判が出ている。〜以下省略〜」

 上記、資料5と資料6は、東京都内のケースである。しかし、以下昼間の中学校での外国人・中国帰国者の受入れ状況の全国調査の結果を見ると、東京都内のケースが例外ではないことがわかる。

  以上より、以下のことが言える。@47県中、「年齢制限なし」は10県しかない、A東京都はここでは「各区市教育委員会の判断による」と回答しているが、実際には「東京都夜間中学校研究会が把握しているだけでも、7年間に東京都内に住む外国人・中国帰国者の子どもの内、34名が年齢超過のため昼の中学校への入学を拒否された」という現実がある。このことから推測すると、「市町村教育委員会の判断による」「非公開」等と回答した多くの県で外国人・中国帰国者の学齢超過の子どもが入学制限を受けていると考えられる。

 以上より、出身国で9年間の義務教育を修了していない場合には、たとえ義務教育修了相当の年齢に達していても、日本の中学校で受け入れるよう文部科学省が充分リーダーシップを発揮し、指導しなければならない現状があることは、明白である。

(2)公立諸学校への機械的な編入と進級
 日本の公立諸学校への編入学年については、大きな矛盾がある。日本語の能力や学力などの関係で年齢より下の学年に編入すると、その後、日本語の能力や学力が向上し年齢相当の学年に変更しようとしても大変難しい。
 一旦編入学年を年齢より下げたために、その後ずっと一学年ずつ進級し、結局18歳で中学校を修了せざるをえなかったという例もある。
 総務庁は1996年12月3日に「国際化に対応した外国人子女及び帰国子女の教育の充実」について文部省に勧告を出した。この中の「1、国際化に対応した外国人子女教育の充実(1)日本語教育が必要な外国人子女の円滑な受入の促進」で以下のように勧告している。「文部省は、小中学校段階における日本語教育が必要な外国人子女の円滑な受入を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。@〜省略〜、A外国籍児童生徒の編入学年については、学校長の判断により、年齢相当の学年に原籍を置きつつ日本語の理解の能力に応じた臨時的な下学年への編入及びその後の日本語の理解能力の進行状況などを踏まえた原籍の学年への復帰等が行えることとする取り扱い方針を明確にし、市教委において弾力的な対応が行われるよう、県教委及び市教委に対し周知徹底すること」
 文部科学省は、上記の方針を採用し周知徹底するとともに県教育委員会や市町村教育委員会が弾力的に対応できるよう、現に学習している教科書を配布するなど充分配慮すべきである。

(3)高校への入学受け入れに当たって日本国籍を持つ子どもと同じ選抜試験を求めている。
 高校入学のための選抜試験において、外国籍および帰国者の子どもたちの特別入学枠や入試特別措置を設けている県が少ないため、こうした子どもたちにとって、高校入試のハードルがことさら高く、入学は大変困難な状況にある。そのため、外国籍の子どもたちの高校進学率は非常に低い。
(資料8)(資料9)(資料10)
 外国人特別入学枠や中国帰国者特別枠の設置や入学試験における試験時間の延長や試験問題へのふりがな措置等、外国籍の子どもたちの後期中等教育への参加を促進するための条件整備が必要である。また高等学校での日本語教育や母語教育の実施、奨学金や就学援助の実施などの施策も不可欠である。

(4)最低、都道府県に1校以上の夜間中学校を開設するため、文部科学省はリーダーシップの発揮を  すべきである。 
 現在、全国には義務教育(9年)を修了できなかった15歳以上の日本人は百数十万人はいると言われている(1985年の中曽根首相の国会答弁でも約70万人の義務教育未修了者がいるとしている)。また、在日外国人の中にも多数の義務教育未修了者がいると言われる。
 全国夜間中学校研究会の調査によると、2002年9月現在、全国の夜間中学校には、3031名の生徒が在籍し学習している(15歳から19歳までの生徒は167名)。3031名の内、日本国籍生徒671名、外国籍生徒(42の国籍・地域)2360名が在籍している。外国籍生徒は中国帰国者、難民、中南米日系移民二三世、結婚や仕事で来日した外国人の家族などである。また、この中には、日本語教育や母語保障などの教育条件が未整備のため、日本の小中学校を不就学・不登校になり15歳を過ぎた者、来日時に15歳を過ぎていたため義務教育(9年間)を修了していなかったにもかかわらず中学校への入学を拒否された者(「(1)義務教育年齢の形式的な適用」ですでに詳しく述べた。)などもいる。十代の者にとって、高校や専門学校への進学、国家試験受験のため、その前提条件となる中学校卒業資格を得ることは、特に重要である。
 しかし、上記のような夜間中学校も47都道府県の内、8都府県に35校しかなく39道県に住む義務教育未修了者は、事実上基礎教育から阻害されている。
 このような状況の中、中国帰国者定着促進センターの平城真規子氏は、中国帰国者二三世の子どもたちに関し調査研究を行い、その結果を発表した。(資料11)

〈資料11、「(中国帰国者)義務教育未修了2世・3世の学習権と学歴資格の保障に向けての課題」1997年5月3日、中国帰国者定着促進センター教務課主任 平城真規子〉
この調査研究論文の要旨は以下の通りである。
 「国費帰国した中国帰国者は中国帰国者定着促進センターで、4ヶ月間日本語などを学習した後、全国各地に定着する。その内、1991年6月から1996年6月まで在籍した16歳から21歳までの者に焦点をあて調査研究を行ったところ、325名中、58名18%が中国で小中学校未修了であった。各地に定着後20名のみ中学校に進学したが、38名は未進学だった。生活からの必要性や将来の希望を実現するため夜間中学校への入学を希望しても、多くの場合近くに夜間中学校がなく実現できない。彼らの学習権保障のため充分条件整備すべきである。」と、彼らの学習権保障を強く訴えている。
 このようなことも念頭に、2003年2月20日に義務教育未修了者や関係者等278名が、47都道府県全てに最低1校以上の夜間中学校を開設する等の点で文部科学省がリーダーシップを発揮することを求め、日本弁護士連合会に人権救済申立を行った。 
 文部科学省は、今まで、夜間中学校の開設は設置者である区市町村教育委員会の問題であると繰り返し、夜間中学校関係者が数十年にわたって求めてきた文部科学省のリーダーシップによる夜間中学校の増設には耳を傾けて来なかった。このような中、全国十数カ所でボランティアによる自主夜間中学校が開かれ公民館などを借りた義務教育未修了者のための勉強会が開かれている。しかし、回数は週1〜2回と少なく、ここで学習しても中学校卒業の資格が得られないため根本的な解決策にはならない。そのため、自主夜間中学関係者自身、行政による公立夜間中学校開設を強く求め長年運動を行ってきた。
 人権救済申立が出された今、文部科学省は義務教育未修了者、自主夜間中学関係者、公立夜間中学校関係者などの訴えに耳を傾け、日本人も外国人も十代後半の子どもたちを含む多くの人たちの学習権保障のため、「47都道府県全てに1校以上の夜間中学校開設」等に向け、充分なリーダーシップを発揮すべきである。

C、マイノリティの子どもに関する立法政策及びプログラム作成は適切になされているか
1、外国籍を持つ子どもの教育上のニーズに関する実態調査およびそれを満たすために必要とされる特別の措置に関する研究が国によって十分に行われておらず、その結果、学習指導要領における外国籍児童・生徒の指導に関する記述がまったく不足していること。
 2002年度から施行された学習指導要領では、「総則」に「海外から帰国した児童などについては、学校生活への適応を図るとともに、外国における生活経験を生かすなど適切な指導を行うこと」とあり、また「学習指導要領解説」においても外国籍の子どもたちの指導に関する記述が「教育課程実施上の配慮事項」として取り上げられていることは最近の成果である。しかし、目標や教育課程(カリキュラム)、教材についての記述がないため、自治体、学校、教師によって学習目標や教材、指導法等に格差がある。また、学習指導要領に外国籍児童・生徒の教育目標に関する記述がないため、学校が行うべき指導の一部であると認識されない場合もある。(29条および30条に違反)
国による研究を開始し、その成果として、学習指導要領に外国籍の子どもたちの指導に関する項目をおき、目標、教材、指導法等について記述する。

2、 不十分な調査によっても日本語教育を受けられない児童生徒が多数いることが わかる。さらに、ニーズを十分明らかにするための科学的な調査を行うべきである。

 この間、文部科学省によって、「日本語指導が必要な外国人児童生徒」に関する調査が行われてきた。以下は、その調査の一部を整理した資料である。

 「日本語教育が必要な外国人児童生徒」と規準が不明確な調査ではあるが、それでも、日本語がわからず指導が必要な児童生徒が、多数いることがわかる。その内、非常に少なく見積もっても、毎年3,000人前後の児童生徒が日本語教育を受けられず、放置状態になっている。
 しかも、日本語指導者もしくは保護者が必要と認めても、日本語教育が必要であるかどうかの最終的判断は、担任の教師もしくは教頭等によって行われることが多い。つまり上記の数字は、「日本語指導を必要とする子ども」と学校が判断した場合に限られており、実際にはさらに多いことが予想される。
また、学習言語が不十分であっても、生活言語に不自由がないために「日本語教育は必要がない」と見なされる子どもも多い。そうした子どもは、学習言語が不十分なまま日本語指導を打ち切られ、学力不振から不適応に至る場合も多い。
結局「日本語教育を必要とする」ということの規準が明確でないため、保護者や子どもが希望しても、あるいは学習言語が不足していても、統計上は数字に表れないため、現実には日本語教育が受けられない子どもが相当数いることが推定される。
今後外国籍の子どもに関しては全数調査を行い、日本語学習に関するニーズ調査を行うのが適当である。その際、子どもや保護者の希望という視点と日本語能力が十分かどうかという視点との両方からの調査が望ましい。

3、 日本語教育実施のために必要とされるさまざまな条件が整備されていない。
 外国籍の子どものための日本語教育を学校教育において実施していくためには、今後、多くの条件整備が必要とされている。少なくとも、以下の施策が講ぜられる必要がある。
(1)「学校教育におけるJSLカリキュラム開発 」(日本語教育カリキュラム)の実効性を高めるための支  援策
現在、文部科学省が専門家を集めて「学校教育におけるJSLカリキュラム開発 」を進めていることについては、一つの前進面として評価したい。
しかし、学校現場においては、外国籍の子どものレディネス、ニーズは多種多様であるから、その実効性を高めるための教育支援が不可欠である。たとえば、教材および教授法の開発、教員に対する研修機会の提供等が考えられるが、現状は大変不足している。
(2)日本語指導担当教員の専門性の確立
日本語指導を担当する教員は、日本語教育に関する専門教育を受けていない者が圧倒的多数である。教員の加配というかたちで、一般の教員がなんの研修もないまま突然配置されることが多い。カリキュラムや教材が充実すればするほど、教員の専門性が要求される。したがって、日本語教育にあたる教員にはある程度専門性を与え、異動や配置の際に考慮すべきである。
(3)日本語学級の設置と日本語教員の配置
東京都では独自に予算措置を行い、日本語教育を必要とする児童・生徒が10名以上になった場合に日本語学級を設置(1学級2名の教員配置)することとしているが、このような例は稀である。
一方、国としては、外国籍児童および日本語指導を必要とする児童・生徒が一定数(5〜10名)以上の場合は、教員を1名特別に配置するよう指導し、そのための予算措置を行っている。しかし児童・生徒が一定数に満たない場合は、教員の加配は行われない。そのような場合は、市などによって日本語指導員が派遣される場合もあるが、日本語学習の総時間数は、概して少ない。また、日本語指導員がまったく派遣されないため、日本語教育がなされず、児童生徒、保護者、担任教師などが大変な困難をかかえている場合もある。
しかし本来は、国が規準を設け、日本語を必要とする児童生徒数に応じた日本語学級を設置し、十分な教員配置をすることが望ましい。また、日本語教育が必要な児童・生徒が1〜2名という学校が多いことを考慮すると、たとえ一定数に満たない場合でも非常勤講師の配置を行うなど、地域の条件にかかわりなく日本語教育が受けられるよう、国が予算措置を講じるべきである。また外国籍児童・生徒の増加に伴って、日本語指導担当教員を増やすことも必要である。
以上のことと関連し、総務庁は調査結果にもとづき、1996年12月に文部省に以下の勧告を出し、改善を求めているが(資料13)、現在でも大きな改善はみられない。

〈資料13、「国際化に対応した外国人子女及び帰国子女の教育の充実」についての総務庁から文部省への勧告 1996年12月3日〉
「(外国人子女の)受入小中学校における教育指導の充実
文部省は、日本語教育が必要な外国人児童生徒を受け入れている小中学校における教育指導体制の整備を推進する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
@日本語教育が必要な外国人児童生徒の効果的な受入れ、教育を推進するため、外国人児童生徒の在籍状況などの実態を踏まえ、例えば、@)外国人児童生徒が比較的多い地域においては、それらを受け入れるセンター校の設置や、同センター校及び外国人子女教育研究協力校におけるJSL(第二言語としての日本語教育)教室の開設、 A)外国人生徒が分散している地域においては、非常勤講師の活用等日本語教育が必  要な外国人児童生徒の教育指導体制の充実方策について検討すること。
A〜省略〜 」

(4)「外国語としての日本語」科目の設置
日本語を母語としない子どもたちにとって日本語は第二言語であって第一言語としての「国語」とはいえない。したがって、カリキュラムも、目標も、教材も異なる。アメリカ等では、こうした外国語としてその国の言語を学ぶ場合の科目名称として「ESL」(English as a Second Language)などがある。
そこで、日本でもこうした科目(JSL)をあらたに設置し、その目標・内容・方法を学習指導要領に明示する必要がある。現在文部科学省が検討中の「学校教育におけるJSLカリキュラム開発 」を活用し、実践例等を広く紹介していくことも望まれる。

(5)教員免許法の改正と「日本語科」教員免許の開設
と同時に、教員の専門性を確立するためにも、教員免許法の中に「日本語科」の免許設置にかかわる事項を加える必要がある。

4、 母語学習の機会が提供されていない
一方、定住が進むにつれて、日本語を習得し、母語を忘れてしまう子どもたちと日本語習得が進まない保護者との間でのコミュニケーションギャップはひろがりつつある。家族崩壊の危機に直面する場合も少なくない。
こうした問題を避けるため、浜松市等では、外国籍の子どもを対象とした民間の学習支援教室で母語学習の支援を行うという例もみられるようになってきた。しかし、これらの事例は、まだごく少数である。
学習権としての母語保障という観点からも、外国籍住民に母語学習の機会を提供することを国が積極的に推進し、法的、制度的、財政的援助を行うべきである。
具体的には、学習指導要領への記載、予算措置、専門家の派遣などが考えられる。

5、諸学校における多文化教育の遅れ
外国籍の子どもが在籍する学校では、多文化化、多国籍化が急速に進んだため、こうした子どもたちに対するいじめや差別が多発する状況にある。
異文化コミュニケーションマガジン『ひらがなタイムズ』は1997年11月号で「外国人の子供がいじめられる時」というタイトルで9ページにわたる特集記事を掲載した。
この中では、小学校の時、顔を殴られたり、社会科の時間に「ここがおまえの国だろう。汚ねえなあ」と言われたフィピン人の例、小学校の時、「韓国人は悪いんだ」と言われたり、名前をもじってからかわれたりして登校拒否になった韓国人の例、「明日学校に来たら殺す」とポケベルにメッセージを送り続けられたカンボジア人高校生の例など、大変深刻な例が紹介されている。
外国籍の子どもへのいじめについては、関係各方面から数多く報告されており、普遍的な様相さえ見せている。
外国籍の子どもへのいじめをなくすためにも、また、地域の保護者や子どもの異文化理解を促し、文化の異なる住民同士、子ども同士が共生していくためにも、すべての子ども、保護者への多文化教育が推進される必要がある。国には、多文化教育を推進し、地域の活動を支援するための施策を立案することが望まれる。
6、外国籍の子ども、保護者を支援するたに、相談窓口の開設の必要性
未就学、不就学、不登校、いじめ、進学問題など、外国籍の子どもや親は、多くの教育問題を抱えている。また、それらの多くは母語による対応を必要とする場合も多い。しかし、担任の教師がすべてそれらに対応することは不可能である。
そこで、各自治体に母語による相談窓口やホットライン(電話)を開設することが緊急に望まれる。また、必要に応じて、外国籍の子どもを抱える家庭や学校への訪問指導員(カウンセラーやケースワーカーなど)の配置も望まれている。

7、外国籍の子どもの受け入れにあたる学校・教員への支援の必要性
日本語を母語としない子どもたちを受け入れる学校への支援は、この問題を解決していく上で、非常に重要な位置をしめている。教員の加配、日本語指導にあたる教員・講師の派遣、日本語教育に関する研修機会の充実、教員の外国語研修の充実など、教員の配置や研修から教材や情報の提供まで、学校・教員への支援なくして、子どもの教育の充実はありえない。
具体的には、専門家や教材などが配置されたリソースセンターの設置が緊急にのぞまれる。そこには、教材や各種の情報がライブラリー化されており、だれもが自由に利用できたり、HPからダウンロードできたりすることが望ましい。
また、地域のボランティア団体や大学が学校や教員を支援できるよう、そうした実践例を広く紹介し、奨励することも望まれる。

以上述べてきたことは、いずれも未解決の問題であり、2001年に出された外国人集住都市会議の「浜松宣言及び提言」(資料14)でも包括的に提言されている。最後にそれを紹介し終わりとしたい。

〈資料14、「浜松宣言及び提言」 2001年10月19日、外国人集住都市会議〉
「〜省略〜
  【国・県・関係機関等への提言事項】
1、公立小中学校における日本語等の指導体制の充実について
    (1)日本語学級や巡回指導による言葉の指導とともに、文化の理解などきめ細かな教育ができる指導体制の充実を図るため、指導要領マニュアルの作成、加配教員の増加や通訳配置に係わる経費助成を検討すべきである。
(2)日本語や教科の習熟度レベルに合わせた柔軟な学年編入を検討すべきである。 
(3)高校進学や就職時の選択肢の拡大など将来につながる進路保障の確立について検討すべきである。
(4)家庭と学校とのコミュニケーションサポーターとして、母国語で対応できる専門カウンセラー等の行政への配置について検討すべきである。
2、就学支援の充実について
 (1)不就学や不登校、また学校の授業についていけない子供達のための学校(教室)の設立運営の補助について検討すべきである。
 (2)外国人学校との連携強化を図るとともに公共的使命に鑑み学校法人化の特例について検討すべきである。
(3)不就学の子供達の日本語習得の支援や、生活をサポートし生活習慣や社会ルールについての対応指導の充実について検討すべきである。
3、その他
 (1)外国人の子供達が安心して生活できる居場所の確保は学校に頼りすぎることなく、地域で子供達を受け入れていく観点から関連施設の充実につい
   て検討すべきである。
(2)子供達のみならず成人の外国人住民を含め、教育を取り巻く様々な環境整
   備に向けて、国・県・受入企業等からの財政支援や人的支援の強化などのネットワーク化について検討すべきである。
         〜以下省略〜  」