中間報告:「評価」再考
−中国帰国者コミュニケーション力水準の設定・判定テストの開発について−

小川 珠子
佐藤 恵美子
安場 淳

 教育評価の目的とシステムの再考、および新たな評価方法の開発は、当センター(以下「センター」)近年の大きな課題の1つだった。これまで行ってきた、センター入所者を対象とした評価を、センター後の中国帰国者(以下、帰国者)、あるいはセンター等の予備的集中教育機関を経ることなく日本社会に入った帰国者まで広げること、こうした対象者を中長期的学習支援の視点から評価していくための基準となる「帰国者《能力水準》」を設定すること、それを、帰国者本人・センター・受け入れ社会(帰国者が定着した地域社会の支援者等)の三者が、ともに、現在の力の把握や次の目標設定、そして学習成果を評価するためのツールとして利用可能なものにすること、特に、「生活者のための日本語教育」の要となる「コミュニケーション力」について、わかりやすい評価基準となる「水準」表を作成するとともに、その水準判定を行うための簡便なテストを開発することが、2007年から始まったセンターのプロジェクトの主な課題である。本稿では、このプロジェクトの概要について、そして、このプロジェクトの中心となる「中国帰国者〈コミュニケーション力〉水準」の設定とその判定テストの開発について中間報告する。
 なお、本プロジェクトは、小中学校および高校への編入学を目指す子供を除いた〈大人・青年コース〉における「評価」を扱っている。

1. 「評価」再考プロジェクトについて
1-1.これまでの評価システム
1-2.「修了評価」および全体的評価システムの問題点
1-3.「評価」再考プロジェクトの全体計画/それぞれのねらい
2. 中国帰国者「コミュニケーション力」水準の設定
2-1.コミュニケーション力とは
2-2.「コミュニケーション力」水準設定の考え方・設定の観点
2-3.「コミュニケーション力」水準の設定
3. 「コミュニケーション力」水準判定テストの開発
3-1.トピックの選定
3-2.テスト方法の検討
3-3.テストの実際と判定方法
4. これからの課題



1.「評価」再考プロジェクトについて

1-1.これまでの評価システム

 当センターでは、教育評価は大きく4つの段階で行われている。
〈研修開始前〉
プレイスメントテスト:教授者が学習者タイプや日本語のレディネスを把握し、各タイプに適したカリキュラムを特定するための学習適性テスト、日本語既習度テスト等。
〈研修開始時〉
プレテスト:教授者(以下「クラス担任」)が、センターでの研修の目的と目標を学習者に印象づけ、動機付けを強化するとともに、修了時に、ほぼ同様のテスト(ポストテスト)を行うことで、学習者自身に6カ月の伸びを自己評価させ、学習成果を実感してもらうためのもの。日本事情テスト、日本語面接テスト 1
〈研修中間時〉
中間テスト:クラス担任が、学習到達度についての形成的評価を行うための各種テスト
学習相談:クラス担任による評価と学習者による自己評価の情報交換および研修後半に向けての目標設定と助言
〈研修修了時〉
修了テスト:クラス担任が、目標達成度/学習到達度(以下、学習到達度)を最終評価するための各種テスト(研修開始時のもののポストテストを含む)
修了アンケート:学習者が、学習到達度を自己評価する部分と、コースやプログラムの適否を評価する(学習者による授業評価/学校評価)部分からなる
学習相談:クラス担任による最終評価と学習者による自己評価の情報交換(学習者の自己効力感強化を第一の目標に)、および研修後に向けての目標設定と助言
修了評価:クラス担任が、修了テスト等から、研修の成果を総括的に評価した「修了評価票」(いわゆる成績表に当たるもの)を作成する。これはセンター修了後の定着地の支援者に引き継ぐためのもの

1-2.「修了評価」および全体的評価システムの問題点

 これらのうち、センターの最終評価である「修了評価」は、これまでは、次のようなやり方で行われていた。
 学習者のタイプは様々である(中国での就学歴1つとっても就学経験のない非識字者から大学院卒業者まで等々)。各クラスは、基本的には、この学習者タイプごとに編成され、それぞれのタイプ 別目標構造表2 に基づくカリキュラムに則って運営されている。従って、目標もシラバスもクラスにより大きく異なるため、評価はクラスごとに担任が行う。具体的には、中間テストおよび修了テスト、教室での日頃の学習活動や実習の様子をもとに学習到達度を判断し、総括的評価として「修了評価」を行い「修了評価票」作成する。評価票の内容は大きく、「身近な生活行動場面の基礎知識・基礎技能」・「将来の生活に有用な基礎知識・基礎技能(日本事情についての知識等)」・「基礎的コミュニケーション力」の項目に分かれ、各項目について、日本社会に出たときに彼らがどれだけの困難を抱えているかという観点からのいわば“困難度”を判定するもので、その結果を、1から5までの目盛り上に、0.25単位で位置づけるというものであった。(「5:問題なくできる」から「1:非常に困難である」まで) (資料1)  
 このような形式をとっていたのは、以下のような理由による。上述したように、各クラスはタイプごとにカリキュラムが大きく異なるため、クラス内での相対評価は外部では意味を持たない。従って何らかのクラスを超えた絶対評価が必要となる。また、絶対評価ではあっても、一般的な日本語教育シラバスのどの程度が身についているかという視点よりも、学習者を受け入れる定着地の支援者(自治体の担当者や自立指導員、身元引受人といった日本語教育を専門とするわけではない人々が含まれる)にとっては、非常に抽象的ではあるが、“一般の日本人”から見てどれだけ隔たりがあるのか/困難があるのか、という視点の方がイメージしやすいのではないかと考えたことによっている。
 しかし、この「修了評価」が、センター外部の支援者にとってどれだけわかりやすいものになっているのかという点で大きな問題があることは、当初より自覚されていたことではあった。また、“困難度”という絶対評価上に、それぞれ大きく異なる目標をもったクラスの学習到達度評価をどう位置づけるかという道筋が不明確なこと、従って評価の客観性・信頼性に欠けることも問題であった。特に、課題となっていたのは、目標群の中心とも言うべきコミュニケーション力を測定できるテストの開発であった。 これらの解決は長年先送りされてきたというのが実態である。
 前者の問題には、その背景として、帰国者を対象とする公的学習支援システム全体を見渡す評価の基準が未確立であるという問題が存在する。2001年秋、東京御徒町に中国帰国者支援・交流センターができ、全国どこからでも、また学習を思い立ったときにいつでも始められる《遠隔学習課程 (通信教育による学習支援) 》3 が始まり、それ以降各地に開設されてきた支援・交流センター(全国6カ所)や従来の自立研修センター(現在は東京・大阪の2カ所のみ)における通学課程、都道府県単位で行われている《遠隔学習課程》受講者のためのスクーリング、2008年度から市区町村が主体となって行われるようになった地域日本語教室等々、全国各地で展開しているセンター後、あるいはセンターを経ない帰国者も対象とした公的な中長期的/“生涯学習”的支援において、学習者の現在の力を把握する、あるいは、学習支援の成果を評価するための共通の基準や尺度がないことは以前より指摘されていた。地域の日本語教室という“場”の機能は、高齢化が進み孤立化 (閉じこもり) が懸念される一世二世にとっては、帰国者同士の、あるいは日本人講師との関係性の充足を目的とする“サロン”機能や、地域との接点を作っていく“窓口”機能が重要となろうが、40代までの二世三世にとっては、ライフステージに沿って日本語・日本事情の技能と知識を高めていくための学習機能が第一義となる。こうした教室とセンター、双方が効果的な連携や教育の改善を図る上で、「評価」のわかりやすい指標を共有することは重要であると考えられる。4

1-3.「評価」再考プロジェクトの全体計画/それぞれのねらい

 本プロジェクトは、上述した問題の解決を含め、センターのカリキュラム改善の一環として、評価システムを再考しようとしたものである。計画の全体は、プロセスとしては以下のようにまとめられるが、実際は、各作業はほぼ同時期に相互にフィードバック (FB)、フィードフォワード (FF)させながら進められた。

@ 移民/定住型外国人 を対象とする国内外の語学教育における、言語政策・水準設定・シラバス策定・評価についての情報収集
A 外国語/日本語 の口頭運用能力測定テストについての情報収集
B「目標構造表」の改訂:修了後の中長期的社会生活も視野に入れた目標の再設定(目標範囲の拡大)、および目標のアップデート(近年の社会変化への対応) を行った。→ それに伴う学習プログラムの開発
C「自己評価表」(日/中/露 版) の開発:Bに基づく学習到達目標の中から、重要なものをサンプル的にcan-do statementsの形で項目化したもの。新しい単元に進む際に学習内容の予告をする、また、その単元が終了した時点で学習者自身が達成度を自己チェックする、将来的に目標としたいものをこの項目リストから選び出す(ニーズ調査)等に用いる。もちろん、クラス担任が学習者の力を把握するためのチェック用リストでもある。
→ 部分的試行(第83期入所者〜) → 試行の拡大 → 試行結果に基づく評価表の修正/学習者タイプによる項目数の調整
  ※BCについて詳しくは本紀要 (安場) 参照
D「中国帰国者能力水準」(日/中/露 版) の設定
 「目標構造表」における中目標に沿って6つの能力領域5 を取り出し、それぞれの能力ごとにT〜Xの水準設定を行った。センターでのクラスを超えた、また、センターの6カ月(帰国当初の6カ月)を超えた中長期的視点からの、能力水準の指標を作ることを目指したものである。センターで学習したことがどれだけ身についたかを測る「学校」における評価ではなく、センターを経ない帰国者を含め、この日本語を母語としない人々が一社会人としてどのような力を持っているのかを「絶対評価」の視点から示したいと考えた。これを、数値ではなく、この水準の人は何ができるのかという can-do statements の形にすることで、学習者自身に、学習支援者に、そして受け入れ社会にわかりやすく示すことができればと考えた。
 センターでの研修においては、この絶対評価による水準表と、より具体的に学習項目達成度のチェックができるC「自己評価表」とを組み合わせることで、学習者とクラス担任の双方がまず目標を共有し、それによって評価の視点も共有すること、また、クラス担任が自身のクラス運営を評価する手段とすることができると考えた。
 センター外部においても、同様の使い方ができる。特にCを併用すれば、地域の日本語教室が帰国者を受け入れる際の学習ニーズ調査として使用することができると考えた。
→ 設定した水準表に基づく水準判定の試行(第83期入所者〜)
→ 試行結果に基づく水準表の修正
E「コミュニケーション力」水準判定のためのテストの開発
Dの6つの能力水準表の中心となる「コミュニケーション力」水準判定のための簡便なテストの開発・テスターマニュアルの作成・テストからの水準判定方法の検討を行った。
→ センター入所生に対するテストの実施と判定試行 (第83期入所者〜)
→ センター後の/センターを経ない 帰国者に対するテストの実施と判定の試行 (2009年8月〜)
→ 試行結果に基づくテストの修正
センター外部で実施したテストについては、
→ 被験者に対するFBの試行 → FBマニュアルの作成 
→ テスター養成の方法の検討(センター外部にテスターを依頼する場合)
F D中の「コミュニケーション力水準」において、予備的集中教育機関としてのセンターの研修期間中に達成すべき水準の最低ラインの設定(50歳未満の二世三世が対象)
→ 設定した水準表に基づく「コミュニケーション力水準」判定の試行(第83期入所者〜)を通して、この最低水準ラインの妥当性を検討
G CDEの評価を学習活動に組み込むためのカリキュラム改訂
H「修了評価票」の改訂:従来の数値による“困難度”評価からDの水準表を用いた評価票への改訂
将来的には、Dの水準表とCの自己評価表、その他学習者の力を示す作文等のプロダクツを綴じ込んだ「学習連絡票」を学習者自身が携帯し、センター後の能力の伸張を支援者とともに評価して記録していけるようにする“ポートフォリオ”方式6 も構想している。
I E以外の水準判定方法の模索
J センター外の帰国者を対象にしたE「コミュニケーション力」判定テスト実施の継続
→ データの収集 → 結果を集計しての帰国者コミュニケーション力の分析 → 遠隔学習課程における「コミュニケーション力」水準アップのためのコース開発

 次章と第3章では、上記Dの中の「コミュニケーション力」水準の設定と、E 水準判定テストの開発について報告する。

2.中国帰国者「コミュニケーション力」水準の設定

2-1.コミュニケーション力とは

 センターでは、コミュニケーションを“相互作用”と捉え、コミュニケーション力を「媒介とするものが言語・非言語にかかわらず、周囲の人々と相互作用を行い、継続していく能力」と定義している(池上・井本(1993))。
 センターでの研修期間は限られている。帰国者は、センター後、生活を通して日本語の力をつけていくことになる。生活の中に学習機会を見いだし、実際のコミュニケーションを通してコミュニケーション力を伸ばしていくためには、それが可能であることをセンターの研修を通して実感すること、それを可能とするための基礎力を身につけることが重要となる。上記のコミュニケーション力の定義も、日本語力が十分ではないという状況が中長期的に続くことを前提として、相手の言葉が聞き取れないときに積極的に相手に働きかけて相手の支援を引き出すこと、言いたい言葉が出てこないときにも筆談を含め様々な手段を用いて伝えようとすること、こうしたコミュニケーションへの姿勢を重視する考え方を示したものであった。
 今回のプロジェクトにおいては、センターのこの基本的な考え方の延長上に、コミュニケーションを、“相互作用”から一歩進め、「帰国者と日本人側が“協働”して談話を作り上げていく行為」と再定義し、この“協働”の一方の当事者として関わっていくことができる力が、帰国者に必要なコミュニケーション力であると考えた。帰国者が働きかけることで相手も変化する、その働きかけの力に重点を置いていた当初のコミュニケーション観を、相手の支援をより重要な前提とする、「双方の努力のもとに成り立つやりとり(談話)」との捉え直しを行ったのである。こうした我々の変化の背景には、日本社会の変化がある。地域社会に生活者としての外国人が増え、“移民”受け入れ議論も言語施策を含め活発に交わされる昨今においては、「日本語を母語としない人々とコミュニケーションを図っていくためには、日本人自身も異文化間コミュニケーション力をつけていかなければならない」という認識が社会的に共有されつつあると言ってよいだろう。

2-2.「コミュニケーション力」水準設定の考え方・設定の観点

 水準の設定は、以下のような考え方および方法で行った。
 〈コミュニケーションが行われる場面はどのようなものか〉:“雑談・歓談/おしゃべり・世間話”といった、コミュニケーション自体が目的となる会話場面を想定した。もちろん、コミュニケーションは、“人との付き合い”においてだけではなく、日常生活や職場等のあらゆる行動場面で目的を達成するために必要となるものである。しかし、行動場面本来の目的はコミュニケーションではなく行動達成であり、特に日本語力が不十分な段階では、コミュニケーション力よりも、場面についての知識やその場の状況に含まれる情報や文脈、そしてその個人が本来持っている“行動力”が、目的の達成に大きく関わってくることから、水準を測る〈場面〉としては、これを除くこととした。

〈何をデータとして水準を見るのか〉:これまでのセンター入所生や、センター後の、様々な滞日年数の修了生との“おしゃべり・世間話”、次章で報告する判定テストやパイロット調査の記録(入所生や修了生、センターを経ない帰国者との面接テストやインタビューの録音・録画記録)を、基礎データとした。

〈データの何から水準を見るのか〉:日本人側、帰国者側、双方の“協働”のもとに実現するやりとりから水準を測りたいと考えた。
 従来の日本語教育においては、「自力で何ができるか」という観点から見て「コミュニケーション力はない」とされていたレベルの学習者でも、日本人側の働きかけで成り立つコミュニケーションはいくらでもあり、学習者がそうした力を蓄積していく過程を我々はつぶさに見ている。同様に、まだまだ日本語の力は低いとされる学習者も、日本人側の働きかけ如何によっては、トピックの範囲も内容もここまで広げることができるという例を、我々は日頃見ている。本プロジェクトの「コミュニケーション力」水準では、日本人側の支援を得て成り立ったやりとりであっても、評価すべきコミュニケーション力であると捉えている。しかし、双方の“協働”で成り立つコミュニケーションであれば、その内容は日本人側の力量にも大きく左右されることになる。この点については、この日本人側の支援の具体的内容を「条件」として明確にすることで、水準が設定できると考えた。

〈最終目標とする水準をどこに設定するのか〉:生活者のコミュニケーション力に求められるものは何か、その最終目標を、我々は次のように設定した。
 日本人と、通り一遍の会話だけではなく、“打ち解けた”会話や“込み入った”相談等もできる、こうしたやりとりを、双方がさしたる努力なしに(普通に)行える、複雑な内容であっても双方が発話意図を正確に伝い合えるレベル。

〈水準は何段階に設定するのか〉:上記のレベルを最高水準「X」として、TからXの5段階に設定した。これは当初から5段階を想定したものではなく、コミュニケーション力を構成する様々な要素を絞り込み単純化して、能力の伸張段階を示す特徴のまとまりを取り出した結果、この5段階になったものである。
 各水準に「−」と「+」を付したが、これは1つの水準をさらに3段階に分けたというものではなく、例えば水準Vであれば、Vを規定する条件/特徴を中心に、一部、これに及ばない要素や付け加わる要素がある場合を「−/+」で表したものである。(Xを最高水準とするので「X+」は設けていない)。また、水準Yを「X超」として置いてはいるが、「Y」は、大学や大学院等での学問的な領域や、職場固有の、あるいは職業上の専門の領域で必要となる知識と技能を土台にした日本語コミュニケーション力とし、本プロジェクトで扱う生活者に必要な水準としては「X」までとした。

〈どのような観点から水準を設定していくか/水準記述の観点〉:日本人側、帰国者側、双方の“協働”のもとに実現するやりとりから水準を測るに際し、A「どのような支援があれば、どのようなやりとりが成り立つのか」、B「発話のわかりやすさはどうか」、C「コミュニケーション・ストラテジーを効果的に使用できるか」の観点から、各水準を捉えていきたいと考えた。
 Aは、どのような支援のもとであれば(a「支援度/支援内容」)、どのような話題で(b「話題の範囲」)、どのように(c「やりとりの滑らかさ/所要時間」)やりとりできるかという3つの観点から構成されている。

a.日本人側からのどのような支援/手助けが必要か:ここには様々な内容が含まれるが、日本語を母語としない相手に対し、まず、(ア) 日本人側の基本的な態度が支援的・好意的であることはどの水準にも共通の前提とした。具体的なコミュニケーション・スキルとしては以下の4項目を設定し支援度を測る観点とした。(イ) 話す速度や発音の明瞭さ、標準的な日本語かどうか等音声的なコントロールの必要度、(ウ) トピック/質問 の選択におけるコントロールの必要度 (帰国者が興味関心を持ちそうなトピックか、答えられそうな質問内容か等)。また、こうした配慮の次の段階として、(エ) 尋ね方等のコントロールの必要度 (帰国者が質問を聞き取れなかったときに、文体を変える、敬体を用いずに話す、他の言葉に言い換える、キーワードを強調する、AorB/yes or no 疑問文の形に変える、例を出す、話の組み立て(文脈)をわかりやすくする等々の工夫)、(オ) 答えの意図確認のための努力の必要度 (帰国者からなかなか答えが返ってこない、返ってきた答えの意味がくみ取れないといったときに、語彙を推測して手助けしたり、答えを確認するための質問を新たに投げかけてみたりする等)。
b.上記aの支援のもとであれば、どのような話題が扱えるのか、その範囲と内容はどのようなものか:ここでは、まず、話題の広がりがどの程度かを見る。聞き取って答えることができる〈質問〉が増えていく段階、〈質問〉から〈トピック〉※ として扱えるようになる段階、扱える〈トピック〉がどんどん増えていく段階へと、コミュニケーション力の伸張が捉えられると考えた。
※「出身地/故郷」という話題を例にとると、「中国のどこから来たのか」、「冬は何度くらいになるのか」等の質問 (尋ね方は様々にありうる) にいくつか答えられるような段階から、出身地の位置や気候風土、産物や産業、有名な観光地や行事、故郷に寄せる思い等々を巡って話題を自由に広げられる段階まで、様々なレベルが想定できる。本稿では便宜上、話題として扱える広がりがないものを〈質問〉、話題として ある程度扱える/自由に扱える ものを〈トピック〉という言い方で表すこととする。(前項a-(ウ)も同様の用い方)。
 また、〈質問/トピック〉がなじみのあるものかどうか。よく聞かれる、あるいはよく耳にする事柄かどうか、自分に関わる身近な内容かどうか。
 質問の内容が具体的で単純であり答えやすいものか、それとも、簡単には答えられない/複雑な説明を要するようなものか。(質問と答え、それぞれの難易度を組み合わせると4通りになるが、ここでは単純化してこのように表した)
c.やりとりの滑らかさ/所要時間 はどうか:a-(エ)、(オ) の支援度が高い場合には、当然やりとりはスムーズにはいかない、時間もかかるということになる。従って、bの「話題の範囲」が限られる段階では、所要時間が、水準を測る指標の1つになると考えられる。扱える話題の範囲が広がり内容も“込み入った”ものになる場合は、所要時間をそのまま目安にすることはできなくなるが、やりとりの滑らかさの度合、裏を返せば、双方の苦労の度合いは、水準判定の指標になると考えた。
Bは、帰国者側の発話について、語彙レベルでのわかりやすさ、文および文脈(談話)レベルでのわかりやすさの観点から水準を測ろうとするものである。水準が低い段階では、もっぱら、発音が聞き取りやすいか、語彙を正確に記憶しているか等、語彙レベルでの正確さが伝達機能を左右するが、高水準になるにつれ、単語を並べても伝えられない/文(談話)でなければ伝えられない複雑さを持った内容をどう伝えるかが重要となる。目的はあくまでも発話意図の正確な伝達であり、言語形式の正確さを問うものではないが、文法を正しく運用することができれば、結果として意図の伝達も効率的に正確に行えることが多くなると言うことはできよう。
 Cは、A-aが、やりとりを成立させるために行う日本人側の支援度を見るものであるのに対し、帰国者側からの働きかけの力を見る観点として設定した。質問が聞き取れない、わからない言葉がある、あるいは、言いたい言葉が出てこない、うまく言い表せないといったときに、どのような手段を用いてやりとりを継続させているかは、水準を測る重要な観点であるが、行動達成場面とは異なり、“雑談・歓談”場面では、日本人側の支援によって困難が解消されることも多く、観察可能なものとして明確に現れることはそう多くないと考えられる。
我々が、中国帰国者「コミュニケーション力」水準を測る観点として重視するのは、大きくこの3項目ではあるが、これ以外に以下の項目も付した。これは水準評価に直接関わるものではないが、水準により特徴的に現れることが多い項目と考え、参考として加えたものである。
・やりとりのレベル:実現したやりとりのパターンが、一問一答式の「受け答え」レベルか、答えに付加情報(相づち、強調、感想の表明等も含め)が加わる、答えを巡ってさらにやりとりが交わされるといった「会話」レベルに達しているものか、双方自在に話題を発展・展開させることができる「歓談」レベルか等。
・その他の特徴:発話(答え)の「文のレベル」として、単語レベルか、文レベルか、まとまった構成を持った談話レベルか等。この他に、「文法的正確さのレベル」等。

「評価の観点」(上記の観点を整理してまとめたもの)

A  どのような支援があれば、どのようなやりとりが成り立つか 関係する力
  a支援度/
支援の内容
(ア)基本的姿勢  
    (イ)話す速さ・発音等 ←聞き取りの力
    (ウ)トピック/質問 選択の
コントロール
←聞き取りの力
    (エ)尋ね方等のコントロール ←聞き取りの力
    (オ)答えの意図確認の努力 ←聞き取りの力/話す力
  b話題の範囲   聞き取りの力/話す力
  cやりとりの滑らかさ/所要時間 答えの意図確認の努力 ←聞き取りの力/話す力
  参考:やりとりのレベル   ←聞き取りの力/話す力
発話のわかりやすさ 発音・語彙の正確さ 話す力
    意図伝達の正確さ(複雑な答えの場合)  
コミュニケーション・ストラテジー   ←聞き取りの力/話す力

参考:その他の特徴 …答えの文のレベル・文法的正確さ等々

 これらの観点は密接に関わり合っている。Aのa、bは、互いに互いが成り立つ条件となる観点であり、cは、a・bの条件下でやりとりがどのように成立するかを見るものである。(特にa-(エ)、(オ) の支援度がcの所要時間に結びつくことは前述した)。また、Bについては、わかりやすい発話であればa-(オ) の支援度は低くて済むという関係にはあるが、a-(オ) は、Bのレベルをそのまま表すものではない。各観点から測れる力に重なる部分はあっても、それぞれの観点が明らかにしたいものは異なり、それぞれがコミュニケーション力として我々が重視している力であることから、このような評価の構造になったものである。
 一般的に用いられることの多い「話す力」、「聞き取りの力」という観点は、もちろん有用だが、前者は、「話す」目的を「発話意図の正確な伝達」に絞った場合、B「発話のわかりやすさ」とほぼ重なる観点となる。後者は、特にA-bの「扱える話題の範囲」が意味するものに重なり 、また、A-a の「支援度」全般に関わる(支援度が高いということは聞き取りの力が十分ではないことを示す等)観点でもあることから、「聞き取りの力」を独立した項として取り上げることはしていない。(「評価の観点」では「関係する力」として示してある。)

この「評価の観点」に沿って作成した一覧表「各水準のイメージ」は、
資料2として稿末に付した。(紙面の都合上、水準ごとに分割したものを掲載)

2-3.「コミュニケーション力」水準の設定

 2-2 に示した考え方に基づき、中国帰国者「コミュニケーション力」水準を設定し、以下の「水準表」を作成した。実際の作業としては、データ (2-2〈何をデータとして水準を見るのか〉で示したもの) をもとに、「評価の観点」および「各水準のイメージ」を作成し、「水準」を設定するという作業を、作業間を往復させながら進め、その試作版を、再度データにあたりながら修正していった。

中国帰国者「コミュニケーション力」水準表  ver.2.1

T
入門段階 日本語講師等、相手が外国人への対応に慣れている人であれば、名前は、年齢はいくつか、家族は何人か、誰と誰か、出身地はどこか等の質問に、単語レベルで答えることができ、また、「おはよう・どうも・すみません・どうぞ」等の簡単な表現が使える。
U
基本段階
前期
ゆっくりはっきりわかりやすく話してくれれば、自分や家族の年齢、出身地、来日の時期、職業、趣味、生活習慣、嗜好等の身近な事柄についての具体的な質問に、単語や簡単な文で答えることができる。
(相手の話が聞き取れない、あるいは言いたいことがうまく言い表せないときに、「わかりません/もう一度お願いします/書いてください」等の簡単な表現を使って聞き返したり、内容によっては筆談やジェスチャーを用いて伝えたりすることもできる)
V
基本段階
後期
相手の話し方が明瞭で標準的であれば、身近で具体的な話題の範囲で、簡単な受け答えをすることができ、そのうちのいくつかについては同様の内容を相手に尋ねることもできる。
(相手の話が聞き取れない、あるいは言いたいことがうまく言い表せないといったときに、聞き返したり説明を求めたりどう言うのかを尋ねたりして対処できる)
W
自立段階
前期
相手の話し方が標準的であれば、身近な話題や自分の興味のある話題で雑談・歓談をすることができ、より一般的な話題でも、比較的自然に簡単なやりとりができる。また、相手や場に応じ丁寧さのレベルを変えられる。
(知らない語彙が出てきたり、言いたいことがうまく伝わらなかったりしたときにも、会話の中で自然に、聞き返したり説明を求めたり、どう言うのかを尋ねたりして対処できる)<
X 自立段階
後期
かなり広範な話題について流暢に自然に歓談でき、意思を誤解なく伝え合うことができる。若干の不自然さは残るが、自分の意見を陳述したり議論に参加したりすることもできる。
(知らない語彙や事柄が出てきたり、言いたい言葉が出てこなかったりするようなときでも、会話の中で自然に対処・修正して流れを滞らせずに会話を続けられる)

0 (Tに達しない)   Y (X超)

※この「水準表」と「各水準のイメージ」(資料2)は、前者が、学習支援者だけではなく、帰国者本人および受け入れ社会に参照してもらうことを想定したものであるのに対し、後者は、水準判定者が利用することを想定している。従って、前者は、「この水準の帰国者は何ができるのか」を簡潔に肯定的に示すことをねらっているが、後者は、能力の否定的表現を含め(何ができないか等)、より具体的・分析的に水準のイメージを示し、判定者が水準判定を行う際の手引きとしても利用できることをねらったものである。

3.「コミュニケーション力」水準判定テストの開発

 センターでは、コミュニケーション力に関わる評価活動としては、1-1で触れたように、第29期以来(1989年〜)「日本語面接」を実施してきた。この「日本語面接」は、研修期間中に2回面接を行い(当初は開講時・中間時・修了時の3回実施していたが第49期以降は開講時と修了時の2回実施)、その中で、日本語力が不十分でも相手の意図を推測したりコミュニケーション・ストラテジーを使ったりすることによってコミュニケーションが成り立つことを実感してもらい、修了時には4カ月(第75期以降は6カ月)でコミュニケーション力が伸びたという達成感を持ってもらうことを目的としていた。つまり、ねらいはコミュニケーション力そのものを総体的に評価することよりも、コミュニケーションへの姿勢を作り、コミュニケーションへの意欲を強化することにあったと言える(テストの詳細については池上・井本(1993)を参照のこと)。今回は第2章で述べたコミュニケーション力の再定義や水準設定の考え方、および水準表を踏まえて、水準判定のためのテストを、上記「日本語面接」(以後、「旧面接」)を土台にして開発していくこととした(以後、この水準判定テストを「新面接」と呼ぶ)。
開発にあたっては、以下の2点に留意した。
1つ目は、面接テストではあっても“協働”行為であるという視点である。 「自力でできることは非常に限られている人でも、相手の助けがあればこれだけのことができる」ということも評価できるようなテストを目指した。
2つ目は、簡便さである。特別に訓練されたテスターではなく、ある程度練習すれば誰でもテスターが務まるように、「これに沿って質問をしていけばテストが成立する」ような質問を配置した面接シートの開発を目指した。面接時間は最低5分、長くても15分程度とした。

3-1.トピックの選定

 「旧面接」の質問項目は、開講時面接では@名前、A年齢、B趣味、C来日月日、D来日経験、E日本の印象、の6項目で、3分の制限時間内にできるところまで扱っていた(全クラス共通)。修了時面接は、開講時と同じ@〜Cの項目にクラスごとに異なる発展項目を取り上げ、制限時間もクラスによって異なる形で実施していた。ただし、この@〜Eの項目は、「観察可能なコミュニケーション行動が起こる」かどうかを基準に選定されたもので、初対面時の会話の話題として適当かどうかは問題にしていなかった。
「新面接」では、上記の項目に加えて、初対面の会話で取り上げられそうな話題を選び検討した。さらに、既習度の高い学習者を想定して、より一般的な話題についても検討していった。
検討の際の基本方針として以下の点に留意した。
まず、“世間話”や“おしゃべり”場面で外国人と初めて話すときに日本人が聞きそうな話題として適当かどうかを重視した。例えば、「旧面接」では直接相手の年齢を尋ねていたが(これは、日本語未習者であってもジェスチャー等によってコミュニケーションが成り立つことを実際に体験してもらうため)、「新面接」では、本人の年齢ではなく、尋ねても失礼にあたらない、子ども・孫など家族の年齢を聞く形に変更した。また、家族の話題に関しては、「旧面接」ではいきなり「家族は何人ですか」と尋ねていたが、来日の時期を問うた後に「ご家族でいらっしゃったんですか」と聞く形に変更するなど、いきなり聞くのは礼を失すると思われる項目について意見を出し合って修正していった。また、面接の過程をより簡便にしてテスターの負担を軽くするため、面接の項目は予め決められたものを順番にこなしていく形をとっているが、その範囲でなるべく自然な会話の流れになるように話題の提示順序についても考慮した。
次に重視したのは、こちらが情報として本当に聞きたいこと、知りたいことを聞くという姿勢である。面接の後半で取り上げる「日本語学習」、「文化差」等のトピックは、外国から来た人であれば必ず経験する事柄であり、誰でもそれなりに話す内容はあると考えられる。しかも、個人の経験から離れて一般論として話を進めることも可能なトピックであり、水準の高い学習者と“突っ込んだ”話をするのに有用だと考えた。日本語力の自己評価や学習方法についての被験者の発話は、面接結果のフィードバック時にも役立つ情報となり得る。また、文化差のトピックは、この面接を通して異文化体験を日本語で言語化するきっかけになり得るのではないかという期待も込めて取り上げた。つまり、“おしゃべり”の形をとったこのテスト自体が活きたコミュニケーション機会であると捉えているのである。
面接シートは、センター用と外部用の2種類作成した(資料3には外部用を示した)。話題は基本的に同じだが、外部用は名前の表記と現在の居住地についての質問が追加されている。

3-2.テスト方法の検討

 テスターは、判定者としてではなく会話を“協働”して作っていく相手として被験者と接することとした。インタビューにどのような姿勢で臨むかについては、以下のような方針をテスターマニュアルにまとめた。
面接テストでは、通常、テスター自身が話すのではなく被験者に話させることが優先され、助け舟も出さないことが要求されるが、本テストでは、テスターには、支援的な態度で接し、かつできるだけ自然に話すことを求めている。母語話者同士の場合であっても会話は“協働”行為ではあるが、相手の日本語能力が十分でないときは当然、我々は意識的にあるいは無意識に自分の話し方を調整したり、相手の発話を助けたりする。それは会話の相手として自然な行為だろう。学習者の母語を解するテスターが、一般の日本人にはわかるはずのない、学習者の発した母語を聞き取ってついそれに反応してしまったり、相手がまだ求めていないのに先回りして助け舟を出し過ぎたりといったことは戒める必要があるが、不自然なほど待ったり、推測できそうな発話もあえてわからないふりをしたりする必要はないと考える。
 もちろん、テスターの支援度/コミュニケーション・スキルには個人差がある。この点については、テスターマニュアルを作成し、事前の説明と練習を丁寧に行うことで、テスターの反応に差が出にくくなるよう工夫した。被験者が質問が聞き取れないときにテスターが繰り出す言い換え等の方針については、以下に示すようにマニュアルに具体的な例を掲載し、テスターは面接シートの例に沿って質問していけばいいようにした。

〈最初の質問〉敬語を含む自然なもの
例)日本にいらっしゃったのはいつですか?
〈途中段階〉言い換え 例)日本に来たのはいつですか?
  来日月日はいつですか?
  いつ日本に来ましたか?
  何月何日日本に来ましたか?
〈最終段階〉キーワード強調
具体例
※それでもだめなら
例)中国から日本、いつ?/何月何日?
例)2月?3月?
→ジェスチャー・実物(カレンダー等)
→最終手段として筆談・絵

 話題についても、本テストでは、テスターは、相手のレベルに応じて話題を考えたりする必要はなく、面接シートに沿って質問をしていけばテストすなわち会話が成立するようにした。
ただ、面接後半の、より高い水準の判定のための一般的なトピックの場合、相手の発話に応じてより深い内容に踏み込んだ問いかけや、複雑な事象を正確に説明してもらうための質問を繰り出す7 などの技術は必要となる。簡便なテストを目指してはいるものの、この点ではやはりテスターに一定の能力が要求される。
最後に、通常のコミュニケーション場面と大きく異なる対応が必要になる以下の2点について触れておきたい。
まず、「自然に」という点では、実は「筆談」は漢字圏出身者にとって最も有効なコミュニケーション・ストラテジーであり、とくに名前・出身地等、固有名詞を伝えるときには筆談とともに伝えることの方が自然である。しかし、ここでは極力筆談に頼らないでどれだけ伝えられるかを見ることとし、筆談はあくまでも最終手段として用いることとした。
また、「旧面接」でテスターが用いた敬語は「お名前」、「おいくつ」程度だったが、「新面接」では、初対面の人にはまずは敬体で質問するのが一般的であると考え、トピックごとの最初の質問は敬体で統一した。ただし、面接を進める中で、質問を聞き取る力が明らかに低いと判断された人の場合、途中から敬体での質問は省略するという方針をたてた。

3-3.テストの実際と判定方法

 実際のテストの流れは以下の通り。

〈動機づけ〉
 テストの前の動機づけでは、以下のような内容を母語で(理解可能と思われる人には日本語で)伝える。
・現在の会話の力を測るのが目的である
・なるべくリラックスして(緊張しないで)たくさん話してほしい
・わからないときはいくらでも聞き返してよい
・録画あるいは録音する
・後日、判定結果と今後の学習へのアドバイスを返す

〈面接〉
テスト時間は15分程度とする。5分でタイマーを鳴らし、その段階で、これ以上話を続けるのは難しいと判断した場合(やりとりがなかなか成立しない等)、そこで打ち切ってもよいが、最終手段である小道具・絵・筆談等を使ってどの程度やりとりが成立するかを確認してもよい。5分の段階まで順調である場合は、面接シートに沿ってやりとりを続け、残りの10分で進めるところまで行く。やりとりがかなりスムーズにできると判断した場合は、上述したように、こちらからの質問もより“突っ込んだ”内容にしていき、被験者にもたくさん話してもらい、内容的に意味のあるやりとりをすることを心がける。

〈水準判定〉
 評定は、信頼性を高めるために、テスター・クラス担任・水準判定者の三者によるものとした。
テスターは「コミュニケーション力」水準表および「各水準のイメージ」を事前によく読んでおき、テスト直後にその場の印象から判定する。担任と水準判定者は録画ビデオを見て(あるいは録音を聞いて)それぞれ総合的に判定することとした。実際には、質問を聞きとる際に手厚い支援が必要であれば、それだけ時間もかかり、応答の発話がわかりにくい場合、テスターがそれを推測したり確認したりするのにさらに時間がかかるため、一定時間内(例えば5分間)に成立した〈質問−応答〉の数から、水準TかUか、それより上であるかを判断することが概ね可能である8 ことが確認できたので、水準判定者は判定する際に成立した〈質問−応答〉の数を数え、参考資料とした。そして、判定に迷う場合は水準記述に照らして検討し、複数で話し合うなどの方法を取った。
水準V以上については、「話題の範囲」と難易度、必要とする支援のレベルからわかる「聞き取りの力」、内容がどれほどわかりやすく的確に伝えられるかから判断できる「発話のわかりやすさ」の3つの観点を重視した。
まず「話題の範囲」については、自分に関わる具体的な話題という限られた範囲にいるのがVで、“世間話”で交わされるような一般的な話題に広がってもある程度対応できるのがW、特殊な話題でなければほとんど普通に歓談できるのがXと言える。面接シートの 質問/トピック で言うと、名前に始まり仕事についての基本的な質問には答えられるが、それ以降のトピックについてはやりとりが難しいのがVであり、ある程度は対応できるのがW、自在にやり取りできるのがXというイメージである(「各水準のイメージ」一覧表参照)。
次に支援度から判定する「聞き取りの力」であるが、Vは、質問/トピック 自体はまだ限られているが、その中でもなじみのない質問についてはかなり言い換えをする必要があるレベル。Wは、“世間話”的な話題の範囲(面接シートの後半)では、時折尋ね方をコントロールしながら話せばほぼ通じるレベル。Xは、「話題の範囲」も尋ね方もコントロール不要で、母語話者相手に話すのとほぼ変わらないレベルである。
最後の「発話のわかりやすさ」に関しては、複雑な内容(複数の人物がからむ過去の出来事等)をいかに正確に伝えられるかがポイントとなる。Vは複雑な内容はまだ言えない、あるいは言おうとしてもすぐ挫折してしまうことが多い。Wは、複雑な内容も話そうとするのだが、その発話は聞き手にとってわかりにくい部分が多く、テスターからの支援的な問いかけを通じてやっと達成できるレベル。Xは、複雑な内容でも誤解なく独力で伝えられるレベルである。
2−2の「水準設定の考え方」で述べたように、「新面接」の判定においても発話意図が正確に伝えられるかは最も重要な観点である。内容が誤解なくしっかりと伝えられていれば、言語形式を判定の対象とする必要はないと考え、答えが単語レベルか文レベルか、文法は正確か、などは判定の基準とはしていない。もちろん、話題が広がってきて伝えるべき内容が複雑になってくると、言語形式の正確さもより必要になるが、それはあくまでも内容伝達の正確さ・伝達のスムーズさに関わる場合であるとした。

〈結果のフィードバック=FB〉
センター内では、一連のプログラムの中にFBの授業も組み込まれており、学習者自身が面接場面の映像を見て、教師とともに面接を振り返り、以後の自己学習に結び付けられるような活動を行っている。しかし、センター外で実施した面接については、学習者に映像や音声で確認してもらう場が設けられない(現段階では行っていない)ため、判定結果とともにできるだけ具体的なFB項目を記したものを作成している。内容は、やりとり全般に関することの他、発音、構文や談話の組み立て方、コミュニケーション・ストラテジー、文法などの項目ごとに、その人の長所や弱点について具体例を示したものと、今後意識的に学習するとよいと思われるポイントや学習方法についてのヒント等である。これを、必要があれば母語を使って電話あるいは対面で解説している。

4.これからの課題

 センター入所生に対する「新面接」は、第83期生21名、第84期生20名、第85期生28名、第86期生39名を対象として実施した。既に日本に定着して生活している人を対象に行った面接テストは、中国帰国者支援・交流センター(首都圏センター)に通学している帰国者の中から、一定の条件(帰国者2世、滞日年数2年以上等)のもとに対象を絞り、18名に実施した。また、高水準者のパイロット調査として、センター修了生で滞日年数が比較的長い4名を対象に、時間を長めにとってインタビューを実施した。これらの面接を実施するごとに、テストの内容と方法、テスターマニュアル、また、「水準表」や「各水準のイメージ」に少しずつ改良を加え、現段階に至っているが、まだまだセンター後/外 のデータが少ない。今後は、外部機関・教室等と連携することにより、センター外の帰国者を対象にさらにデータ収集に努め、ある程度確定した“水準判定セット”にしていくことが課題である。また、これを、帰国者以外の定住型外国人にも対象を広げて活用していく可能性も探っていきたいと考える。
 その過程で避けて通れない2つの課題について触れておきたい。
 まず、テスターのパフォーマンスに関する問題である。2-1でも述べたように、コミュニケーションが“協働”行為である以上、被験者のパフォーマンスはテスターのそれにどうしても左右される。であればこそ、テスターのパフォーマンスは一貫して、かつ、どのテスターも同程度に支援的であることが不可欠である。しかし、この間の試行においても助け舟を出すタイミングが早すぎて聞き取りの力が見極められなかった例や、質問が簡単すぎて聞き取りにおいても発話においても能力が引き出しきれなかった例がやはりあり、その結果、水準判定のためのデータが不足して判定に至らなかったり、判定者間で不一致が生じたりといった事態が生じた。これらの問題を解決するためには、面接テストのテスターに通常要求されるような徹底したトレーニングを実施するという途もあるが、この「新面接」は簡便さも課題としているのでトレーニングにそれほど時間をかけなくてもいいようにしたい。特に、今後センター外部でのテスター養成を目指すのであれば、簡便性と信頼性の両立は大きな課題である。
 さらに、水準判定の精度をいかに上げるかという点でもまだまだ課題は多い。先に挙げたセンター内外の実施例においては、複数の者で面接データの水準を判定し、その一致度を確かめながら、「水準表」および「各水準のイメージ」の内容とその記述の微調整を繰り返してきた。しかし、例えば、V+かW−かという1段階程度の判定の不一致が生じるケースがやはりあり、ずれが2段階以上になるケースもあった。被験者に伸びを実感してもらうためには評定の幅は細かい方がよいのだが、細かいがゆえに判定に迷うことにもなる。各水準のイメージがより正確に伝わるよう、記述を改良する余地があるだろう。
また、以下は、水準判定と面接テストの精緻化と並行しての課題であるが、既に実施したセンター外の帰国者を対象とした面接の結果やこれまでの経験から、数年以上日本で暮らしていても水準VからWの範囲内に留まったままというケースがかなりの割合を占めているという感触を我々は得ている9 。今後は、同じ水準に何年も留まっている帰国者の水準を1段階でも2段階でも引き上げるための教育的支援を、センターの《遠隔学習課程》上で実現させていきたいと考えている。
 さらに、まだ構想以前の“希望”の段階であるが、日本語母語話者側の、日本語に不慣れな話者とのコミュニケーション・スキルの向上に、この面接テストの観点が少しでも役に立てられないだろうかとも考えている。日本社会は内なる国際化がますます進展し、日本語母語話者側の異文化間コミュニケーション力の伸張が求められている。コミュニケーション上のどのような工夫が相手への支援になり得るかを考えつつ“協働”してコミュニケーションを成り立たせることを体験し、自身のコミュニケーション力を意識することは日本語母語話者にとって意味のあることではないだろうか。このようなことも視野に入れた上でテスター養成の内容・方法を検討していきたい。

1 池上他(1993) 紀要第1号参照
2 佐藤他(1994)紀要第2号
3 《遠隔学習課程》ついては本紀要(馬場)参照。なお、この事業は2008年度より当センターに移管され現在にいたっている。
4 日本語力評価の指標となるものとしては、この分野で最も広く普及しているものに「日本語能力試験」があるが、これは帰国者をはじめとする生活者に必要な日本語力、その中でも最も重要なコミュニケーション力を直接測るものではない。口頭の日本語運用能力を測定するツールとしては OPI ※ があるが、これも実用性(簡便性や費用)の点等で、帰国者への適用は難しい。生活者/定住型外国人の日本語力測定についての先行研究・実践例として参考になるものには「とよた日本語能力判定」※※ がある。帰国者の学習支援において有用なコミュニケーション力水準が設定され、簡便な判定テストが開発できれば、広く定住型外国人を対象とする地域日本語教育との連携が容易になるだろうと考えられる。
※OPI:Oral Proficiency Interview の略。対面のインタビュー形式で会話のタスクを達成する力を判定するテスト
※※『とよた日本語学習支援ガイドライン』(名古屋大学 2010年6月) 11章:とよた日本語能力レベル とよた日本語学習支援システム www.toyota-j.com/ 報告書
5 6つの能力水準:a「身近な生活行動力」・b「日本事情等の理解」・c「基礎的コミュニケーション力」(聞く/話す力)・d「聞く力」・e「読む力」・f「書く力」。dは公共の場所でのアナウンスやテレビニュース等、一方向の聴解力の領域。帰国者の能力水準の中心となるのはabcの3つ。
6 ポートフォリオ (portfolio) :一般的には個人の学習活動記録をファイルしたものを呼ぶ。学習者が自身の学びを多面的多角的に、かつ長期的に評価し、次に生かしていくためのプロダクツを集めたもの。
7 例えば、文化差についての話題における「日本のこの習慣について最初はどう思ったか、今はどうか」や「中国ではなぜそうするのか」、「中国から来たばかりの友人に日本のこの習慣をどう説明するか」などの問いが挙げられる。
8 質問−応答〉の数の数え方は、応答できた場合、+1。1つの質問についてどのレベルまで言い換えて尋ねたときに答えられたかは時間に反映されるため、所要時間そのものは不問。答え方も「中国黒竜江省」でも「中国黒竜江省です」でも「中国黒竜江省から来ました」でも、応答が成立していれば文のレベルは不問で+1とする。また、関連した内容で自発的に補足説明ができている場合も+1、1つの質問から派生したYes/No疑問文(例:「冬、寒いですか?」「はい」/「寒い」)や付加疑問文(例:「5歳ですか、かわいいでしょうね」「はい」/「かわいい」)に答えている場合を+0.5とした。質問を理解して答えたのか判定不能の場合は+0とした。
9 この他、少数ではあるが何年も水準T〜Uに留まっているケースもあった。

引用・参考文献

池上摩希子・井本美穂(1993)「面接場面におけるコミュニケーション能力の評価に向けて」『中国帰国者定着促進センター紀要 第1号』
大平未央子(2000)「日本語の母語話者と非母語話者のインターアクションにおける相互理解の構築―関連性理論の観点から―」『日本語教育105号』
笠原ゆう子・木山登茂子・八田直美・浜田麻里・古川嘉子(1995)「日本語口頭能力テストに関する考察―今後のテスト開発に向けて―」『日本語国際センター紀要 第5号』
鎌田修・嶋田和子・迫田久美子(2008)『〜真の日本語能力を目指して〜プロフィシェンシーを育てる』凡人社
佐藤恵美子・小林悦夫(1994)「カリキュラム開発および理念的目標の構造化について」『中国帰国者定着促進センター紀要 第2号』
独立行政法人 国立国語研究所編(2006)『世界の言語テスト』くろしお出版。
「とよた日本語学習支援ガイドライン」
名古屋大学 とよた日本語学習支援システムhttp://www.toyota-j.com/media.php
馬場尚子(2010)「‘いつでもどこでも始められる’帰国者のための「遠隔学習過程(通信教育)」」『中国帰国者定着促進センター紀要 第12号』
牧野政一(監修)・日本語OPI研究会翻訳プロジェクトチーム(1999)『日本語改訂版 ACTFUL-OPI試験官養成用マニュアル』アルク
安場淳(2010)「【目標構造表】の改訂及び【自己評価表】開発プロジェクト報告」『中国帰国者定着促進センター紀要 第12号』
吉島茂、大橋理枝他(2004)『外国語教育U-外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠- 』朝日出版社
義永未央子(2008)「第二言語習得研究と相互行為」『言語文化共同研究プロジェクト2007 多文化共生と言語教育』
義永未央子(2008)「第二言語話者の「能力」―能力観の変遷と第二言語習得研究のパラダイムシフト―」『CHAT Technical Reports No. 7.』

資料

資料1.修了評価票(旧版)

○ センターの教育の考え方
○ 指導内容と評価 1.日本語・日本事情評価  担任所見
2.学習内容一覧            からなる。
………………………………………………………………………………………
1.日本語・日本事情評価

第 期 クラス 氏名: 年齢:  歳 性別:
研修期間:                    〜    
非常に困難である 困難なくできる
身近な生活行動場面の基礎知識・技能
将来の生活に有用な基礎知識・技能
基礎的コミュニケーション力
会話
読み書き
文法
クラス担任所見及び特記事項
 

資料2.各水準のイメージ

水準 T
どのような支援があれば、どのようなやりとりが成り立つか
〈話題の範囲・支援度・やりとりの滑らかさ/所要時間〉
手厚い助けがあり、時間をかければ、名前は、年齢はいくつか、家族は何人か、誰と誰か、出身地はどこかの5つ程度の質問を聞き取って答えることができる
…………………………………………
T-:上記5つの事項を言うことができるが、質問を聞き取って答えることは難しい
T+:Tの内容を、だいたい5分以内で答えることができる
支援度/支援の内容  
基本的姿勢 支援的・好意的
話す速さ・発音等 標準的・明瞭に・ゆっくり
トピック/質問 選択の
コントロール
質問を限定
尋ね方等のコントロール 支援度強:かなり言い換えが必要
答えの意図確認の努力  
単純な答え 支援度強:かなり推測しないとわからない
複雑な答え
話題の範囲 質問5つ程度に限定
やりとりの滑らかさ  
単純な答え やりとりはスムーズではない ∴ かなりの時間がかかる
複雑な答え
参考:やりとりのレベル 受け答えレベル (一問一答式)
発話のわかりやすさ  
発音・語彙の正確さ 非常に聞き取りにくい/慣れていない人には聞き取れない発音になりがち
正しく覚えていない/覚えていても聞き取れる音で言えないことが多い
意図伝達の正確さ
(複雑な答え)  
コミュニケーションストラテジー 使えず
参考:その他の特徴 言い換えても通じない場合もあり、母語がかなり出てくる
覚えているものがごく限られる
質問を聞き取るというより知っている語彙に反応する感じ
答えの文のレベル 単語レベルの返答

 

水準 U
どのような支援があれば、どのようなやりとりが成り立つか
〈話題の範囲・支援度・やりとりの滑らかさ=所要時間〉
時々手厚い助けが要るが、自分の名前と年齢、家族の人数、家族構成、家族の年齢、出身地、来日の時期、職業、趣味、生活習慣、嗜好等を尋ねる10程度の質問に、だいたい5分以内で答えることができる。これ に関連したよく聞かれる質問にもいくつか答えられる
…………………………………………
U-:上記10の質問に時間をかければ答えられる
U+:10の質問に関連したよく聞かれる質問にも、たいてい答えられる
支援度/支援の内容  
基本的姿勢 支援的・好意的
話す速さ・発音等 標準的・明瞭に・ゆっくり
トピック/質問 選択の
コントロール
質問も関連質問も限定
尋ね方等のコントロール 支援度強
答えの意図確認の努力  
単純な答え 支援度強
複雑な答え
話題の範囲 質問10程度+関連質問に限定
やりとりの滑らかさ  
単純な答え やりとりはスムーズではないが、スムーズなものも時に交じる
複雑な答え
参考:やりとりのレベル 受け答えレベル
発話のわかりやすさ  
発音・語彙の正確さ 慣れている人でないと聞き取れない発音の場合が少なくない
正しく覚えていない/覚えていても聞き取れる音で言えないことが時々ある
意図伝達の正確さ
(複雑な答え) 
コミュニケーションストラテジー 相手の話が聞き取れない或いは言いたいことがうまく言い表せないときに、 「わかりません/もう一度お願いします/書いてください」等の簡単な表現を使って聞き返したり、内容によっては筆談やジェスチャーを用いて伝えたりすることもできる
参考:その他の特徴 母語が少し出てくる
疑問詞などのキーワードは聞きとれるが、応用が利かない
質問を聞き違えて答えることも少なくない
答えの文のレベル 単語レベルの返答+まるごと覚えた表現

 

水準 V
どのような支援があれば、どのようなやりとりが成り立つか
〈話題の範囲・支援度・やりとりの滑らかさ=所要時間〉
時に助けがあれば、Uの話題のような身近で具体的な話題の範囲で、基本的な質問だけではなく、それに関連した質問にも何とか答えられる
話題の範囲は広がるが質問・答えともに単純なものに限られる
…………………………………………
ライン部に関して
V-:何とか答えられるが、やりとりにはかなり時間がかかる
V+:比較的滑らかに答えられる
(答えが複雑な場合は言おうとしてもすぐに諦めてしまいがち)
支援度/支援の内容  
基本的姿勢 支援的・好意的
話す速さ・発音等 標準的・明瞭に・ゆっくり
トピック/質問 選択の
コントロール
話題は身近で具体的なものに限定
質問も(要求する答も)具体的で単純なもの
尋ね方等のコントロール 支援度中、時に強
答えの意図確認の努力  
単純な答え 支援度中
複雑な答え
話題の範囲 話題は身近で具体的なものの範囲
質問も(要求する答も)具体的で単純なもの
やりとりの滑らかさ  
単純な答え 基本的な質問にはスムーズに答えられるが、関連した質問に広がると語彙を探して発話に苦労することが多々ある
複雑な答え
参考:やりとりのレベル 受け答えレベルが中心
時に積極的に発言して会話らしい会話になる場合も出てくる
発話のわかりやすさ  
発音・語彙の正確さ 慣れている人でないと聞き取れない場合がある
使用語彙が増えているが不正確に覚えているものも多い
意図伝達の正確さ
(複雑な答え)
複雑な内容は言えない/言おうとしない/言おうとしてすぐ挫折する
コミュニケーション・ストラテジー 相手の話が聞き取れない、或いは言いたいことがうまく言い表せないといったときに、 聞き返したり説明を求めたりどう言うのかを尋ねたりして対処できる
参考:その他の特徴 母語はほとんど出てこない
学習した構文を意識して使おうとする姿勢がみられる
答えの文のレベル 簡単な文レベル/単語レベル

 

水準 W
どのような支援があれば、どのようなやりとりが成り立つか
〈話題の範囲・支援度・やりとりの滑らかさ=所要時間〉
時に助けが要るが、身近な話題や自分の興味のある話題で、質問も答えも複雑ではないものであれば、かなり広範囲でのやりとりができる
複雑な内容についても発話するが、意図が正確に伝えられないことが多く、日本人側は確認のための努力がかなり必要
…………………………………………
ライン部に関して
W-:確認のための努力をしてもわからないことが多い
W+:確認のための努力が少し必要
支援度/支援の内容  
基本的姿勢 支援的・好意的
話す速さ・発音等 標準的
トピック/質問 選択の
コントロール
話題はあまりコントロールしなくてもよいが、
質問はコントロールが必要(わかりやすく)
尋ね方等のコントロール 時に支援度中
答えの意図確認の努力  
単純な答え 支援度中
複雑な答え 支援度強
話題の範囲 話題は身近で具体的なものから一般的なものの範囲へ 質問は単純なものから複雑なものへ(聞きとれる範囲は広い)
やりとりの滑らかさ  
単純な答え やりとりは総じてスムーズ
複雑な答え 言葉や表現を探して苦労することが多い
日本人側も意図確認のためにかなりの努力を要し時間がかかる
参考:やりとりのレベル 会話レベル  歓談もできる
発話のわかりやすさ  
発音・語彙の正確さ だいたい聞き取れる発音/外国人のくせは残る
使用語彙が格段に増えてはいるものの、不正確に覚えているものが交じる
意図伝達の正確さ
(複雑な答え)
複雑な内容も、伝えようとする
伝えられる場合もあるが、総じて基本的なことや細部が伝わらないこと多し
コミュニケーション・ストラテジー 知らない語彙が出てきたり、言いたいことがうまく伝わらなかったりしたときにも、会話の中で自然に、聞き返したり説明を求めたり、どう言うのかを尋ねたりして対処できる
参考:その他の特徴 文法・構文的に扱える範囲はなじんでいるものに限定されがち・不正確なまま化石化しているものも少なくない
答えの文のレベル 文レベル(会話体の)の返答

 

水準 X
どのような支援があれば、どのようなやりとりが成り立つか
〈話題の範囲・支援度・やりとりの滑らかさ=所要時間〉
母語で対応可能な話題であれば、
ほぼ支援なしに普通に歓談できる
…………………………………………
X-:互いの発話意図はほぼ正確にわかり合える
   発話はまだ的確な表現に至らないことも多い
支援度/支援の内容  
基本的姿勢 支援的・好意的
話す速さ・発音等 コントロール不要
トピック/質問 選択の
コントロール
コントロール不要
尋ね方等のコントロール コントロール不要
答えの意図確認の努力
単純な答え 
複雑な答え

努力不要
努力不要
話題の範囲 範囲を限定せず
参考:やりとりのレベル 歓談レベル (議論もできる)
やりとりの滑らかさ
単純な答え 
複雑な答え 

スムーズ
総じてスムーズ
発話のわかりやすさ
発音・語彙の正確さ

意図伝達の正確さ
(複雑な答え)

聞き取りやすい/外国人のくせもほとんど気にならない
語彙もほぼ正確である
細部にわたりしっかり意図を伝えられる
コミスト 知らない語彙や事柄が出てきたり、言いたい言葉が出てこなかったりするようなときでも、会話の中で自然に対処・修正して流れを滞らせずに会話を続けられる
参考:その他の特徴 文法・構文的に不正確なものが交じることもある(意図の伝達にはほぼ支障がない)
答えの文のレベル 談話レベル

 

資料3. 日本語面接シート 外部用

氏名   面接者   日付  

 0.あいさつ

言い換え 備考
名前   T □お名前 教えていただけますか  
表記 V □どんな字ですか?
(ロシアなら、どんな意味)
 
現住所 住所 T □今どちらにお住まいですか
□うち/住所、どこですか
 
手段  U □今日はどうやっていらっしゃったんですか
□今日どうやって来ましたか
 
出身地 地名 T □ご出身はどちらですか
□中国/ロシアのどこから来たんですか
□出身地は、どこですか
□黒龍江省、遼寧省、吉林省?
 
位置 U □〜というのはどの辺にありますか
□中国/ロシアの北?南?・・・・・
□(例:北京)からどのくらいですか
 
風土 U □〜はどんなところですか
□例えば、何か有名なものとかありますか?
□〜は今頃寒い?暑い?(気候は?)
★展開質問 例)○○って何ですか?/何度ぐらいになる?等
 
来日月日   U □日本にいらっしゃったのはいつですか
□日本に来たのはいつですか
□いつ、日本に来ましたか
□何月何日、日本に来ましたか
 
家族 構成 T □ご家族でいらっしゃったんですか
□家族一緒に来ましたか
□誰と誰ですか
 
  U □今一緒にお住まいですか  
年齢  U □(例:娘さん)はおいくつですか
□   〃    何歳ですか
★展開質問 例)娘さんは何年生でしたか?/学生さん?お仕事?等
 
日本人 U □ご家族のどなたが日本人ですか
□家族、だれ、日本人?・・・・・
□お父さん日本人?お母さん日本人?
 
趣味 有無
内容
T

U
□何かご趣味はありますか
□〜さんの趣味はなんですか
   ★展開質問 例)誰と?いつから?どんなこと?
趣味ナシの場合:○○は好きか    例)スポーツ・読書
       よく○○はするか    テレビ・編み物
 
仕事 有無 U □今、お仕事は何をなさってるんですか
□仕事、何ですか?
退職者・主婦・学生等の場合:以下質問を適宜変えて聞く
 
内容 U〜V □どんな仕事/会社/お店ですか?
どんなものを作って/売ってるんですか?等
★展開質問 例)どうやって/どうして〜するんですか?等
 
勤務 U〜V □お仕事はお忙しいですか
□休みはありましたか?仕事は何時から何時? 等
★展開質問 例)残業はどのくらいあった?長期休暇はどのくらい?
 
余暇 V〜W □アフター5はどのように過してらっしゃるんですか?
□お仕事のあとは何をしますか?
□例えば、飲みに行ったりしますか?
 
就業   □今の仕事に就いたきっかけ経緯を教えてください。
□どうして今の仕事を始めたんですか
□どうやって仕事を探しましたか
 
  □どんなときにやりがいを感じますかor転職したいと思ったことは?
□この仕事をやっててよかったなあと感じるのは?
□この仕事は好きですか?どんなところが?(逆も)
 
文化差   V〜W □日本に来てカルチャーショックを感じたことはありますか
□日本と中国で生活習慣や考え方がずいぶん違うと思ったことありますか
□日本に来て一番驚いたことは何ですか?
≪相手から出なかった場合≫→日本語トピックへorテスターからふる
トピック 例)「教育事情」成績公表・先生の違い
「親との同居」、「結婚」夫婦別姓
「交際事情」割り勘・金の貸し借り・先日はどうも
「初対面での質問」年齢・給料額
・●●って聞いたことありますか/知ってましたか
・中国では●●って聞いたんですけど、本当ですか
  例)○の場合はどうですか?△の場合は?
 
日本語 レベル W □ご自分で今の日本語のレベルはどのくらいだと思われますか
□〜さんの日本語は、今どのくらいですか
□例えば、初級とか中級とか上級とか
 
学習法   □どんなやり方で勉強して今のレベルになったんですか
□どんな工夫をして勉強してきたんですか
□これまでどうやって日本語を勉強してきたんですか
 
弱点   □今日本語に関して困っていることはありますか
□具体的にご自分の弱点とか・・・
 
困難   □最初の頃、言葉が通じなくて困った経験はありましたか
 で、その時はどうやって切り抜けたんですか
□日本語がわからなくて困ったことはありますか。そのときどうしましたか
 
言葉外   □言葉の問題以外で困ったことはありましたか
□大変だなと思うことは日本語の他に何かありますか
 
時事   W □新聞やテレビはよくご覧になりますか?最近気になったニュースとかってありますか?
トピック例)子供手当、たばこ税、赤ちゃんポスト
 

※欄には目安となる水準を示した

《質問例》
「文化差」
・どんな人と、どんな場面で、どんなときに、どうやって・・
・そのときどんな気もちがしましたか 
・その背景にはどんな事情があると思いますか 
・この習慣について最初はどう思いましたか+今はどうですか
・中国ではどうしてそうするんですか/しないんですか
・日本人はどうしてそうする/しないと思いますか
・中国から来たばかりの友人が怒っていたら、どう説明する?
・中国のやり方と日本のやり方と、どっちがいい?どうして?
「時事」
・どちらに賛成ですか? どうして?
・中国ではどうですか

一言コメント

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