[kodomo-ml 862] 豊田市・保見団地事件の背景
島本篤エルネストです。複数のメーリングリスト等に投稿します。
中日新聞(1999.06.08)に、愛知県豊田市の保見団地を舞台に、一部日本人がブラジル人住民と対立しているとの話が掲載されました。
その後、インターナショナルプレス・スペイン語版(1999.06.19)に、同事件に関するブラジル人記者の記事が載りました。さらに、現地ブラジル人の生活環境の実態をよく知る人から事情を伺うことができました。
情報としては不充分ですが、何かが起こってからでは遅すぎます。
詳しいことが分ればまたお知らせします。
まずは事件の発端から。
(中日新聞)
> 多くのブラジル人が入居している愛知県豊田市の保見団地で、住民の一部
>外国人と右翼、暴走族関係者らとの間で緊張が高まっていることから、豊田署
>は七日夜、署員十人で構成する「特別警戒班」を団地内に投入、警戒を始めた。
>同署は背景に、同市内で数年前から続く右翼・暴走族関係者らと外国人の感情
>的なしこりがあるとみており、根深さをうかがわせる“混乱”の解消に頭を痛めて
>いる。
> 同署によると、発端は五月三十一日午後十時五十分ごろ起きた。団地内で
>ラーメンを販売していた車の近くで右翼関係者とみられる約十人とブラジル人
>約二十人がにらみ合ったという。匿名の通報を受けた署員が駆け付けたが、
>騒ぎは既に鎮まった後で、何が原因かは分からなかった。
(インターナショナル・プレス/以下、IPとする)
> 多数の情報によると、騒ぎの発端は次のようであった。ラーメン販売車でラー
>メンを食べていた日本人の一団が、たまたまそこを通りかかった数人のブラジ
>ル人をからかった。数分後ブラジル人たちが現場に戻り、からかった日本人の
>一人を殴った。さらに、ラーメン屋台の自動車を破壊した。
>
> 翌日、鉄パイプ、棒、木刀で武装した日本人グループが、日本人を殴ったブ
>ラジル人を捜し始めた。目指す相手は見つからなかったが、殴ったブラジル人
>の一人の物だと思われる車を滅多打ちにした。
次の個所では、事件の核心に触れる重要な点について、両新聞の報道内容に大きなずれがあります。
(中日)
> 続いて今月五日午後八時ごろから、同じ右翼関係者のものとみられる街宣車
>と暴走族風のバイク約五十台が団地内の道路を流し「ブラジル人出てこい」と呼
>び掛けた。署員ら約三十人が警戒したが、外国人側に目立った動きはなかった。
(IP)
> バス1台、乗用車10台、オートバイ72台から成る極右のコンボイが保見ケ丘
>に現われ、「ブラジル人は日本から出て行け」と叫んだ。
> 180人もの日本人が、手に手に鉄パイプ・木刀・ゴルフクラブ・野球バットな
>どを持ち武装し、日本人を襲ったブラジル人の若者たちを捜して回った。
> 極右集団には、10台ばかりのパトカーと私服警察官が付き添っていた。
> 該当するブラジル人たちは、結局見つからなかった。
IPの報道に間違いが無いとしたら、極右集団は凶器準備集合罪で現行犯逮捕されねばならぬはず。冷静に考えれば確かに、何も持たずに襲撃をかけるとは考えづらい。凶器による犯行の実績もあった。愛知県警は一体、何の目的で現地に展開していたのでしょうか。
次の部分では、IPでは街宣車が燃やされた事実しか取り上げていないので、IP記事は省略します。
(中日)
> しかし、六日午後十時二十分ごろ、一連の騒ぎに全く関係がなく、たまたま同
>団地に近い路上に駐車していた別の右翼団体の街宣車が何者かに放火され、
>全焼した。同団体の関係者十数人が付近に集まった一方、現場から北西約五百
>メートルのコンビニエンスストア駐車場に外国人たちが集まる騒ぎになったため、
>県警機動隊など警官約八十人が緊急出動。一部は明け方まで付近で警戒を続
>けた。
>
> 同署は放火事件の捜査を進めるとともに当面、連日午後七時から深夜まで団
>地内での警戒を続けるほか、騒ぎの関係者にも呼び掛けて再発防止に努める。
>ただ、同署では「対立は一過性のものではなく、背景に以前からの感情的な対立
>があるのでは」(山本盛義署長)と推測している。
>
> 暴走族と外国人との対立をめぐっては、昨年七月、同市の名鉄豊田市駅前で
>帰宅途中の男性会社員(29)に集団リンチを加えたとして、今年二月に傷害の疑
>いで逮捕された暴走族メンバーの少年九人は調べに対し「ブラジル人と思って襲
>った」と供述。事前に「ブラジル人らしい」別のグループとの衝突があったことが
>分かった。一九九六年にも、保見団地で右翼関係者と外国人の間でトラブルがあ
>ったという。
これより先の部分で、中日新聞はかなり卑しい報道姿勢を採っています。悪いのはブラジル人で、善良な一般市民には迷惑千万だと強調している。
(中日)
> 十年前から同団地で暮らす日本人の男性会社員は「街宣車が目立ってきたのは
>ここ一週間ほど。何が起きているか分からず、静観するしかない。ブラジル人がす
>べて悪いわけではないが、数年前から団地が悪く言われているだけにかなわな
>い」。同団地に六年間住む日系ブラジル人女性(29)は「先日も、日本人と日系
>人の有志でお祭りを開き、多くの日本人が来てくれ好評だったのに…。お互いを
>尊重しようとしてきたことが(今回の騒動で)台無し」とがっくり。「問題を起こ
>すのは、いつも悪い人たち。日本人から『すべてのブラジル人が悪い』と言わ
>れるのはつらいです」と嘆いていた。
>
>またトラブル・・・ 住民あきらめ顔
> 「街宣車を最近よく見かけるなぁと思っていたけど、なにかあったんですか」
>−。豊田署の「特別警戒班」が七日夜出動したが、約一万千人が暮らすマンモス
>団地の住民の中には「かなり危険な状態」という一方で、冷めた見方をしている
>住民も多い。
> 同団地で暮らす日系ブラジル人の数は推定約三千人。バブル期に企業が日系
>人の社宅として団地の部屋を借り上げたことと、一九九〇年に日系二、三世の定住
>が認められたことで日系人が増え、それに伴い日本人住民との間でここ数年、深夜
>の騒音やベランダからのごみ投棄などのトラブルも急増していた。
>
> 日本人と日系人それぞれの側から関係正常化に向けた動きが昨夏ごろから高
>まっていた中での今回の新たな騒動に、住民らは「またか」と一様にあきらめ顔
>だ。日本人の五十代男性は「(両方から)へんに言いがかりを付けられても困る
>ので、家族には『見ざる、聞かざる、知らざる』にしようと話し合っています」。
これに続く中日の記事は、フレームアップ(でっちあげ)そのものと言えます。『悪い外国人』の話に続けて治安の悪化を訴えれば、読み手はどんなメッセージを受け取るだろうか? 中日はそれを意図しているようです。
(中日)
> これまでも路上に駐車中の車が放火されたり、ぼや騒ぎがあったりと、パトカー
>や消防車が深夜に出動するケースが多かっただけに、別の男性は「当初は“日の
>当たる高台の団地”だったのに、今は一人で夜歩くのは危ないほど、治安が悪化
>してきている」と指摘する。
現地ブラジル人の生活環境に詳しいある日本人は、一部ブラジル人と極右日本人が衝突するそもそもの原因は、トヨタ自動車及び豊田市の無為無策と、移住労働者搾取の放置にある、と語ってくれました。
下請け・孫受け工場が、派遣業者が違法な男女賃金差別、労災保健未加入など違法行為を繰り返しても、製品さえきちんと親会社であるトヨタの工場に収めれば、一切追求されない。
子どもたちの教育に関してはさらに悲惨で、全住民一万人の実に三割にあたる三千人ものブラジル人が入居しているにも関わらず、豊田市は日本語教室一つ設置しようとしない。追い詰められたブラジルの子どもたちがどんどん小学校・中学校を退学していく事実にもまったく無関心である、という。
行政から完璧に見放されている彼らに対し、「ごみの捨て方がなっていない」等と非難する事から始めるのは道義的に正しいのか?
産業革命期のマンチェスターを連想させるかくも劣悪な状況に置かれている彼ら
ブラジル人に必要なものは、警察官の増員なのでしょうか?
(中日)
>同団地の四自治区でつくる「保見ケ丘を明るくする会」では「かつてなかった一触
>即発の状況で、自治区の能力を超えている」と危機感を募らせている。
情報では、「保見ケ丘を明るくする会」は、もうこれ以上外国人を保見に入れるなと、正式に県及び住宅公団に申し入れています。
これほど明確な外国人排斥運動はありません。にも関わらず行政・警察・報道機関は一丸となり、事の本質を覆い隠そうとしている。なんと情け無いのでしょう!
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ERNESTO, ciudadano de Kawasaki.
ernesto@iea.att.ne.jp
organizador de LatinoAmerica Mailing List
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