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巻頭言 「同声同気」創刊によせて
こんなところ・あんなところ・どんなところ?
 関東地方 その1―神奈川県―
 足立区立第四中学校(夜間学級)
研修会情報
*平成6年度適応促進対策研修会
*平成6年度文化庁「日本語教育研究協議会」
*平成6年度厚生省「自立指導員研修会」
教材・教育資料紹介
行政・施策
*中国残留邦人支援法
*中国帰国孤児生活実態調査結果
*特別身元引受人制度の改善について
*就学援助
伝言板

「同声同気」創刊によせて

中国帰国者定着促進センター 教務課長 小林 悦夫

 中国帰国者教育は、定着促進センターの開設によって本格化し、自立研修センターの開設によって整ったと言われますが、厚生省が帰国希望者の引き揚げを平成8年度までに完了することをめざして次々と新たな施策を打ち出している現在、新たな転換点に立っていると言わなければなりません。
 定着促進センター開設から10年、自立研修センター開設から5年以上にわたって続けられてきた試行錯誤の中からは、単に中国帰国者だけでなく、日本に定住する外国人に対する教育に共有できる多くの貴重な成果が生み出されてきました。しかし、中国帰国者にとって日本語や日本の文化の学習が生涯学習的に継続されていくものであるということが認識されていたにもかかわらず、帰国者教育は従来、帰国当初の経済的自立を偏重したサバイバル教育が中心だったことも否定できません。それぞれの地域社会での、帰国者一人ひとりの生活条件に根ざした、生涯にわたって続けられる学習を支援するような、新たな学習支援システムが考えられるべき時が来たと言えるでしょう。
 中国帰国者の学習においては、学習者の年齢層や階層も他分野の学習者に例を見ないほど幅広くなっている上に、居住地域も全国に散らばっていること、さらに学習内容が地域社会での生活全般にわたっているということがその特性として挙げられます。このような中国帰国者の学習の多様性に対応して、その学習支援に直接間接に携わる人々も大変多様な地域、分野・領域、年代、立場から成っています。このように多様で地理的にも分散している支援者=指導者が、自らの能力を向上させ、その結果として帰国者教育全体の質を向上させていくには、互いに孤立せずにネットワークを形成して結び付くことが必要であると考えます。
 ここで言うネットワークとは、自立した組織・グループまたは個人が自主的に結び付き、互いに個性を尊重し依存し合いながら、かつ、自己を主張し、体験や知識を発信し合うことによって、単に情報の交換を行うだけでなく結果として新たな価値を生み出していく結び付きのことです。
 このニューズレター「同声・同気」は、そのような指導者相互支援ネットワークを形成していくための主要な媒体として企画されたものです。構成員としては、帰国者教育に関わる個人や組織、すなわち、定着促進センター、自立研修センター、自立指導員、身元引受人、県単事業やボランティア主催の中国帰国者向け日本語教室、、中国帰国者児童生徒の受け入れ小中学校、・高校(研究指定校を含む)、夜間中学校、国や自治体の関係窓口、その他ボランティア団体やグループ、関連する専門的研究機関や専門家等が想定されるでしょう。そして、このネットワークの構成員がそれぞれの身近な地域や分野でのネットワーカーとなり、中国帰国者の学習支援の裾野を拡大していく働きが期待されています。
 ネットワークとは、何よりも、互いの自主的な発信から成り立つものと言えるでしょう。気後れすることなく、また、他からの批評を恐れることなく、紙面を通じて、いろいろな地域、領域で抱える問題や取り組み、その他共有したい情報を発信されることを心より願っています。

こんなところ・あんなところ・どんなところ?

「関東地方 その@-神奈川県-」

1.中国帰国者のための学習機関

 神奈川県には、国または自治体による帰国者のための学習機関が2カ所あります。一つは「(財)国際女子研修センター」が運営にあたっている「神奈川中国帰国者自立研修センター」です。このセンターの6カ月コース(入門・2クラス・週2日)と一年のコース(中級・1クラス・週1日)は県の事業委託を受けているもので、8カ月のコースは国の委託を受けているものです。
 もう一つは「神奈川・横浜帰国者センター」です。こちらは、社会教育事業の一環として帰国者の日本語教育、生活相談の教室を開いています。日本語講座、日本語夜間教育、子弟補習授業等、日本語教育にかかわる部分は横浜市の補助事業として、また社会教育、生活相談は、県委託事業として行われています。このセンターは、「(社)神奈川中国帰国者福祉援護協会」が委託を受けて運営にあたっています。
 また、上記以外で、県・横浜市とも2各1名ずつの生活相談員が常時生活相談にのっています。

2.神奈川県内中国帰国子女研究協力校

 ★横浜市立港中学校

   〒231 横浜市中区山下町241番地
   TEL 045ー681ー3618

 ★横浜市立元街小学校

   〒231 横浜市中区山手町36番地
   TEL 045ー641ー0932
 ※なお港中学校出は、平成7年1月31日に「中国帰国孤児・外国人生徒教育研究報告会」を開催します。

3.その他

 県下には様々な中国帰国者向け、または中国帰国者も受け入れている日本語教室や支援組織が数多くあります。以下に今私たちの手元にある情報を紹介します。
 なお、これ以外の教室や機関等についても情報があれば是非お寄せ下さい。

 ★(財)神奈川県国際交流協会

   〒231 横浜市中区山下町2
   TEL 045ー671ー7012・7070
 「かながわ・ことばのちず」を8カ国語で発行しています、。これは“日本語を勉強したいとき、病気になったとき、いろいろな相談をしたいとき、国の食べ物を食べたいとき、あなたの子どもに母語を伝えたいとき”などの相談先が紹介されています。

 ★ソナの会

   〒221 横浜市神奈川区鶴屋町2ー24ー2 神奈川ボランティアセンター気付
   TEL(呼) 045ー322ー8859
 この会では「神奈川日本語教室マップ」という冊子を発行しています。ここには、県内の日本語教室、学習補習教室、国際協力・支援団体等が地図入りで紹介されています。

 ★(財)横浜市海外交流協会

   〒231 横浜市中区山下町2 産業貿易センタービル3階
   TEL 045-671-7128
 当協会発行の「日本語ボランティア教室マップ」には横浜市内にある18グループの日本語教室が紹介されており、地図とともに連絡先、場所、時間などが、わかるようになっています。
 なお、日本語ボランティア教室の情報提供先は、下記の通りです。
 ●緑国際交流ラウンジ
   〒227 緑区藤ヶ丘1-14-95 藤が丘地区センター内
   TEL 045-971-2040
 ●保土ヶ谷区国際交流の会
   〒240 保土ヶ谷区岩間町1-7-15 岩間市民プラザ1階
   TEL 045-337-0012
 ●横浜市海外交流協会
   横浜国際交流ラウンジ情報コーナー
   TEL 045-671-7209

足立区立第四中学校(夜間学級)

所在地:東京都足立区梅島1-2-33
TEL:03-3887-1466
設置月日:昭和26年7月
 東京都内にある8校の夜間学級の一つであり、最も早く開設された。戦後間もなく転補された伊藤泰治校長は足立区周辺にいる戦災孤児等を集め二部授業として夜間に学ぶ場を保障し、区長に陳情を繰り返し、ついに昭和26年開設にこぎつけた。その後、昭和34年には完全給食が実施された。
 昭和40年代の半ばころから、韓国、さらに中国からの引揚者、およびその子女で入級希望者が増加してきた。日本語の能力が不十分で、一般の学習にすぐには適応できないので、日本語の特別授業が必要なことから、その対策として「日本語学級」が開設された。その後、特に中国からの引揚者とその子女がますます増加してきた。
 現在夜間学級(日本語学級)の対象は、「学齢を超過しており、義務教育が未修了である者」「海外からの引揚帰国者(及びその子女)又は外国人等で、学齢を超過している義務教育相当の未修了者」(東京都教育委員会)となっている。平成6年11月現在、足立区立第四中学校(夜間学級)には、83名の生徒が学んでいる。そのうち、59名が引揚者とその子女(配偶者を含む)である。
 本校には、日本人はもちろん、中国人、朝鮮人、ベトナム人、タイ人の生徒が在籍している。日本語学級は、日本語の能力に応じて5クラスにわかれて学んでいる。4月から新年度が始まるが、9月・10月など年度途中からの入学者も多く対応に苦慮している面もあるが、何とかスムーズに日本の社会に適応し生き生きと生活できるよう努力している。また、ほとんどの生徒は、昼間、仕事を持っており、厳しい労働の後、5時半からの授業にかけこんでくるのである。授業は、毎日5時半から9時まで、4校時行われている。2校時の後、給食をとって、後半の2校時にのぞむのである。放課後は、バレーボールやバスケットボールに汗を流す元気者もいて体育館に笑いがおこる。
 年間行事としては、遠足・文化祭・バレーボール大会・バスケットボール大会がもたれている。特に文化祭では、中国帰国者が中心となって得意の水餃子を作り、みんなで食べている。これは地域の方々にも好評で毎年期待されている。
 最後に、中国帰国者の作文の一部を紹介します。「私は中国人で、今年61歳です。私の妻は日本人です。妻は1986年に子供を二人連れて妻の祖国−日本に永住しに来ました。私は1989年3月に中国から日本に来ました。
 四中二部では、日本語の勉強だけではなく、音楽・美術・技術・体育等の科目があります。四中二部に入ってからとてもうれしかったです。学校で先生が生徒と皆一緒に勉強をして、ご飯を食べて本当に大きな家のように思われます。」(希望の架け橋−卒業文集より)
足立区立第四中学校教諭・夜間学級担当 近藤順一

<研修会情報>

平成6年度適応促進対策研修会 [主催:厚生省]

95年2月開催予定定着促進センター・自立研修センター指導員を対象としています。

創刊準備号の発行からこれまでに次のような研修会が開かれました。
@日本語教育研究協議会分科会
[主催:文化庁]8月18日(東京)、(大阪)分科会の一つとして中国帰国者に対する日本語教育が取り上げられました。→4ページに参加者の感想文があります。
A[これからの日本語教育を考える]シンポジウム
[主催:文化庁]8月19日(東京)、26日(大阪)
 テーマは「地域国際化と日本語教育」でした。
B自立指導員研修会[主催:厚生省]
 全国を4ブロックに分けて、開催されました。
9月19日、20日(東海・近畿・中国ブロック)
10月3日、4日(関東・甲信越・北陸ブロック)
10月20日、21日(北海道・東北ブロック)
11月1日、2日(四国・九州ブロック)
→5ページに参加者の感想があります。
C日本語ボランティア講習会[主催:東京日本語ボランティアネットワーク]
9月30日〜12月2日の全10回(東京・山形)
 ボランティアと日本語研究者、各分野の専門家とが学び合うための講習会。日本語教室の状況に合った活動や指導法について考える「日本語教授法講座」と外国人の置かれている立場や状況を認識し、支援するために役立つ知識を増やすための「相互理解講座」が開かれました。
 このうち後者では「中国帰国者の定着問題と支援の体制」も取り上げられました。
〈問い合わせ先〉東京日本語ボランティア・ネットワーク
〒162東京都新宿区神楽河岸1−1東京日本語ボランティア・センター気付
※電話での問い合わせには応じられませんのでハガキ、手紙等でおねがいします
D第40回全国夜間中学校研究大会[主催:全国夜間中学校研究会]
12月7日、8日(東京)
 「夜間中学校の実態から教育の課題を明らかにし、義務教育未修了者の学ぶ権利を保障しよう」という研究課題のもとに開催されました。分科会では、「夜間中学校増設運動・PR活動・教育条件」、「教育内容・授業」、「学校行事・特別教育活動」、「在日韓国・朝鮮人教育」等と並んで「引揚帰国者・定住外国人教育」の中で帰国者に関する問題も取り上げられました。
〈問い合わせ先〉東京都墨田区立曳船中学校夜間学級教頭 中田
〒131東京都墨田区文花1−18−6TEL 03−3617−0264〜5
 私達が把握できるのは、今のところどうしても東京近辺のものになりがちです。もっと、いろいろな地域の情報を入手できればと思います。

研修会に参加して

1.平成6年度文化庁「日本語教育研究協議会」第4分科会「中国帰国者に対する日本語教育」

 中国帰国者を教えていると、ことばの学習と社会への適応とが表裏一体となっているのを実感します。だからこそ学習者を励ますような授業をと思いつつ、「わからない」という声を残すばかりで、力不足を嘆いておりました。しかし、教師の力不足だけでなく、学習者自身の適性の問題もありますし、受けた教育や年齢が著しく異なる学習者を一つのクラスで教えなければならない難しさもあります。さらに、なぜもっと生活の中で学ばないのだろうか、教科書の内容を理解させるのに忙しい授業のあり方が学習者の意欲をそいでいるのではないか、という思いもありました。
 そこで、パネリストの「“どう教えるか”から“何を、何のために教えるか”へ」、「学び方を学ぶ授業を」との発言と取り組みの報告には、大いに示唆を与えられ、力づけられました。
 ところで、今回改めて、中国帰国者の日本語教育に携わっている教師がそれぞれ同じような悩みを抱えていることを知りました。また、それぞれの問題意識や努力が、教室の中にとどまりがちで、それらを結集するリーダーシップが発揮されにくい点でも共通しているように思いました。こうした状況を考えると、まず必要なのは職場の内外のネットワークであり、それが会の最後にパネリストと参加者に確認されたのはたいへん意義のあることだったと考えています。(東京都中国帰国者自立研修センター武蔵野教室永田和子)今回の大阪大会には、多くの期待、日頃抱いている疑問点の指針となるもの、それにも増して現場からの生の声を聞きたくて一番前の席で参加しました。
 分科会では5人の先生の発表がありました。帰国者教育の現状、受け入れ体制の歴史、これらは初めて帰国婦人家族を迎え入れた私たちにも参考になりました。また、一次センター(4ヶ月)の私たちは、大阪YWCAの発表で、学習者と地域との異文化交流、非識字者の抱える問題と指導のあり方等を聞いて、本当にその通りだと拍手を送っていました。それから大阪センターの、日本語と生活部との基本的・理論的な話し合い、これらがうまくいかないと帰国者の生活向上は望めないとのお話、同感です。夜間中学の先生の勇気ある発言も忘れられません。また資料として配られた目標構造表も、指導の参考となるものでした。
 また、後半に、私たちの意見交換の場があり、皆それぞれに自分もこの会に参加したという充実感がえられたことはよかったと思います。(福岡中国帰国者締着促進センター 西山照子)永田・西山先生から以上のような報告をいただきました。しかし、発表が1次2次センターからの報告中心だったため、地域のボランティアの方からは「縁遠い話ばかりだ」との批判も出され、より現実的な問題提起の必要性を痛感させられました。(所沢センター 佐藤・安場)

東日本地区発表者
 ・千葉自立研修センター 狩野朝子
 ・中国帰国者定着促進センター 平城真規子
 ・塩崎日語学校 山内摩耶子
 ・墨田区立曳船中学校(夜間部)渡辺泰文
西日本地区発表者
 ・堺市殿馬場中学校(夜間部)加納洋子
 ・大阪YWCA専門学校 内藤路美
 ・(社)大阪中国帰国者センター 西山博子
 ・中国帰国者定着促進センター安場淳子

2.平成6年度 厚生省「自立指導員研修会」

 去る10月20日、21日の二日間岩手県盛岡市のひまわり荘で、北海道・東北ブロック自立指導員研修会が開催されました。各県から自立指導員14名、県担当職員11名、厚生省社会援護局中国孤児等中国孤児等対策室の職員2名、そして講師2名の計29名が参加しました。
 1日目は、「中国帰国者の現状及び今後の援護施策について」@雇用主との信頼関係の構築と指導員の関わり方A職業(就職先)選択の際の助言、援護のあり方B日本語習得との関係(就労を優先した方がいい場合の例)、Cグループが「その他」@社会制度や生活習慣などの違いの理解のための工夫A関係機関(職業安定所、福祉事務所、ボランティア等)との連携、役割分担等B身元引受人、親族との連携。各グループ毎に討議、意見交換が行われ、その後全体会でグループ討議の内容について発表しました。先に岩手県一関市福祉事務所の千葉琢郎氏から「仕事を通じての中国帰国者との関わり」と題して講義があり、次に中国帰国者定着促進センターの小林悦夫氏から「日本語指導について」と題して講義がありました。最後に質疑応答で、二日間の研修会が終了したのです。
 今回の研修会に参加しての感想を述べてみます。私は、自立指導員として日本語教室で言葉を指導していますが、異文化の人たちと実際に関わってみて、想像以上に難しさを感じていました。今回の研修会は、各県の自立指導員が現在抱えている諸問題について話し合う場になるので、とても良い機会を与えられたと思いました。私はCグループの討議に参加して、中国帰国者の実情についていろいろなお話を聞きました。その中で、「帰国者を最低3年間はどんなことがあってもじっと忍耐し見守る必要があるのではないか」との意見が出されました。その時私自身、はっとしたのです。異文化の人たちを早く日本の生活に慣れさせ、早く日本語を習得させようと焦っていた自分の姿が浮き彫りになったからです。自立を支援するためには、やはり時間が必要なことを教えられました。「日本語指導について」の講義で、小林先生はこう語られたのです。「帰国者に対する日本語指導が、学習者は生活者であるという視点に立ってがくしゅうの支援をするのが、あるべき姿に近い」と。この言葉を聞いて、日本語指導に対する私自身の、これまでの迷いが一気にふっ切れました。今回の研修会を通じて、異文化の人たちを理解するには、言葉や生活習慣を含め多くの時間が必要なことを再認識しました。初めて参加した研修会でしたが、収穫が多く関係者各位に深く感謝申し上げます。最後に小林先生の言葉を引用して終わりとします「
異文化の中で、帰国者も日本人も変わらなければならない。」(岩手県一関市自立指導員 佐々木裕子 )

教材・教育資料紹介

『日本語を学ぼう2』

文部省 ぎょうせい 平成5年 1100円
 これは国内の小学校に在籍する外国人子女のための教科書で、おととし出された『にほんごをまなぼう1』(教師用指導書付き)の続編です。
1が来日直後の児童を対象にしたサバイバルレベルのものであるのに対し、2は教科学習に適応する準備のための教材になっています。(算数、理科、社会の4年生までの指導内容から代表的な学習項目を選択、学年順にほぼ配列。4年生までの漢字使用。初出にルビ付き。各課の終わりに児童の日常生活に密着した文型別例文集付き。)
「取り出し学級」での日本語学習は児童の精神衛生上のストレス発散、解消の場でもあることを考慮し、楽しい内容になっています。

『外国人留学生とのコミュニケーション・ハンドブック―トラブルから学ぶ異文化理解―』

大橋敏子他 アルク 1992年 1900円

 異なった文化を持つ人々との付き合いにおいて、日本的な見方からすると、まったく思いもよらない誤解やトラブルが教室でまた日常生活の中でよく起こります。このような状況において大切なことは、どちらのやり方、考え方が正しいのかを決めることではなく、その行動の規範となっている文化や社会についての理解を深め、その上でお互いにどうしたらよいのかを話すことだと思われます。
 このハンドブックは異文化を持った人々とスムーズに関わるための方法を考えるために、実際のインタビューを通じて集められた30のケースを取り上げてあります。30のケースは[状況説明][解説][アドバイス]で構成されています。また、これらのケースの理解の助けになる背景的説明や情報をコラムとしてまとめています。
タイトルには留学生とありますが、帰国者を指導する教師の異文化に対する目を養うためにも大変参考になるハンドブックです。
(帰国者対象の同様のものには『入郷随俗』がありますが、こちらは絶版になっています。)

『異文化理解のための日本語教育Q&A』

 文化庁文化部国語課 平成6年 大蔵省印刷局 1500円

 本書は、「日本語教育においてあまり言及されることのなかった“文化的側面”について多角的にわかりやすく解説したもの」というように、日本語を学ぶこと、教えることは、異文化を理解するものであるという、日本語教育に関わる者にとって欠かすことのできない視点を示しています。
構成は、第1章「言語教育における文化の意味・定義」、第2章「教師の気づき」、第3章「学習者の気づき」、第4章「日本語学習者が間違いやすい文法項目の内容と背景」、第5章「教材の考え方、利用の仕方」、第6章「体験学習」となっており、全編Q&A方式で読みやすくなっています。本書の視点は、特に中国帰国者の教育に携わる者にとって重要な視点でしょう。ぜひご一読を!

中国引揚者大学受験資料

都立深川高校作成

 この資料は、中国引揚者子女の大学受験に特別枠を持っている全国の大学について、都立深川高校進路指導部の本郷先生が、その実施要領をまとめたものです。これは毎年度改定されます。
★問い合わせ先:東京都立深川高等学校進路指導部 TEL03-3649-2101 FAX03-3646-4816

『中国帰国者定着促進センター 紀要』第2号

中国帰国者定着促進センター教務課編 1994年
連絡先:同センター教務課紀要編集委員会
TEL:0429-93-1660

 所沢センター外部からの投稿も含めて、内容構成は次の通りです。
 カリキュラム開発/センター中学生クラスの教育目標構造化/帰国婦人コースのための状況分析調査/小中学生クラスの学校編入の現状/プログラム開発の手順/教科書読解のための初級指導/ボランティアとの交流活動事例研究および実践報告/2次教育機関におけるシラバス/場依存・場独立認知スタイルの理論と研究史/センターにおける精神衛生コンサルテーション・サービスの実際と意義について/センター1993年の記録

行政・施策

中国残留邦人支援法について

平成6年4月「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立支援に関する法律」が制定、公布され同年10月1日より施行されました。
これは、今までさまざまな周辺の法律を援用して行ってきた帰国援護行政を、より確かな法律の下で行おうとするものです。内容は13条からなり、第1条にその目的として、中国残留邦人等の円滑な帰国促進と帰国後の自立支援をうたっています。
第6条から第12条までが永住帰国援護に関する具体的な施策、第13条が一時帰国援護についての具体的な施策です。第6条から第13条までの見出しを次に掲げます。
第6条〜第12条…各論(具体的施策)
(ア)永住帰国援護
第6条 (永住帰国旅費の支給等)
 ・永住帰国旅費の支給、入管上の帰国手続の円滑化
第7条 (自立支度金の支給)
 ・帰国後の生活用品等の購入資金として自立支度金を支給
第8条 (生活相談等)
 ・中国帰国者定着促進センターへの入所
 ・自立指導員の派遣
 ・中国帰国者自立研修センターにおける指導
 ・日本語習得のための語学教材の支給
第9条 (住宅の供給の促進)
 ・公営住宅への優先入居の措置
第10条 (雇用の機会の確保)
 ・就職のあっせん
 ・職業転換給付金制度の適用
 ・雇用促進事業団による就職時の身元保証
第11条 (教育の機会の確保)
 ・中国帰国者の子女の学校への受入れ
 ・中国帰国孤児子女教育研究協力校の指定
第12条 (就籍等の手続きに関わる便宜の供与)
 ・就籍等の手続きに関する説明会の開催
 ・身元調査関係資料の提供
(イ)一時帰国援護
第13条 (一時帰国旅費の支給等)
 ・一時帰国旅費の支給、入管上の帰国手続の円滑化
それぞれの条項には省令で施行規則が定められ、これは平成6年9月27日付の官報に掲載されました。

中国帰国孤児生活実態調査結果

 新聞報道などですでにご承知のとおり、厚生省は平成6年8月「中国帰国孤児生活実態調査結果」を発表しました。
この調査は、平成5年1月1日までに国費によって帰国した中国帰国孤児のうち、中国帰国者定着促進センターに入所中の世帯等を除いた1,423世帯を対象に、平成5年1月1日現在で調査し、回答のあった1,191世帯(男性孤児世帯551、女性孤児世帯640、回収率83.7%)の状況をまとめたものです。なお、1,191世帯の家族総数は3,868人で、1世帯当たりの平均人員は3.2人となっており、うち帰国後4年未満の者が約半数(47.5%)を占めています。
調査項目は、住居、就労、日本語の習得、生活保護の適用、子の就学、中国にいる家族、親族との関係、帰国後の生活状況にわたっていますが、ここでは就労状況について取り上げてみました。このような調査結果から何が見えてくるか、それぞれの現場の皆様はどのように解釈なさるでしょうか。
帰国後の経過期間別就労の状況
孤児本人の就労の状況を帰国後の経過期間別に見ると、帰国後1年未満の者では23.9%、1年以上2年未満の者では51.9%が就労している。(図1)
就労者の就労時期
調査時に就労している孤児本人のうち53.5%は帰国後1年以上2年未満で就労している。
また、家族も含めた就労者全体では、52.3%の者が帰国後1年未満で就労している。(図2)
就労者の職業
就労している者の職業は多岐にわたっているが、孤児本人、家族全体のいずれも「技能工、製造・建設、労務作業者」が多くなっている。(表1)
調査時の職業への満足度
孤児本人については62.1%の者が、家族全体では66.3%の者が調査時の職業に「満足している」又は「ほぼ満足している」と答えている。(図3)

特別身元引受人制度の改善について

 平成5年12月13日付け厚生省社会援護局長通知によれば、特別身元引受人の負担を軽減することと、そのあっせん事務の迅速化を図るために、標記制度が以下の項目について改善されました。(この制度は、本邦に永住帰国する身元判明孤児および残留婦人等のうち、在日親族がいない者または在日親族による身元引受けが行われない者に対し、在日親族に代わって帰国後の日常生活面での相談・助言等を行う特別の身元引受人をあっせんし、もって帰国の促進および日本社会への早期定着自立を図ることを目的とするものです。)
1 特別身元引受人のあっせんの迅速化
2 帰国希望者本人による旅費申請
3 特別身元引受人のあっせん時期の特例
4 特別身元引受人の負担の軽減
5 定着予定地の決定について

就学援助

 帰国者の自立を促進する目的で、毎年、以下のような奨学金が貸与されているのはご存知ですか?
@高等学校、大学及び専修学校等(専修学校、看護婦養成所その他の養成施設等)の就学援助
A鍼灸師養成施設の就学援助
B日本語等教育機関(大学又は専修学校の専門課程へ入学希望して日本語教育を受けるための教育機関に入学する場合)の就学援助
以上の就学援助を希望される方は援護基金まで文書でお問い合わせください。
<問い合わせ先>
財団法人 中国残留孤児援護基金
〒105 東京都港区虎ノ門1−5−8 オフィス虎ノ門1ビル
 C援護基金とは別に「公益信託森安記念中国残留孤児子弟就学援助基金」でも、大学進学者を対象に就学援助を行っています。こちらも、文書でお問い合わせください。
<問い合わせ先>
安田信託銀行株式会社 営業第一部資産運用相談室
公益信託 森安記念中国残留孤児指定就学援助基金事務局
〒103 東京都中央区八重洲1−2−1

チョットニュース

 平成6年11月3日付の新聞報道によれば、2日、年金改革法が成立しました。その中で、“永住帰国した中国残留日本人については中国に残留していた期間を、国民年金に加入していたが保険料を払えなかった期間として扱うことにし”“その期間については、基礎年金の国庫負担分に相当する3分の1を支給する”となっています。

伝言板

1.準備号をご覧になった方からの問い合わせで多かったものに、高校入試の特別処置に関する情報がありました。等センターで入手している情報をお送りいたましたが、ここではお知らせした内容について簡単に紹介いたします。まず、厚生省資料に「中国帰国者に対する県単事業一覧」というものがあり、この中に高校入試等の特別処置に関する一項があります。これを見ると、特別処置の有無がわかります。ここには具体的な実施内容は明記されていませんが、等センターが知るところは以下のようです。例えばおおさかふでは、@日漢辞典の持ち込みA時間の延長B漢字にふりがなをふる、が行われ神奈川県では@時間延長A漢字にふりがなをふる、また東京都では特別受け入れ枠設置校が13校(平成7年度からは12校)あり、ここでは国語、数学、面接の試験を行い、これ以外の一般入試でも検査方法、時間、会場について特別な処置が行われています。

2.平成6年度1月筑波大学に在籍する帰国者二世6名により、「郷音会」という名の会が誕生しました。現在、会員は7名。大学内の二世たちが知り合う目的でできた会ですが、これからは、新聞「郷音」の発行や親睦活動等を通じて他の大学の二世たちとも交流を深めて行きたいとのことです。

編集後記

・「同声・同気」、いい響きではありませんか!?ほのぼのと夢見る地平はあくまでも穏やか。現実は山あり谷あり−−創刊号にこぎつけるまでもそうだったし、−−があたり前。なればこその「同声・同気」。より多くの方のご参加を心から願いながら、創刊号をお届けします。(T)
・準備号に続く創刊号の船出です。どれだけ意義のある、勇気を与えてくれそうな記事が船積みされるのかが今後の課題です。(W)
・どんな「同声・同気」が育っていくのか・・・。それは私たちにもわかりません。皆さんと一緒にもっともっと楽しいものにしていけたらと思います。(H)