HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第06号(1996年5月13日発行)  PDFファイル
巻頭言 定着地での新たな学習支援体制作りに向けて
こんなところ・あんなところ・どんなところ?
 九州地方 その@ ─福岡県─
地域情報ア・ラ・カルト
行政・施策
研修会情報
教材・教育資料
とんとんインフォメーション
事例紹介

巻頭言

定着地での新たな学習支援体制作りに向けて

 先日の通勤途上、電車待ち合わせの間に、ふいに声をかける人がいます。紺の清掃作業服の上の白いマスクをはずすと、見知った顔がのぞいていました。所沢センターの修了生です。彼女はホーム清掃の手を休めて、私との間で2、3分ほどのやりとりを続けました。たどたどしい言葉で何とか近況を伝えてくれた後、「日本語まだだめです。先生みなさんよろしく」ともどかしそうに笑顔で補いながら挨拶をし、仕事に戻って行きました。
 日々の生活に追われながらも、職場や教室、あるいは家庭で日本語学習を続けている人たちは大勢いることでしょう。生涯学習や生涯教育という言葉を、生活の中でよく耳にし、目にするようになって久しい昨今です。知識や教養を磨くという意味で生涯学習の必要が謳われる一面もあるように思いますが、帰国者にとっての日本語学習は、その出発点においては、自立した生活を営むために不可欠のものであり、その後の人生の各ステージにおいては、自己の可能性を広げる上で切実な意味を持っています。そして最終的には、日本語が限りなく母語話者のように話せるようになりたい、心のうちを自由に表現できるようになりたいという欲求を帰国者が持つとしたら、日本語はまさに「生涯にわたって学び続ける」べき対象なのでしょう。
 帰国者が自らの日本語学習を生涯学習とするためには、帰国者本人の主体的な学びに期待しながらも、周囲がどのような形でサポートしていけるかが課題であり、すでにいくつかの地域で、様々な形での実践がなされてきています。
 この度、平成8年度予算案では厚生省による「フォローアップ講座」即ち帰国後2年目以降の再研修、文化庁による「日本語通信教育」という新たなプロジェクトがスタートし、国、県レベルによる定着後の学習支援体制作りが本格化しようとしています。実際に有効に機能するようになるまでには大変な努力が必要になると予想されますが、このような支援施策の試みは学習権の保障と諸条件の整備の一歩前進という点で大変意義深いものだと思います。特にフォローアップ講座については、まず学習者の実態調査を元に所沢センターや自立研修センターのいくつかが参加し、協働して計画、実施されるということです。 これは学習者のおかれた環境や地域の実情を把握しつつ、様々な課題に応える支援のあり方とは何か、模索していく歩みとなるでしょう。その第一歩を固め、さらに絶ゆまざる歩みとしていくことが、新たな学習支援体制を作り、育てていくことにつながるものと思われます。

こんなところ・あんなところ・どんなところ?

九州地方 その@ ─福岡県─

1)福岡中国帰国者定着促進センター

 ここは、昭和62年4月に開設されました。国の委託を受けて、福岡県中国帰国者自立促進協議会が運営しています。国費での帰国者を対象としており、研修期間は4か月です。ここは宿舎と教室が同じ建物にあり、1日のスケジュールが決められています。学習は月曜日から金曜日までと土曜日の午前中で、日本語指導は昼休みをはさんで1日5時間、生活指導は1時間行っています。また、ここでは毎週1回健康相談日を設けています。このほかにも、外部講師等による講義、及び実習も適宜行っています。幼児、児童については教育委員会及び地域の協力を得て、来日してすぐに幼稚園、小学校へ受け入れてもらっているとのことです。また、中学校へも3日間の体験入学ができるそうです。
 〒811-21 福岡県粕屋郡宇美町大字炭焼1383─1
 TEL 092─933─0540

2)福岡県中国帰国者自立研修センター

 ここは、昭和63年7月に開設されました。県の委託を受けて、定着促進センターと同じく、福岡県中国帰国者自立促進協議会が運営しています。入所対象者は、帰国後3年以内の国費、及び自費帰国者(呼び寄せ家族等)です。研修期間は8ヶ月で、日本語学習は毎週月、水、金曜日の10:00〜15:00まで行っています。ここでは、大学進学を希望する帰国者の子弟に対しては、毎年9月から翌年の1月までの間に一般科目(英語、数学、社会)の補充教育も行っています。その他、生活相談は土、日曜日、及び祝祭日を除く毎日、就労相談は週3日程度行っています。
 〒812 福岡県福岡市東区箱崎7─8─6
 TEL 092─633─3966

3)中国帰国者のための県単事業

@県では中国帰国者と地域住民との相互理解 を促進することを目的として、年1回、県 内5カ所の地区で「中国帰国者ふれあい交 流事業」を行っています。各地区毎に、体 験交流(生け花、陶芸、茶道等)や、料理 作り(餃子作り、餅つき等)、レクリエー ション(ゲーム、卓球、軽運動等)など、 帰国者と参加住民の方々が一緒にできるも のが企画されています。
A福岡県日本中国友好協会に委託し、日本語 教室(生活相談室)を北九州地区、筑豊 地区、筑後地区で実施しています。このほ かにも県では地域との協力で、吉井町、城 浜公民館での日本語教室を開いています。

4)その他の日本語学習機関

 福岡県には日本語を教えるボランティア団体がいくつかあるそうですが、今のところ、その全体をカバーするネットワークはできあがっていないとのことです。今回は、九州日本語教育連絡協議会(右欄に紹介)会報14号に掲載された、ふたつの日本語教室を紹介します。

◆小さな国際交流の会

 この会は、外国人の皆様と「心が通う友達づきあい」を趣旨に1987年7月に発足しました。何かをしてあげるのではなく、対等な立場で心の届く小さな関係を大切に、イベントを通した交流を続けています。1990年には、活動の一つとして日本語教室(会話クラス)がスタートしました。

◆Nパサール日本語学校

 この教室は、1988年7月にNTTの国際文化事業の一つとしてスタートしました。現在、毎週土曜日の午後(2時間)中級クラスと上級クラスの2クラスを開講しています。日本での仕事や生活の中で週末のこの時間を楽しく過ごす、そんな教室にしたいとのことです。

★九州日本語教育連絡協議会

 「1989年6月、九州や沖縄在住の日本語教育関係者があつまり、中央からの情報や各地域の情報連絡の便宜をはかる会」(同会会則より)が作られました。96年4月現在会員数は228名だそうです。年2回会報が発行されるとのことですが、会報14号(96.3.13発行)には研修・研究会のお知らせ、九州沖縄山口各県の活動報告、日本語学習支援ボランティア養成について、等が掲載されています。また、同協議会の田尻氏(福岡大学教授)によると、3月で第一回日本語学習支援ボランティア養成講座が終わり、5月からさらに福岡市主催で3〜4か月を単位としたボランティア講座が始まるとのことでした。将来的にはこのボランティアの方々がネットワークを作り、福岡市内のどの地域でも外国人の日本語学習のお手伝いができるようになればと思っているとのことです。
 入会は随時で、会費(年1000円)を納入すると会報と会員名簿が送られてきます。
事務局:〒810 福岡市中央区舞鶴2─8─15 福岡YWCA内
    TEL 092─741─9251
郵便振替 「01750─0─37184」 口座名 「九州日本語教育連絡協議会」

地域情報ア・ラ・カルト

房総日本語ボランティアネットワーク(千葉県)

このネットワークは、1994年に千葉大学教育学部社会教育研究室が中心となって「房総の識字マップ」を作成したのをきっかけに、調査に参加協力した日本語教育関係者により始められたものです。在日外国人の学習権の保障とか、学習者の母語保障といった社会教育的立場から日本語教育の問題をとらえているのが特色でもあります。 現在約90名の会員が登録されています。 
主な活動としては、
・二ヶ月に一回定例会を開き、日本語教育実践や日本語教育のボランテイア活動に 関する情報交換を行う
・ニューズレター「房総日本語ボランティアネットワーク通信」を発行して、懇談会の情報と問題の提起を行う
等ですが、現在、社会教育研究室では、増加しつつある千葉県内の日本語教育機関の現状を正しく把握するために、第2次の日本語教室・識字調査を開始し、進行中であるということです。また、このネットワークともつながりを持つR千葉県国際交流協会では、県内各地で日本語教授ボランティア養成講座を開くとともに、県内の日本語教育機関に関する問い合わせ、紹介等にも応じているそうです。
千葉大学教育学部社会教育研究室
  〒263  千葉市稲毛区弥生町1-33
  TEL 043─290─2568
(財)千葉県国際交流協会
  〒261-71  千葉市美浜区中瀬2─6
      WBGマリブイースト14階
   TEL 043─297─0245

教室を変える子供たちの力

 板橋日本語教室は、「都内の既存の教室に遠くて通えない」という帰国者自身が、ボランティアとともに、自分たちの居住地に自分たちの手で作った日本語教室です。行政の援助がないため、区内の施設を転々とした末、現在の大原社会教育会館に落ちついて今年で5年目を迎えます。
居住地に根ざした教室として特徴的だったことは、学習者が家族単位で訪れることでした。いくつもの家族が集まり、親も子も並んで同じ教科書を広げ、教室はとてもにぎやかになりました。続々と入ってくる学習者の多様化にともなって、教室形態も1クラス1講座の形からマンツーマン〜グループレッスンへと変化を余儀なくされました。そのうち、親世代が残業などで休みがちになると、子供たちは一人で、あるいは兄弟連れだって来るようになり、教室人口で子供たちの占める割合が大きくなってきました。子供たちは、雨の日も、雪の日も、自転車で元気に集まってきます。宿題や学校のお知らせを持ってきて聞きにくる子、国語の本の漢字にルビを振ってもらう子、また、何も持たずに友達に会うのをひたすら楽しみにして来る子。人数がそろうと皆で 箭子(チェンツ)大会です。ボランティアの手は常に足りない状態で、しかもなかなか来られない親世代の学習を優先させてしまいがちなので、子供たちに全然構ってやれないことが多くなってしまいました。
このような状況を改善するため、子供たちの学習時間を正規の時間とは別に設定しようと試みたこともありました。が結局、そちらの出席率は悪く、うまくいきませんでした。子供たちは、ボランティアや大人の学習者も含め、「みんながいて楽しい」からこそ集まってきているようでした。日本語を学ぶだけでなく、帰国者どうしの心をつなぐ場としての役割を実感させられました。
子供たちの成長に教室はどう関わっていけるのかを考える上で、学校との連携も必要になります。教室では、子供たちの多くが通う区内の小学校の日本語学級の先生と連絡を取り合って、学校見学をさせて頂いたり、学校側から日本語教室への希望を伺ったりしてきました。が、個々の進学問題や家庭の問題へのきめ細やかな対応はまだ不充分です。
そして今教室は新たな変化を迎えようとしています。この数年の間に、小学生だった子は高校生になり、他の帰国者やそれ以外の友達をどんどん教室に連れてきて、仲間を増やす力を発揮し始めています。教室としても地域に活動を広げていきたい今、彼らのパワーはとても重要です。会館のイベントに積極的に参加させて地域との関わりを考えさせると同時に、地域の人々にも帰国者三世としての彼らの存在や文化を知ってもらえるよう努めています。今はまだ教室をたまり場としておしゃべりするのが何より楽しい彼らですが、帰国者全体のために社会を変えていく力をここで育てていってほしいと願っています。 ( 中国帰国者の会 板橋日本語教室 古賀元子)

行 政・施 策

★厚生省から

1 平成8年度中国残留邦人援護対策関係予算について

                    平成7年度予算    平成8年度予算
              総 額  2,956百万円 → 3,169百万円
 1 永住帰国者援護         2,607百万円 → 2,768百万円
  ア 定着促進センターの充実    1,126百万円 → 1,169百万円
   a 日本語講師の増員
   b 身体障害者の介護及び乳幼児の保育のための職員配置(一部施設)
   c 施設の改修
  イ 自立研修センターの充実      378百万円 →   397百万円
      2年目以降の再研修の実施(就労を妨げない夜間及び休日)
        平成8年度は試行的に実施する
  ウ 自立指導員派遣事業の充実     278百万円 →   364百万円
   a 自立指導員派遣回数の増(帰国後2年目)
   b 自立指導員研修会の開催回数の増
   c 主任指導員の配置
 2 一時帰国者援護           305百万円 →   354百万円
 3 肉親調査の継続            44百万円 →    47百万円

2 国民年金の特例措置について

 平成8年4月から、永住帰国された中国残留邦人等の方々に対し、国民年金の特例措置が実施されることとなりました。今回の特例措置により中国等の地域に残留していた期間のうちで昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満の期間が、保険料免除期間の対象とされ、国民年金の額に反映されることとなります。(そのためには、所定の手続きが必要となります。)
また、その期間について年金保険料の追納ができることとなります。
ただし、昭和56年12月以前の期間については、日本国籍を有していることが要件となります。
年金受給年齢(65才以上)に達している方は手続きが遅くなれば年金額に反映される時期が遅くなりますし、まだ年金受給年齢に達していない方についても、追納は5年間の追納期限中に行わなければなりませんので、該当される方がまわりにいましたら、早めに手続きを行うようお話し下さい。
 なお、詳しい内容や手続きにつきましては、近くの社会保険事務所や現在お住いの市町村役場の国民年金担当窓口または都道府県の援護担当課にお尋ね下さい。

3 傷害保険について

 自立指導員、身元引受人、自立支援通訳、調査員(身元未判明孤児肉親調査)の方々につきましては、活動中の不慮の事故に備え、安心して活動に取り組むことができるよう従来より傷害保険の加入の案内をしてまいりましたが、平成8年度においても同様の取扱いとなりますのでお知らせいたします。当然加入は、強制するものではありません。内容としましては、団体普通傷害保険(保険料年額:3,550円〜23,280円)及び昨年度より加わったスポーツ安全保険(保険料年額:1,300円)の2種類の保険があります。
 また、平成8年度からは、スポーツ安全保険に一般のボランティア(自らの意志でかつ無報酬で中国帰国者関係のボランティア活動を行っている場合)の方々も加入できることが確認されました(保険料年額:400円)のでお知らせいたします。なお、詳しい内容や手続きにつきましては、都道府県の援護担当課にお尋ね下さい。

4 就労パンフレット(帰国者を円滑に雇用するために)の活用を

 中国帰国者の方々の安定した就労を困難としている要因としては、帰国者の側では中国との社会・経済体制等の違いから一般的な日本の雇用慣行等を理解していないことがある一方で、事業主の側にも帰国者の置かれている立場や長い間中国で生活してきたことによる慣習、ものの見方や考え方の相違を理解していないことがあります。このような相互の理解不足から生じる些細なトラブルから離職してしまうことにつながることも少なくありません。そのため、事業主や同僚の方々に少しでも中国帰国者のことを理解していただけるよう、パンフレットを作成しました。これは、自立研修センターの就労相談員、自立指導員の方々に活用していただくため、平成4年度に作成したものをリニューアルしたものですが、今回はハローワーク(公共職業安定所)の窓口にも配置して、雇用の拡大に努めています。昨今の雇用情勢の悪化が益々中国帰国者の就労を困難としておりますが、中国帰国者の雇用の機会を確保していくための一助となれば幸いです。

★文化庁から

文化庁は、平成8年度予算案では、下記のような事業を新たに実施することとしています。
(1)中国帰国者に対する日本語通信教育の試行的実施について 
 中国帰国者の第二次大量帰国に伴い、中国帰国者に対する積極的な日本語の学習の支援が求められています。
 本事業は、定着促進センター及び自立研修センター修了後の日本語学習を支援するため、通信教育による日本語教育の試行的実施を行い、帰国者の日本語教育のアフターケアーについて基本的な方針とモデルを作ることを目的としています。内容としては、・定着促進センター及び自立研修センター修了後の帰国者の実態調査、・通信教育教材の開発、・日本語通信教育の実施、・スクーリングの実施を行います。上記事業の成果については、報告書としてまとめ、広く関係機関へ配布する予定です。
(2) 高度情報化に対応した日本語教育の在り方に関する調査研究について
 我が国の経済発展、科学技術の進展及び国際社会における役割の増大などを背景として、我が国に対する外国人の関心がますます高まっていることに伴い、国内外ともに日本語学習者数が大幅に増加し、学習目的も多様化しています。
 このような状況に効果的に対応するためには、衛星テレビ放送や双方向通信をはじめとする次世代の情報通信手段を活用した日本語教育支援システム(日本語学習方法、教材開発、情報提供等)の在り方について検討を行い、指針の策定が必要です。
 このため、専門家による調査研究委員会を設置し、日本語教育関係機関によるマルチメディア教材の共同開発の在り方、衛星テレビ放送やケーブルテレビ等を活用した指導の在り方、国内外への日本語教育の情報提供の仕方等について、現状分析による実態の把握、諸外国の動向、将来の展望等、新しい通信手段を利用した日本語教育の在り方について調査研究を実施します。
 さらに、ビデオCDを作成するとともに、衛星通信を活用した日本語教育の指導内容・方法に関する実証的研究を行い、高度情報化に対応した日本語教育の在り方に関する指針を示すこととしています。
 このうち、衛星通信を活用した事業の概要をご紹介します。
 文化庁の地域日本語教育事業のモデル地区を結んで、衛星通信を活用したセミナーの開催及び日本語教師の研修を行うこととしています。具体的にはメイン会場を東京会場(川崎市を含む)とし、モデル地区の各会場を通信衛星回線で結んで、各会場内の様子をモニターに映し出し、モニター画面を見ながら、協議・研修等を行います。モデル地区はいずれも日本語学習者が多く生活している地域であり、地域の特性に応じた日本語教育の推進体制の確立を目指しています。 現在、モデル地区においては、主にボランティアの日本語教師による日本語教育が実施されていますが、指導内容・方法に関する事項をはじめ様々な課題があります。これら課題を解決するためには、他のモデル地区の日本語教育関係者やセミナーの参加者と協議することにより、解決の糸口を見つけることが最も最適な方法です。
 そのため、双方向通信が可能であり、将来性のあるメディアである衛星通信を活用し、協議・研修等を行い、さらに、この機会を利用して他の地区との連携を図ることもできるようになります。文化庁では,このモデル事業の成果を全国に普及することにより,国内の日本語教育の推進体制を整備することとしています。

研修会

1.平成7年度厚生省「適応促進対策研修会」

・平成8年2月1日
 今回の研修会は東京の厚生年金会館で開かれました。参加者は、定着促進センター、自立研修センターの日本語講師、就労相談員、生活相談員等53名、都道府県職員7名の合計60名でした。研修会では、厚生省による行政説明、帰国者の精神保健面での対応についての箕口雅博先生(精神医学)講義、そして参加者によるグループ別意見交換会が行われ、次に挙げる5つのテーマに分かれて話し合いがもたれました。
(1)定着促進センターにおける日本語指導上の諸問題
(2)定着促進センターにおける生活指導等の諸問題
(3)自立研修センターにおける日本語指導上の諸問題
(4)自立研修センターにおける就労問題
(5)自立研修センターにおける生活指導等の諸問題
以下は、「(3)自立研修センターにおける日本語指導上の諸問題」について出された意見を埼玉自立研修センターの恒川幸雄先生にまとめていただいたものです。
  各センターから提起された共通の問題は、通所生の学力差が大きいので、適切な指導法を模索している点である。学力差の大きい問題と原因は、
T .最近、非識字者とそれに近い学力者の通所生が増加している
U .通所生の年齢差が大きすぎる(65歳から18歳まで)
V .入所時期が各センターとも随時、または月一回だったりで、一斉に同じ内容から始めることが不可能
以上の原因に対し、各センターでは、施設(クラス)や講師数の事情により工夫と努力を重ねている。
T .非識字者とそれに近い学力者の増加について
ア.非識字者とそれに近い水準の入所生には、長期間、入門、初級クラスで学習させる。非    識字者の配偶者(識字者)に家庭で非識字者に教えさせるよう助言しているが、あまり   効果が上がっていない。
イ.文字の読み書き指導より、聞く、話す学習に力を入れる
ウ.非識字者が数名に及ぶときは、非識字者クラスを設け指導に当たっている
U.年齢差の問題点について
ア.高年齢者は、入門、初級クラスで長期間、基礎的内容を学習させる
イ.高年齢の高学歴者には、プライドを傷つけないよう配慮して、基礎的内容を学習させて   いる
ウ.若年層のクラスを設ける場合、個人の学習意欲の差もあるが、学習内容に大体うまく適   応している
V .入所時期の問題点について
呼び寄せ家族のさみだれ式入所に対する解決策には、講師数の増員、教室の増加の要求が あるが、地方自治体の経済問題もあり適切な解決策はなく、各センターでは、同一クラス内 での学力差を少なくするため、年に何回か、入所生のクラス換えを試みている。
@ 各クラスの人数に配慮する
A 本人の希望を尊重する
B 本人の能力を考慮する
以上の三点から、講師が協議して、本人に適切なクラスで学習させるよう工夫してい る。
W.その他
授業の進め方の研究、教材の開発・研究も進め、ビデオ・テープ・自作教材・敬語・丁寧 語の教材開発など、各センターで、学力差を少なくする工夫と努力を重ねている。

2.第41回全国夜間中学校研究大会

・平成7年12月7日、8日
  現在、全国に夜間中学校が34校あります。その34校で組織している全国夜間中学校研究会(全夜中研)では、年に1回の研究大会を開催しています。今回はその第41回大会が広島市の中央公民館で開かれました。その大会の第2分科会では、中国からの引揚者を中心に、帰国・入国者の教育について話し合われましたが、以下は、その時に出された広島、大阪、東京からの報告です。
広島には観音中と二葉中の2つの夜間中学校があります。観音中には以前、100名近くの中国帰国者が在籍していましたが、自立研修センターの設置に伴い、帰国者の生徒は十数名に減ったそうです。しかし、近年再び中国帰国者の増加傾向が見られ、二葉中には日本語指導の講師及び中国人の講師の方が配置されました。その二葉中学の浅田先生からは、代入、変換、結合、完成、応答と名付けられたドリルの練習や、「〜てしまいます」は〈(完了)〉と〈〉のどちらの意味かを尋ねる問題、動詞には何形が入るかを考えさせる問題等、日本語指導に関する報告がなされました。
次に大阪からは守口三中の白井先生が、引き揚げ・帰国者をとりまく社会的環境の報告をしました。全国の夜間中学校に644名在籍する中国帰国者生徒の内、477名(69%)もの生徒が関西に集中していますが、未だに専任の日本語教諭が配置されず困っているそうです。また、新聞からの報告もあり、中国での義務教育未修了「失学」者が毎年1200万〜1300万人(約50% )も出ていることや、学齢(15歳まで)を3歳超えた帰国者が日本の昼間の中学校に入れないでいる記事などが提示されました。日本語指導では、NHKテレビ「大地の子」を教材にしたり、新聞の4コマ漫画に台詞を入れたりと身近な題材が紹介されました。
最後に、東京は、足立四中の関本先生から、足立四中の日本語教育の実践例や日本語到達度評価表、中国語を母語とする学習者が誤りやすい点を指摘した冊子『中国帰国者のための日本語のポイント』 が紹介されました。その冊子では、動詞「つける」「消す」と「開ける」「閉める」の混同や、場所を表す助詞「に」と「で」、目的・対象を表す助詞「に」と「を」、「貸す」「借りる」や「あげる」「くれる」「もらう」の違い、「〜的+名詞」の使い方による混同、友達家族語と敬語の説明などが書かれていました。
なお、この時の記録誌は他の分科会や全体会も含まれますが、一部1000円で販売される予定です。部数に限りがあります。詳しくは、広島観音中の水戸信一先生までご連絡ください。
〒 733 広島市西区南観音3−4−6        観音中学校夜間学級
   TEL    082−232−0458
   夜間直通 082−292−7707
また、本年度の第42回全国夜間中学校研究大会は12月12、13日の2日間、東京墨田区にある中小企業センターで開催します。参加費用は資料集、記録誌代を含めて3500円前後の予定です。どうぞお越しください。(東京都墨田区立曵舟中学校夜間部 渡辺泰文)

3.平成7年度・第8回 「日本語教育学会研究発表会」

・平成8年3月9日
 京都で開かれた第8回日本語教育学会研究発表会において、彦坂萬智子先生が「中国帰国生(中国残留孤児の二世、三世)への日本語教育―国語教育と日本語教育の接点を求めて」という題目で、京都府の高校で中国帰国生に対して行った日本語教育の実践報告を発表されました。この中では高校一年生への現代国語の教育方法や高校二年生への古典の指導の実践例が紹介されています。
連絡先:〒606 京都市左京区岩倉忠在地町        273─1 彦坂萬智子
    TEL 075─781─3063

4.大学入試センター小野研究室研究会

「第2回複数の言語環境を背景に持つ学生の高等教育に関する研究会」
・平成8年3月8日、9日
 昨年度に引き続き開かれた研究会です。日本語以外の言語を母語とする生徒・学生が高等教育を受ける際にどのようなことが問題となっているか、また、そうした困難を軽減するためにはどうすればよいかについて、現状報告と討議が行われました。今年度は、日本人に対する外国語教育や留学生に対する日本語教育についての発表もあり、問題の拡がりを感じさせられました。海外子女教育の分野に遍在する問題を考えると、異なる言語・文化を持つ学生だけではなく、日本人学生や教える側も、相互に考えたり学んだりする必要があることは明らかです。問題解決のための基礎研究が今以上に進んで、そこから得られる知見を指導の現場で生かせるような体制づくりが求められています。
(所沢センター 池上)

教材・教育資料

堺市晴美台中学校 研究概要
  「中国帰国生徒を中心とした国際理解教育の推進」

 これは第5号でも紹介しましたが、堺市から研究校として委嘱を受けた晴美台中学校が、平成5年から7年までの3年間に行った中国帰国者二、三世の教育研究の成果をまとめた紀要で、これから中国帰国者の子弟を受け入れる学校のためのマニュアルとしてもたいへん役立つと思われます。
晴美台中学校では、国際理解教育を進めるにあたって、人権尊重の精神を基盤に帰国生徒を生かした異文化の相互理解を重要な事項としてとりあげています。また、帰国者の子女は日本の生活に慣れるに従って日本語は流暢になっても、学習面での問題は見過ごされがちであること、つまり「日常会話のための能力と学習のための能力は同一のものではない」ことや、「日本語学習はそれのみ独立したものではなく、日本社会とどう関わっていくかといった大きな問題の一部である」といた重要な視点が指摘されています。その他、
・どのように異文化をもつ学生を受け入れるかのノウハウ(例えば、受け入れ時のアンケートによるデータの収集の方法)
・帰国者の子女に実際に日本語を教える際の文型シラバス、教材、教案、実践例
・初級を終わった学生の日本語能力をいかに伸ばしていくか、そのための教材、活動例
・中国帰国者同士の交流の実例
・周囲の生徒への啓発を目的とした活動例(残留孤児が生み出された背景等)
・母語の保存に対する意識化
・教員やPTAの研修
等、多岐にわたる活動実践例が紹介されています。
 連絡先:堺市立三原台中学校 浦久仁子
     〒590-0111 堺市南区三原台1丁12番1号・072-291-0395
      (冊子の送付は送料着払いでお願いします。)

「新しい文型算数」

 算数の文章題を解くためには、計算力の他に、設定を式化する力と日本語文の読解力が必要です。前者の力はあるのに後者の力が不足している子どもたちの場合、読解力がつけば、計算に問題のない範囲の文章題は自力で解けるはずです。この教材は問題文の一字一句にこだわって文意がつかめなくなるのを避け、キーワードを拾い読みすることによって、どんどん文章題が解けるようになることを目指しています。語彙の中国語訳・助数詞表付きです。
 作成:中国帰国者定着促進センター教務課
 発行:中国残留孤児援護基金出版部    
    133ページ、1110円

田路さんの事例 ─A君のその後─

A君は、昨年9月から兵庫県多可郡中町の中学校2年に編入し、元気に通学している
 「同声・同気」第3号で、中学を卒業した16歳の青年の進路について取り上げましたが、編集部では、A君が1年後の今どうしているかと考え、自立指導員の田路さんに電話でお話を伺いました。以下概略をご報告いたします。

・居住地の中学校の校長先生は中国帰国者にも理解のある人だったが(前任の中学校が、中国広東省の中学校と友好関係にあった)、転任して後病気入院中だったため、A君の件についてあまり詳しく知るところではなかった。退院後詳しい事情を知った校長先生は、積極的にA君に接して下さった。一方、A君を受け入れるために教頭先生が他の先生方に諮ったところ、F先生が自分が担当してもよい、ということで中学校に編入できることになった。
・A君が編入した中学校は生徒数500人程度の学校で、学校の雰囲気も良く周囲の理解もある。また、先生方の間に中国語を学習しようという意欲も見られるが、現実には先生方は大変忙しく、なかなかその時間がとれないでいる。現在は校長先生がときどき、田路さんと一緒に中国語を学んでいる。
・A君は今は毎日楽しく通学し、剣道部の活動にも喜んで参加している。ほほえましいのは、学校を休みがちな同級生をA君が毎朝迎えに行き、登校させることに成功したことだ。
・田路さんは週一回学校に行き、時間が許せば通訳したり、時には自身も授業を受けたりしている。

 A君の中学校編入は周囲の熱意によって実現し、支えられています。
  校長先生や教頭先生が自校で引き受けようとした熱意、更に自らが担任しても良いとしたF先生の熱意とクラスメイトの包容力、そして、その学校へご自身もまた足を運んで、時に生徒たちと同じように授業を受け、通訳もし、また時には校長先生の中国語をサポ−トしたりもする自立指導員である田路さんの熱意。考えてみるとA君の編入学は、これらの熱意のいずれが欠けても実現し難いものだったと思います。
  帰国者の青年の第一歩は、時に、おおぜいの人の支援が得られてはじめて実現します。このような現状を、私たちは今一度考えてみるべきではないでしょうか。

お し ら せ

 平成8年度 文化庁日本語教育大会

 例年どおり文化庁の日本語教育実態調査にご協力いただいた機関、団体などを募集対象として、平成8年度日本語教育大会を開催します。つきましては、6月中に募集要項を関係機関、団体に送付しますので、よろしくご応募お願いします。なお、下記の内容に関しては変更する場合がありますので、あらかじめご了承ください。
 
第1日目 
「これからの日本語教育を考える」衛星通信 シンポジウム
 ・講演「インターネットと日本語」
 ・地域日本語教育セミナー
  「地域日本語教育の推進と連携」
 7月31日(水)12:30〜17:00
 昭和女子大学、群馬県太田市会場、山形県 山形市会場、静岡県浜松市会場
第2日目 日本語教育研究協議会
(東京会場・昭和女子大学)
 8月1日(木)10:30〜16:30
       
第3日目 助成研究発表会
(日本語教育学会主催・昭和女子大学)
 8月2日(金)13:00〜17:00
       
第4日目 日本語教育研究協議会
(大阪会場・大阪外国語大学)
 8月23日(金)10:00〜17:00

パソコンネットから(95.12.10〜4.10)

2/1 残留孤児三世 日教組の大会でいじめ体験を告白
2/5 大阪府教委が帰国子女らの高校入試に配慮*
4/7 練馬区豊島園に於いて中国帰国者桜の下で再会

 *大阪府教委は、今春から高校入試に新たな特別措置を決めた。この措置は小論文試験のある総合学科で実施する。対象は、原則として三年以上継続して外国に在留し、日本に来て一年以内の者。使用する言語については府教委の事前の承認が必要だが、特に限定はつけない。府教委が各高校に翻訳要員を派遣し、日本語に訳したものを、各校で基準にもとづき採点する。合否判定にあたっては、日本語で受験した志願者と同等に扱う。試験科目の一つである小論文はかなりの日本語力が要求されるので、外国人の教育を支援する教職員組合等から母国語の使用許可を求める要望が出ていた。(朝日新聞ニュース速報から一部抜粋)

伝言板

 大阪中国帰国者センターでは、中国に教科書を贈るための募金活動を今年の2月より始めました。中国の農村部では小中学校の教科書が3人に1人しか行き渡っていません。中国の教育委員会からフィルムを借り受け、毎年6万冊を北京で印刷し、東北三省と河北省の青竜県(満族の自治区)に贈ります。教科書一冊の原価は、日本円で60円です。この2ヶ月間で、一年分の半分にあたる180万円が集まりました。一年目の今年は、9月には募金を中国に送り、黒竜江省を中心に小学校5年生の算数を贈りたいと思います。皆様方のご協力をお願いいたします。
(大阪中国帰国者センター理事長 竹川英幸)
 問い合わせ先:
  大阪中国帰国者センター 
  TEL 06―309―1652
 募金の送り先:郵便振替口座
 「中国に教科書を贈る運動」
  00920―5―1695

堺市晴美台中学校(10ページ参照)では今秋インターネットのホームページ開設の予定です。
ここは、みんなのスペースです。自由に使えます。何でもお送りください。

編集後記

 ようやくスペースがとれました。ホッ… ネットワークを作りたいと思って始めた同声・同気も、これまで多くの方に支えられ6号の発行にこぎつけました。これからも、より意義のある、楽しいものを皆さんと一緒に作りあげていけたらと思います。皆さんのご意見・ご感想があってこその同声・同気です。是非、お寄せください。