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巻頭言 児童・生徒の受け入れ…私は何年生?
こんなところ・あんなところ・どんなところ?
 中部地方 その2 ─岐阜県─
地域情報ア・ラ・カルト
行政・施策
研修会情報
教材・教育資料
とんとんインフォメーション

巻頭言

児童・生徒の受け入れ…私は何年生?

 12月4日付の毎日新聞に『在日外国人小中学生就学「受け入れ、弾力的に」』といった記事が載っていました。帰国者の二世三世だけでなく、日本語教育が必要な児童生徒は、増え続けているのが現状です。そうした中、記事によると「児童生徒への支援体制が不備であるから、受け入れには一層の弾力化を」との勧告が総務庁から文部省へなされた、とのことです。
 私たちが把握しているだけの事例からでも、この「支援体制が不備」である事実は浮かび上がっています。特に、編入学年を定める際の問題は大きいと言えます。帰国者の子弟の場合、編入学年と関わる要因は日本語力だけではありません。中国での学歴、学力、年齢、生活背景など多様で複雑なものがあります。さらに、日本には「飛び級」制度がないこと、受験との関係、義務教育年齢との関係を考えれば、その子どもが日本の学校に編入できるか、できたとして何年生に編入されるかはその子どもの一生の問題となると言っても過言ではありません。
 受け入れ体制を今までより「弾力的に」できれば、日本語や学科の補習の拡大をはじめ、在籍学年の変更、受験・選抜制度の見直し等が行われる可能性が出てきます。勧告それ自体は歓迎すべきことでしょう。今後どのような施策が施されるのか、見ていきたいと思います。
 同時に、支援する側からの働きかけも今まで以上に重要になってくるでしょう。子どもたちを支援している方々と話す機会があるといつも、それぞれが共通の悩みを抱えていることを知らされます。支援者同士、悩みをシェアし協力し合えれば、問題も解決に向かうのでしょうが、現実はなかなかそのように運んでいません。人の問題か体制の問題か、議論も十分ではありませんが、とにかく、今それぞれが孤立していては、事態は膠着したままです。情報交換にとどまらないネットワーキング、私たち自身も「弾力的に」繋がっていく必要があるようです。

こんなところ・あんなところ・どんなところ?

中部地方 その2 ─岐阜県─

(1).岐阜中国帰国者定着促進センター

このセンターは、平成7年9月に開設されて以来、岐阜県社会福祉協議会が国の委託を受けて運営しています。中国残留孤児、及び残留婦人とその同伴家族が永住の目的で帰国した際、4か月、または2か月間集中的に日本語学習や生活学習をする施設です。月曜日から金曜日までは9時から3時までの日本語学習とその後1時間の生活学習、土曜日は午前中のみで、生活学習や特別学習(日本料理講座、交通講座等)を行っています。また、最近は、地域体験学習として、毎年行われる町の祭典に「水餃子の作り方の実演と販売」コーナーを設置したり、社会見学として「日本の古都を知る」というテーマで京都見学等をするといった活動も行っています。
 〒503-21 岐阜県不破郡垂井町府中300番地の2
 TEL 0584-23-4268

(2).帰国者のための県単事業

・見舞金の拠出

県内に永住、一時帰国した孤児本人及び帰国婦人に対し、見舞金を出しています。 

・自立指導員の派遣 

国の規定では自立指導員の派遣は1〜3年となっていますが、県では2〜5年まで派遣しています。 

・委託事業 

拓友協会に委託し、日本語教室の開設、ふれあい懇談会の開催等を行っています。

  拓友協会によると、日本語教室は月2回、第2第4日曜日(13:00〜16:00)に岐阜市、大垣市、郡上八幡、多治見市の4か所の公民館等で行っています。開講の地域差もあり10名〜25名程度が受講しますが、仕事をしている人や家事に追われる人も多く、またレベル差もあり一斉授業ができないため、あとは自立指導員が必要に応じ支援通訳を交え、各家庭で日本語の指導をしたり生活関連の質問に答えたりしています。定着後1年目の人には週1回程度、それ以降の人には必要に応じて回っていますが、長い人では4〜5年、平均して2年半くらいは回っているとのことです。
 ふれあい懇談会は、年1回1泊2日で行っています。参加者は、帰国者が100名、自立指導員と通訳が15名程で、心身の健康、定着についての話や、意見交換、イベント等を行っています。
 問い合わせ先:岐阜県拓友協会 
  〒500 岐阜県下奈良2丁目2-1 岐阜県福祉農業会館内
  TEL 058-273-9208

(3).(財)岐阜県国際交流センター

 ここでは、日本語を教えている機関やグループの情報など、岐阜県在住の方々のための様々な情報を提供しています。隔月発行の生活情報誌や図書・資料コーナーの他に、隔週更新のテレフォンサービス(中国語:058-277-1015 24時間/年中無休)も利用できます。また、多言語情報サービスカウンターでは、中国語での相談にも応じています(平日9:00〜16:00)。お問い合わせは下記へ
 〒500 岐阜市薮田南5-14-53 岐阜県県民ふれあい会館6F
TEL 058-277-1013
FAX  058-272-8839

地域情報 ア・ラ・カルト>

★「ユネスコ学校」 目黒ユネスコ協会

  ─中国帰国者子女のための日本語教室─

誕生                    
   1986年5月、目黒区の教育委員会から中国帰国子女のための講師をさがしてほしいとの依頼を受けたことに始まった。当時、区内の東根小学校では、隣接する都の施設である東が丘寮に中国残留婦人等の帰国者が急増したことに伴って、多数の児童が編入学し、その対応に苦慮していた。協会は示された条件をすぐ100%満たすことはできなかったが、日本語教育研修講座を開くなど勉強を続けてきた実績もあり、またユネスコ活動として何としてもやらなければと考え(UNESCOは国際連合教育科学文化機関の略)、まずは踏み出すことにした。

その後の歩み
(1)学校内での対応(1986.7)
   週2、3回東根小学校で「取り出し授業」の形で、ことば以前の対応から始まった。例えば、教科書の他、絵本や校歌の練習、中国の歌、なぞなぞ、しりとり…等。
(2)校内活動から地域へ(1987.1以降)
  学校としての態勢が整うに伴い、活動の拠点(教室)を区の施設である東根住区センターに移し、「ユネスコ学校日本語教室」とした。その後中学生も加え、続いて「子供たちの親に日本語を」と成人も対象にして、子供から大人まで広がった。また生活に追われる大人のことを考えて、彼らの住まいである「東が丘寮」の使用を認めてもらい、いわば「出前の教室」も開けることになった。

現状
  区の教育委員会との共催事業として次のような活動をしている。

・東が丘寮(日本語教室) 
  火曜日 17:00-19:00           大人7名位(2グループ)指導者2名
  小学校低学年児童13〜15名 
    指導者1〜2名
・東根住区センター     
  水曜日 17:00-19:00
  小学校高学年児童8〜10名  
  中、高校生7名位(大人が来ることもあ  る) 指導者5名
 ユネスコ会員の大学生が事情の許す限り応援に駆けつけてくれる。全体を通じて、言葉の習得はもとよりだが、日本の社会への適応をいうことを常に心掛けている。
 現場は教室というより昔の寺子屋といった感じ。今ユネスコは「世界寺子屋運動」として発展途上国の識字活動(読み書きできない人を無くす運動)の支援をしている。
「TERAKOYA」も世界的になりつつある。
  目黒ユネスコ協会             〒152 東京目黒区柿の木坂2-19-12   TEL 03-3717-3931 加藤玲子

★新潟県「中国帰国者激励懇談会」

 新潟県福祉保健課では昭和58年から県内在住の中国帰国者の親睦を図るため、毎年1年に1回、一泊二日の旅行を企画しています。これは以前はお花見等日帰り旅行の形で行われていたものですが、よりお互いの親睦を深めようと一泊二日の旅行になりました。帰国者の中には、毎年開かれるこの会を楽しみにしている人も多く、今年は2月12日に開催する予定です。課の担当者は帰国年度や居住地の異なる帰国者同士を同室にする等、この会が帰国者がより広く知り合うためのきっかけとなるように工夫しています。この会に参加した後、電話等で連絡を取り合うようになった帰国者も多数います。
 新潟県福祉保健部福祉保健課 
 〒950-70 新潟市新光町4番地1
TEL 025-285-5511(内線2632)
    担当:高野さん

★所沢センター 中学校一日体験入学

 所沢センターには、日本の中学校編入を希望する二世三世のための「中学生クラス」がある。このクラスでは、中学編入後の様々な困難に自力で対処できるようになる力をつけることを目標としている。4ヶ月の研修期間中には、日本の学校の先生や同級生とコミュニケーションを行うための基本的な日本語の学習、日本の中学校の学習活動に似せた実習(体力測定や社会科見学等)、各教科の学習等をしている。しかし、いくらセンターで日本の中学校の話をしても中国で生まれ中国で育った生徒たちにとっては日本の中学校がどんなところなのか、なかなかイメージできない。そこで、センターにいる間に彼らに日本の中学校を意識してもらい、自分の編入後を少しでも思い描いてもらおうと始めたのが中学校一日体験入学である。
 一日体験入学は第30期(90年5月)から始まり、現在の第50期(96年9月)まで、中学生クラスが編成できたときには欠かさずおこなわれてきた。一日入学を受け入れてくださった中学校は8校になる。始めた当初は、相手の中学校の方も国際交流を意識したイベント的なプログラムで全校生徒をあげての歓迎会を行ってくださるようなこともあったが、こちらの生徒には本当の中学校の様子を知ってもらいたいこともあり、今では転校生が1人クラスに入ってきたというような形で普通に受け入れていただいている。
 当日のスケジュールは、中学校に到着してからまず校長室で挨拶、それから特別教室や体育館等の施設見学、その後決められた教室に1〜2名ずつ入り、簡単な自己紹介をして1時間の授業を受ける。授業後はそのままクラスの生徒と一緒に給食をとる。できれば給食当番等もやらせてもらう。昼休みにはクラスの生徒たちと話をしたり、校庭に出てサッカーやバレーボールをしたりして遊ぶ。午後はもう1時間授業を受け、その後クラスのみんなと一緒に掃除をし、帰りの学活に出る。この一日の間に生徒には、授業の様子を観察する、学校の施設や生徒の服装を見てくる、鞄の中身(持ち物)を見せてもらう、中学生の生活(勉強、趣味、将来、流行等)についてアンケートをとる等といった課題が与えられている。
 センターでは体験入学の準備として、オリエンテーションを行い、各自の課題決定、授業の予習の仕方、給食、中学校の規則等を紹介、指導し、また終わってからは中学校で感じたことや各自の課題をまとめ、父母を呼んで報告会を開く。父母には自分の子供たちが行く日本の中学校に対して関心を持ってもらうとともに、子供たちの報告を聞いて安心してもらうためである。
 生徒の反応としては、漠然とした不安がなくなり、勉強(日本語)はわからないがなんとかやっていけそう、というのがほとんどである。また、この体験入学を機に学習に対する姿勢が変わった生徒も多い。
 今後もこの活動が帰国者二世、三世と日本の中学生双方にとって有意義なものとなるようにしていきたい。

行政・施策

★厚生省から

1.中国残留孤児の肉親捜しのための訪日調査について

 ・中国孤児等対策室では、昭和56年3月以来、中国東北地区(旧満州地区)において、昭和20年8付き9日(ソ連参戦の日)以後の混乱により、肉親と離別して身元を知らないまま中国で成長した、いわゆる「中国残留孤児」を日本に招いて肉親捜しを行っています。今年も、10月24日から11月8日までの16日間にわたり国立オリンピック記念青少年総合センターを主会場として行われ、43名の孤児が参加致しました。
 調査の結果と致しましては、滞在中に肉親が確認された方は3名にとどまりました。他に3名の方々が血液鑑定を行い、この中から身元判明者がでることを期待しております。また、この他に親族関係者と思われる方の申し出により4名の方が対面調査を致しましたが、残念ながら肉親関係は非該当となりました。

 ・訪日調査による面接調査及び肉親関係者との対面調査は、孤児が申し立てた家族構成、離別状況等を確認したうえ、終戦後から保管されている開拓団等の未帰還者に関する資料と、肉親等から届けられている孤児調査の情報、および調査期間中に報道機関の協力を得て寄せられた一般からの情報等に基づいて調査を行います。訪日調査に参加するまでに長い年月を経ているため離別当時には所持していた手がかり資料をなくすなど手がかり資料は極めて少なく記憶も薄れ、一方、肉親関係者の高齢化、死亡等と相まって肉親捜しは年々難しくなっております。
 しかし、戦後51年を過ぎた今日に至っても、中国に残留されている多くの方々から肉親捜しの調査依頼が寄せられています。これは、養父母から臨終まぎわに日本人孤児であることを告げられ、はじめて自分が中国人でなかったことを知った方、また、すでに日本人孤児であることは養父母から知らされていたが、養父母の死亡を契機に、自分のルーツを確認したいとの気持ちが強くなった方、あるいは、自分は日本人であり名前も知っているが、肉親捜しを先延ばしにしている方など、さまざまな理由によります。「自分がどこの誰なのか」、人間として最も本能的に知りたいと願う気持ちの表れに、当室としてはできるだけ応じたいと努力しています。

 ・訪日調査に参加した方は、日中両国政府で日本人孤児であると確認された方ですから、身元の判明・未判明にかかわらず本人が望めば永住帰国ができます。このため、調査参加者には、この機会を利用して日本の生活実態を知りたいとの希望が強いことから情報の寄せられる待ち時間を利用して帰国孤児等が働いている職場見学、帰国孤児宅訪問、永住帰国のためのオリエンテーションなども行っています。今年も、東京都、千葉県、埼玉県及び、神奈川県にある6カ所の企業と7名の帰国孤児の方々の協力が得られ、それぞれのグループ毎に電車やバスを乗り継いでそれぞれの目的地に出掛けました。参加した方々からは日本での生活の一端に触れることができたと好評でした。また、オリエンテーションのプログラムの一つとして、先輩帰国孤児の方の帰国以後自立までの体験談講演を取り入れていますが、これについても皆さんたいへん熱心に耳を傾けていました。

 ・今回を含めてこれまでに27回の訪日調査が行われ、2024名の方が参加しましたが、肉親が確認できた方は656名にとどまっています。当室ではねこれまでに肉親が確認できなかった方々につきましても引き続き調査を行っております。小さな手がかりでも結構です。情報がありましたら是非お寄せ頂けるようお願いいたします。

2.中国残留邦人への理解を深める中央大会
   ─ご存じですか中国残留邦人問題─

「同声・同気」第7号でお知らせしましたように、上記の大会が開催されました。昨年に引き続いての2回目で、一般の方約1000名が参加されました。
今回は、昨年NHKで放映されました「大地の子」で養父役を演じられた朱旭さんをお招きし、収録したときのエピソードや養父の恩愛と実父が現れたときの揺れ動く心のうちなどをお話頂き、たいへん好評でした。体験発表を東京都にお住まいの上澤朝子さんに、帰国後の体験発表は大学生の菅沼光さんに、また、「大地の子」を見ての感想を同じく大学生の内藤浩子さんにそれぞれ発表して頂きました。今回は幅広く参加を呼びかけたところ小学生から高齢者まで各層の参加を頂き、この問題への理解が一層広まったものと考えています。
 なお、中央大会に先立ち大阪で、「中国残留邦人への理解を深める大阪大会」が、長野で、「中国残留邦人への理解を深める長野大会」が実施され、各大会とも参加予定人員を大幅に上回る盛況ぶりでした

〈研修会〉

★「日本語ボランティア・シンポジウム’96」

 去る11月9日(土)、「日本語ボランティア・シンポジウム'96─くらし・ことば・つながり─」が、(財)横浜市海外交流協会の主催により横浜で開催された。日本語ボランティアをはじめ、これから日本語ボランティアの活動を始めたい市民の他、行政・学校関係者、研究者、外国人学習者など約300名が参加し、地域における日本語学習支援のあり方や日本語学習に携わる関係者の連携について、熱心な議論が交わされた。当日は、日本語ボランティアの体験談による「オリエンテーション」に続き、大阪大学の山田泉教授が「外国人住民等に対する『日本語学習支援』の意味」と題して基調講演を行った。同教授は、日本語の指導者と学習者が対等な関係で地域社会を作っていくことを目指した日本語学習支援の重要性を強調して、日本語ボランティア活動に貴重な示唆を与えた。また、「横浜における日本語教育の概要」では、横浜国立大学の佐々木瑞枝教授他から、横浜市内の大学や学校教育における日本語教育の概要が紹介された。
 さらに午後からは、4つの分科会

@「子供たちの現実から学ぶ」
A「成人学習者の声を聞く」
B「日本語ボランティア─これまでとこれからと」
C「生活とことば」)

に分かれて意見交換が行われ、外国人児童生徒を擁する学校現場の抱える問題の深刻さや成人外国人が日本語学習に求めるニーズの多様性、さらには、ボランティアと行政の連携の可能性など、各分科会とも示唆に富んだ議論が展開された。
 総合コーディネーターを務めた国立国語研究所の柳沢好昭氏は、「今回のシンポジウムを次へと発展させるための通過点として位置づけたい」と述べ、横浜のような都市型ボランティアの可能性に対する期待を寄せた。
 そのほか会場には、市内で活動している日本語ボランティアグループによる活動紹介ブースや教材等の展示コーナーも設けられ、参加者からは好評であった。

 (財)横浜市海外交流協会
 〒231 横浜市中区山下町2
      産業貿易センター3階 
 TEL 045-671-7128 (日本語学習支援担当)
 FAX 045-671-7187

★第36回社会教育研究全国集会に参加して

8月24〜26日の3日間、埼玉県浦和市で社会教育研究会全国集会が開催されましたが、24部門ある文科会に昨年度から「在日外国人のくらしと学習」が加わりました。今年は約60名が参加し、@外個人住民支援のボランティア活動のあり方…特に行政との関わり方について、(話題提供者…埼玉県春日部市日本語教室) A日本語学習支援の内容…多様なニーズにどう応えるかについて(話題提供者…川崎市中原市民館)の2つの柱を巡って協議が行われました。

 @では、春日部市の行政とボランティアとの協力体制による、日本語教室の開催やガイドマップ/ニューズレターの発行等の活動が紹介されました。こうした体制を「春日部市は恵まれている」と特別視する声に対して、他市のボランティアから「行政に対しては、ねばり強く働きかけていくしかない。自分のところも5年越しで条件が改善された」という声が出されました。また、このとき、別の地域の行政側から「着付け教室も日本語教室も同等の権利が与えられるべきだ」という見解が出され、それに対して「学習権の保障という観点からそれは好ましくない。次元を分けるべき問題だ。」との声が上がりました。

 Aでは日本語学習者の多様なニーズを調査して把握し、それへの対応の一つとして『離乳食の作り方』のテキスト作りを行ったことが報告されました。このテキスト作りの課程で学習者とボランティアとのつながりも深まったということです。なお、中原市民館が『新・日本語の基礎』をテキストとして使っていることを批判する声が会場から出されました。これに対しては市民館の方から、体系的な学習を望む学習者の要望に応えた結果だという説明がなされましたが、時間がなく、この問題を巡って続けての討議は行われませんでした。
 いずれもせっかく異なる意見が出されたのに、時間の関係で討議を続けることができなかったのが大変惜しまれます。(所沢センター 安場)

★第18回異文化間教育学会

  期日:1997年5月31日(土)
           6月1日(日)
  場所:龍谷大学 深草学舎
(京都市伏見区深草塚本町)
  大会準備委員会事務局
   〒600 京都市下京区七条大宮
 龍谷大学文学部小島研究室
  TEL 075-343-4302 (内線5304)
  FAX 075-343-4302
          (文学部教務課)
なお、この大会では、2日目の午後に1時間半程度のラウンド・テーブルを企画している。大会案内に同封される応募用紙に(1)コーディネーター(2名以上)と、(2)テーマ等を書いて申し込む。

いまどきのキーワード その(1)

「BICS(伝達言語)とCALP(学習言語)」
 中国から帰国した児童・生徒たちは、教師や同級生との日常会話には、じきに困らなくなります。「やはり子どもは覚えるのが早い1のですが、流暢に話せるにもかかわらず、実は教科学習の内容がほとんど理解できていない、従って学力が身に付いていないという子どもが少なくないことが大きな問題となっています。  私たちは、本を読んだり考えたり、ある事物を抽象化したりするとき、「言葉」を使います。児童生徒は、教科を学びながら言葉の概念を知り、より豊かな世界を築くための言葉を日々獲得していきます。それは、日本語であっても中国語であってもいい訳ですが、自らの言葉−母語(もしくは母語になるべき言葉)−が十分に獲得されないうちに日本に来た児童生徒は、自らの思考・認知のための“拠り所”がないままであると言えるでしょう。教科学習にはその“拠り所”は欠かせないものである訳ですから、学習内容が理解できなくなることば十分目に見えます。日本で成長し、生活の基盤を築き、日本で人生を生きていく児童生徒にとってこれは大きな問題です。人生を切り拓いていくためのひとつの門戸が閉ざされているようなものですから。
 私たちは、会話・伝達能力(BICS)さえ身に付けば言葉はもう十分身に付いたと考えるのではなく、言葉の持つもう一つの側面(CALP)の意味を十分に理解して、彼らに対して息の長い学習支援を続ける必要があると思います。
(注)BICSとはBasic Interpersonal Communicative Skillsの略で「日常会話など比較的具体的で、また伝達される内容を理解するのに場面や文脈から多くの手がかりが得られるような言語活動において、必要とされる言語能力の一側面」 、CALPは、Cognitive/Academic Language Proficiencyの略で『抽象的な思考が要求される認知行動と深く関連し、認識力や類推力を伸ばすために必要とされる言語能力の一側面』とされている(Cummins & Swain ,1986)。なお、年少者に対する日本語教育の問題点についで知りたい場合には、『日本語教育』86号 岡崎俊雄、 『日本語学』1996年2月号 西原鈴子が許しい。

不適応反応をチェックする  ─ 箕口先生のカウンセリング講義から─

   中国からの帰国者が日本の社会に適応して行くまでには、いろいろな葛藤や困難を経なければなりません。一見順調に見える帰国者でも、その内面的・心理的なプロセスは決して平坦なものではないでしょう。みなさんの中には、帰国者の不適応反応にどう対処すればよいか、と悩んだことのある方もおありではないでしょうか。そこで、帰国者が示す不適応反応を判断するためのポイントについてご紹介してみようと思います。
 これは、今年2月に開かれた、厚生省の適応促進対策研修会での“帰国者に対するメンタルヘルス・サ−ビス”についての講義の一部です。講師の箕口雅博先生は現在、東京都精神医学総合研究所に勤務され、不適応症状を示す帰国者のカウンセリング等も行っています。
 例えば私たちは、帰国者からのさまざまな訴えを聞いて、専門家に委ねるべきかどうかを判断する訳ですが、その判断基準として以下のような項目が挙げられます。
 @不眠(寝つきが悪い、夜中・早朝に目が覚めてしまう)、不安(心配事が絶えず頭を離れない、動悸・息切れなどの身体症状)、焦燥(あせり、イライラ、落ちつかない)が一週間以上続いている
 A食欲がなくなり、気分がふさぎ、何もする気がしない状態が一週間以上続いている
 Bさまざまな身体的不調(頭・胃・その他の体の痛み、胸苦しさ、肩こり、めまい、手足のしびれや冷え、下痢・便秘、疲労感など)を執拗に訴える
 C被害的・妄想的なこと(猜疑心が極端に強くなったり、現実にありえないことを強く信じて疑わない)を訴えたり、奇異な行動(攻撃的・好訴的行動、閉じこもり、独語・空笑など)が目立つ
 D「日本に来る前と生活態度や人柄が全く変わってしまった」と家族や周囲の人たちが指摘する
 これらの症状が目立ってきたときには、 メンタルヘルスの専門家(精神科医、臨床心理士、ソ−シャルワ−カ−、保健婦など)に相談したほうがいいでしょう。
 相談窓口としては、
  ・地域の保健所(保健相談所)の「精神保健相談」窓口
 ・都道府県の精神保健福祉センタ−
 ・総合病院の精神(神経)科
 ・神経科/神経内科のクリニック
 ・単科の精神病院
 ・自治体の外国人相談窓口
等が挙げられます。
 
 帰国者の支援に携わる私たちにとって、こうした専門家との連携もまた必要なことだと思います。

教材・教育資料>

★「漢日対照 生活保護指南
    −生活保護の相談室−」

 (中国帰国者用生活保護ガイドブック)
  編集・発行 兵庫県明石市福祉事務所
  協力  兵庫県福祉部援護福祉課

 目次項目を見れば一目瞭然ですが、帰国者が帰国後直面する実に様々な事柄について、漢日対照(左ペ−ジ中国語、右ペ−ジ日本語)で説明されています。
生活保護制度からはじまって、生活保護受給者の権利と義務、生活、住宅、教育、医療、妊娠・出産、死亡、技能修得(日本語教室)、技能修得(職業能力開発促進センタ−など)、就職、自立後、手当・年金・福祉施策、相談・地域生活、等多岐にわたっています。巻末資料として明石市の公共機関一覧や、帰国者自身に覚えてもらうために中国語本文中であえて翻訳しなかった日本語を、中国語の発音順に並べた索引もついています。
 この種の手引きはすでに厚生省をはじめ各自治体等で作られていますが、明石市のこの手引きは一般的な説明叙述ではなく、実際のケ−スから具体的な質問を作り、それに答えるという形に工夫されていて理解しやすいものとなっています。手引きの中の118の質問は、現場の担当者からの意見と中国帰国者側からの意見を4対6くらいの割合でとり入れ、作成したとのことでした。
配布対象は基本的には生活保護受給世帯ですが、兵庫県内の日本語教室や各福祉事務所、ボランティアや留学生、自立指導員等にも求めに応じて配布されました。なかでも、中国語ができないケ−スワ−カ−が、新しく生活保護を受けることになった家庭を訪問するときには特に役立っているようです。また、「生活保護」に関するQA以外に日本の生活事情についての項目も多く、これが一般の中国人や留学生にも重宝がられ、活用されているとのことでした。
当初印刷された700部に加えて平成8年300部増刷されましたが、ただいまのところ残部数が30部ほどあり、ご希望の方には無料で送付してくださるそうです。
 連絡先 
 〒673 兵庫県明石市中崎1丁目5番1号
    兵庫県明石市福祉事務所 寺谷さん
 TEL 078-918-5028(直通)
 FAX 078-918-5106

★「学校用語集 中国語」

  川崎市総合教育センター

 川崎市では、日本語の分からない児童生徒に、日本語等指導協力者の派遣や、通級制の日本語教室を用意する等の措置をとっています。しかし、全ての時間に協力者が派遣できる訳でもありませんし、教科指導はあくまでも学校の先生方の仕事であるという考えから、教師が子供たちと話したり指導したりするときの一助となるようこの冊子を作成しました。
 この用語集は、「・ 入門期の日本語指導」、「・ 学校生活用語」、「・ 学習指示用語」からなっています。・は自己紹介の言葉や、学校生活を送る上で必要な基本的な語彙が集められています。・では、学校生活でよく使う語彙表現を八つの領域に分けてまとめてあります。・は学習指示用語で、学習全般にわたる表現のほか、各教科ごとに様々な指示語がまとめられています。いずれも左側に日本語、右側に中国語となっていて、たいへん見やすくできています。
 今後、使用現場からの意見をもとに、より充実したものにしていきたいとのことです。
部数が少ないので、各教育委員会及び外国籍児童生徒の受け入れ校宛くらいにしかお分けできないそうですが、ご希望の方は下記までお問い合わせ下さい。
 川崎市総合教育センター    
  〒213 川崎市高津区溝ノ口1016-2   TEL  044-844-3733

★「わが国の年金制度(中国から帰国された人のために)」

  発行 厚生省 年金局
     平成8年3月

「同声・同気」第7号11ページでお知らせしましたように、平成8年4月から「中国残留邦人等の国民年金の特例措置(政令)」が施行されましたが、この冊子は、この特例措置について、できるだけ簡明に解説することを目的として作成されました。基本的には中国語ですが、各中国語文の上に紙質をかえて日本語文が挟み込んであったり、左ページの内容・項目について右ページでより詳しく図解も取り入れて説明したりするなど、工夫がされています。文字も大きくたいへん読みやすくできています。
なお、この冊子とともに、『「永住帰国した中国残留邦人等であることの証明書」の手引き(国民年金に係る中国残留邦人等の特例措置対象者該当申請用)』という冊子も配布されます。これは、“「中国等に住んでいた期間」を「国民年金の保険料免除期間」として認めてもらう手続きをするときに必要なもの”で、手続きの方法などが詳しく説明してあります。
以下、厚生省中国孤児等対策室に伺いました。
定着促進センターを経由する国費帰国世帯には、各センターから配布されます。自費帰国世帯には、厚生省中国孤児等対策室が把握している限りにおいて、1か月毎にまとめた帰国者名簿を各都道府県に送り、各家庭に配布しています。また、この「特例措置」施行以前の帰国者にも各自治体を通して配布しているとのことでした。

とん・とん インフォメーション

★「これってなに?」増刷

チャレンジ日本委員会が発行している『子供のための五カ国語絵単語帳「これってなに?」』の増刷ができました。ご希望の方に送れるそうです。連絡先は以下のとおりです。

また、「これって、なに?」の第2弾、「どこいくの?」が4月にできあがるそうです。乞うご期待!

★大阪中国帰国者定着促進センタ−が下記に移転しました

★中国日裔青年文芸雑誌 「北辰」

 帰国者二、三世の青年たちが、自分たちの悩みや、さまざまな問題を話し合い、考え合う場として、会を作ったり、新聞などを発行したりする動きがでてきています。創刊号で「響音」を紹介しましたが、今号では「北辰」を紹介します。
 「北辰」は昨年7月1日に、「中国日裔青年」有志によって創刊され、10月1日に第2号が発行されました。現在は、作品の大部分が中国語で書かれた文芸同人誌の形をとっています。しかし、将来的には、日本語の文章も増やし、同じ関心をもつ多くの人々の交流の場となる文芸誌形式でコミュニケーションを目指しています。
 年間発行4回・購読料2000円
 問い合わせ先
  「北辰」 編集部 大久保明男
 〒206 東京都多摩市中沢1-10-13
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★「HINT―日本での生活ガイド」

 KDDでは日本に住む外国人のための生活案内の小冊子「HINT」を毎年発行しています。英語、中国語、韓国語版があり、そのうち中国語版は「上海から来た留学生陳さん」が日本で直面する様々な生活上の問題、・電話のかけ方、・緊急時の対応の仕方、・病気になった時の対処の仕方、・ユースホテルの予約の仕方、・住居の探し方、・アルバイトの見つけ方、・郵便物の出し方、・市役所や入国管理局での諸手続の仕方、・成田空港までのバスや電車の乗りかた、定期券の買い方 等が掲載されている他、様々なトラブルに遭遇した時や、進学上の問い合わせ先が載っています。
問い合わせ先: 
KDDコンシューマーサービス 営業部 TEL 03―5202―4652

★「同声・同気」が間もなくインターネットにも!

 所沢センターでは、インターネット上に中国帰国者支援のホームページを開設する予定で準備を進めています。このホームページはニューズレター「同声・同気」(このニューズレターのことです)の姉妹版というコンセプトで、名称もやはり「同声・同気」。公開は3月10日、アドレスは http://www.kikokusha-center.or.jp の予定です。乞うご期待!
 所沢センターでは、インターネットを利用して全国の支援者が支援情報を蓄積し共有化できるようにすることのほか、厚生省や(財)中国残留孤児援護基金からの資料提供を受け、身元未判明孤児約1500人の写真と身元の手がかりとなる情報を掲載して肉親探しを支援しようと計画しています(これはホームページ開設時より少し遅れるかもしれません)。また、文化庁が所沢センターに委嘱している中国帰国者に対する日本語学習支援に関する調査研究のために、学識者や支援グループ活動家等から成る部会メンバー間の電子会議にもこれを活用したいと考えています。このほかにも、中国帰国者の問題に関心をもつ一般の人々や小中学生、高校生にも訪れてもらえるページとなるように、幅広い内容をとり上げていきたいと考えています。帰国者を支援する団体、グループからの情報もどしどし掲載していきます。皆さん、気軽に情報をお寄せください。グループの活動紹介や宣伝、仲間募集の呼びかけ等、大歓迎!

厚生省・文化庁の中国帰国者に対する日本語学習支援に関するプロジェクト中間報告

 「同声・同気」第6号、第7号の巻頭で、厚生省、文化庁の新プロジェクトが始まった(もしくは始まる)こと、こうした動きは、帰国者教育に対する公的支援の領域が、「定着自立のための準備学習」から「定着後の長期的学習支援」へと拡げられたことを示すものであることを紹介しました。ここでは、この新プロジェクトの進行状況を報告したいと思います。

●厚生省「再研修カリキュラム」開発プロジェクトについて

 「再研修」は、自立研修センター(2次センター)修了者等、帰国後1年以上を経過した帰国者(親族を含む)のうち、再度日本語を学習することを希望する者で帰国後5年以内の者(原則)を対象に、2次センターにおいて実施される研修事業です。働きながら学習を継続する者が主な対象となるため、研修の時間帯は、平日の夜間や土・日曜日、期間は、週あたり4時間(2年以内)がおよその基準として設定されています。この「再研修」のカリキュラムを検討しモデルを作成することがプロジェクトの課題です。
プロジェクトを推進するために委員会が設けられ、第1回目の会議が6月に行われました。委員会は、所沢センター、神奈川・大阪等「再研修」を実施する全国8か所の2次センター、国立国語研究所日本語教育センターの代表者から構成されています(委員長:国立国語研究所 水谷修所長)。作業手順としては、まず、プロジェクト参加の2次センターにおいて実際に「再研修」を計画し実施する、同時進行の形で、所沢センターが再研修カリキュラム作成の枠組みを作る、そして、各2次センターが実施した再研修をこの枠組みに基づきモデル化していくことを計画しました。
 現在、再研修は、神奈川、大阪YWCA、岩手、鹿児島の4センターですでに始まっており、千葉、大阪の2センターではニーズ調査を終え開講準備の段階に入るところです。カリキュラム作成の枠組は11月にほぼ完成しており、これらの成果については、12月9日の「再研修に関する打ち合わせ会議」(厚生省が、来年度の再研修事業拡張をはかるために2次センターの日本語講師、2次センター設置の都道府県職員を対象に開催した説明会)で、中間報告としてまとめられました。最終的な課題であるカリキュラムモデルの作成は、1月中旬に完了の予定です。

●文化庁「中国帰国者に対する日本語通信教育(試行)」実施事業について

 平成8年度から、中国帰国者定着促進センター(所沢センター)は文化庁の「中国帰国者に対する日本語通信教育(試行)運営会議」から委嘱を受け、上記の事業を実施することになりました。
 帰国者を学習者として捉えた場合、ほんとうの学習は一次・二次センターの終了後に始まるといっても過言ではありません。現状の学習支援は多様な学習者の多様なニーズにまだまだ応えられる体制にはなっていません。支援に大きな地域格差があることも事実です。本事業は、帰国者に対する学習支援を、帰国当初の短期集中の支援から「生涯学習」的な支援にまで拡大することを目的としています。そのために、様々な地域に住み様々な生活をしている帰国者に対して、日本語指導を含む支援を実施するための基本的なモデルを作っていきたいと考えています。
 現在、上記事業を実施するため、学識経験者や支援グループ指導者等から成る「中国帰国者に対する日本語通信教育(試行)調査研究部会」を設け、協議を重ねているところです。本年度は、1)学習実態やニーズなどについてのアンケート調査 2)中国帰国者に対して可能となる通信教育のあり方について考える際の基本的な枠組みの作成 3)学習支援のためのホームページの開設 の3点を実施する予定です。この事業は本年度を含めて3年程度の期間で実施されますが、実態調査の結果やインターネットを通じてのネットワークをもとに、帰国者を含むすべての定住型学習者のための「自学支援システム」を作成し、試行したいと思っています。そのためには、「日本語通信教育」といった文言を一般に言われる教材郵送一方向型の方式に押し込めずに、学習者も支援者も、支援システムの中で繋がっていく方向を目指す必要があるでしょう。
※なお、詳細はホームページ上でもご覧になれます。(ホームページについては11ページを参照のこと)

パソコンネットから 96.9.30〜12.12

 9.30 早期帰国希望ほぼ実現、中国残留邦人
10.24 中国残留孤児43人が来日
10.24 まんしゅう母子地蔵建立へ
10.26 帰国三世が二つの祖国を卒論テーマに
11. 6 中国残留孤児が帰国者、働く工場を見学
11. 8 同伴家族60歳の壁緩和を
12. 2 <外国人子弟教育>指導体制整備不十分−−行監が文部省に勧告
12.12 年金、帰国者に不公平感