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巻頭言 発言を始めた二世三世
こんなところ・あんなところ・どんなところ?
  九州地方そのB −長崎県−
 地域情報ア・ラ・カルト
  再研修の現場から(埼玉県自立研修センター)/高知県自立研修センターの閉所/…その後/学校現場から(渋谷区立神南小学校日本語国際学級)
行政・施策
 ★厚生省から ★文化庁から
研修会情報
教材・教育資料
とんとんインフォメーション
事例紹介

巻頭言

発言を始めた二世三世

 6月頃、所沢の中国帰国者センターのホームページ(以下HP)内「フリートーキング会議室」に、帰国孤児二世である修了生から匿名で投稿がありました。そのころマスコミで取り上げられていた帰国孤児二世の犯罪についての発言で、犯罪者に同情するわけではないが、強制送還は残留孤児二世という特別な背景を持つ者に対しては非情な措置ではないか、また必要以上に重い措置なのではないかという趣旨でした。
 この問題については私たちもずっと気になっていました。それまでこの会議室に修了生が発言するときは大抵が挨拶や近況報告で、彼ら自身の背景と関連づけたものはほとんどなかったため、このメールには考えさせられました。何よりも日本社会を泳ぎ渡るのに苦労してきた同じ二世としての苦悩が読みとれました。私たちは、この「匿名」さんの発言をきっかけにして、この事件やその周辺の事象に対して二世三世にぜひ発言してほしいと考え、返信を載せました。(投稿メールは遡って見ることができるので、あたかも会話をしているかのようにメールを交わすことが可能になるのです。)
 教務課の講師が一つ二つ返信を載せたところに今度は「匿名2」という修了生から、日本社会にとけ込むことばかりを考えるのでなく、使える技術を身につけて厳しい競争に勝ち抜いていけばよいのだという趣旨の発言が載りました。これに対しては、はじめの「匿名1」さんから、帰国者のこれまでの生活背景を考えると、しかもこの不況ではそれもなかなか困難だという返信がありました。
 ところが、詳細は省きますが、「匿名2」さんが「匿名1」さんのこのときの発言を非論理的で感情的な発言だと非難し、それ以降、会議室にはこの二人からも他の修了生からも発言が途絶えてしまったのです。二世三世の青年たちの声をネット上でもっと聞きたかった私たちとしては、これは大変残念な事でした。
 ネット上でのやりとりは、口頭での会話よりもとげとげしくなりがちで人間関係を壊す原因になることがあるのは世間でもよく言われています。帰国者二世同士だろうと例外ではなかったわけで、そのこと自体は仕方がないことでしょう。むしろ、短い間ながら、二世の考えの一端が帰国者自身を含む人の目に触れたことの意義は大きいと考えるべきでしょう。二世三世たちが世界とつながるインターネットというメディアを手に発言をやっと始めたんだなという感慨がありました。自分のHPを持っている二世三世も増えています。今後の発言に期待しましょう。(それにしてもその後本当に他の話題での発言もないのです…。『同声・同気』の読者の皆さんもぜひ書き込みに加わって下さい。
(http://www.kikokusha-center.or.jp/へ!)

こんなところ・あんなところ・どんなところ?

九州地方そのB −長崎県−

T.長崎県中国帰国者自立研修センター

 所在地 〒852-8153 長崎市花丘町19-20
 TEL  095-846-9588

★ 長崎県では、中国引揚者一時生活訓練施設として花丘寮を設置していて、自立研修センターは現在ここに付設されている。福岡の定着促進センター修了者が概ね8ヶ月間、ここで共同生活を営みながら学習を続けている。
 生活の場と学習の場が同じなので、日本語学習を終えた午後からは買い物・官公署・公共交通機関・銀行等の利用、ゴミの出し方に至るまで十分な指導が受けられ、医療機関への受診もセンターの通訳が同行するので容易である。
 ここは昭和63年6月、長崎県が設置し、平成元年度から長崎県中国帰国者自立促進協議会に委託し運営している。
 @日本語指導
  A(若年層主体)・B(その他)の2クラスで、いずれも月〜金の9:30〜12:00である。
 A生活相談
  月〜金の13:00〜17:00に随時行う。
 B就労相談
  月〜金の内月に10日間を使って行い、年1回、公共職業訓練施設の見学を行う。
 C地域交流事業等
地域自治会と共に七夕祭り、みかん狩り旅行、餅つき大会、餃子づくり講習会等を催し、地域住民との交流を図っている。また、定住地となる長崎について見聞を広め理解が深められるよう、平和体験学習や博物館・資料館等の文化遺産を見学する機会を設けている。
 D防火訓練
年1〜2回、防火ビデオの視聴、初期消火や通報訓練を行っている。これは、夜間、管理する人がいなくなるので特に火災への注意を促すためである。

U.帰国者のための県単事業

 @自立支援通訳の派遣
「帰国後3年以内」という派遣対象期間を経過した人でも、事情によっては半年から1年程度の延長もある。また、対象外者である二・三世等の呼び寄せ家族にも派遣することがある。
 A見舞金の支給
永住帰国者は5万円、一時帰国者は3万円、一時帰国後永住帰国したひとには2万円(いずれも本人世帯)の見舞金を支給している。

V.その他の日本語学習や相談機関等

★長崎市 外国人のための 初級日本語講座
 長崎市国際課の企画運営により、長崎ブリックホール「地球市民ひろば」で開催されている。現在は週一回6ヶ月間、木曜日の午後6:00〜7:30に開いてる。市内在住の外国人を対象にしているが、中国からの帰国者家族が多い。20代から
40〜50代まで年齢層も幅広い。10月からは新しいクラスも予定している。この教室は初級者が対象なのでここで学習した後は、市内の大学が開設している日本語教室等を紹介することがあるという。

★相談機関

 月2回、中国語で相談を受け付けている。また、これとは別に在留資格等については行政書士による相談も行っている。

以上の 問い合わせ先 
 ・長崎市国際課 
  〒850-8685 長崎市桜町 2-22
    TEL 095-829-1113 
 ・長崎ブリックホール「地球市民ひろば」
  〒852-8686 長崎市茂里町2-38
    TEL 095-842-3783

★文部省研究協力校(平成11、12年度指定)

 ・長崎市立 滑石中学校
  〒852-8061 長崎市滑石 6-1-59
    TEL 095-856-7571

地域情報 ア・ラ・カルト

★再研修の現場から  埼玉県自立研修センター

 当センターの再研修講座も平成9年に始めて、早いもので三年目に入りましたが、毎年30名程度の学習者が参加しています。
 新しく始める時、最初に困ったのが場所の問題でした。当センターは埼玉県直営で、県の職員研修所の建物を利用しているため、夜間や休日は使うことができません。このため、いろいろ検討の結果、交通の便を第一に考えて大宮駅近くのビルの会議室を借り、毎週水曜日午後6時半から8時半まで2時間、講座を開くことにしました。期間も初年度は9月から翌年3月までの7か月間としました。自立研修センターを修了した孤児本人に通知を出し、二・三世への周知を依頼して学習希望者を募ったところ、希望者は孤児本人8名、配偶者4名、二世・三世18名で、年齢は30代以下と40代以上がちょうど半々でした。
 レベルによって初級クラスと中級クラスに分け、教材は『にほんご1・2・3』の(上)を初級(下)を中級で使い、その他に適宜「生活会話」「仕事会話」「漢字学習」を取り入れて学習を進めました。初級は、女性の孤児本人8名が「どうしても日本人として日本語を覚えたい」という強い意志を持って参加していて、授業も活気に満ちたものになりました。特に漢字の学習は役に立つと喜ばれました。しかし、中級は、日常会話に困らないかなり高レベルの人から、基礎が完全ではない人までレベルの差が大きかったため、学習の進め方に大変苦労しました。結局、学習内容に物足りなさを感じた何人かが講座に参加しなくなるという残念な結果になりました。仕事のあと疲れた体で学習に参加するのですから、メリットがなければ来なくなるのは当然のことですが、一方で、最後まで頑張った学習者が「水曜日は残業を断って来ている」と言うのを聞くと、本当に役に立つ内容を教えなければと痛感しました。
 二年目は前年度から継続の学習者11名と新たに参加した14名の合計25名を2クラスに分け、期間も、前年度冬は欠席が多かったことから、6月から12月に変更し実施しました。各クラスともレベルが揃っいて、皆助け合ってよい雰囲気で学習が進められ、中級クラスでは、授業以外にも日本語で雑談する様子も見られ、充分成果がありました。しかし、孤児世代の高年齢者は、学習意欲は大いにあっても体の不調のために欠席することも多く、継続して学習する困難さを思い知らされました。それでも、社会に入ってから度々耳にする日本語の意味がやっと理解できてうれしいという声を聞くと、これからも子どもや孫に教えてもらうなどして努力を重ねていってほしいと思わずにはいられません。
 三年目の今年は、昨年度の学習者の希望を取り入れ「日本語能力試験2級受験準備講座」を設けて上級クラスとし、中級クラスは主として生活会話を学習することにしました。各クラス15名ずつの30名が学んでいます。
 上級は日本語能力試験の問題集を中心に、文法・漢字・聴解力の増強、表現文型の学習などをすすめています。日本語能力試験を目指す人や、より高度な日本語を習得したいと願っている人にとって、確実に実力アップできる内容になっています。こういう講座を待っていた、という高レベルの学習者が積極的に取り組んでいる一方で、早い速度で進む授業に一部に戸惑いもみられますが、必ず役に立つから頑張るようにと励ましています。
 中級は『生活日本語U』を使い、生活の場、仕事の場での実用会話を学んでいますが、23歳から57歳という年齢差を埋めるのは大変なことです。しかし、八割が働いている人たちなので、学習意欲の高さとすぐ実践に結びつくという利点から、生き生きとした授業になっています。中年以降の学習者の場合は、定着センターと自立センターでいろいろな方法で日本語の基礎を学んでも、その後も不断の努力を続けなければ力はつきません。子供は日本語がどんどん上手になるのに親は追いつかず、子供との意志疎通がはかれなくなって、今回思い切って参加したという二世の声を聞くと、改めてこの講座の意義を感じさせられます。
 言葉の習得の基本は独習だと思いますが、この講座を受けることによって効率の良い独習の方法を学び、日本語の実力をさらにつけていってほしと願ってやみません。 (埼玉県自立研修センター 野田泰子)

★ 高知県自立研修センターの閉所・・・その後

 高知センターは7月末(日本語指導については6月末)をもって閉所されましたが、その後の高知県の帰国者援護について、県の健康福祉部高齢者福祉課からお話を聞くことができました。
 高知県が発行した「センター十年のあゆみ」に掲載された知事の「ごあいさつ」に「今後県では、夜間の日本語教室を開講し、日本語習得に向けての支援、自立援助のための就職相談と、生活相談の場を高知市の中心部に設けまして、帰国者援護を図っていきたいと考えています。」とあるように、7月からは県庁の近くに「就労生活相談室」を開設し、月曜日から金曜日までの9:00〜16:00まで、中国語が話せる相談員一人が常駐して相談に当たっています。そして、このことについては帰国者各世帯に案内文が送付されています。
 また、日本語教室は夜間に2カ所で開かれています。週2回(年80回)の初級1クラスと週1回(年40回)の初級、中級の各1クラスで、それぞれ1回2時間ずつ勉強しています。これらの教室では二世の配偶者や三世も学ぶことができ、平均20名ぐらいが通ってきます。しかし教室はすべて県費で運営されるため全く無料というわけには行かず、学習者はテキスト代などの若干の費用を負担するとのことです。

●中国帰国者就労生活相談室 

  場所:高知市本町4丁目1-49 文教会館2階 TEL:088-872-7745

●平成11年度日本語教室案内

・横浜初級教室
会場:高知市横浜新町2-102 県営住宅横浜集会所
日時:毎週日曜日 9:30〜11:30
・潮江中級教室
会場:高知市高見町248-1 市立潮江南小学校
日時:毎週水曜日 18:00〜20:00
・潮江初級教室
会場:高知市高見町248-1 市立潮江南小学校
日時:毎週月、木曜日 18:00〜20:00

☆相談室、日本語教室についてのお問い合わせ先
  高知県高齢者福祉課援護調査班 
  TEL:088-823-9627 担当:小笠原

★ 学校現場から 渋谷区立神南小学校日本語国際学級

 神南小学校は、東京渋谷の繁華街の中にあります。地図で見ると、本当に街の「ど真ん中」といった所に位置しているのですが、実際にその辺りに行ってみると、「え、どこに学校があるの?」と思うくらい、不思議とわかりにくい場所に存在しています。すぐ近くにはNHK放送センターや渋谷センター街があり、周りにはデパート、飲食店等が軒を連ねています。まあ、とにかく、渋谷見物には恰好の場所といえるでしょう。
 渋谷区の「日本語国際学級」は、そんな恵まれた(?)環境の学校の中に設置されています。渋谷区内の小学校に在籍する外国人児童や帰国児童のうち、日本語指導等が必要とされる子どもたちが、週の決められた曜日・時間に通ってきて学習をします。従って、日本語国際学級には神南小学校以外の学校からもバスや電車を使って子どもたちが通級してきています。1999年7月末の時点で、神南小学校の児童が7名、それ以外の学校からが6名の計13名となっています。出身国別に見てみると、モンゴル4名、フィリピン2名、アメリカ、ミャンマー、中国(帰国)、ジンバブエ、タイ、ドイツ、ブラジルが各1名と、実に多岐に渡るメンバー構成です。
 現在、開設5年目を迎えていますが、学級での指導についてはいくつかの変遷がありました。開設当初は日本語が全く分からない児童を対象に、『ひろこさんのたのしいにほんご』というテキストを使って、日本語の文型を中心とした日本語指導を行っていました。この頃は、文型を教えるためのゲーム等のアクティビティを考えるのが楽しみでもありました。しかし、子どもたちがこうした日本語だけを学んでいっても、在籍学級で普段受けている授業はなかなかわかるようにはならないということに気がつき始めました。来日して1年くらい経てば、たいていの子どもたちは日常会話には不自由しなくなります。しかし、在籍学級で他の日本人児童と一緒に受けている授業の中には、難しい概念を含んだ教科内容もあって、そうしたものを理解できる日本語レベルまでには、そう簡単には到達できないのです。そこで、今では「いかに日本語を教えるか」ではなく、「いかに教科を教えるか」ということが指導上のテーマになっています。もちろん、初期指導の段階では文字の指導をはじめ、サバイバル的な日本語指導も行うのですが、その時間をできるだけ短くし、「分かりやすい日本語で教科の学習内容を伝えていく」という方向性を持って進んでいこうという考え方に変わってきています。
 できれば、公立学校の現場にも、所沢センターのように一定期間日本語等を集中的に学べるシステムが導入できればいいと思いますが、実現はかなり難しいようです。外国人児童がいつ、どこから、何人くらい転入してくるのか、全く予想が付かないということもその理由の一つです。結局は転入してくる度に、その子の状況に応じて教える内容は方法を決めて、一対一の個別指導を行うことが多くなってしまうからです。
 さあ、今日もエジプトとモンゴルからの子どもたちが入って来るという連絡を受けました。また新しい時間割のやりくりをしなければなりません。「日本語国際学級」での苦悩(!)の日々は、まだまだ当分続きそうです。                    (矢崎満夫)

行政・施策

★ 厚生省から

1.高知県中国帰国者自立研修センターの閉所

 同センターは、昭和63年8月に開所されました。以来10余年にわたり日本語指導や就労指導などをとおして、中国帰国者とその家族が地域に定着するための役割を担ってきましたが、これまでに高知県関係の中国残留邦人の方々の永住帰国は順調にすすみ、帰国希望者については概ね帰国受け入れを終えることができたため、本年7月31日をもって閉所いたしました。
 今後は、帰国者数が減少してきていることから、他の自立研修センターについても平成12年度以降順次閉所していく予定です。

2.訪日調査における血液鑑定の結果について

平成10年度に血液鑑定をした3名のうち肉親関係が確認されたのは1名です。この年の訪日人員27人のうち判明は5名、判明率18.5%でした。
平成6年度分の追加の血液鑑定で1名の異母妹関係が認められ、その結果、訪日人員36人のうち判明は5名で、判明率は13.9%になりました。
これまでの訪日人員、計2096人のうち、判明は665人、判明率は31.7%です。

3.訪中調査について

 中国残留日本人孤児の肉親捜しについては、中国政府の協力のもとに調査を行っています。日本人孤児であるとして肉親捜しを希望している者のうち、日中両国政府において調査を行ってきたにもかかわらず、日本人孤児との確証が得られない者(以下「未確定者」という)を対象として、日本政府職員が訪中し、中国政府の協力を得ながら未確定者の聞き取り調査等を行っています。本年度は6月21日から7月10日まで厚生省職員8名、通訳4名が訪中調査を実施しました。
 今回の対象者は黒竜江省20人、遼寧省6人、吉林省6人、内蒙古3人、河北省1人、山東省2人、広東省1人、の計39人です。この調査によって日中双方で日本人孤児と認めた者については、本年度の訪日調査に参加させることとしています。

★ 文化庁から

平成11年度「文化庁日本語教育大会」(東京会場)

 文化庁国語課では、7月29・30日の両日にわたり、昭和女子大学を会場として、約800人の参加者を得て「文化庁日本語教育大会」(東京会場)を開催しました。
 大会初日(午前)、開会に当たり林田文化庁長官が挨拶し、日本語教育に対する理解を求めるとともに、日本語教育の発展向上への期待を込めて関係者を激励。続いて、平成6年度から文化庁で実施している地域日本語教育事業の各地域での取組の報告をもとに、地域における日本語教育について協議する「地域日本語教育セミナー」が行われました。今回は、鎌田国語課長の司会で、パネリストとして小林悦夫(中国帰国者定着促進センター教務課長:神奈川県川崎市)柳澤好昭(国立国語研究所日本語教育研修室長:群馬県太田市)加藤清方(東京学芸大学教授:静岡県浜松市)高木裕子(山形大学助教授:山形県山形市)の各氏(全員が既に事業を終了している地域の関係者であった方々)を迎え、「地域社会における日本語学習支援の在り方」をテーマとして協議が行われました。
 さらに(午後)、日本語教育関係者により日本語教育の指導内容と方法の一層の充実を図る「日本語教育研究協議会」を開催し、6つの分科会(「日本語教員養成の在り方について」「日本語能力評価の在り方について」「多様なニーズに応じた教育内容・方法,教材開発・利用について」「新しい情報メディアを活用した日本語教育について」「コミュニケーション言語としての日本語教育について」「海外における日本語学習支援について」)と全体会(総括)において、「日本語教育の課題と今後の方向」をテーマとして協議が行われました。
30日には、午後から「これからの日本語教育を考える」シンポジウムが開かれ、水谷修(日本語教育学会会長)氏をコーディネーターに、パネリストとして井出祥子(日本女子大学教授)小塩節(フェリス女学院学院長)鳥飼玖美子(立教大学教授)平野健一郎(早稲田大学教授)の各氏を迎え、「日本語の国際化について考える」をテーマとするパネルディスカッションが行われました。
 また、8月24日には、大阪大学で「日本語教育研究協議会」が開催されました。  (野山 広)

★ 援護基金から

1.平成12年度就学援助について

 援護基金では、中国残留邦人本人、その配偶者及び二、三世が高等学校、大学、専修学校で就学する場合の就学資金を貸与しています。また、日本財団の補助事業として、帰国後3年以内の二、三世を対象に、大学等に入学するために必要な教育課程を設置している日本語学校に就学するための資金の援助を行っています。平成12年度についても募集を行います。

2.中国引揚者子女の大学受験特別枠について

 都立深川高校作成の資料をもとに10月過ぎには、問い合わせに応じられるようです。
 問い合わせ先: 財団法人 中国残留孤児援護基金
 〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-5-8 オフィス虎ノ門1ビル7階 
    TEL 03-3501-1050

★ 文部省から

1.平成11年度帰国子女・外国人子女教育担当指導主事研究協議会

 帰国子女・外国人子女教育について、より適切な指導や助言が行える指導行政担当者を養成するため、5月14日東京で協議会を開催しました。各都道府県及び政令指定都市の教育委員会の担当指導主事68名が参加しました。午前は、相澤秀夫宮城教育大学助教授の「帰国子女・外国人子女教育の実践課題」と題した講義があり、午後は、受入れ体制について、事例発表及び協議が行われました。参加者の間では、指導マニュアルの作成・整備、小・中学校の連携、教育委員会を情報拠点としたネットワークづくりについて活発な意見交換が行われました。

2.平成11年度帰国子女・外国人子女教育研究協議会

 6月30日、7月1日の2日間にわたり文部省が指定する帰国子女教育研究協力校、中国等帰国孤児子女教育研究協力校、外国人子女教育研究協力校等の教員を中心とした協議会を東京で開催しました。約280名が参加し、第一日目の午前中は、水原東北大学教授の「新しい学校づくりと帰国子女教育」の講義、第二日目の午前中は、伊東祐郎東京外国語大学助教授の「外国人子女等に関する日本語指導について」の講義がありました。2日間とも午後からは指定学校種ごとに分かれて協議を行いました。中国等帰国孤児子女教育研究協力校関係では、「中国等帰国孤児子女に対する日本語指導の校内外の体制について」「中国等帰国孤児子女に対する進学を踏まえた学習指導」等についての事例発表があり、その後活発な意見交換が行われました。

3.平成11年度外国人子女等日本語指導講習会

 8月16日から27日にかけて、文部省が主催する外国人子女等日本語指導講習会が東京で開催されました。この講習会は、地域での日本語指導要員を養成する目的で、日本語指導を担当している教員や指導主事を対象に行われるもので、本年度は都道府県から推薦を受けた59名が参加しました。
 カリキュラムは、文法、音声、文字表記などの語学関係、カウンセリング、異文化理解、日本語教授法、日本語力評価法などの科目の他、模擬授業の発表が行われました。中国帰国者定着促進センターの池上摩希子先生の「日本語指導教材」「教科学習と日本語」についての講義もありました。また、現在文部省で開発を委嘱している日本語指導教材『マルチメディア教材 にほんごをまなぼう』を活用した講義も行われました。なお、講習会の講義の一部は「エルネット」という衛星放送設備を利用し、全国の受信施設での受講も可能にしました。
 受講された先生方には、早速2学期から子どもたちへの日本語指導にその成果を生かしていただきたいと思います。

研修会情報

★平成11年度文化庁日本語教育研究協議会

 平成11年度文化庁日本語教育研究協議会(8月24日/大阪大学)の第4分科会では「多様なニーズへの対応方策(2):教材の開発・利用について」というテーマで協議が行われました。全体テーマが「地域社会の変化と新たな日本語教育の展開」ということで、「地域の日本語教育」に焦点をしぼり、文化庁の「地域日本語教育推進事業」の委嘱を受けた2つの機関による報告を中心に進められました。
 まず、武蔵野市国際交流協会の杉澤経子さんが報告されました。「武蔵野市は都市型の住宅都市で、日本語が全くできない中国帰国者の家族も住んでいるが、多国籍のニューカマーが多い地域特性を持っている。武蔵野市国際交流協会では日本語が必要な学習者のために日本語教室を開いており、『武蔵野方式』という週一回の教室活動と週一回のマンツーマン活動を取り入れた2本立て方式でやっている」という紹介がありました。その方式では、教室活動として文化庁の委嘱を受けて今年3月に作成された『4Qにほんご〜地域での日本語共育教科書〜』〔任都栗新監修、文化庁(武蔵野市地域日本語教育推進委員会)発行〕を使って、日本語教師による文型練習を繰り返し行った後で、市民ボランティアと学習者が1対1になり習った日本語を実際に使ってみるという方式です。学習者が1クラス15人もいれば母語は10か国語くらいになり、日本語しか使えないという難しい面もあるそうです。しかし、地域には人材が豊富にいて、今後はそれをどうコーディネートしていくかが重要になるということでした。
 次は、(社)国際日本語普及協会(AJALT)で、この分科会のコーディネーターの関口明子さんが報告されました。インドシナ難民の定住者に対して、20年間日本語教育を行ってきた同協会が、文化庁の委嘱を受け、全国的に汎用性の高い教材『生活日本語標準マニュアル』(仮称)の開発をしており、その紹介が行われました。これは平成11年度作成予定とのことですが、事前の調査研究の結果、従来の教科書とは違い、地域の日本語教材作成の基礎資料となるもののデータベース化をめざしたものです。行動シラバスで組み立てられており、目的を達成するための行動を基本単位として構成されています。例えば、「病院へ行く」では「大病院で治療を受ける」「個人病院で治療を受ける」等の基本的な行動(「基本ユニット」)があり、その「大病院で治療を受ける」にも「診療科の看板を確認する」「総合受付で診療科を尋ねる」「初診受付で手続きをする」等の流れに従った具体的な行動があって、それを「行動カード」にするというものです。参加者の要望に応えて、地域の日本語教材作成者が利用しやすいように、CD-ROMかフロッピーという形でオープンにし、そして将来はホームページにも載せたいというお話でした。    (龍谷大学 稲垣 宏明)

教材 ・ 教育資料

『日本語教材リスト NO.29』

 日本語教育に携わる人にはとても便利なリストです。国内・国外合わせて200社以上が発行する、総数3000点以上の日本語教材が収められています。(毎年刊行されていますが年々分厚くなっているような気がします。)
 リストは大きく四つの分野に分かれていて、目次は以下のようになっています。

1.日本語学習者用教科書 日本語能力試験・ 絵本・子供向け補助教材 日本語概説
総合教科書  私費外国人留学生統一試験対策 図表 音声・音韻
ビジネスパーソン・研修生向け 大学入試対策 3.辞典 語彙・意味
短期滞在者向け 学校情報 日本語学習用辞典 文章表現
留学生向け専門分野 日本語学習関連副読本 各国語辞典 文法
子供向け 日本事情 国語辞典 表記
読解 定期刊行物 漢字・漢和辞典 言語学
文法 2.視聴覚・補助教材 語学・文法辞典 日本語教育能力検定試験対策
発音・聴解 ビデオ 表現・用字用語辞典 日本語教育事情
表記(かな・漢字) コンピュータ 比較文化辞典 異文化・国際理解教育関連
語彙・表現 OHP 4.教師用参考書 日本語関連副読本
作文 カセットテープ 日本語教授法 定期刊行物
練習問題 カード・ゲーム・絵教材 教室活動参考書  

 各教材には、タイトル・著編者・価格・発行所の他に、対象とする日本語学習者のレベル・使用言語・付属教材等の情報と100〜150字程度の内容紹介が添えられていて、教材選びの参考になります。索引も教材別・著者別・発行元別・使用言語別に4種類ついています。何か教材を探したいときは、口コミ情報によることが多いですが、このように市販されている教材のほとんどが網羅されたリストというのも重宝します。無料で頒布されているので、一度手にとってみてはいかがでしょうか。入手方法は以下の二通りです。

 ・凡人社に電話又はFAXで自分の住所・連絡先及びリストが欲しい旨伝える。
 ・近くの書店で本を注文し、その際リストもあわせて注文する。

発行:株式会社 凡人社 TEL 03-3263-3959 / FAX 03-3263-3116

 なお、パソコン上でもこのリストに掲載されている教材の検索・購入・注文した商品の確認ができるそうです(凡人社オンラインショップ)。アドレスはhttp://www.alc.co.jp/bos/です。
 また、このリストを検索できるホームページがもうひとつあります。これは豊橋技術科学大学語学センターが作ったもので、このページ上での購入はできませんが、検索機能は凡人社のものよりアップしています。一つは、クリック一つで教材間の相互参照ができる点、もう一つは、書名・著者名・出版社名に加え、使用言語・学習者のレベル・発行年・規格(練習帳、テープなど)・価格・ISBN(国際標準図書番号)・紹介文中のキーワードによっても検索できる点です。アドレスはhttp://www.is.hse.tut.ac.jp/bon/です。

『日本語学級1 初期必修の語彙と文字』
『日本語学級2 基本文型の徹底整理』

 子供向けの新しいテキストが出ました。『日本語学級1』は、「まずはカタコトで意志疎通を可能に」というコンセプトで作られていて、1章で「初期必修語彙」(いい/だめ、ある/ない、いる/いらない等)、2章では「ひらがな」、3章では「カタカナ」を取り上げています。『日本語学級2』は「カタコトレベルをセンテンスレベルに引き上げる」を目指していて、一課に一つ、新しい基本文型や文法項目が提示されています。どちらもイラストが豊富で、楽しみながら自然に練習を繰り返す工夫が随所に見られます。
 著者は、東京にある波多野ファミリースクールという社会教育財団において、長年に渡り、日本語指導を必要とする児童生徒(国籍はいろいろ)に対して、学校編入前の集中的な日本語・教科指導を行ってきた先生で、テキストの中にも、現場で培われた実践的なアイデアがいっぱい詰まっています。実際に使った人からも、「子供との間で媒介語が使えないので、豊富なイラストに助けられた」等の感想が出ていました。著者が「はじめに」の中で挙げている、子どもに日本語を教える時の三つのポイント(直感で理解させる・楽しませる・自然に反復させる)も、今子どもに日本語を教えている人、教えようとしている人にとって、よいヒントになると思います。

   著者:大蔵守久
   発行:凡人社(TEL 03-3239-8673)
   価格:『日本語学級1』1800円
      『日本語学級2』1900円

事例

〜 十回目のチャレンジ「運転免許証」 〜

 「ブルルル…」軽快なエンジン音を響かせて走る日産パルサー。前後には初心者マークが見える。運転しているのは中国帰国者のHさん(四十三歳)。昨年十月二十七日、念願叶って運転免許を取った。駅からHさん宅までの約十分間、私は助手席に乗せてもらい、ちょとした感慨を覚える。
 Hさんは平成八年十月、残留婦人だった母親に伴い家族6人で来日し、所沢の中国帰国者定着促進センターで研修を受けた。修了後、長野県の自立研修センターで引き続き日本語の勉強をし、翌年十月、市内の工場に就職した。
Hさんが運転免許を取ったという知らせは、私たちを驚かせた。「いったい、どうやって…」。所沢にいた時のことを思ったからである。在籍していたクラスの読み書きレベルは決して高くはなかったし、本人も苦手意識を持っていた。彼が学科試験をクリアするのは至難のわざに思えたのだ。「周りのサポートはどの程度だったんだろうね。」といろいろ詮索もした。本人の努力はいうまでもないが、きっと身近に様々な角度からサポートしてくれた人がいたはずだ。彼の周囲の人にも話を聞いてみようということになった。

〈不便は人を強くする〉

 長野県は乗用車の世帯所有率が90〜95%と言われ、全国的に見ても一世帯当たりの所有台数が多い。車は日常生活の必需品である。そんな中、Hさんはどこへ行くにも自転車で移動していた。買い物も通勤もたっぷり片道三十分はかかる。冬は特に大変。雪が降り、凍りついた道路を走るのは危険だ。どうしても車が欲しい。平成十年四月、ついに自動車学校へ通うことを決意した。日本語の研修が終わって半年、猛勉強の日々が始まった。当時の様子を振り返りながらHさんは「難しかったのはブレーキ。スーッと止まるのが・・・。解らない時、ゆっくりお願いしますって言う。先生はみんな親切。」と語る。自立研修センターの勉強が終わった頃に会った時は、まだ文レベルではあまり話せない状態だったが、その半年後に自動車学校へ通い始めたのだ。日本語学校とは勝手が違い、クラスメイトは一般の日本人で、当然、授業は日本語だ。中国語と日本語は漢字が共通、とは言っても大変だ。使った教本の一冊を見せてもらったが、所々に下線が引かれ、辞書で調べた中国語が鉛筆で書き込まれている。毎日平均五時間は勉強し、遅い日は夜中の二時頃まで勉強していた。実技試験は仮免も本免も一回で合格したそうだが、学科試験は仮免が三回、本免は十回受けた。小学生の娘さんは「お父さんが家に帰ってきた時、顔を見るとすぐにテストの出来がわかる。」と話してくれた。

〈職場の人たち〉

 自動車学校へ行くときは一人だけ早上がり。職場は便宜を図ってくれた。工場長さんは「…昼休みもよく勉強していましたよ。質問されても言葉がなかなか通じないから、説明に苦労しました。」と言う。一時、諦めかけて二週間ほど行かなかったときもせっかく受かった実技が無駄にならないよう励ましたそうだ。合格する前の月、Hさんはお母さんを亡くし、中国の家族と一緒に喪に服すために、一ヶ月半の休暇を願った。このときも、工場長さんは中国の習慣なら仕方がないかと考え、認めてくれた。日本へ帰って間もなく、十回目で試験に合格した。この休暇があったお陰で、親戚や友人の元気な顔を見られ、気持ちも落ち着き、再び奮起したのかもしれない。

〈教習所の先生たち〉

 毎年二十人〜三十人くらいの外国人が受講するそうだが、時間とお金を浪費させない配慮から、ある程度の日本語が解らないと入校を断るという。Hさんが手続に行ったとき、すでに受講していた帰国者が彼の世話をしていて、その様子を職員が見て、これならば何とかなると許可されたようだ。指導の際も色々配慮がなされた。実技指導では、まずHさんが知っている単語のリストが作られた。「ロック、シート、ミラー…」全部で二十八個の語彙を手がかりにスタートした。難しい縦列駐車も五つに図解して見せ、繰り返し模範運転を示す。学科の先生は何とご自身が六年前から中国語の勉強を続けているという。以前、中国から来ていた女性がある日泣き出したことがきっかけだったそうだ。以来ラジオ講座や公民館で学び、Hさんのときも先生は辞書を片手に解らない言葉を中国語に置き換えてくださった。

 日本に来て二年余り、Hさんの生活の変化は、本人も予想しなかったことではないだろうか。今は通勤の他に家族を乗せて買い物に行ったり、雨の日は娘さんを学校へ送ることもあるという。本人の努力は勿論だが、彼を受け入れ、自らにも新しい課題を課した人が周囲にいたことは心強い。もうじき初心者マークもとれるが、くれぐれも「初心忘れずに」。

 (所沢センター 益村)

とん ・ とん インフォメーション

★ 東京都『公立小・中学校日本語学級認可要綱』について

 現在、全国の公立小・中学校には、日本語の指導を必要とする外国人児童生徒がおよそ17000人いると言われています。そのほとんどの子は来日前に日本語の指導を受けたことがなく、言葉・習慣・学習面で様々な問題や不安を抱えて学校生活をスタートします。編入当初は、言葉が解らない中で周囲の子を見様見真似して長い一日を過ごすのが精一杯でしょう。先生やクラスの子に何か言いたくても言えず、もどかしく感じることもあるでしょう。また、たとえ日常会話ができるようになったとしても、日々の教科内容を習得していくのは簡単なことではありません。学校生活に適応するために、こどもはこどもなりに苦労やストレスがあるはずです。一方、このようなこどもたちをクラスに迎え、指導する教師の側の苦労も絶えません。
 東京都教育委員会は生活・学習双方においてより充実した指導ができるように、平成元年度より『公立小・中学校日本語学級認可要綱』を定めています。ここで、その概要を簡単に紹介しましょう。
 要綱には制度の目的が次のように記されています。
「この要綱は、帰国児童・生徒(海外帰国児童・生徒及び中国引揚児童・生徒)及び在日外国人児童・生徒等で公立小・中学校に就学している者のうち、日本語能力が不十分な児童・生徒に対し、日本語の習得を目的とする授業を行うことにより、通常の教科についての学習理解及び生活習慣の習得を容易にし、教育効果の向上を図るため、区市町村が小・中学校に設置する日本語学級を東京都教育委員会が認可する基準を定める。」 

 平成11年度に認可を受けた学校は、小学校が8区2市で13校、中学校が4区1市で5校、中学校夜間学級が5区で5校あります。昨年5月1日現在で通級していた児童生徒数は小学校が222名、中学校が78名(夜間学級を除く)でした。
 具体的な指導内容や運営方法、今後の課題等は実施する学校の実情に応じて様々だと思いますが、この制度がこどもの精神的な安定を図り、指導をより一層改善することに活用されるのが期待されます。

〜 「サハリン同胞交流協会」訪問記 〜

 『同声・同気』第13号で紹介しましたが(巻頭言、P.6厚生省から)、所沢センターにサハリンからの帰国者が入所してそろそろ1年になります。57、58期で同伴も含めて7家族25人がセンターを退所して北海道に定着し、現在59期は5家族16人が研修中です。
 1年前、サハリン残留日本人について何の知識も持っていなかった私たちは、それぞれが必要に応じてにわか勉強を積み上げ、実際に日々学生に接することでその知識を増やしてきたように思います。それでも “まだ” という思いがあって、今回、「サハリン同胞交流協会」の事務局をお尋ねしていろいろお話を伺いました。報告して、皆さんとサハリン残留日本人の事情について共有できればと思います。(所沢センター 玉居子、若松)
 戦前、日本の領土であった樺太に渡っていた日本人は、昭和20年8月9日、ソ連の対日宣戦布告による混乱の中で日本に帰れず、樺太に留まらざるをえない人が多くいた。終戦直後の脱出を除くと、それら日本人の集団引き揚げは前期と後期に分けられる。前期は昭和21年12月に始まって24年7月まで行われ、協会の資料によると、その間の帰国者は292,590人である。このうち、22、23年の2年間で28万人余が帰国している。後期は昭和31年10月の日ソ共同宣言にともなって再開された。32年から34年までの帰国者数は計766人である。これら、集団引き揚げが行われた年以外では最近まで帰還者は年に一人いるかいないかというくらいである。
 戦後、樺太にとどまった人たちの多くは、鉄道員や炭坑・製紙関係者、学校教師とその家族等であったが、中にはシベリアへ送られた人もいる。日本人であることを隠し、日本語を使うことができないような暮らしを続けてきて、現在450人ほどが在住していると推測される。そうした在住日本人が相互に連絡を取り合ったり、日本の肉親探しや一時帰国したりするための援助を続けてきたのが「日本サハリン同胞交流協会(旧称 樺太同胞一時帰国促進の会)」である。この会は10年前の1989年、サハリンに関わりのある人たちが結成した。発足当初の会員は6人、現在は300人ほどである。年間八千円の会費と個人の寄付によって運営されている。会は発足当初から「再度離散家族を作るな」「サハリンで胸をはって生きる市民になれ」という考えのもと、永住帰国よりも一時帰国を一貫して勧めてきたというが、ロシア国内の事情の変化や加齢による心境の変化等により永住帰国を希望する人たちが急増し、平成10年10月の国費入所につながったということであった。1999年現在までの日本定住者は、センター入所者も含めて32世帯、87人(うち2名死亡)である。
 中国からの帰国者は日中の政府間協定に基づいて永住帰国の諸手続が取られるが、サハリンの場合は、協会が日本人と認められて帰国する人たちの身元引受人であり、また帰国に関わる事務諸手続きの代行者でもあるとのことだった。
 さて、協会の事務所で私たちを迎えてくれたのは、事務局長の小川さんと副会長の笹原さんであった。仕事をしながら在留日本人の支援を続けてきたお二人は、定年退職後の今、明けても暮れても“サハリン”に追われている。そしてそれが少しも苦ではないようである。加えてお若い。私たちがお話を伺っている間にもひっきりなしに電話が鳴り、てきぱきと応対しておられた。「いつまでこの仕事を続けられるおつもりでしょうか」という私たちの不躾な質問に対して、「手足が動かなくなったら、それでおしまい」と笑いながら答えてくれた。

いまどきのキーワード その(5)

 いまさらのキーワード…     「ネットワーク」

 流行語の感がある「ネットワーク」は今、どのような意味で用いられているのでしょう。
辞典では網細工、網織物、網状組織、連絡網、電気回路網、放送網。すなわち、点と点が線で縦横に結ばれてできる形で、増殖していくことがイメージできます。はじめは社会学の分野で、点と点、たとえば個人、家族、地域集団などの関係性を調査研究・説明するのに用いてきました。人はネットワークの中に生まれ、ネットワークを多方面に増殖させながら生きていくわけで、人に行動の仕方を決定させたり、維持させたりする背景には何らかのネットワークの影響があると考えられます。このようなネットワークは、人の周りに自然発生的に、あまり意識されずに出来上がるネットワークです。
 しかし近年、女性問題や環境問題などにかかわる自由な社会運動や市民活動が活発になってきて、その運動の核になる集団が情報や意見を交換したり、連帯したりと意識的にネットワークを形成するようになり、私たちも日常的にネットワークということばに触れるようになりました。そして、これらのネットワークの概念には、「点がそれぞれ独自性をもち、互いに束縛せず、しかし、相互に助け合う」という特徴があります。
 日本語教育の分野でも、「ネットワーク」に関心が払われてきました。個人やグループがネットワーク作りに動き出した結果、今では多くの地域に日本語ボランティア・ネットワークが形成されていて、個々に勉強会、連絡会、報告会などと活発に活動しています。
と同時に、それらのネットワーク同士が互いに連絡を取り合い、合同で勉強会を開いたりする中で、他の分野、例えば医療関係や国際理解教育などのネットワークともネットワーキングしやすくなっています。すなわち、価値観の共有にもとづく、ゆるやかな横のつながりを重視したネットワークを意識的、積極的につくり出そうとしているのがわかります。
 さて、私たちの関わっている中国やサハリンからの帰国者の学習では、学習者の年齢や生活・学習歴が様々であり、居住地域も全国に散らばっていて、学習の内容も生活全般にわたることが特性です。そして、支援者もまた地域、活動分野、年代、立場など様々です。多様な学習者に多様な支援者が関わって、それぞれの場で、試行錯誤し独自の方法論を実践しているのです。行き詰まり、挫折感を覚えることも多いでしょう。そんな時、他の個人やグループが作り上げてきた手法や、蓄積された情報を参考にすることができれば、そこから、また、新しい道を開くことができるのではないでしょうか。
 『同声・同気』が5年前、その創刊号巻頭言で触れているように、『同声・同気』のネットワークで「体験や知識を発信し合うことによって、単に情報の交換を行うだけでなく、そこから新たな価値を生み出していく」結びつきをつくりたいものです。

『中国帰国者定着促進センター紀要』第7号の紹介

 1998年度は、文化庁からの研究委嘱事業である「中国帰国者に対する日本語通信教育(試行)−『通信』による日本語学習支援の試み−」の最終年度ということもあり、所沢からのものとしてはこの報告を中心に4篇、所沢センター「子どもコース」の教育に関わるもの2篇(●教科と日本語の統合教育の可能性−内容重視のアプローチを年少者日本語教育へどのように応用するか−●実践報告−センター小学生低学年クラスにおける算数プログラムの設計−)、所沢センター1998年の記録が載っています。 また、所沢外部からは、この「通信」に関わるものも含め4篇いただくことができました。内容は、●〈つながり〉を創出する日本語学習支援を−郡山市における実践から−(上記「通信」の郡山市における調査研究から)●地域に根ざした日本語教育を目指して(神戸市における日本語教室の現場から)●多様な言語背景をもつ子どもの母語教育の現状−「神奈川県内の母語教室調査」報告−(神奈川の「子どものことばとアイデンティティを考える会」が行った調査および母語教室の現場から)●中国帰国生徒の学校における準拠集団について−学校における言語集団という視点−(東京都の高校教育の現場から)です。
 なお、所沢では現在、紀要第8号の原稿を募集しています。内容は、中国帰国者(定住型外国人を含め)を対象とする教育や支援に関わるものであれば、論文、報告、研究ノート等、何でも結構です。締め切りは2000年2月末日。応募したいとお考えの方は、ぜひ【所沢:佐藤】(連絡先は『同声・同気』編集部に同じ)までご連絡ください。お待ちしています。

「外国語を母語とする人たちの高校進学ガイダンス‘99(神奈川)」

 例年のように今年もまたガイダンスが開かれます。今年で5回目を数えます。第一回は9月23日にすでに開かれました。10月3日(日)に相模大野高校(相模大野駅5分)で13:00〜17:00まで開かれます。  問い合わせ先: TEL045-942-5202  高橋

中国語ボランティアネットワーク 6周年記念 「中国の音楽・料理とボランティアの会」

いつ: 10月10日
 3:15〜5:15
どこ: 吉祥菜館
吉祥寺駅公園口
徒歩2分
いくら: 2000円
申し込み先: 実行委員会 担当 松尾
TEL 070-5368-9508
FAX 042-382-9280

ニュース記事から(99.6.1〜9.6)

日付 記事内容
6.6 公立高校受験、帰国者・外国人への対応に都道府県で格差
8.2 厚生省、孤児の訪日調査11月1日から実施
8.20 支援ボランティア等が瀋陽市に「養父母 感謝の碑」を建立
9.4 厚生省、残留孤児の調査方法見直し 来年度から訪日調査はせず

「ニューズレターの宛先は…」−編集後記にかえて−

 私たちが『同声・同気』の創刊に向けて準備号を出したのは94年7月のことでした。5年経ちます。そこで、このニューズレターをどんな方が読んで下さっているのかちょっとまとめてみました。
 発行当初、帰国者教育・支援に関わる人に送るといっても手元にはわずかな資料があるだけという状況でしたから、準備号は各都道府県の担当部署と、私たちが知り得た機関・個人宛に送りました。わずか475件でした。同時に、各都道府県にはこのニューズレターの趣旨にそい、読者として適当と思われる人(自立指導員や身元引受人等)の名簿をいただきたい旨のお願いをしました。また、教務課講師が外部に出向くような時には必ず持参し、みなさんに紹介するようにしてきました。私たちは、ポツポツと送られてくる各県名簿を一番の頼りに、95年1月、創刊号を発行し、1333件(バックナンバーとして後に送付したものも含む)を全国の皆さんにお送りする事ができました。以来、お寄せいただく各県名簿も増え、10号を迎える頃には二、三県の例外を除いてほぼすべての都道府県担当部署のご協力がいただけるようになりました。私たちは、各県名簿をもとにデータベースを作り、さらに年度毎には担当部署を煩わせながら、年に一度の更新作業を続けてきています。
 今年7月22日現在の送付先及び送付件数は以下の通りです。

個人宛     機関宛  
身元引受人 515   小・中・高 397
自立指導員 472   各種関係団体 173
自立指導員、身元引受人 19   官公庁 161
自立支援通訳  34   日本語教室 101
日本語教育関係者 104   一次二次センター 38
小中高教師 61   大学 16
その他 176   その他 33
1381件   919件

 送付件数は合わせて2300件ですが、個人宛では総数1381件のうち、自立指導員、身元引受人、自立支援通訳が合わせて1040件、ほぼ76%を占めます。機関を見ると、小・中・高がもっとも多くて397件、日本語教室が101件で合わせて半数以上を占めています。これら直接帰国者やその家族に関わる人々が全体のほぼ67%を占めていますが、最近は子どもたちに関わる人や機関が増えています。一方で、長いこと自立指導員等をしてこられた方々が病気や高齢等を理由にお辞めになるなどのご連絡をいただくことも多くなっています。さらに各県名簿からの人数も今年度は少なくなりました。読んでくださる方々に若干の変化が見られつつあるということでしょうか。
 さて、みなさんが最も関心を持ってお読み下さる記事はどのようなものでしょうか。ご意見、ご感想をお寄せください。また、自立指導員等であるにも関わらずこの『同声・同気』が送られてきていない方をご存じでしたら是非ご紹介の上、当方にお知らせいただければありがたく思います。『同声・同気』編集担当者一同

 〜 リンク先募集 〜

 センターのホームページ『同声・同気』の中に「支援マップ」というページがあります。帰国者やその家族、あるいは支援者の方々を主な対象として作ったものですが、まだこのページに掲載されていない団体や活動が数多くあるのではないでしょうか。「私たちはこんな活動をしている」「私たちはこんなグループ」という情報を「支援マップ」ページに掲載してみませんか。
 既に自分たちでホームページを持っているところはURLを教えてください。ホームページがないところは機関紙や写真、紹介文等を送付してください。こちらで紹介ページを作成いたします。
 どうぞたくさんの情報をお寄せください。お待ちしています。