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巻頭言 二世三世の進路支援は情報戦
こんなところ・あんなところ・どんなところ
地域情報 ア・ラ・カルト
行政・施策
研修会
教材・教育資料
とん・とん インフォメーション
事例紹介『ガラスの箱』の内と外

巻頭言

二世三世の進路支援は情報戦!

 中国等からの帰国者二世三世の進路については、これまでにも学齢を超過した生徒に中学校編入の途が閉ざされがちであることや、高校入試に際して母国で培ってきた学力が生かされにくいことなど、さまざまな問題が提起されてきています。また、サハリン等ロシア語圏からの帰国者の場合、中国帰国者なら受けられる自治体の様々な援護策が受けられないことに加え、さらに非漢字圏であることからくる学習上の不利もあって進路の保障がさらに困難です。
 しかし、そうした厳しい条件下でも、進学を望む青年たちは何とかしてそれぞれの居場所で途を切り開こうと奮闘してきており、私たち自身そうした事例から、そんなこともできるのか!と学ぶことも多いのです。
 現在文部省の教育改革が全国的に展開されつつありますが、その中の高校改革の具体策には、帰国者をはじめ、外国人生徒の進学の可能性を広げることにつながるものがあります。たとえば、単位制高校の中には母国の高校での取得単位を認めてもらえる場合もあること、定時制高校は統廃合への過渡期であるとはいえ、なお少人数クラスでの個別対応が受けられる可能性があること、少子化の影響で大学進学者が減って私学が門戸を広げたため、私学なら定時制高校からも大学推薦入学の可能性が高まっていること、各種の奨学金を上手に活用すれば経済的に余裕のない帰国者家庭からも私立高校への進学が可能であること。母国で高校に在学していた場合、大検を活用すれば日本で一から高校に入り直さなくても大学受験が可能になること、義務教育未修了でありながら来日時に学齢を超過している場合も、中卒検定によって高校受験の可能性が開けること等々。
 私たちは、これらのことを実際に定時制高校や単位制高校、大学に進学した二世三世たちから知らされたのですが、支援者としてはこうした事例を後追いするだけではなく、変化しつつある高校現場の実態を一早く把握し、その情報を提供していくことが求められているでしょう。たとえば、帰国者のための入試特別措置などの情報は、同じ県の中の動きであっても中学校の先生方ですらご存じでない場合もあるのです。まして、高校設置や統廃合、単位制への移行など、今後の変化についてはよほどアンテナを張り巡らせていないと見のがしてしまうでしょう。
 少しでもチャンスがあれば活用するためにも、そして、他地域の事例に学んで行政に働きかけていくためにも支援者間のネットワークが今後ますます重要になっていくと考えられます。今まで以上に密に情報を交換していきませんか。

こんなあんなどんな

関東地方  そのC ― 東京都 ―

1.中国帰国者の概要

@帰国者の定着状況

 昭和47年日中国交正常化以降平成11年度末までに東京都に永住帰国した中国帰国者数は、帰国者本人が1091人、世帯員数は3618人で、全国の約18%を占めています。このほか自費帰国者及び他の道府県に定着したのち東京都に転入した帰国者、さらに呼び寄せ等で入国した二世世帯等を含めると、その数は数倍にのぼると思われます。
 年度毎の帰国者数は、昭和60年代の大量帰国時代には年間95世帯を数えるときもありましたが、最近は減少傾向となり、平成9年度45世帯、10年度30世帯、11年度20世帯で、12年度は15世帯(内1世帯はサハリンからの帰国者)の見込みとなっています。
 定着先の区市町村は都内全域にわたっていますが、昭和57年以降の都営住宅斡旋状況でみると、区部が84%、市部が16%となっています。最近の帰国者は大都市志向が多いようですが、定着先は身元引受人の居住地の近辺を原則としています。

A東京都の帰国者援護対策の特徴

 東京都においては国の帰国者対策事業に先駆けていくつかの事業を行ってきました。そのひとつが、日本語教室及び帰国者相談事業で、都は運営主体の東京都社会福祉協議会に対し、昭和58年から経費補助を行ってきましたが、昭和63年、国の自立研修センター設置以降は同センター事業に引き継がれ、引き続き東京都社会福祉協議会に対し、都が委託しています。
 また、中国帰国者を受け入れてきた東京都独自の施設として東京都常盤寮があります。東京都常盤寮は昭和24年から、引揚者一時宿泊所として東京都が運営してきたもので、中国帰国者の帰国事業が始まってからは東京都定着の中国帰国者も受け入れ、宿所提供のみでなく、昭和54年からは日本語教室を設置、同61年からは中国語のできる生活相談員を配置するなどして帰国者の援護に努めてきました。昭和59年、国の中国帰国者定着促進センター開所以降は東京都への定着者は常盤寮と同センターのいずれかに入所することになりましたが、近年、東京都への定着者数の減少により希望者全員が定着促進センターに入所することが可能となるに至り、東京都常盤寮はその使命を全うしたと認められ、平成12年度末をもって閉所することになりました。日中国交正常化以降閉所までの入寮者数は462世帯(内40世帯は韓国からの引揚者)となっています。
 このほか、東京都では昭和61年以降庁内の援護体制の整備を進め、福祉局に中国帰国者対策担当組織を設置、昭和62年、庁内の関係各局による中国帰国者対策協議会を設置して有機的な連携を図るとともに、福祉局内に帰国者相談窓口を設置し、相談通訳員を配置するなど、大量帰国に対応した態勢を整えてきましたが、近年の定着者の減少及び呼び寄せ二世世帯の増加、帰国者の高齢化等の状況変化に応じた対応を迫られているところです。

2.東京都単独事業

<福祉局関係>
@帰還祝金の支給
 東京都への初めての帰国者に対して、祝金を支給しています。

A引揚者一時宿泊所(東京都常盤寮)の運営、常盤寮日本語教室の設置
 平成12年度で廃止します。

B中国帰国者生活相談員の派遣
 自立指導員の派遣対象とならない中国帰国者(援護期間を経過した帰国者及び呼び寄せ二世世帯等)に対して、自立指導員を生 活相談員として派遣し、相談・指導を行います。

C日本語指導事業の助成
 日本語指導事業を実施する民間団体(4団体)に対し、運営費を補助しています。

D中国帰国者相談通訳員の設置
 福祉局内に帰国者相談窓口を設置し、相談通訳員(非常勤、2名)を配置しています。

E中国帰国者生活便利帳の配布
 日中両国語で併記した便利帳を東京都定着時に配布しています。

<教育庁・都立大学等教育関係>
@都立高校海外帰国生徒学級(引揚生徒対象)特別選抜
 保護者が帰国者で、引き揚げ後小学校4年以上の学年に入学した生徒を対象に特別選抜を行い、日本語指導授業、学習指導、生活相談等の特別措置を実施します。(平成12年度12校、募集定員各校10名)

A都立高校入試特例措置
 中国帰国子女が第1次募集において、一般の都立高校を受験する場合は、申請によって試験時間の延長、漢字のふりがな付記等及び面接の実施等の特別措置を実施します。

B日本語学級(小学校、中学校、中学校夜間学級)
 日本語能力が不十分な児童生徒に対し、日本語指導、生活指導を実施します。
(平成12年度指定校−小学校13校、中学校5校、中学校夜間学級5校)
 なお中学校夜間学級は都内に8校あり、学齢超過の帰国者(呼び寄せ二・三世を含む)や外国人生徒を多数受け入れています。
C都立大学特別選抜・都立短期大学特別選抜
 中国引揚子女のために入学選抜において特別
選抜を実施します。

<労働経済局関係>
@都立技術専門校優先入校措置
 都立技術専門校入校試験に際し、一般の試験に先立ち「中国帰国者向け筆記試験」を実施、面接時に自立指導員を派遣する等の措置を行うほか、入校試験の前に見学会を実施します。

A都立技術専門校入校前準備講習会
 入校決定者に対し、受講ガイダンス及び日本の労働事情等の講習を実施します。
  (東京都福祉局生活福祉部)

  ※東京都については第21号に続きます

− 帰国者一世の老後保障を求める『請願』署名活動の動き −

 昨年より、「残留孤児」世代の帰国者と、彼らを支援するボランティア団体が中心となり、帰国者一世の老後保障を求める「請願」を、国会に求めるための署名活動が行われている。
 主な「請願」の内容は、第一に日本人の年金に当たるような老後の援護手当の支給を求める、第二には、「中国残留邦人等支援法」の中に、「帰国者一世の老後保障を行う」という一項を加えて欲しい、というものである。今回の運動は、東京、神奈川を中心に始まり、全国の帰国者へもその署名活動の輪は広がっているようだ。2000年12月までに集まった署名の数は、東京を中心とした活動で約2万1500人、神奈川を中心とした活動でも約2万人だというが、今年、1月に始まる定例国会に向けて、2月初旬ごろに衆議院、参議院の両議長宛に「請願書」と集まった署名を提出する予定という。(所沢センター 馬場)

行政・施策

★厚生労働省から

1.「中国帰国者支援に関する検討会」報告書の概要

 平成12年5月より、中国帰国者の高齢化や多様化を踏まえて今後の中国帰国者の自立支援対策に資するため、関係各方面の有識者からなる検討会を7回にわたって開催して来ました(『同声・同気』第19号既報)が、12月4日、報告書が提出されました。
@中国残留邦人をとりまく現状と課題
・新たに帰国する中国残留邦人は減少傾向にあるが、中国に居住する残留邦人は約700人(孤児380人と残留婦人等320人)把握されており、今後とも帰国者の受け入れに必要な体制を維持していく必要がある。
・帰国者本人の高齢化(平均年齢63.1歳)、日本語習得に当初の想定より長期間を要すること、就労の困難、生活保護受給世帯の増加など、日本社会で自立することが非常に困難になっている。
・孤児で46.1%、婦人等で62.4%の者が二・三世を同伴しており、帰国者の姿は多様化している。
・日本社会で自立する者もいる反面、日本語未習得などによる就職難、家庭内問題の発生や社会的事件に巻き込まれるなど、日本社会への適応が、一層困難となっている状況も見られる。
Aこれまでの帰国者支援施策の評価
・平成6年に「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律」が制定されており、関係施策の企画、実施等について同法の趣旨が十分に生かされているか、帰国者像の著しい変化を踏まえて点検、評価と見直しを行う必要がある。
B今後の施策の方向について
・帰国後当面の支援から継続的支援へ
 帰国者の姿が多様化し、日本社会に速やかに適応することが難しくなっていることから、従来の帰国後3年以内に限定されていた施策を転換し、継続的な支援を実施するべきである。
・高齢化や二・三世の増加に応じた支援
 高齢化した帰国者については、地域社会での孤立も指摘されていることから、地域での交流を保ちながら社会の一員として生活するという意味での社会的ないし精神的自立を図ることを主として支援する。就労可能な二・三世については、自身の自立の実現とともに、まずは精神的に、さらに可能な限り経済的にも帰国者本人の世帯の支えとなる役割が期待され、可能な限り就労が実現できるように施策を講じるべきである。帰国援護の対象とならない二・三世についても、帰国者本人の精神的・経済的支えとなる可能性があり、日本入国後の社会的適応自立促進のための支援が必要であり、可能な範囲で弾力的対応が望まれる。
・中国残留邦人問題に関する啓発
 中国残留邦人問題を風化させず、問題の背景な どの正しい理解に基づく一般国民からの支援、協力を確保するため、関係の記録の保存や啓発活動を行う必要がある。(ここには以上のほか、国と地方公共団体の役割の確立、ボランティア活動の環境整備、効果的な施策の実施、関係省庁の連携の強化について記述されている)
C今後の具体的支援方策について
・日本語習得
進度別、目的別など帰国者のニーズに合わせ、3年間に止まらず継続的に日本語を習得できる体制を確保する必要がある。年齢的に就労が可能な帰国者については、職業能力開発施設等での訓練を十分に理解できるような水準の日本語を、高齢の帰国者については、日常生活に要する程度の日本語を習得できるよう、研修を受けられる体制が求められる。
・就労支援
関係機関が相互に連携しながら、日本語の研修から就労のための訓練までを視野に入れ、きめ細かな支援を行う体制づくりが必要である。
・生活相談
専門的対応を要する相談については、専門知識を有する相談員や通訳を中核となる拠点で確保し、地域の相談窓口と連携しつつ、電話・手紙等で広域的に対応することが適当である。
・交流の場の提供
 帰国者が地域住民、ボランティア等と交流したり、帰国者同士が相互に情報交換・交流ができる場を設ける必要がある。高齢な帰国者に対しては、体や心の健康を損なうおそれもあるので、地域でのボランティア活動等を通じて、地域住民との交流を図り、生きがいのある生活の確保に資することが必要である。
・継続的な支援の実施と拠点の整備
 日本語習得や専門的な相談などに広域的に取り組み、継続的かつ総合的に自立を支援する機能を有する拠点を、早急に整備すべきである。この拠点は、ボランティア活動や総合的な交流の場の提供をはじめ、中国残留邦人問題の背景や経過を展示するなど普及啓発を行う等、総合的な機能を有する拠点とすべきである。(ここには以上のほか、ボランティアとの連携、普及啓発、その他の関連する施策について提言がある)
D終わりに
 中国残留邦人及びその家族の人々にあっては、公的援護施策の整備やボランティア、地域住民等の協力、援助に対応する自分自身の意欲と努力が日本社会における自立した生活と幸せを実現するために必要不可欠であることを十分に認識して取り組まれることを期待する。なお、中国政府や在中国の養父母からも、帰国者の日本社会での生活については、強い関心と要望が表明されており、日本政府として、帰国者の支援策の適切な実施に当たることを要望する。

2.平成12年度身元引受人会議

今回は、東ブロックが平成12年9月7日、8日福島県で(身元引受人30名、県職員20名出席)、西ブロックが平成12年12月4日、5日広島県で(身元引受人27名、県職員17名出席)それぞれ開かれ、全体会議とグループ討議が行われました。この会議は、これまで全国を6ブロックに分け毎年2ブロックずつ実施してきましたが、今年度から東ブロック(北海道・東北、関東・甲信越、東海・北陸ブロック)、西ブロック(近畿、中国・四国、九州ブロック)の2ブロックに統合し、毎年実施することとしております。
1日目は、厚生省による行政説明及び労働省による就労に関する講演があり、その後身元引受人による体験発表及びグループ討議が行われました。グループ討議では、特に呼び寄せ、住宅問題、親の扶養問題、日本社会への適応方法などの各テーマについての現状と問題点が報告され、活発な意見交換がなされました。2日目は、前日の討議のまとめの発表と厚生省への質疑応答が行われました。
なお、今年度より、樺太等帰国者の身元引受人の参加についても呼びかけをしたところ、東ブロック身元引受人会議において2名の方が参加し、中国帰国者の身元引受人と積極的な意見交換が行われました。多くの参加者から、ブロックの統合により、より多くの県の実情が把握できて大変参考になったとの感想がありました。

3.樺太残留邦人の現地調査の実施について

 この度、職員を樺太(サハリン州)に派遣し、樺太残留邦人を対象に帰国意向等の調査を行いました。
これは、戦後55年を経た今日、高齢化の進展に伴う望郷の念の高進やロシア連邦の社会状況の変化等により永住帰国を希望する者が増加傾向にあることから、今後の永住帰国者の円滑な受け入れ等を策定する基礎資料とするため、永住帰国に関する情報を的確に把握することを目的としたものです。
 今回は樺太の南側に居住している邦人を対象に12月6日〜8日の3日間、ユジノサハリンスクやホルムスク等の6地区に会場を設け本人の現状や永住帰国意向等を面接により聞き取り調査を行いました。来年度は樺太の北側に居住している邦人を対象に調査を行うこととしております。

4.中国残留孤児の訪日対面調査の結果

@平成12年11月14日から20日までの7日間、国立オリンピック記念青少年総合センターに於いて、訪日対面調査が行われました。平成12年7月、中国現地で日中共同の調査を行い、平成12年度に新たに認定した20名の孤児の情報を公開し、肉親情報のあった4名の孤児が訪日対面調査に臨みました。調査の結果、滞在中に肉親が確認された方は1名で、他に3名の方が血液鑑定を行いました。この中から身元判明者がでることを期待しています。
A平成12年度からは集団による訪日調査に替えて、中国現地で日中共同の調査を行った後、日本で孤児の情報を公開し、日本側に肉親情報を保有する者だけが訪日対面調査を行うこととし、肉親情報がない者については、日中両政府で孤児と認めた者であるので、直接帰国できる方法に改めました。
Bなお、この20名の孤児については、2月下旬、永住する前に日本の社会を知るために、一時帰国の機会があることを案内しています。
C孤児の方が帰国する場合には、帰国旅費の国庫負担、親族に代わって身元を引き受け相談相手となる身元引受人制度、さらに日本語研修、自立指導員の派遣など様々な引き揚げ援護施策を講じています。ご親族だけに負担をおかけすることはありませんので、肉親情報がありましたら是非お寄せ頂けるようお願い致します。
D肉親調査がますます困難となる中で、最善の方法を模索しながら訪日対面調査を実施しましたが、これまでに肉親が確認できなかった方々についても引き続き調査を行って参りますので、引き続き皆様のご協力をお願い致します。

5.中国帰国者生活実態調査について

 平成12年9月「中国帰国者生活実態調査の結果」を発表しました。この調査は、平成元年12月1日以降、平成11年11月30日までに永住帰国した帰国者本人のうち、中国帰国者定着促進センターに入所中の者等を除いた2562人を対象に、平成11年12月1日現在で調査し、回答のあった2225人(回収率86.8%)について取りまとめたもので、その概要は次のとおりです。
@帰国者の年齢
 帰国者本人の平均年齢は孤児が58.3歳、婦人等は66.9歳で、前回(平成7年3月1日)と比べると全体で5歳高齢となっています。
A国費により同伴帰国した子世帯の状況
 この質問事項は、今回新たに帰国者本人を扶養するために同伴帰国した子世帯による扶養の実態を把握するために加えました。その結果は、国費により同伴帰国した子世帯がいると答えたのは、孤児が46.1%、婦人等が62.4%となっており、そのうち、別居していると答えたのは、孤児が52.3%、婦人等が50.8%となっています。
B生活保護の受給状況
 生活保護の受給状況をみると、孤児世帯では65.5%、婦人等世帯では64.8%、全体では65.1%が受給していると答えており、前回調査の孤児世帯38.5%、婦人等世帯の38.5%、全体で38.5%と比べるといずれも受給率が著しく高くなっています。
C就労状況
 帰国者本人のうち、60歳未満の者の就労状況をみると、孤児は29.2%、婦人等※は36% が就労していると答えており、前回(孤児51.2%、婦人等49.4%)と比べると、孤児、婦人等ともに就労率は大きく低下しています。また、就労状況と日本語の理解度の関係をみると、就労している者の約80%は「職場 で仕事の会話ができる」又は「買い物に不自由しない」程度の日本語が理解できるのに比べ、就労していない者のうち、同程度の日本語が理解できる者は50%に満たず、就労状況と日本語の関わりの深さが窺われます。
※「婦人等」には、「残留婦人」だけでなく「残留孤児以外の者」も含んでいます。
D日本語の習得状況
 帰国後1年未満で、日常生活が営める程度の会話ができるようになる者の割合は、前回の25.5%(全体)より少し高くなっているものの、孤児は27.4%、婦人等は27.1%にすぎません。また、日本語の会話が未習得と答えた者は、孤児32.7%、婦人等32.3%で、前回(27.9%(全体))と比べると未習得者はやや増加しています。依然として基礎的な日本語習得を要する帰国者が多数います。
 なお、「中国帰国者生活実態調査の結果」の詳細については、所沢センターホームページ『同声・同気』にも掲載しておりますので御覧ください。

6.「国民年金の特例措置」に伴う保険料の追納について

 平成8年4月から、永住帰国した中国残留邦人等の方々に対し、国民年金の特例措置が実施されました。この特例措置により中国等の地域に残留していた期間のうち、昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満の期間が、保険料免除期間の対象とされ、国民年金の額に反映されます。(ただし、そのためには手続が必要となります) また、その期間について年金保険料の追納ができますが、追納は5年間の追納期限内に行わなければなりません。 平成7年4月1日以前に帰国された方は、追納期限が平成13年3月31日になりますので、追納を希望する場合は、お早めに手続を行って下さい。なお、詳しい内容や手続につきましては、近くの社会保険事務所や現在お住いの市町村役場の国民年金担当窓口または都道府県の援護担当課にお尋ね下さい。(注)追納期限の平成13年3月31日は土曜日で、社会保険事務所等は閉庁となっておりますのでご注意ください。

★援護基金から

 (財)中国残留孤児援護基金はこれまで中国帰国者向けの日本語学習教材を出版してきましたが、この度「出版教材一覧表」を作成しました。下記のシリーズの書名、内容の概略、サイズ、頁数、定価が記載されており、中国帰国者や中国語を母語とする学習者に日本語を指導する方が、教材を選ぶ際の参考になると思います。ご希望の方にはこの一覧表をファックスまたは郵送いたします。また、教材の詳しい紹介はセンターホームページ上の援護基金紹介ページで見ることができます。

シリーズ名   問い合わせ先:
  〒105-0001東京都港区虎ノ門1丁目5番8号
           オフィス虎ノ門1ビル
  TEL:03-3501-1050 FAX:03-3501-1026
・文字・語彙トレーニング(15冊)
・日本語のきまり(8冊)
・教科(2冊)
・わたしのこと(7冊)
・日本の生活とことば(13冊)

★文部科学省から

学校教育におけるJSLカリキュラムの開発について

 文部科学省では、平成13年度予算要求において標記事業にかかる経費を計上しました。
 近年、我が国の学校に就学している日本語を母語としない児童・生徒が急増しています。そのような児童・生徒が学校に適応するためには、日本語を習得する必要がありますが、その指導に関しては担当となった教員の創意工夫に任されてきました。そのため、日本語指導法が担当者によってまちまちであるなどの弊害がありました。
 この事業は、そのような状況を改善するため効率的に日本語指導を行えるようカリキュラムを整備することで、速やかな日本語の習得が行えることを目的としています。JSLとはJapanese as a second languageの略です。本事業は、日本語を母語としない児童・生徒が教科学習の内容を踏まえながら、効率的に日本語を習得するためのカリキュラムを開発することとしています。
 本事業で、2年間にわたって学校教育におけるJSLカリキュラムを開発する予定です。計画では、1年目に開発作業を進めて試案を作成し、2年目に検証を行い、最終的な確定を行う予定です。また、開発するカリキュラムも発達段階にあわせ、小学校を低学年、中学年、高学年の3つの段階に分け、中学校と併せて4つの段階に応じたものを開発することとしています。
 なお、委員には、小中学校の先生をはじめ大学教員、小・中学校で日本語指導でご協力をいただいている方を予定しています。(文部科学省海外子女教育課)

★文化庁から

「衛星通信を活用した日本語教育研究協議会」の開催報告

−日本・豪州間で双方向の日本語教員研修を実現−
 文化庁文化部国語課では、12月1日(金)に「衛星通信を活用した日本語教育研究協議会」を開催しました。本協議会は、文化庁が今年度から構築に取り組んでいる日本語教育支援総合ネットワーク・システムの一環として行ったものです。こうした衛星通信を活用した日本語教育の支援活動は、平成8年度から文化庁が実施してきた「日本語教育衛星通信講座」の成果を踏まえて行ったもので、その意味では今回が四回目の開催です。
 会場は国内では東京工業大学、海外(豪州)はモナシュ(Monash)大学の二つを衛星回線で結び、各会場合わせて約二百人が参加しました。
 今年度は前後半を通した全体テーマとして「初等・中等教育段階の日本語教育支援のための素材の収集・活用と日本語教材の開発方法の追究」を掲げ、前半は衛星通信を活用した教員研修として、「文化庁日本語教育支援総合ネットワーク・システムの活用方法」「教材用素材の活用と教材開発の方法」「内容重視の授業への(教材・素材の)活用方法」などが紹介され、後半は「国内外の日本語教育関係者が必要とする日本語教育関連の情報や素材について」というテーマで、活発な議論や情報交換を行いました。全体的に、今後もこのような協議会を望む声が多く、初等・中等教育段階の学習支援に適した(日本の今を伝える)素材に対する需要の高さがうかがえました。(文化庁文化部国語課 野山 広 )

教材・教育資料

◆『子どもといっしょに!日本語授業のおもしろネタ集』

 簡単なゲームや身近な道具を使って、子どもたちと楽しく授業を進めていくためのアイデアが全部で36個、紹介されています。授業の導入に使えるものも定着練習用のものもあり、内容によって、小学生にも中学生にも使えます。 A5版110頁
池上摩希子・大蔵守久著  2001年3月発行  定価1000円(予定)凡人社

◆『講演録 公立高校の多文化共生について考える−学校の国際化は地域の国際化に追いつけるか−』

「とよなか国際交流協会」が平成12年3月に開催したシンポジウム(『同声・同気』第18号既報)の記録です。内容は、当日の講演録(大阪・兵庫・東京・神奈川等いくつかの高校の取り組みの紹介)と配付された資料、参加者のアンケート、文部省「日本語指導が必要な外国人児童生徒の受け入れに関する調査結果(概要)」(高校入試の特別措置等の県別一覧付き)や豊中市「国際化施策推進基本方針」等の資料、「子どもメイト」の紹介です。当日の配付資料の中にも、発表者の高校がある都府県の高校入試の概要説明や外国籍児童・生徒等に関する受け入れ状況の実態調査などがあります。 A4版200頁
購入方法:郵便振込用紙に住所・氏名・電話番号・必要部数(可能ならe-mail address)を明記し下記の口座宛送金。
入金が確認され次第送付。
郵便振込口座:00900-8-100382
「財団法人とよなか国際交流協会 事業口」
代金:1500円(1冊)+送料(1〜2冊は310円、3〜4冊は610円、それ以上の場合はご連絡下さい)
発行・問合せ:とよなか国際交流協会
大阪府豊中市北桜塚3-1-28 TEL 06-6843-4343

◆『日本文化を中国語で紹介する本』

 中国語話者に現代の日本について理解を深めてもらうために、伝統文化も含めて日本の事情を紹介した本である。
  内容は、「営み・人生」「生活様式」「社会生活」「遊び&レジャー」「自然/伝統文化」「宗教」「制度&データ」と分類され、各項目の見出しは、日本語(ふりがな付)と中国語(ピンインローマ字付)が併記されている。解説文は日本語と中国語で色分けしてあり、またそれぞれの項目には写真・イラストが入っていて、簡潔で見やすい。巻末には各項目をローマ字ピンインで引ける索引がある。中国帰国者に日本文化を紹介するときの参考資料として、また帰国者自身が日本を知るための辞書がわりとしても使える。 舛谷 鋭・小早川眞理子著
B6版300頁  ナツメ社 2000円

◆『サハリンに残されて』

 1990年、戦後初のサハリン残留邦人集団一時帰国が民間ボランティアの手によって実現した。この本は、その時一時帰国した人々を中心に、サハリンに渡った経緯、敗戦直後サハリンに残らざるをえなかった状況と個々の事情、そして現在を彼らの生の声で綴ったものである。敗戦、ソ連国内の情勢変化、日本の対ソ政策などが一人一人の人生に与えた影響の大きさと、私たちが想像しえなかったサハリン残留邦人の「戦後」が、彼らのあふれる思いとともに、まざまざと見えてくる。 粟野仁雄
A5版204頁   三一書房刊 定価2039円 ※現在版元品切れ、図書館でどうぞ

◆『国際理解ハンドブック−中国と出会おう』

本書は、中国のことばや歌、遊び、物語、食べ物などの作り方・遊び方を楽しいイラストと文章で紹介してあり、体験を通して中国文化にふれる実用的な手引きです。コラムや絵本・物語のブックガイド、年表など学校や地域での国際理解教育に役立つでしょう。中国以外に、『韓国・朝鮮と出会おう』(既刊)『ブラジルと出会おう』(2001年2月刊行)もあります。 B5版96頁  国土社  1600円

◆『多文化・多民族共生のまちづくり広がるネットワークと日本語学習支援』

この本は、本紙第6号で紹介した「房総日本語ネットワーク」の活動の中から生まれた。帰国者を含め、千葉県で生活する多様な背景を持つ外国人が抱えている生活の問題や課題、そうした人々を支援する様々なネットワーク活動の現状、また、支援の中心となる活動の一つである日本語学習支援の取り組みについて紹介し、ボランティアによる学習支援の役割と課題をまとめている。21世紀を迎え、私たちの一人一人が「共生」に向けて課題を整理しようとする時、参考となる本である。具体的活動事例も豊富で、読みやすい。 編者 長澤成次 
A5版189頁  2000年6月発行  2190円+税 エイデル研究所

◆『日本語学級通信』―年少者への日本語教育を支援する情報紙―

「年少者日本語教育研究会」事務局発行の情報紙。「指導法」「教材・実践例紹介」「情報・イベント案内」といった構成で、読者から寄せられた情報を内容の中心に据え、読者が情報交換できる場を提供している。大蔵守久氏(波多野ファミリスクール)による「すぐに使えるプリント教材」の連載がある。    A4版8頁、年4回発行、年会費1200円
問い合わせ・申し込み先:「年少者日本語教育研究会 事務局」:凡人社内
東京 TEL 03-3263-3959
大阪 TEL 06-6264-8140

◆『にほんご』

大阪中国帰国者センターがこれまでの蓄積をまとめて教室指導用の教科書を作成しました。定着促進センターで初めて日本語を学ぶ帰国者のためのもので、「ひらがな・あいさつのことば・教室用語・数字」に始まり、「普通体を使った表現・やりもらい・変化の表現」までの基本的な表現・文型・文法事項が盛り込まれています。全29課の構成で、「病気に関することば・電話のかけ方受け方・手紙の書き方・引っ越しの挨拶」の付録付き。要所要所の中国語訳、ふんだんに使われている楽しいイラスト等、わかりやすくするための工夫がなされています。希望者には、実費(1500円)及び送料負担で頒布できるとのこと。問い合わせ先:(社)大阪中国帰国者センター
06-6321-1967
大阪中国帰国者センター 教科書作成委員会 編著
 A4版118頁 2000年12月発行

研修会

★平成12年度 厚生省「自立指導員研修会」報告

今年度の研修会は、11月27日から4日間、東京の九段会館において開催された。昨年度までは2日間であった研修を4日間に拡充したこと、また研修を「総合研修」と「日本語研修」の二部に分け、それぞれ希望者のみが参加する形式としたことが、従来と大きく違った点である。研修期間後半に行われた「日本語研修」は、自立指導員の役割の一つである日本語指導、日本語学習支援にテーマを絞ったもので、この部分は所沢センター講師が担当した。前半の「総合研修」、後半の「日本語研修」、それぞれ、全国各都道府県の担当職員と自立指導員合わせて約70名が参加した。新しい形式による今年度の研修は、概ね好評であったようである。以下は、「日本語研修」参加者である岩手県自立指導員 伊藤千春さんよりいただいた報告である。

 「日本語研修」第一日目は、「自立指導員による日本語学習指導」についての概論講義終了後、ある日の1回分の日本語授業について、想定する学習者の背景やタイプ別に5つのグループに分かれて、それぞれ指導案を作成した。私達のグループは来日8ヶ月、求職中、最低限の日本語は習得していて更に一層のレベルアップを目指す意欲的な青年がモデルである。テキスト内容は風邪のための欠勤届を電話で行うというものであるが、導入後の本文会話練習を中心に、どんな方法がより効果的かを討議した。ユニークなアイディアに、携帯電話を利用したり、背中合わせで会話するといった、顔が見えない"電話"という手段に配慮した練習方法や、一通りの会話練習後の予想外の応対に対するストラテジー使用対処練習として、全くの第三者(日本人ボランティア)を招いてのロールプレイ等が出された。その他には、求職中なので面接の可能性も配慮して、丁寧な言葉遣いまで教えるべきだという意見や、方言での練習というものもあったが、これらに関しては週1回1時間の設定を考慮すれば少々難しいとする反対の声も上がった。しかしそれ以前に指導員が生活指導以外に日本語教授も行うというのは指導員の負担が大きく、かなり無理があるという意見も出され、今後の課題として残された。
 二日目は学習支援において学習者と地域との橋渡し、コーディネーターとしてどんなことができるかが議題であった。ボランティア支援団体を発足させて活動している県がいくつかあるが、学生から一般社会人まで幅広く参加し、料理講習会や中国語と日本語の交換学習を通し交流を深めている事例が報告された。しかし会場が遠く交通が不便であったり、帰国者自身の仕事などの都合により継続が困難、というのが現状である。また、日本語だけにとらわれず、中国語でアプローチするのも一つの方法ではないかという意見も出された。高齢者の中には新たな言語を学ぶのをかなり苦痛に感じている人がいるように、彼らが日本語や日本社会との交流をいつも望んでいるとは限らない。そこで議題は 「指導員の役割とは一体何なのか?」ということに発展したのだが、「帰国者の生活指導と共に日本語の学習、地域社会との交流を通して、これからの生活に夢や希望が持てるようアドバイスする。そして実際の行動は本人の意思を尊重し、彼らが必要性を感じた時にいつでもそれを提供できるよう門戸を開いておく」ということでグループ討議の幕を閉じた。限られた時間の中で誰もが納得できる明確な答えを出すのは容易なことではないが、いつの場面でも単なる日本人側の押し付け、自己満足に終わらないよう、彼らが真に要求しているものは何であるかを考慮すべきであると改めて感じた研修会であった。(岩手県 伊藤 千春 )

とんとん・インフォ

◆ 教 材 モニター (若干名) 募 集 ◆
  日本語教材『話してみよう 子どものことを』(音声テープ付き)


 一般の日本人家庭の保護者でも、子どもの学校の先生と話すとなれば緊張します。ましてや日本語に自信がない、子どもについてどんな事が話題になるのかもわからない帰国者家庭の保護者ならば尚更でしょう。必要な場合には通訳してくれる人を探すことも大切ですが、自分でも日本語で話せる話題をもっていれば、お互いに親しさが増すはずです。
 この会話集は家庭訪問や保護者会等、先生と話す時によく出てくるテーマ、例えば○帰宅時間○自宅学習○遊び○習い事○お小遣いとお手伝いといった話題を中心に作られています。また、これらは保護者同士の間でもよく話題にされるものです。語彙表現は一部難しいものも含まれますが、初級レベルのやさしいものが中心です。忙しい方は、家事や通勤の合間に付属テープを聞き流すこともできます。たくさん聞いて日本語のイントネーションに慣れ、使えそうな表現をそのまま覚えてしまえればいいですね。

モニターの資格・条件
@学習開始時と終了時に、簡単なアンケートに回答できる方
A教材およびアンケートの送料を自己負担できる方(教材は宅配便の受取人払い)
応募方法
@支援者(自立指導員・身元引受人、日本語講師、ボランティア)を通じて申し込みます。
A支援者の方は下記事項を明記の上、手紙、ファックスまたはEメールでお申し込みください。
 ・学習者の氏名および連絡先
 ・『話してみよう 子どものことを』 ○冊 希望
 ・支援者の氏名および連絡先、学習者との関係(例:自立指導員)
B申込みを受理次第、教材は支援者宛送付します。なお、申込みが定員になり次第締め切ります。
 ご了承ください。
申込み先
〒359-0042 埼玉県所沢市並木6-4-2
         中国帰国者定着促進センター教務課  教材モニター係  平城(ヒラキ) 宛
          TEL : 042-993-1660   FAX : 042-991-1689
          Eメール: hir@kikokusha-center.or.jp

講 座 案 内

『日本語支援を通して共生社会を考える〜すべての人が生き生きと暮らすコミュニティを目指して〜』
期間:2000年10月〜2001年3月
   (全10回の内、1月以降の回のみ紹介)
日程と内容:
 1/28  「日本語支援活動;ウチとソトのつながり 多文化のであいの『場』をつくる教育―その理念と方法」(松下達彦)
 2/12  「活動者の事例に学ぶ」(松下達彦)
 2/11・3/10・3/11  「事例を通して問題解決能力を身につけよう」(原 裕視)
※2/12は1時〜4時、それ以外は9時半〜12時
参加費:一般 700円/回   講師: 原 裕視(目白大学)
                      松下達彦(桜美林大学)
定 員:40名(定員になり次第締め切ります)
場 所:かながわ県民活動サポートセンター(横浜駅西口三越裏)
TEL :045-312-1121
主 催:地域日本語教育研究会   協力:日本財団
※申し込み、お問い合わせは「地域日本語教育研究会」事務局
 〒247-0009 横浜市栄区鍛冶ヶ谷2-18-16 山本気付
 TEL/FAX:045-891-2166(山本)  e-mail:GFG04732@nifty.ne.jp

手ひねり地蔵のはなし

 今、私の手元には赤茶色の手ひねり地蔵がある。ほんの親指大の、小さな小さなお地蔵さんである。目鼻と同じくらいの大きさでおへそがしっかり付いているのもあり、なんだかとってもユーモラス。そしてなんだかあったかい。作った人は千野誠治さん、七十六歳である。
 2000年6月11日、就籍一千人突破を記念し、お祝いするパーティーが東京で開かれた。千野さんは八十四年の発足以来「中国残留孤児の国籍取得を支援する会」の事務局長として、さくら共同法律事務所と連携して帰国者の就籍を支援してきた。自身の満州での体験とシベリア抑留生活が「戦争は悪だ」という思いを植え付けたのだという。身元が未判明であるが故に帰国できない孤児が日本に帰国できるようにする方法が「就籍」という手段であった。
  千野さんはこの「就籍」支援の活動にボランティアとして関わる傍ら、中心となって九十五年には東京都あきるの市に孤児たちの共同墓地を作り、その一画に「まんしゅう地蔵」を建てた。また、孤児たちの命を救い育ててくれた養父母に感謝しようと「中国養父母に感謝の碑建立委員会」(碑は九十九年瀋陽市に建立された)の委員長もつとめてきたのである。「まんしゅう地蔵」を建ててから、千野さんはある帰国者がこう言うのを聞いた。「あきるの市は遠い。日本人のお墓参りのように気軽にお参り出来るものが近くにほしい」。この言葉に応えて「まんしゅう母子地蔵」の建立を思い立った。満州体験を持つ漫画家集団の協力、場所を提供してくれた浅草寺の特段のはからい、厚生省の関係者等、様々な人の力がひとつに集約されて思いが形になるまでの経緯は、「人は千人力を持っている。それぞれに違う千人力を集めることが大事だ」と信じる千野さんの面目躍如といった感がある。
  五年前のある日、千野さんは自宅近くの工事現場を窓から眺めていてそこに粘土層があることを知り、手ひねり地蔵を作ることを思い立った。その日のうちに小さな地蔵を作り、このはじめの一体(とも言えないような大きさなのだが)を安全祈願として工事現場に持って行ったのである。「絵も陶芸もしたことがないのに」と言う千野さんに、「やれば指先から仏さんが生まれます」と言った、近所の作業所で働く障害を持った人の言葉に、大きくうなずく千野さんの姿が目に見えるようである。以来、千野さんの指先から生まれた地蔵は何体になるのだろう。ある地蔵は別の人の手を経てブロンズの地蔵に変わり、またあるものは和紙のハガキに穏やかな像を結んでいる。
  小さな地蔵は、土が乾くまでのわずかな時間で顔を作る。だから邪心が入り込む余地がない、と千野さんは言う。一体ずつにはかけがえのないその一体の表情が刻まれる。それは、その表情を刻む千野さんの表情でもあるようなを刻む千野さんの表情でもあるような気がした。(所沢センター 玉居子)

読者アンケート調査報告

 『同声・同気』第19号に同封のアンケートにご回答くださったみなさん、ありがとうございました。送付件数1723件、回収件数455件、11月半ばの集計開始時の回収率は26.4%でした。
 私たちは、機関・団体はともかくとして個人として登録されている読者のみなさんの大部分については、各県の担当部署にお願いして、帰国者に関わる方として推薦していただいた名簿を頼りにお送りしています。各県名簿には、自立指導員・身元引受人・自立支援通訳等の帰国者に関わる立場が記載されていることはありますが、年齢や性別、ご出身、活動年数等、具体的な読者像については殆ど知るところはありませんでした。読者構成を確かめ、その情報ニーズを知ることで紙面構成についての検討資料を得、さらにはインターネット等の通信環境についても知りたいと考えました。
 今回、初めて実施したアンケートにより、私たちは、かなり具体的な読者像を掴むことができたように思います。ご協力くださった皆様方に改めて感謝申し上げます。細かい集計結果についてはセンター紀要第9号をご覧頂くとして、ここでは概要をご報告いたします。

T.『同声・同気』の読者像
@年代および出身
<図1:年代別構成> <図2:出身別構成>
 私たちは、「自立指導員研修会」や「適応促進対策研修会」等で各県の自立指導員や支援通訳等帰国者支援に関わる方にお目にかかることがありますが、「年輩の方が多いのかな」という印象を持っていました。その印象は今回の調査で裏付けられたように思います。
 出身を単純に集計してみると、「外地からの引き揚げ経験を持たず、帰国孤児本人でもその家族でもない」日本人が56%、「戦後間もない頃の引揚者」が27%、「帰国者本人」7%、「中国台湾等中国語圏出身者」が5%で、これを見ただけでも年輩の方が多いということが予想できます。単純に言っても戦後の年数を考えれば、年若い「引揚者」はいないでしょう。実際、年代は70代以上が37%、60、50、40代が各18%、30代が7%、20代が1%という構成です。更に、年代と出身をクロス集計してみると70代以上の「引揚者」と「帰国者本人」の合計は全体の25%に当たります。

A活動年数と年代および立場
 回答者の活動年数について言えば、10年以上帰国者に関わる人は圧倒的に70代以上が多く、「高齢の人が長期的に活動している」ことがわかります。さらに、60代以上の70〜80%に相当する人が自立指導員や身元引受人という立場であることを考えれば、「帰国者に関わる人の4分の1は70代以上の引き揚げ帰国経験者であり、その立場は自立指導員や身元引受人等でその活動年数は長い」ということが言えます。これを一つのグループとすれば、もう一つはこれとは対照的なグループ、「比較的若い人で、もちろん引き揚げ経験などはなく、活動年数もあまり長くない、日本語教師や日本語ボランティア、受入校教師等」があります。
 発刊以降の経験的な感触から言ってもこのような支援者層の広がりを感じます。身元引受人等からの問い合わせが多かった当初と比べて、最近は学校現場の教師やボランティアの日本語教師から、資料・教材等の問い合わせが増えてきています。つまりこれは、孤児世代の高齢化(とそれに関わる人)と、三世世代である子どもたちの増加(とその子どもたちを受け入れている様々な教育現場に関わる人)という現実を反映していると言えるでしょう。

<表1 年代(無回答者を除く)/立場(複数回答)>

  自立指導員 身元引受人 自立支援通訳 受入校教師 日本語教師 生活支援ボラ 日本語支援ボラ その他
20代( 5名) 0 0 0 3 2 0 0 1
30代(33名) 9 2 6 11 10 1 1 2
40代(81名) 18 10 11 16 24 11 12 16
50代(82名) 25 21 9 11 23 6 8 14
60代(81名) 33 44 10 0 13 8 14 5
70代以上(168名) 100 93 34 0 24 24 14 12

U.日本語支援の現状

 自分の立場を「日本語教師」あるいは「日本語ボランティア」とのみ考える人を除いて、帰国者の日本語学習を支援するのはどのような人が多いのか、それぞれの「立場と日本語支援」を集計してみました。これは複数回答でしたからお一人で何役も兼ねている人がたくさんいます。例えば、自立指導員であると答えた人は187人で、そのうち、「自立指導員のみ」は36%、兼務でもっとも多いのが自立支援通訳、次が身元引受人、「日本語教師・日本語ボランティア」もしていると答えた人は3人に1人の割合でした。一方、身元引受人にチェックした人(170人)で日本語学習支援にも関わっていると答えた人は自立指導員と比べておよそ半分の割合でした。

V.読者が印象深く読んだ記事
<表2 立場(複数回答)/興味深く読んだ記事(複数回答)>
 

  巻頭言 地域情報 行政施策 研修会 教材資料 事例
自立指導員 72 67 101 38 57 114
身元引受人 61 54 105 35 39 100
自立支援通訳 27 23 43 14 27 40
受入校教師 16 18 13 15 33 18
日本語教師 35 44 39 35 54 55
生活支援ボラ 21 22 31 12 17 31
日本語ボラ 21 21 23 10 26 32
その他 25 20 32 17 21 32

 立場により、興味ある記事にはそれぞれの傾向は見られますが、全体的には、ほぼまんべんなく読まれているようです。いずれの立場でも関心が高かった記事は「事例」でしたが、この他には受入校教師・日本語教師等には「教材・資料」、自立指導員・身元引受人・自立支援通訳・生活ボランティアの立場にある人には「行政・施策」が特に関心の高い情報であると見受けられました。また、特に印象に残った記事として書きこみが多かったものは「巻頭言」「事例」でした。

W.読みたい記事とこれからの『同声・同気』
 私たちはこのニューズレターを読者のみなさんの広場にしたいと考えて紙面を作ってきました。様々な方向(立場)から届いた情報を、様々な立場(方向)の人に提供していきたいという方針に変わりはありませんが、今まで以上に読者層の広がりを念頭において記事を考える必要があるでしょう。たとえば「年金医療」関係の情報に要望が多くあったのは帰国者の高齢化に伴う必然の帰結といえるでしょうし、「子ども」に関する要望が受入校教師や日本語教師から多く寄せられたのも容易に頷けます。改めて、日本語学習支援のための教材資料についてもきめ細かく紹介していきたいと考えます。また、いずれの立場からも希望が多かった「対処事例」(「職業進路」の事例も含む)についても機会あるごとに紹介していきます。
 「ただの情報」ではない、みなさんに活用される記事を一つでも多く載せられるよう心がけていきたいと思っています。今後も変わりなく『同声・同気』をご声援ください。21世紀の幕開けのご挨拶とともに改めてお願い申し上げます。 (所沢センター 玉居子)

ニュース記事から (H12.9.10〜H13.1.8)

日 付  記 事 内 容
09.14 残留孤児の対面調査を11月14日から1週間
09.19 中国残留邦人の帰国者支援、家族ぐるみで永続的に
11.06 樺太残留邦人の現地調査。12月4日から11日まで
11.18 訪日調査不参加の中国残留孤児に一時帰国呼び掛け
11.20 訪日調査終え中国残留孤児ら離日 身元判明者は一人だけ
12.04 中国帰国者の継続的支援への転換求める報告書提出−厚生省の検討会
12.04 戦後2回目のサハリン残留邦人調査に出発
12.17 「家族を置いて帰れない」サハリン残留日本人

事例

『ガラスの箱』の内と外

 三年前、日本に帰ってきたBさんは、最近ちょっと閑になってしまった。というのは、孫娘が去年の四月から小学校に入学したからだ。それまでの約二年間、孫娘を保育園に送り迎えすることは彼の欠かせない日課だった。朝夕二回、保育園に足を運ぶことは、Bさんにとっては、日本人と言葉を交わせる貴重な機会であり、孫娘と触れ合う大切な時でもあった。そして、孫との時間は、「中国語を忘れないで欲しい」と思うBさんが孫に中国語を教える時間でもあった。
 孫のSちゃんが日本に来たとき、ちょうど中国語でお喋りを始めたばかりの頃だった。そして、定着地で娘夫婦は職業訓練校に進んだ。だが、Bさんは五十代半ばという年齢から仕事に就くことはできず、家でSちゃんの面倒を見ることになった。定着以来、近所づきあいはほとんどなく、友人は唯一帰国者の先輩、HさんぐらいしかいないBさん夫婦にとって、Sちゃんだけが日常的な会話の相手となっていた。そしてSちゃんにとってもBさんは、ことばの通じない保育園での一日の緊張から解放され、父母のいない昼間自分を守ってくれるシェルター的役割を果たしていた。BさんにとってもSちゃんは、日本社会との唯一の接触を与えてくれる「窓」でもあり、自分たちの役割を意識させてくれるものであった。そしてBさんは言う、「Sちゃんに中国語を教えること、中国語でいろいろ話すことは私たち夫婦にとって日本での生き甲斐でもあるんだ」と。
 そんなSちゃんも今は、午後になって学校から帰ってきたと思うと「友達と遊んでくる」という言葉を残し、すぐに外へ飛び出していく。それは自然で、子供の成長を示す喜ばしいことだが、その現実に直面するとやはり寂しさが湧いてくる。
 子や孫の自立や成長に伴い、孤独になっていく一世世代がいる。「日本語が覚えられない」という思いは、永遠の壁のように年輩の帰国者の前に立ちはだかり、「壁を乗り越え日本社会に入っていく力は、もう私たちにはない」と諦めている人も少なくない。「もちろん、近所の人と知り合いたいという気持ちは持っているよ。団地の共同清掃日等には必ず参加するし、でも『おはようございます』の次の言葉が続かないんだ、どうしようもない」とBさんの奥さんは言う。一世世代の中には、買い物と必要な用事以外、家にこもり、衛星放送の中国語チャンネルに浸る日々を送っている人もいる。年輩の帰国者の多くは、『ガラスの箱』の中に生きているような気がする。外の世界は、そこにあるのは見えているのだが、何も聞こえてこないし、何も直接触れられない。ガラスの厚さを測ることも諦め、身動きがとれず、結局『ガラスの箱』の住人となる。
 Bさんは、『ガラスの箱』から時々脱出する方法を彼流に実行している。「まず、衛星放送は絶対に取り付けない、付ければついつい見てしまう、結局はそれに浸る事になるから」Bさんはわからなくても日本のテレビを見る努力をしている。「ほとんどわからないさ、でも見ているうちに、知っている単語が、ポツリポツリと耳に入ってくるんだ、それが何よりもうれしい、ホントにうれしい」。もう一つの道は「自転車小旅行」だ。Bさんの目が輝いた。「日本の道路標識はとてもわかりやすく完備されている、手元に簡単な地図が一枚あればたいていの所には行けるよ」五十九才のBさんは、道路と標識に従って、月に何回かはペダルを踏む。「そうだな、片道一時間ぐらいならぜんぜん平気だね、この前なんか片道二時間近くかけて、ダム湖まで行ったよ」「楽しいよ、自転車さえあれば日本語がうまく話せなくても、お金が無くてもどこへでも一人で行けるんだから」Bさんは自転車小旅行によって行動半径を広げ、日本社会を覗きに出かける。
 そして、『ガラスの箱』の外側からも声が聞こえてきた。Bさんが住む地域の帰国者支援団体が、なんとか言葉の壁を気にせずに、帰国者がコミュニケーションをはかれる方法を考えた。それは「中国象棋の会」だった。「中国の男はたいてい中国象棋が好きで、ルールさえわかれば言葉は関係なく誰とだって楽しめる」とBさんは言う。「最初にこの話を聞いたときは、やっぱり日本語ができないから、相手に迷惑を懸けちゃうんじゃないかとちょっと不安だった。でも自立指導員さんがわざわざ誘いに来てくれたんでね、それじゃ行ってみようかという気になったんだ」。「中国象棋の会」では、毎月一回、中国象棋に興味を持つ日本人と帰国者とが、駒を通して互いの技を磨き、コミュニケーションを楽しんでいる。そして「楚河・漢界」(中国象棋での境界線を示す場所)を越えて、『ガラスの箱』の中の人たちが少しでもガラスを意識しなくてすむような機会を作っている。
 また、Bさんと同じように定着地で地域とのつながりを得ている一世世代がいる。「ゲートボールでもやってみないか」という誘いで、今では地域のゲートボールチームの主力として活躍している人、孫の小学校の家庭教育学級で「中国餃子作りの講師」として招かれ、父兄たちとの交流を深めている人等々。確かに『ガラスの箱』はあるのかもしれない。しかし、「一歩踏み出そう」という勇気と、「いっしょにやろうよ」と『ガラスの箱』をノックする『ガラスの箱』の外の住人さえいれば、結構簡単に箱には風穴が開けられるのかもしれない。(所沢センター 小松)