HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第21号(2001年5月19日発行)  PDFファイル
巻頭言 不況の日本で生きる帰国者たち
こんなところ・あんなところ・どんなところ
 関東地方 そのC − 東京都A −
地域情報 ア・ラ・カルト
行政・施策
研修会
教材・教育資料
とん・とん インフォメーション
事例紹介サハリン帰国者二三世のその後

巻頭言

不況の日本で生きる帰国者たち

 不況という長いトンネルの中で身動きのとれない日本。不況の影は帰国者の暮らしにどのような変化をもたらしているのだろうか。就労している若い男性3人にインタビューする機会を得た。彼らはいずれも夜勤や三交替の工場勤務である。むろん残業もある。一人は転職を検討中、もう一人は転職したばかりだ。この不況下によく転職話があるなと驚かされる。中国での学歴も短く、特別の資格・技能もない彼らだが、3K職場など日本の若者からそっぽを向かれた職場では、帰国者向けの求人はある程度確保されているようにも見える。低賃金できつい仕事に耐える中、少しでも待遇のよい職場へと口コミや職安を通じて転職の機会を窺う。紹介者泣かせの状況も相変わらずのようである。しかし一方で来日後まもない時期に職を求める人にとっては、就職の壁は以前にも増して厚い。支援者からは「就職事情が厳しく、よほど日本語が上手にならないと職安から仕事を紹介してもらえない状況」という声や「来日後定着センターなどで一定の日本語の基礎を学んだ家族と、そのような研修を経ず直接定着する家族の差があまりに大きく苦労している」という困惑の声が強まっている。また中高年でリストラされた帰国者の例も耳にするようになった。一般の日本人のリストラ率と比較する術はないが、一旦リストラされれば帰国者にとって再就職の苦労は一般の日本人の比ではないであろう。そもそも日本でそれほどキャリアのない50代では就職は絶望的とほぼ諦め気味の声さえある。そんな現実の中、所沢センターでは一昔前に比べて30代40代の壮年層が目立つようになっている。日本の現実を知ってか研修の態度は真剣だ。退所後自立研修センターを経るかどうかはともかく早晩職探しに直面することになる。
 帰国者をはじめ定住型外国人が、労働者として産業構造の底辺でその基盤の一部を支えてきたし、いまも支えているという現実を踏まえた上で、このような時代だからこそ、帰国者も将来を見据え資格や技能を身に付けることの必要性が強調されてよいのではないか。それは即戦力を求める雇用者の利益に沿うということだけではなく、日本での生活を安定させ、自分を含めた家族の幸福を追求する上で重要な足がかりとなるからだ。地域での日本語学習支援もそのような学習目的を持った人たちをどのように支援するか、日本語力の向上だけを見るのではなく、学習や生活の情報を含む、よりよく生きるための適切なアドバイスを提供することが求められるのではないだろうか。しかしそれはもはや個人のレベルではなく、公的な支援システムのバックアップなしには実現しえない。帰国者の生きるための地道な努力を支援し、地域の中で安定した生活基盤を築くよう助ける、そのための具体的な方策作りが今急がれているように思う。


こんなところ・あんなところ・どんなところ?

関東地方 そのC − 東京都A −  (第20号の続き)

3.中国帰国者自立研修センター

 東京都の自立研修センターは、昭和63年度に開設した東京都中国帰国者自立研修センター(通称−飯田橋センター)と平成7年度に開設した東京都武蔵野中国帰国者自立研修センター(武蔵野センター)の2か所あります。いずれも都が東京都社会福祉協議会に委託していますが、飯田橋センターの方に東京都社会福祉協議会の事務局があって活動の中心となっており、武蔵野センターの方は週1回、相談と各種事業の受付を主に行っています。職員体制は東京都社会福祉協議会の担当者1名と中国語のできる相談員5名(非常勤)で相談及び下記の各種業務を行っています。

@相談事業(生活相談コーナー)
 日常生活上の相談を日中両国語で受け、関係機関との連絡調整を行うほか、各事業の受付窓口となっています。飯田橋は週5日、武蔵野は週1日開設、呼び寄せ2世等の相談も受けています。また、各日本語教室に週1回、相談員を派遣して相談を受けています。

A就労相談事業(就労相談コーナー)
 就労相談員による就労相談、職場開拓活動、職業訓練施設や事業所の見学を実施し、帰国者の就労促進を図っています。また、帰国者の就労する職場を必要に応じて訪問し、帰国者の職場定着を図っています。

B日本語指導事業(日本語教室)
 日本語指導事業は、複数の運営団体に委託して実施しています。センターでは受講申込を受け、面接試験により教室を振り分け、オリエンテーションを行うほか、センター相談員を各教室に派遣して週1回、中国語による社会教育の時間を設けています。また、各期に1回、合同授業を実施、就労等に関する特別講義の場を設けています。
 教室の数は最盛期は5団体7教室を数え、受講者も年間370人にのぼりましたが、帰国者の減少に伴い、平成12年度現在は下表のとおり2団体3教室になっています。クラス編成も従来A〜Dの4クラスを1年間4学期制で進級する方式でしたが、現在はA〜Cの3クラスで1年間3学期制となりました。また教室の余裕のある範囲で呼び寄せ2世等を受け入れています。

  <中国帰国者自立研修センター 日本語教室>
教室名 委託団体及び場所 開講日 開講時間
市ヶ谷教室(一般) 東京YWCA砂土原センター 月〜金 14:00〜16:30
市ヶ谷教室(高年) 東京YWCA砂土原センター 月〜金 10:00〜12:30
茗荷谷教室(夜) 拓殖大学言語文化研究所 月〜金 18:20〜20:30

 なお自立研修センターでの1年間の学習期間終了後、就労や職業訓練校への入校をしない帰国者は、
都が補助する下記の民間日本語教室や夜間中学校などで引き続き日本語学習を行う例も多くなっています。

<東京都補助日本語指導事業 日本語教室>

教室名(補助団体) 開講日 開講時間
日本紅卍字会日本語教室 月〜金(昼) 9:30〜12:00
中国帰国者三互会日本語教室 月火木金 (昼) 9:30〜12:00
中国帰国者三互会日本語教室  月火木金 (夜) 18:30〜20:30
中国帰国者の会 九段下日本語教室 月〜金 (夜) 18:30〜20:30
 後楽園日本語教室 月〜金(昼) 10:00〜12:30
(昼) 13:40〜18:10
調布日本語教室 月〜木  (夜) 19:00〜21:00
お茶の水中国帰国者日本語学校 月火木金 (夜) 18:30〜20:30

C通訳員派遣事業
 福祉事務所等の公的機関及び医療機関等に自立支援通訳を派遣します。

Dその他  大学入学準備課程、健康診断事業(健診委託)

問い合わせ先

東京都中国帰国者自立研修センター
 東京都新宿区神楽河岸1−1セントラルプラザ5階東京都社会福祉協議会内
  03-3268-7174(事務局)  03-3268-8083(相談コーナー)
東京都武蔵野中国帰国者自立研修センター
 東京都武蔵野市中町1−19−16東京YWCA武蔵野センター内 3階会議室 

地域情報ア・ラ・カルト

長野県中国帰国者自立研修センター長野教室 再研修講座

最後の授業の1コマ:「皆さん、1年間、再研修の授業を受けてどうでしたか、感想を書いてください。」「書けない」「帰って書いてもいいですか」「中国語でもいい?」うーん、なかなか筆の動きが鈍い、紙と見つめ合い、ちらちらとこちらを窺う、「日本語で書けないところは中国語でもいいです」。下書きをし始める人、全て中国語で書き始める人…。
 ここ、長野県中国帰国者自立研修センターの長野教室では平成10年度から再研修日本語講座が始まっている。募集は県庁が各地方事務所を通して行っている。平成12年度は孤児世帯2家族・4人が応募し、2世の呼び寄せ家族7人と共に計11人が毎週日曜日午前中通っている。講師は2人、「にほんごのきそ」のテキストを使い全て日本語で授業を行っているクラスと、「生活日本語」を使用し文法等中国語で説明しているクラスを隔週交互に設けている。若い研修生は車を持っており、それぞれの車に分乗し当センターまで来る。年齢は30代から60代まで、学歴は小学校中途退学から高校卒業者までで、全員が仕事に就いている。この様な研修生が一堂に会し、日本語の習得という同じ目的に向かって学ぶ。日本語が分からない、と口にする当センターの卒業生は多いが、自分で努力することは難しい。それを続けるとなると尚更難しい。日曜日、勤労者にとって休みたい貴重な1日、掃除もしたい、買い物もしたいものである。
 今年度、「生活日本語」を使用したクラスでは、発音の矯正、基礎文法、簡単な文型の習得、近況発表、又、研修生から要望のあった、自分の言いたいこと(中国語)を日本語で表現する事などを中心に授業を行った。当初、五十音図から読み始めた時、拗音の「きゃ、きゅ、きょ」の部分になると、どうしても「しゃ、しゅ、しょ」となってしまったり、濁音が清音になってしまったり、長音、促音があいまいだったりした。研修生一同苦笑いする事しきり、発音の重要性を再認識したようだ。毎回、発音の小テストを通して自分の間違いを自覚し矯正に努力した。また、講師が中国語を理解しているとのことで、自分の意思表示を会社でしたいために、この文は日本語でどのように言うか、こんな事を同僚が話していたがどういう意味か等の質問が活発に行われる。また、研修生は社会問題に大いに関心があり、密入国、ピッキング、田中知事のことに話が及ぶと、皆でああでもないこうでもないと言い合う、教室はなかなかのにぎやかさを呈してくるものである。もちろん話す言葉は中国語である。こんな時、いかにタイミングよく授業の流れにもっていくかに講師は苦労する。限られた時間でリラックスしてもらい楽しく日本語を習得し、社会での応用力をつける。その訓練の場であるセンター。日曜日、講師も休みたいと思う時があるが、皆の真剣な眼差しを見ていると責任重大である。当センターの再研修講座が帰国者の為に「活到老、学到老(勉強は死ぬまで)」の場を提供できることはすばらしいことである。<軽鬆(リラックス)・愉快(楽しい)・充実・収穫>を目指して来年度も当講座続投。
長野県中国帰国者自立研修センター(桜井純子)

★高齢帰国者支援グループ「来往会」★

 最近、高齢化する弧児世代帰国者に対する支援のあり方が問われているが、今回は福島県郡山市在住の孤児世代帰国者を支援するボランティアグループ「来往会(ライワンカイ)」を紹介する。同会は帰国者の地域住民との交流や、生き甲斐作りを目的としたグループである。以下、会の代表者
である斎藤さんにグループの活動を紹介してもらう。
 中国からの帰国者の支援グループ「来往会」は、99年の夏から活動を始めました。帰国した方々が、日本の社会の中に入っていった後のフォローアップの為にと始まりました。
 帰国した残留孤児の方々は大体年齢が55〜65歳くらいになっていて、日本語もどうも覚えるのが難しくなっていたり、年齢的にも再就職が難しかったりで、家の中に閉じ籠もってしまうことが多くなっています。外に出るのは、買い物と病院だけ、という方も多くおられます。
 そういう方々がより生き生きと生活することができる様にと、有志の方が集まって交わりの時を持つ様になりました。それが「来往会」発足のきっかけです。
 集まってこられた方々は、帰国者の元駅長さんご夫妻、元漢方医の先生、帰国者二世の方、日本の学校を退職された先生、日本語の先生、旅行会社に勤める方、郵便局に勤めている方、牧師、それから発起人である日本語の先生、などです。
これまで行ってきた活動としては、1.薬膳料理講習会 2.公民館の活動見学 3.餃子の講習会 4.中国家庭料理講習会 5.バス・ツアー(日中友好協会の活動に参加)などがあり、それ以外に定期的に交わりの時も持っています。
 来往会の魅力は帰国者の方にとっては、中国語で交わりをする場でもあり、日本社会との交流の場、そして自分の持っている才能発揮の場になっていることです。日本人にとっては、生きた中国語を学ぶことができる場であり、表面的ではない国際交流の場になっていることです。この「来往会」は、益々多くの帰国者と日本社会の橋渡しとなっていくと確信しております。
 4月からの活動予定としては 1.お花見 2.中国語でカラオケ 3.ホタルを見る夕べ 4.ハイキング 5.老人施設訪問 6.福島未来博参加 等を計画しています。
 今年度からボランティア団体として、外部にも積極的に働きかけ、帰国者の方、日本人でボランティアや中国語に興味のある方など、メンバーも募集していくつもりです。その為に専用の携帯電話(日本語、中国語ともに受けられる)を会員が持つことにしました。現在、賛助会員を募集しています。会の主旨に賛同して下さる方はご連絡ください。   (п@070-6322-2093)
郡山/来往会 斎藤雅彦

★サハリン帰国者との八か月 埼玉県中国帰国者自立研修センター

 当センターに中国帰国者定着促進センター(所沢センター)を修了したニ家族六人のサハリン帰国者が入所したのは、昨年の二月のことでした。当初、県庁の方から「受け入れが可能だろうか」と打診された時は、私達講師は、正直言って戸惑いました。誰もロシア語は分からないし、当時は所沢センターでも混合クラスはなかったので、指導ができるのか、非常に不安でした。早速、所沢センターの先生に尋ねたところ、「みんな、ある程度の日常会話は可能なので是非受け入れてほしい」と激励されました。教材も『新日本語の基礎T・U』の教科書と文法解説書など、付随する分冊のロシア語版もすべて支給されているとのこと、また、『ひらがな練習帳』と『カタカナ練習帳』もロシア語版ができていて、そのまま使うことができることが分かって、何とかできそうだと、受け入れを決定しました。
 二月十四日から研修に参加してもらいましたが、講師は和露辞典を持って授業をして、意味がわからない時は、辞書を見せるようにしました。それまでは、「日本語の授業はなるべく日本語で」という原則があっても、中国語で説明してしまうことが往々にしてあったのですが、六人が入ってからは、原則通り全部日本語で授業をしました。これは中国帰国者にとっても、たいへんよい効果をもたらしました。漢字が分かるということで、中国帰国者はどうしても字に頼ってしまいますが、サハリン帰国者は耳でしっかり聞いて言葉を覚えていきますので、会話力に大きな差がありました。中国帰国者も何とか追いつこうと努力するようになりました。十分の休み時間は日本語の実習の時間になり、国際電話の掛け方や、外国の食材を買う情報の交換など、身振り手振りや筆談まで交えて必死になっている姿は、まさに生きた学習でした。また、サハリン帰国者にとって、漢字を覚えるのは大変なことだと思いますが、中国帰国者が親切に教えてあげるなど助け合う姿も微笑ましいものでした。放課後も交際に積極的なサハリンの人の御蔭で、お互いの家に遊びに行ったり、理髪が上手なサハリンの人が、中国の人の髪を切ってあげるなど、みんな仲良く付き合って、センターの雰囲気がとても明るくなりました。
 八か月はあっという間に経ってしまいましたが、今、思い返しても講師も研修生も、良い意味での緊張感を持って学習できた八か月だったと、改めてサハリンの皆さんに感謝したい気持ちです。そして、日本に来て初めて漢字を習い、一年で作文も書けるようになった並々ならぬ努力には心から敬服しています。(日本語講師 野田泰子)

 北海道中国帰国者自立研修センター

サハリン等帰国者日本語教室 開講 5月7日に開講式が行われました。

★大阪にほんごボランティアネットワーク

 大阪にほんごボランティアネットワーク(以下、大阪NVN)は、1999年9月、大阪の複数のボランティア日本語教室の有志によって、
お互いの知識、情報を交換するためにつくられました。
 大阪NVNの会員は、個人単位の参加で、京都の「日中文化交流をすすめ、中国帰国者を支援する会」等の方も参加されています。
会員は普段、メーリングリストを通じて、互いに情報の交換をしています。昨年9月国立国語研究所と共同で、
「日本で暮らす外国人の日本語学習を考えるフォーラム」を行いました。日本語学習者も6つの言語のグループに分かれ、
母語でこれからの日本語学習に望むことを話し合いました。
 また行政との連携によるプロジェクトとして、大阪市と共同で、難波に新しい日本語教室「にほんご・なんば」を開校させました。
 大阪NVNのホームページ(http://www.geocities.com/osaka_nvn/)では各プロジェクトの紹介や関西の日本語教室の案内
・イヴェント開催のお知らせをいち早くお伝えしています。(大阪NVN:宮田和典)

※閉所のお知らせ※                        
★長崎県中国帰国者自立研修センター 平成12年08月31日
★静岡県中国帰国者自立研修センター 平成12年09月30日
★兵庫県中国帰国者自立研修センター 平成12年12月31日
★岩手県中国帰国者自立研修センター 平成13年02月31日
 をもって閉所しました。

◆日本語教育学会2001年度春季・秋季大会

(春季) 期日: 5月26日(土)、27日(日)
場所: 東京女子大学 (杉並区善福寺)
(秋季) 期日: 10月6日(土)、7日(日)
場所: 立命館アジア太平洋大学 (大分県別府市)
問い合わせ:
日本語教育学会 03-3262-4291 

◆異文化間教育学会大会

期日:
5月26日(土)、27日(日)
場所:
愛知教育大学 (愛知県狩谷市)
問い合わせ:
大会準備委員会 п Fax 0566-26-2282/0566-26-2564

行政・施策

★ 厚生労働省から

1.平成13年度中国残留邦人等の援護対策関係予算

平成12年度予算額
2,091百万円

→ 平成13年度予算額
2,062百万円

@永住帰国者援護
1,865百万円 → 1,753百万円
232世帯870人→ 202世帯802人
(うち樺太等22世帯80人→42世帯147人)
・訪日調査に参加しない孤児に対し、中国現地において、円滑な帰国のためのオリエンテーションを実施する。
・平成13年度以降、樺太帰国者の増員が見込まれ、大半の者が北海道への定着を希望することから、日本社会での安定的な生活を営むため、北海道自立研修センターに就籍相談員及びロシア語通訳を配置する。
A一時帰国者援護
170百万円→162百万円
247世帯360人→227世帯334人
(うち樺太等155世帯200人→146世帯191人)
B肉親調査(訪日調査等)
 46百万円→52百万円
・訪日調査の見直しに伴い、報道機関による報道量の減少・国民の関心の低下など、身元確認に結びつく情報が希薄となることが見込まれることから、地域の関係機関の協力を得て、効果的な情報提供を行い、肉親情報の収集に努める。
C樺太等現地調査
 10百万円→10百万円
D中国帰国者支援・交流センター(仮称)
 0→85百万円
・中国帰国者の高齢化等の現状を踏まえ、今後の継続的な自立支援に向けた拠点として、新たに「中国帰国者支援・交流センター(仮称)」を設置する。 

2.中国残留邦人の集団一時帰国/対面調査

@中国残留邦人の集団一時帰国について
 今年度で4回目となる中国残留邦人の集団一時帰国を、3月1日から14日までの日程で実施しました。今回の集団一時帰国は、今年度新たに認定された孤児20名のうち12名(昨年11月の訪日対面調査に参加した4名を含む)が参加されました。
 中国残留孤児の肉親調査については、平成12年度から集団による訪日調査に代えて、中国で日中共同の調査を行った後、孤児と認定した者の情報を日本で公開し、肉親情報が得られた者についてのみ訪日対面調査を行う事に改め、訪日調査に参加しなくても永住帰国の途が開かれることとなりました。
 そのため、日本の事情、情報を知る機会がないまま永住帰国することへの不安を少しでも取り除けるように、一時帰国滞在中に永住帰国のための説明会や中国帰国者定着促進センターの見学、企業訪問、小・中学校見学、既に永住帰国した孤児宅の訪問など、永住帰国するかどうかを選択する上で必要とするプログラムを組み込んで実施いたしました。
A中国残留邦人等の集団一時帰国期間中の対面調査について
 @の集団一時帰国期間中の平成13年3月5日(月)に、訪日孤児2名が肉親関係者と思われる者との対面調査を、次のとおり行いました。

名簿番号 孤児名(省別) 関係者
1 于鴻君
(黒竜江省) (非公開)
北海道・叔父(母方)
15 許 琳
(遼寧省) (非公開)
埼玉県・異母妹

対面調査を行った結果、2組とも共通点はあるものの決め手がないため、関係者の希望により血液鑑定を行いました。

3.平成12年度適応促進対策研修会

 平成13年2月1日、2日、東京で開催され、中国帰国者定着促進センター職員7名、自立研修センター職員27名、都道府県職員4名、厚生労働省職員10名が出席しました。

★文部科学省

1.平成13年度外国人児童生徒等教育相談員派遣事業について

 文部科学省では、平成11年度から中国等帰国者児童生徒又は外国人児童生徒の在籍する学校の所在する地域に、中国語等の母語を理解できる者を派遣し、中国等帰国者児童生徒、外国人児童生徒、保護者及び教員等から学校生活における適応に関する教育相談などを行う事業を、都道府県教育委員会を通じて実施しています。
 平成13年度においては,中国等帰国者児童生徒及び外国人児童生徒について、併せて69地域(平成12年度69地域)の指定を行いました。

2.帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域について

 文部科学省では、新たに平成13年度から標記事業を実施しています。
 これまでの中国等帰国者児童生徒の受け入れ等に関する調査研究を踏まえながら、一つの学校における取り組みを発展させ、この事業においては、地域内の複数の学校が相互に連携を図りつつ、また、地域内の人材を活用し、学校と地域も連携しながら、円滑な受け入れ体制について調査研究することとし、平成13年度は23地域を指定しました。
 また、この事業においては、中国等帰国者児童生徒・外国人児童生徒及び海外帰国児童生徒と周りの児童生徒が、それぞれが背景に持つ文化・価値観を相互に認め合い、啓発し合うことによって、地域としての国際化を進めることを目的としています。
 この事業を通じ、中国等帰国者児童生徒の学校への適応について、学校及び地域の中で、周りの児童生徒との交流を図りつつ、相互啓発がなされる取り組みが行われ、その成果が蓄積されて、他の学校や地域で活用されることが期待されます。

平成13年度外国人児童生徒等教育相談員指定地域一覧

1. 北海道(札幌市) 19. 三重県(津市、鈴鹿市、亀山市、上野市、河芸町)
2. 山形県(長井市、白鷹町、飯豊町) 20. 滋賀県(甲西町、八日市市、栗東町、水口町、草津市)
3. 福島県(郡山市) 21. 京都府(八幡市)
4. 茨城県(つくば市、下妻市、土浦市、水海道市) 22. 大阪府(堺市、門真市、東大阪市、寝屋川市、枚方市、松原市)
5. 栃木県(真岡市、小山市) 23. 兵庫県(明石市)
6. 群馬県(大泉町、前橋市) 24. 奈良県(高取町・橿原市)
7. 埼玉県(本庄市、岩槻市) 25. 鳥取県(鳥取市)
8. 千葉県(八千代市) 26. 島根県(出雲市)
9. 東京都(江戸川区、新宿区、墨田区、豊島区、大田区、荒川区) 27. 岡山県(岡山市)
10. 神奈川県(綾瀬市、大和市) 28. 広島県(呉市、海田町)
11. 新潟県(新潟市) 29. 香川県(丸亀市、高松市)
12. 石川県(金沢市) 30. 高知県(南国市)
13. 福井県(福井市) 31. 長崎県(長崎市)
14. 山梨県(甲府市) 32. 熊本県(菊陽町)
15. 長野県(長野市、伊那市、上田市) 33. 宮崎県(宮崎市)
16. 岐阜県(関市) 34. 沖縄県(宜野湾市)
17. 静岡県(清水市、富士宮市、豊田町)    
18. 愛知県(瀬戸市、西尾市、小牧市、豊川市、碧南市) 合計  34都道府県(69地域)

帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域(平成13年度)

1  茨城県 神栖町  9  石川県 小松市 17  京都府 宇治市 
2  栃木県 足利市  10  福井県 武生市 18  大阪府 豊中市 
3  埼玉県 大宮市  11  岐阜県 美濃加茂市  19  兵庫県 西宮市 
4  千葉県 船橋市  12  静岡県 掛川市 20  島根県 江津市 
5  東京都 世田谷区  13  愛知県 豊田市 21  高知県 高知市 
6  東京都 目黒区  14  愛知県 稲沢市 22  福岡県 北九州市 
7  神奈川県 横浜市  15  三重県 四日市市 23  熊本県 熊本市 
8  富山県 黒部市  16  滋賀県 長浜市

★援護基金から

新刊のご案内
ところざわ自動車学校の協力で、運転免許取得のための学科試験対応の日中対訳問題集『こつこつ日本語運転免許』(税込み¥2.000)が完成しました。表紙は満州からの引き上げ体験を持つ漫画家、森田拳次先生のご協力によるものです。見本、注文方法は本紙( )ページの「教材・教育資料」を参照して下さい。

★文化庁

「日本語教育支援総合ネットワーク・システム」

文化庁国語課ではこのほど、国内外の日本語教育の多様な需要や要望に応えるため、「日本語教育支援総合ネットワーク・システム」(平成12年度文化庁予算)を構築しました。
 本システムでは、インターネットを通じて、@教材制作ネットワークにより、多様な日本語教育教材用素材(日本語・日本文化に関するビデオや写真、翻訳付の昔話・物語教材、教科書作りや授業に役立つ日本の生活場面や風景の写真、短編集など)を(無料で)提供します。また、A情報ネットワークにより、日本語教育関係情報(統計、調査研究、教員に関する情報、教材の書誌情報、日本語教育関係機関・施設の情報など)も収集・発信します。
 本システムについては、3月28日に文化庁内において概要説明(試行)が行われました。本システムは平成12年度に文化庁において予算化の上開発されたものですが、平成13年度からは独立行政法人国立国語研究所において管理運営されます。移管作業が終わり次第(できる限り5月中には)サービスを開始する予定となっています。
 本システムにより、電子化された多様な素材や情報を、簡単な手続きで、インターネット(http://www.bunka.go.jp/nihongo)を通じてどこからでも入手できるよう、今後とも、データの中身、検索機能等の充実を図っていく予定です。国内外の日本語教育関係者や学習者の要望に応じた、非常に便利なシステム(サイト)となることが期待されます。

文化庁文化部国語課 野 山  広

研修会報告

平成12年度厚生労働省「適応促進対策研修会」

 平成13年2月1〜2日、厚生労働省社会・援護局企画課中国孤児等対策室の主催により、定着促進センター職員、自立研修センター職員、都道府県職員を対象に「適応促進対策研修会」が例年通り開催されました。対策室からの行政説明の後、相原和子氏(国際医療福祉大学)による「中国帰国者の精神保険福祉問題への理解」という精神保健面の講義が行われました。相原氏の事例の他に、各センターから出された事例に関する質疑もあり具体的な対応にまで話がおよびました。その後参加者40名が、4グループにわかれ、2日間で計3時間半、日本語指導上の問題、生活指導上の問題、就労・就学の問題などについて意見交換を行いました。生活相談員、就労相談員、日本語講師、センター職員、都道府県職員が会し問題点を共有したことで、それぞれの問題が関連しており、“協働”して問題を解決していく必要があることを再度確認できたように思います。
 今回の研修会で挙げられた問題のうち印象に残ったのは、帰国者の就職問題でした。就職できた帰国者でも、その多くが専門的な技術を要しない技能工、製造・建設・労務作業に従事しているということは、厚生労働省による「中国帰国者生活実態調査」結果で知っていましたが、現在の就職難の実情は、定着促進センターで日本語教育分野を担当している者にとって随分インパクトの強い内容でした。
「中国での就労経験が日本では生かせないことが多いために、新たな技術を身につける必要が大きい。にもかかわらず職業訓練校において訓練を受ける機会を得ることは、不況による失業者の増加で入校試験自体が日本人との競争になり狭き門である。一方、会社側も不況の影響により、仕事の過程で社員を育てている余裕はなく、技術的に即戦力となる人材を望んでいる。」
 地域を問わず続いているこうした深刻な就職問題は、各地域の自立研修センターや就労相談員の個別の努力だけでは解決できない構造的な問題を内包しているように思われます。就職に日本語力が問われることは確かですが、現状では日本語ができるようになれば仕事に就けるという単純な状況ではないようです。職業訓練校も含め就職に有利な職業訓練を受けられる機会の開発等、新たな制度面の支援も援護策の一つとして求められていると感じました。(所沢センター)

 「国際交流・協力TOKYO連絡会」国際理解教育部会主催 第一回セミナー
   「国際理解教育と総合的学習の時間〜地域と学校のネットワークを目指して」

 2002年にスタートする総合的学習の時間。最近マスコミで取り上げられることも多い話題です。所沢センターでも最近、近くの小中学校の総合学習の授業と関連した交流会などを経験することが何度かありました。こういった取り組みを参加者双方にとって実り多いものにするためにはどうすればいいのか、そんなことを考えながらこの研修会に参加してきました。主催者は、国際交流協会、民間国際交流団体、海外NGO等が発足させた集まり。
 報告者は民間の国際交流団体や国際交流協会で、在住外国人などの地域の人材と学校の橋渡しとして今後どんな役割を果たせるのか、今までの実践例を紹介しながら意見交換がなされました。その中で、国際理解教育というとやはり英語教育がらみでやってくれという要望が多いこと、学校に民間の団体が入っていくことの難しさなどが話され、学校から「○月○日イギリス人ひとり頼む」といった出前の注文のような電話がかかるという笑えないエピソード等も紹介されました。そんな中で、まず教員の側に国際理解でどんな授業ができるか考えてもらうワークショップを行っているという武蔵野市の国際交流協会の取り組みが目を引きました。今回のこの研修会のような取り組みをしても、なかなか学校の先生たちの参加が難しいのが現実ですが、武蔵野では市の外郭団体という強みを生かして宣伝募集したところ先生の申し込みがたくさんあったそうです。別の地域の団体の方の話では、学校の先生は外部の人間とのネットワーキングにどうも抵抗があるようで、まずそこに苦労するということです。しかし一度個人的なつながりができるとそこからネットワークが広がっていっていろいろなところから相談がくるようになる。先生たちの方でも、材料・情報・アイディアは必要としているわけで、問題は最初のきっかけをどう作るかというあたりにあるのかもしれません。
 今回は学校の外にいる人たちを学校の中に取り込んでいく実践が中心でしたが、学校の中にすでにいる外国から来た子どもたちの母語や母文化に、いい意味で目が向けられるような実践も増えていくことが期待されます。2002年になるといやでも全国すべての学校で週に2〜3時間という総合的学習の時間が始まります。のべ時間数にすると膨大な時間です。そうなったとき、我々が関わっている、別の文化をもつ人たちが、学校教育の材料としてただ使われてしまうことを避けるためにも、この総合的学習の問題を続けて考えていく必要を感じました。(所沢センター:小川)

国立国語研究所 国際シンポジウム「多言語環境下での年少者日本語教育を考える」

 2月17日に行われたシンポジウムに参加してきました。海外におけるトライリンガル教育(今やバイリンガルではなく英語を含む三言語を話すトライリンガルが主流とのお話もありました)等の実践報告が中心だったのですが、国内のものとしては「第二言語としての日本語教育教材開発報告」がありました。(報告者は『同声同気』第18号で私設リソースセンター・保護者日本語教室の取り組みを紹介してくださった神戸市立港島小学校(当時)の村山先生です。)その中で、現在使われている日本語教材の問題点として、市販の国語教材がそのまま使われていること、初級教材ばかりが作成されていること、母語対応教材が少ないこと、中学生向け教材が少ないこと等が指摘されていました。また、指導に際しての問題点として、子供向けの教え方がわからない、教科指導の教材や方法が分からない、といった実情が紹介されていました。
 その後のトロント大学の中島先生のコメントでは、日本国内の第二言語としての日本語教育の現状がサブマージョン*の環境になってしまっている点が具体的なデータをもとに指摘されていました。つまり日本語を第二の言語として学ぼうとしている子供たちにとって、日本語を学ぶ環境も母語を維持する環境も整っておらず、彼らの二つの言語の力はどちらもダメになる率が高いというのです。上述の教材の問題一つ取り上げても、その現状が窺えます。もちろん地域によっては、環境がかなり整備されつつあるところもありますが、この地域格差というのも今や大きな問題です。たまたま住むことになった場所が、子どものその後の学校生活を、そして人生を大きく左右するような不公平はなんとか早く解消していきたいものです。(所沢センター:小川)

*少数派言語を話す子どもが主流派言語を母語とするクラスに強制的に組み込まれること

教材・教育資料

帰国・来日等の子どものための歴史学習対訳補助教材

8カ国語版『日本のあゆみと世界』近々完成!

 帰国・来日した子どもたちの教育への積極的なとりくみで知られる大阪市教育委員会から、教科の中でも外国からの子どもたちには学年相応の読み取りが難しい歴史学習の補助教材として、この6月に『日本のあゆみと世界』が刊行されることとなりました。
 この教材は、帰国・来日等の中学生を主な対象としており、時代区分や学習内容は、平成12年度に使用されている中学「歴史」教科書の記述を基に作成されています。72頁の内容は、各時代の流れを要約した文章と、そこで使用された重要語句・重要人物の解説という構成です。中学校では、歴史を勉強する子どもたちに教科書や資料集と並行してこの教材を活用させることにより、歴史への興味や理解をより深めるとともに、歴史の学習が終わってから編入学した子どもたちへの指導や自習用教材として使うことができます。
 また小学校では、日本歴史についての母語で書かれた読み物として、あるいは小学校の教科書に出てくる重要語句・重要人物の解説書として利用することができます。
 6月完成する対訳は中国、韓国・朝鮮、ポルトガル、スペイン、フィリピノ、英、タイの8カ国語です。(現在ロシア語訳も所沢センターで進行中です。)
 入手希望の方は、借り出してコピーを取って返すという方法がとれますので、下記までお問い合わせください。

〒530-8201 大阪市北区中之島1丁目3-20
Tel : 06-6208-9192 Fax : 06-6202-7055
大阪市教育委員会事務局指導部管理課 国際理解担当の方まで

★『こつこつ日本語運転免許』−中国帰国者のための運転免許学科問題集

 待望の問題集『こつこつ日本語運転免許』が出版されました。学科試験のための問題集で、「教程1−運転の心得」から「教程30−高速道路での運転U」までと「危険予測問題」で構成されています。載っている問題は試験の中で出題される可能性の高いものを選び、全て日中対訳になっています。また図や標識も実際の試験問題と同様のカラー刷りです。「運転免許」は今や就職活動や日常生活の重要なアイテム。日本語の壁で苦労している帰国者や、あきらめていた帰国者にとって、本書は強い身方となってくれるでしょう。教材の詳細については、所沢センターのホームページでも見ることができます。

 A4判 全172頁 価格2,000円
  注文先:〒105-0001 
       東京都港区虎ノ門1−5−8オフィス虎ノ門一ビル
       財団法人 中国残留孤児援護基金出版部
       TEL:03−3501−1050/FAX:03−3501−1026
       ※5000円以上の注文の場合、送料無料。

「日本語教師必携 ハート&テクニック」

この本はこれから日本語教師になる、あるいはなりたての人のために書かれたものです。、
従来、日本語教師向けの参考書としてはこの文法事項はこう教えるといったマニュアルの類は多く出版されてきましたが、それ以前に日本語教師として気をつけなければならない事や学習者に対してどんな配慮や観察が必要かといった教師の「姿勢」について述べているものは多くありませんでした。
この本は@事前の心構えA日本語教師に必要なコミニュケーション力B教える前の準備、C授業の組み立てD教える際の様々な技術E初級指導のポイント等、親切に説明されており、数年あるいは長年日本語教育に携わっている人にも充分参考になる内容です。後ろの方にはベテラン教師のための「日本語教師化石度チェック」なるものもあって、おおいに反省をせまられます。

A5判 250頁 アルク 2000円

とんとんインフォメーション

ご存じですか? 「中学校卒業程度認定試験」

 文部科学省では、病気その他のやむを得ない理由で中学校に行けなかった人のために「中学校卒業程度認定試験」を年に1回行っています。平成11年度からは、日本に住む外国籍の人もこの試験を受けることができるようになりました。年齢超過のために日本の中学校に入れなかった人もこの試験に合格すれば、高校入学資格、つまり高校入試を受ける資格が与えられ、高校進学の途が開かれます。詳しくはお住まいの都道府県の教育委員会にお問い合わせ下さい。
※日程等は毎年異なりますので、受験を希望される方は必ず教育委員会に問い合わせて今年度の案内を取り寄せて下さい。
なお、ご参考までに前年度の受験案内を中国語に翻訳したものを 所沢センター ホームページに掲載してあります。(アドレスは本紙第1頁の上をご覧ください)

「多言語医療問診票」サイトアップ!

 言葉の通じない土地で病気にかかり、現地の医師と身ぶり手ぶりでしか病状を訴える手段がないとしたら、多くの人は病院に行くことに二の足を踏んでしまうだろう。実は、日本で暮らす外国人にもこうしたケースが少なくないという。こうした状況のなか、(財)神奈川県国際交流協会のホームページに「多言語医療問診票」サイトがアップされた。この問診票は、日本語が話せなくても気軽に病院へ足を運べるよう、外国人支援ボランティア「国際交流ハーティ港南台」が、地域医師会などのアドバイスを受け、約4年の歳月をかけ作成したもので、これを同協会がWEB化した。内科、小児科、産婦人科、耳鼻咽喉科など10科目で使用される問診票は、英語、中国語、ロシア語、韓国語など11カ国の言語に翻訳され、日本で暮らす日本語が不自由な外国人やその支援者にとっても、海外で暮らす日本人にも便利なものといえよう。サイト上の問診票は言語別、科目別のどちらからも見られるようになっている。また、同サイトには「問診票」の他、医療関連リンクとして「多言語での相談機関」「各地の国際交流機関」「ネット上の多言語医療情報」のリンク集をアップしている。ここでは、外国語で受診や相談ができる医療機関、医療通訳ボランティアの派遣サービス、診療に役立つ多言語のガイドブック、外国人が活用できる医療制度などの情報を持つ全国のホームページが紹介されている。また、「協力のお願い」として、適切な治療を受けるための通訳ができる人材の情報交換ネットワークづくり、その国の事情に詳しい「現地の医療関係者」との情報交換ネットワークづくり、「みなさんの問診票」では、地域で作成されている問診票をデジタルコンテンツ化するための技術面でのサポート提供など、同サイトを外国人の医療にかかわる支援者・支援情報の交流・交換の場にしていきたい、としている。なお、問診票の入手方法は、(財)神奈川県国際交流協会の下記アドレスより自由にダウンロードすることができる(営利目的での使用は禁止)。また、データの使い方もサイト上で詳細に説明されている。

http://www.k-i-a.or.jp/medical/

ニュース記事から (H13.1.9〜5.9)

02/16 中国残留日本人の家族偽装中国人60人摘発 東京入国管理局
02/22 日本語教育必要な外国人児童生徒は微減 1万8千人、母語多様化 文部科学省調査
03/01 中国残留日本人孤児12人集団一時帰国、内2名一時帰国通じ初の肉親捜し
    1日から14日まで(9日 所沢センター/14日 大阪中国帰国者センターを訪問)
03/14 対面調査の孤児、結論は血液鑑定に
03/15 井田真木子さん死去(中国残留孤児二世を追った「小蓮の恋人」のノンフィクション作家)
03/26 「大地の子」盗用訴訟 差し止め請求を棄却
04/10 残留孤児・婦人11人集団一時帰国 11日から24日まで
04/14 16日葛根廟事件の生存者が中国へ 日本人犠牲者の慰霊植樹
05/02 訪韓中の民主・鳩山代表、サハリン残留韓国人永住帰国者を慰問 帰還者の子供帰還実現のための働きかけの意向表明

事例紹介

サハリン帰国者二三世のその後

 今年の三月、一枚の新聞記事のファックスが送られてきました。サハリンからの帰国者三世であるAくんがサハリン帰国者としてはその地域で初めて全日制の公立高校に合格したというニュースでした。
 彼は所沢の帰国者センターが98年10月に初めて受け入れたサハリン帰国者の一人でした。それからもう二年半以上になります。その後もサハリンからは何人もの二世三世たちが両親や祖父母と共に日本にやって来ました。ロシア語という、日本人にはあまりなじみがない言語を母語とし、彼らにとっては模様のように見える漢字と悪戦苦闘しながら日本の学校へ入っていった子どもたちはその後どうしているのでしょうか。受け入れる側の学校や先生のほうにも戸惑いがあったと思います。
 そんな二三世のうち、中学から高校年齢の人たちのその後の話を聞いてみました。

--------------------------------------------------------------------------------

 Aくんの住む地域には外国人生徒のための入試特別措置はありません。中国帰国者ならまだ中国で培った漢字の知識を基に少しは類推の利く日本語の文章も、彼らサハリン帰国者にはチンプンカンプンです。もともとサハリンと深いつながりのある土地柄から、この地を永住の地に選ぶサハリン帰国者は少なくないのですが、他の日本人生徒とまったく同じ試験問題を同じ時間内で解かなければならないため、彼ら二三世の高校進学は他地域に比べて厳しいものがあります。Aくんの苦労と努力も察するに余りあるもので、新聞ももちろんそのことを取り上げていました。また、熱心に学習を手伝ってくれる支援者を得られたこともラッキーでした。
 Aくんと同地域に住む二三世のうち、高校に進学することができた他の一人は公立高校はとても無理との判断から私立高校を選びました。経済的な困難の大きい帰国者家庭から私立高校への進学はそれ自体難しいことですが、自治体の補助や奨学金などをやりくりして実現された進学でした。受験に際しては私学ということもあって辞書持ち込み可などの融通が利きました。Aくん同様、彼女も熱心な支援者から日本語を教えてもらえたといいます。
 職訓校を選んだ二三世もいます。そのうちの一人Bくんはもともと「勉強嫌い」を自認していましたが、来日後、日本語がわからないのを配慮されて3歳年下の生徒に交じる中学二年生に編入されました。しかし、高校に行ったら卒業するときにはもう21歳だ、冗談じゃない!とさっさと職訓校を選び、建築関係の科に入りました。お父さんの大工仕事をサハリン時代にはよく手伝っていて興味もそれなりにあっただけのことはあって、技術は先生にも誉められる腕前だそうです。「勉強嫌い」という人に多い、実は目端が利いて飲み込みも早いタイプで「あとは生活態度とやる気だけだな」と先生に言われたというBくん、彼女もできて(別れたりもして)それなりに職訓校生活を楽しんでいるようでした。一人前の大工として自分の腕に誇りをもって生きていってくれるといいんですが。
 外国人生徒のための入試特別措置のある地域でその適用を受けて公立高校に入学できた二三世もいます。しかし、そんな一人Cくんにとっても、漢字の壁はやはり一筋縄ではいきません。漢字仮名交じりで書かれた教科書を読みながら先生の授業を聞き取り、知識を得ていくことが要求される教科では、漢字が読めないことは知識を得る術を失うことに等しいのです。Cくんはせっかく入学できたものの、一年生の一学期は授業中の日本語も教科書に書いてあることもほとんど分からなかったと言います。特に生物と地理が難しく、特別なことばが多いためサハリンで習ってきた事柄でも聞き取れず、総合成績はクラスの最下位を余儀なくされました。サハリンでは飛び級をするほど成績のよかったCくんのことですから、相当落ち込んだはずです。「ぼく、クラスでいちばんバカ」と所沢の元クラス担任に電話で自嘲的に訴えてきたこともありました。
 しかし、Cくん、諦めませんでした。とにかく漢字を覚えなくちゃと思い、一学期の初めに入ったバスケット部も二学期に一旦やめて勉強に専念しました。三学期になっても通知票の評価はあまり良くならなかったけど、授業中の先生の話は前と違ってずいぶん聞き取れるようになったと電話してきました。先生からはテストの点がもっとよくなるといいねと言われたそうですが、本人の声は前よりはよほど明るく聞こえました。今はバスケット部にも復帰したそうです。

--------------------------------------------------------------------------------

 サハリン帰国者の二三世は非漢字圏出身という大きなハンデを抱えているにも関わらず、中国帰国者に比べてまだ人数も少なく、受入側も経験がないため、適切な支援を受けにくい立場にあります。(逆にまだ珍しい存在であるため、個別の支援が得られやすいとも言えます。)ハンデと闘いながら生きる途を模索中の彼らの前途に注目しつつ、応援していければと思う今日この頃です。                   (安)