HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第24号(2002年5月21日発行)  PDFファイル
<巻頭言>趣味は日本語
地域情報ア・ラ・カルト
 再研修の現場から(東京自立センター)
 自立研修センター閉所後の近況
 北海道自立センター訪問記
 サハリン帰国者、ロシア語サークルで活躍
 多文化共生センター東京21
行政・施策(厚労省、文科省、文化庁)
※ニュース記事から
研修会情報
教材・教育資料
事例紹介 〜二世青年〜

巻頭言

趣味は日本語!

 昨年の暮れのこと、思いがけない来訪者があった。“大昔”に所沢センターを卒業した孤児世代の女性たちである。同期の4人が集まって富士山に行く計画を立て、出発の前に十数年ぶりにセンターに寄ってみようということになったらしい。その中の一人から、前から勉強したいと思っていたが、一人で勉強するのによい教材はないだろうかという話が出たのである。
 前後して、早期に帰国を果たした孤児世代の卒業生から近況を聞く機会があった。一人は、支援団体主催の集いで先輩帰国者としてのスピーチを頼まれ、それを契機に作文の勉強をしたいと思いたったという。もう一人は、現在中国帰国者交流・支援センターの遠隔学習課程で勉強中とのこと。彼女は中国では就学がかなわず、独学で中国語の読み書きを学んだ人である。帰国後も「日本人なのだから勉強を続けなくては」という思いを持ち続けてこつこつと勉強を続けてきたという。
 帰国後十数年を経てなお日本語を勉強したいと思っている人がいる。そして機会を逃さず勉強を始めた人がいる。それでは帰国してからそう年月のたっていない孤児世代はどうだろうか。
 支援・交流センター講師の話によれば、滞日年数に関わりなく孤児世代の学習ニーズは高く、特に漢字学習コースには、日本の漢字の読み書きを学びたいという孤児世代の申し込みが多かったという。ちなみに、職訓校入校のための数学コースにも、自分の得意分野で日本語力をつけようというねらいか、孤児世代の応募があったと聞いている。
 これらの通信教育教材を用いた遠隔学習課程は、主として子育てや仕事のために教室に通う時間が捻出できない二世を想定したものであったが、この遠隔学習課程に孤児世代の応募が多数あったことは驚きであった。これは、“遠隔学習”のさらなる可能性を表すものではないだろうか。孤児世代の要望にも応えることができるコースがさまざまに開発されれば、マイペースで学習できる遠隔学習方式の方が教室での一斉授業形式よりも好ましいと思う孤児世代は少なくないように思える。
 孤児世代帰国者は老後の生活という問題に直面している。日本語学習についても、大半の帰国者がはがゆさや無力感を抱きながら努力を続けているのでないだろうか。学習には、苦労をしてこそ身に付くという側面も確かにあろうが、孤児世代には、気負わず気楽に取り組めてマイペースで進められる学習の機会を提供していきたい。月日の経過とともに孤児世代の加齢も進んでいく。孤児世代のこれからの年月に寄り添い、彼らが「趣味は日本語」と言えるような支援を続けていくことができればと考える。

地域情報 ア・ラ・カルト

★再研修の現場から 東京都中国帰国者自立研修センター

 東京の自立研修センターでは、帰国者が定着促進センターの研修を終了したあと、日本語、その他の学習を12ヶ月間実施しており、再研修のクラスについては昨年の10月に1クラス14名で始めたばかりです。孤児夫婦を対象にしているので、昼間に開設しています。
 当センターの1年間の日本語教室は、20年位前から東京YWCAと拓殖大学日本語研修センター他に委託して来ましたが、再研修のコースは小回りがきくようにと、当センター直営でスタートしました。
 帰国者の家族の中の若い人達は、定着1年後にはほとんどの人が自立への進路が決まりますが、孤児夫婦は既に60歳前後になっており、就職は難しいのが現状です。当センターの日本語学習を終了すると、一日中家の中に閉じこもり、日本人と接することもなく、家の中での会話は中国語だけとなります。今までの教科書とノート、黒板に頼る日本語学習は、高齢者にとっては「与えられて学習した」という人が多く、終了後、日本語を必要とする時には、家族の中の比較的出来る人を頼っていればよかったので、本人たちはせっかく習った日本語を使う機会もなく、どんどん忘れていくという状況を見て来ました。何とか日本社会にふれる機会が必要です。この再研修は自分の意志で参加し、これから老後に向けて役に立つ日常会話を楽しみながら学ぶ場にしよう、たとえ欠席しても、落ちこぼれないようにと毎回完結型にしました。また、月に1回位は教室から飛び出して、変化をつけた学習にしています。
 その一つとして、高齢者在宅サービスセンターを見学して、通所中の方々との交流で会話の機会を持ちました。通在所中の方々には80歳をこえる方も多く、帰国者の戦後の苦労も理解して下さり、話すテンポも同じ位で、終わった時には再訪問を約束したほどうちとけていました。
 帰国者にとって日常の食事は、中国にいた時と大差ないようですが、再研修では加齢に伴う栄養のバランスや、カロリーの取り方について、また、日本の食材についても知ってほしいと、日本で専門に学んだ帰国者の方に講義をしてもらいました。
 調理学習では、材料を手にとって名前を覚え、お正月料理や子どもや孫のためにバランスのとれた彩り良いお弁当を作りました。今まで使ったこともない食材や調理法もあって日本の暮らしにも興味が湧き、楽しい発見になっているようです。
 その他、防災館での体験学習。消費者センターの講師には「悪徳商法にあわない為に」とのテーマで話をしてもらいました。健康体操の時間には、体を柔軟にしたあと、テープに合わせて歌いながら「明日があるさ」を踊り、汗をかきながら体の部位の名称や、動作を自然に覚えたりしました。
 生活保護を受けている帰国者にとって、東京都の場合、定着2年を過ぎると、ほとんど交通費が支給されなくなります。再研修には、1世帯に1枚発行される都営交通機関の無料パスを駆使して参加しています。その結果、夫婦のうち積極的な1人だけが参加しているのが現状です。
 孤児や配偶者は、高齢になってから住み慣れた土地や友人と別れて異文化の日本で、新しい言語を学ぶというつらさを味わっています。特に孤児は配偶者を一緒に日本に連れてきたことに対して負い目を感じています。身体的にも新しい環境に慣れるためのストレスが更年期障害に追い討ちをかけています。これから体が弱くなれば介護保険のお世話になるかもしれません。言葉が充分に使えないまま老年期を迎えないように、この再研修は時間が短くとも効率の上がる学習の場にしたいと思っています。
 当センターの再研修のスタートに際しては、神奈川、埼玉、千葉自立研修センターを参考にさせて頂きました。

自立研修センター閉所後の近況

 国費による中国からの帰国者数の減少に伴い、各地で2次センター(自立研修センター)が閉所されていきました。閉所後、帰国者に対しての援助はどのような形で行われているのかを伺ってみました。

●岩手県(県地域福祉課/中国帰国者通訳奉仕会)
 中国帰国者通訳奉仕会が、県内5地区で日本語教室を開いている。それぞれ週2回、地区ごとにレベルを分けるなどして行われている。生徒は現在5地区の合計で73名。それぞれの地区ごとに、年1回日本語教室の生徒以外の帰国者や地域の人も招いて、交流会を行っている。内容は中国語や太極拳を学んでいる人の舞台発表、日本語教室での情報交換、ボランティア楽団によるミニコンサートなど。生活就労相談窓口は特に設けていないが、日本語教室のときに相談があれば対応している。(13年度末現在)

●兵庫県(県福祉局援護室)
 自立研修センター事業の委託先であった(財)兵庫県海外同友会は、週1回日本語教室を実施。自立研修センター伊丹分室を運営してきた伊丹ユネスコ協会はセンター閉所後も継続して週5日の日本語教室を実施している。

●高知県  NL16号で紹介済。
 前2次センター所長の渡邊氏より、「3月31日に中国帰国者の会主催で帰国者問題フォーラムを開き、県や市の担当者、開拓団代表をパネラーに迎え、約70名で活発な討論を行った」との報告をいただきました。

●長崎県(県社会福祉課)
 平成12年7月末に閉所後、8月から「すこやか長寿財団」に委託し、日本語教室を開いている。教室は初級、中級の2クラスで、週3回行われており、生徒は呼び寄せ家族を含め30名近くが通っている。外部との交流会は行っていない。また、生活就労相談窓口を開いており、専門の相談員にいつでも相談できるようになっている。

サハリン帰国者の受け入れから一年…〈北海道中国帰国者自立研修センター〉訪問記

 北海道中国帰国者自立研修センターでは、昨年5月より正式にサハリンからの帰国者を受け入れはじめた。それにより、今年2月から中国とサハリンの研修生による混合クラスが誕生した。
 現在のクラスは、基礎クラスと再研修クラス(通称:桜教室)があり、もちろんすべて混合クラスで構成されている。サハリンの帰国者を受け入れるに当たり、ロシア語を解する講師の確保は大きな障壁であったが、日本サハリン同胞交流協会を通し、所沢センターの修了生であるKさん、Hさんや生活指導員を務めていたSさんを急遽講師として招き、対応している。もっとも、担当するクラスは混合クラスのため、授業はロシア語ではなく日本語で行われている。「授業中、たまに自分の言葉が足りないと感じたときは、身振り手振りでなんとか教えています。所沢センターの先生方の苦労がよく分かりましたよ」とSさんはいう。
 基礎クラスの授業はいわゆる「日本語学習」のほか、日本に関する社会知識を教えるもの。また、再研修クラスでは、講義形式をとらずに、教師と研修生同士が一つの話題について自身の考えを発表し、それについてみんなが意見を出し合いつつ、中、露、日の異文化体験などを楽しく理解しあうといったものも取り入れられている。中国とサハリンの帰国者同士がお互いの違いや困難を認め合いつつ、知っている限りの日本語を駆使し、会話を試みながら、楽しく交流できる場としての「再研修クラス」の存在意義は大きい。さらに、所沢では圧倒的多数派だった中国帰国者のほうが少ないクラスもいくつかあり、日本語(とくに会話)を学ぶ環境としては、どちらの研修生にとってもプラスの面に作用しているようだ。
 一方、同センターが今もっとも頭を悩ませている問題は、ロシア語対応の教材不足だ。「教科書や教材、教具を含めあらゆる物がまだぜんぜん足りない状態。とくにロシア語訳の付いた会話テキストが欲しい」と同センター講師の向後さんは訴える。
 同センターの将来的な見通しとしては、中国の帰国者数は徐々に減少を辿り、逆にサハリンからの帰国者数は増えていくことが予想されている。そのためにも、サハリン帰国者への早急な支援体制の整備・確立と充実が今後の課題と思われる。

(小松)

サハリン帰国者、ロシア語サークルで活躍!!

 ロシア語サークル「ナジェージダ(希望)」にサハリンから永住帰国した2世夫婦が入会し、ロシア語交流やロシア料理講習などを通じてメンバーや地域の人たちと親睦を深めています。
 北海道紋別市国際交流委員会が、年に1度、1週間開催するロシア語講座を受講した人たちでサークルを作り、2年前の4月から喫茶店で例会を持っております。自営業の方が多い為、長く続けられるようにと月2回とし、現在会員は12名ですが、漁業関係の方は冬期間のみの参加となります。入会当初、帰国者夫婦を講師にと迎えたつもりでしたが、ご本人たちは同じ会員として参加することを希望され、会費等の負担もしています。メンバーのほとんどが初心者なので文字の発音から教えて頂いています。年齢層が高いこともあり、残念ながら2年経ってもロシア語での会話には程遠いのですが、「この表現はロシア語で何?」とか「日本語にどう訳すの?」とか言いながら和気あいあいと活動しています。何とかロシア語の音に慣れようと、最近初歩のテキストの録音を2人にお願いしたところです。
 奥さんがピロシキ等のロシア料理を持参したり、メンバーが飯寿司や漬物を持ち寄って作り方を説明したりと、語学以外の交流も楽しんでいます。料理上手な奥さんを講師に、昨年3月、サークル以外の方も交えてロシア料理講習会を催したことがきっかけとなり、秋には近隣の小学校の学校菜園でビートを作ったからと、料理指導の依頼があり、彼女は仕事を休んでの協力。ボルシチの他にペリメニ(ロシア水餃子)を作ったのが子供達に受けて、発想も自由に円盤形ペリメニを作る等、楽しい調理実習となりました。今年2月には、市の北方圏国際シンポジウムのレセプションに(12ヶ国から200名近く参加)ロシア料理出品を依頼され、ボルシチ、ペリメニ、ブリヌイ(クレープ)、ピロシキのコーナーを担当してくれました。
 春からお2人の休みが平日になる為、一緒にお花見の会が出来ないのが残念ですが、ロシアの夏の楽しみ方シャシルィク(バーベキュー)等もいつか教えていただきたいと思っております。

ロシア語サークル「ナジェージダ」 中村 優子

「多文化共生センター東京21」

多文化共生センターとは・・・

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で被災した外国人(約8万人)への情報提供を目的に発足した「外国人地震情報センター」を母体として、同年10月に再スタートした民間ボランティア団体である。「外国人」・「日本人」の枠を超え、国籍や言語、文化の差異を認め尊重しあうことにより、多様で豊かな生活空間を共有する社会―「多文化共生社会」―をめざし活動している。
 前身である「外国人地震情報センター」は、阪神・淡路大震災において、20以上の言語でホットライン(電話相談)とニュースレターによる情報提供を行い、言葉の壁で不安な生活を余儀なくされていた外国人被災者のよりどころとなった。
 現在は、多言語ホットライン(相談業務)の他、医療相談やパソコン教室、学校への通訳派遣など、在日外国人の生活支援活動を幅広く行っている。大阪・京都・神戸・東京・広島に事務所がある。2000年7月には特定非営利活動法人の認証を受け、法人化された。
 今回は昨年発足したばかりの東京(多文化共生センター東京21)の活動について紹介する。

東京21の活動内容

 発足前に「多文化共生センター東京21準備室」が設けられており、『東京都23区の公立学校における外国籍児童・生徒の教育の実態調査についての報告―学校教育で国籍の認識は必要か?』を開催する(資料集も発行)などの活動を展開。昨年は多言語による進路ガイダンス(約90名の外国出身生徒が参加)も開催した(NL22号にて紹介)。生活者としての外国人が直面する課題に注目し、特に「子ども」と「ことば」の二つのテーマに重点を置き、以下のようなプロジェクトを中心に共生のための具体的な活動を展開している。

・調査プロジェクト:東京都の外国籍児童・生徒をとりまく教育状況の実態を調査
・子どもプロジェクト:日本語の習得が必要な外国籍児童・生徒も含めた学習支援の実施。時間:毎週土曜日2時〜4時。(現在、通訳・翻訳、教育相談員、日本語・教科学習支援の各ボランティアを募集中)
・通訳・翻訳プロジェクト:翻訳・通訳ボランティアの育成、そして現場(相談窓口、病院など)への派遣を予定
・育成研修プロジェクト:多文化共生社会の実現を担う人材の育成を目指した講座・セミナーを開催
・生活相談プロジェクト:多言語による(現在:英語、中国語、タガログ語)在住外国人の生活相談窓口を開設

 多言語による相談業務や進路ガイダンス、学習支援等々、帰国者をはじめ、日本在住の外国人、多文化を背景にもつ人、また支援する側の人たちに有効な情報を提供してくれるばかりでなく、具体的な力になる活動を展開している組織である。

問い合わせは

多文化共生センター東京21(開設日:火・木・金・土 の午前11時〜午後8時)
東京都台東区蔵前2-7-6 日本聖公会浅草聖ヨハネ教会内
TEL/FAX 03-5825-1290 http://www.tabunka.jp/tokyo/
E-mail:cmia-tk@tctv.ne.jp

行政・施策

★厚生労働省から

1.中国残留邦人等の援護対策関係予算

平成13年度予算額  平成14年度予算額
2,062百万円 → 1,905百万円

@永住帰国者援護
1,753百万円 → 1,519百万円
202世帯 802人 → 152世帯 632人
(うち樺太等 42世帯147人 → 32世帯 116人)
A一時帰国者援護
162百万円 → 149百万円
227世帯 334人 → 202世帯 292人
(うち樺太等 146世帯191人 → 122世帯 169人)
B肉親調査(訪日調査等)
52百万円 → 56百万円
C樺太等現地調査
10百万円 → 5百万円
D中国帰国者支援・交流センター
85百万円 → 176百万円

2.中国残留孤児の集団一時帰国期間中の対面調査について

 去る2月27日から3月12日に行われた集団一時帰国の期間中、新たに肉親情報が得られた中国残留日本人孤児2名について、関係者との対面調査を行いました。
 3月1日に厚生労働省で長野県在住の上條敬治さんと対面した董聖枝(とうせいし)さん(昭和61年度訪日調査参加)は、妹の「東子(あずこ)」さんであることが確認されました。兄敬治さんは、昨年11月の対面調査で、宣桂蘭(せんけいらん)さん(平成13年度情報公開)を「東子」さんの上の妹に当たる「江美子(えみこ)」さんと確認しています。
 また、3月4日に岩手県庁で同県在住の女性と対面した朱啓蘭(しゅけいらん)さん(平成13年度情報公開)は、DNA鑑定の結果、この方の姪であることが確認され身元が判明しました。
 朱さんの身元判明により、平成13年度に新たに日本人孤児と認定された20名のうち、4名の身元が判明いたしました。
 なお、この集団一時帰国参加者ではありませんが、昭和62年に永住帰国した劉文彬(りゅうぶんひん)さんと平成13年度に情報公開した王立法(おうりっぽう)さんが、DNA鑑定の結果、兄弟であることが確認されました。これは、今年に入り、この2名と肉親ではないかと思われる女性との間でDNA鑑定を行ったところ、この女性との肉親関係はいずれも否定され身元は判明しませんでしたが、孤児2名の間で兄弟関係が確認されたものです。

3.平成13年度適応促進対策研修会

 平成14年3月5日、6日東京で開催され、中国帰国者定着促進センター職員8名、自立研修センター職員32名、支援・交流センター職員4名、都道府県職員8名、厚生労働省職員9名が出席しました。

★文部科学省から

1 平成14年度外国人児童生徒等教育相談員派遣事業について

 文部科学省では、平成11年度から中国等帰国者児童生徒又は外国人児童生徒の在籍する学校の所在する地域に、中国語等の母語を理解できる者を派遣し、中国等帰国者児童生徒、外国人児童生徒、保護者及び教員等から学校生活における適応に関する教育相談等を行う事業を都道府県教育委員会を通じて実施しており、平成14年度は69地域(平成13年度69地域)を指定したところです。

平成14年度外国人児童生徒等教育相談員事業 指定地域一覧

1 北海道 (札幌市)
2 秋田県 (大曲市・六郷町・中仙町・南外村 (※4市町村で1地域))
3 山形県 (山形市)
4 福島県 (福島市)
5 茨城県 (つくば市、下妻市、水海道市)
6 栃木県 (小山市)
7 群馬県 (前橋市、玉村町、太田市)
8 埼玉県 (本庄市)
9 千葉県 (千葉市、市川市、松戸市)
10 東京都 (新宿区、墨田区、大田区、豊島区、江戸川区)
11 神奈川県 (相模原市、大和市、綾瀬市)
12 新潟県 (長岡市)
13 石川県 (金沢市)
14 福井県 (福井市)
15 山梨県 (甲府市)
16 長野県 (長野市、上田市)
17 岐阜県 (岐阜市)
18 静岡県 (富士市、袋井市、大東町、竜洋町)
19 愛知県 (豊橋市、岡崎市、豊川市、西尾市、碧南市、半田市)
20 三重県 (鈴鹿市、津市、松阪市、上野市)
21 滋賀県 (八日市市、水口町、甲西町、栗東市)
22 京都府 (京都市、舞鶴市)
23 大阪府 (寝屋川市、門真市、八尾市、東大阪市、松原市、堺市)
24 兵庫県 (明石市、尼崎市)
25 奈良県 (大和郡山市)
26 鳥取県 (鳥取市)
27 島根県 (出雲市)
28 岡山県 (岡山市)
29 広島県 (呉市、海田町)
30 香川県 (丸亀市)
31 高知県 (南国市)
32 長崎県 (長崎市)
33 熊本県 (菊陽町)
34 沖縄県 (宜野湾市)
合計 34都道府県(69地域)

2 帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域について

 文部科学省では、海外帰国児童生徒や中国等帰国者児童生徒及び外国人児童生徒とその他の児童生徒との相互啓発を通じた国際理解教育を推進するために、平成13年度から標記事業を実施しており、平成13年度指定の23地域に加え、平成14年度は新たに10地域を指定したところです。

「帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域事業」指定地域一覧(平成14年度)
太字(ゴシック体部分)は15年度も続く地域

1 青森県 青森市
2 茨城県 神栖町、結城市
3 栃木県 足利市
4 群馬県 大泉町
5 埼玉県 さいたま市、岩槻市
6 千葉県 船橋市
7 東京都 世田谷区、目黒区
8 神奈川県 横浜市、川崎市
9 新潟県 大和町
10 富山県 黒部市
11 石川県 小松市
12 福井県 武生市
13 岐阜県 美濃加茂市、大垣市
14 静岡県 掛川市
15 愛知県 豊田市、稲沢市
16 三重県 四日市市
17 滋賀県 長浜市
18 京都府 宇治市
19 大阪府 豊中市、大阪市
20 兵庫県 西宮市、神戸市
21 島根県 江津市
22 高知県 高知市
23 福岡県 北九州市
24 熊本県 熊本市
25 鹿児島県 鹿児島市
計 33地域(25都府県)

 これらの事業を通じて、学校・家庭・地域の連携による中国帰国者児童生徒の学校への円滑な適応、周りの児童生徒との相互交流及び相互啓発を行うための取組の推進及びその成果の活用が期待されます。

(文部科学省 山末)

★文化庁から

地域社会における日本語教育活動の充実へ向けて−新規事業の御案内

 文化庁では、地域社会に長期滞在する外国人の増加や日本語学習需要の増大に対応し、地域の実情に応じた日本語教育の推進を図るため、平成6年度から12年度まで、モデル地域を指定して(神奈川県川崎市、群馬県太田市、山形県山形市、静岡県浜松市、大阪府大阪市、東京都武蔵野市、福岡県福岡市、沖縄県西原町の8地域)、地域の実情に応じた日本語支援の在り方の追究や多文化共生社会の構築へむけて、日本語教室の開設や日本語支援者養成のための講習会の開催等の実施を含めた事業を委嘱、展開してきました。
 昨年(平成13年)度からは、これらの地域からの報告書やその他の最近の日本語教育関連の報告書(注1)の提言等を踏まえつつ、各地方自治体・国際交流団体等の協力を得ながら、地域の中核的な日本語支援コーディネータの研修を((社)国際日本語普及協会に委嘱して)全国約30箇所で実施しています。関連して、毎夏実施している文化庁の日本語教育大会において、地方公共団体・国際交流団体の日本語教育関係者等を対象に、地域の日本語支援活動の振興に関する「地域日本語教育活動推進シンポジウム」を開催し、協議や情報交換を行っています。
 また、今年(平成14年)度からは、同じく地方自治体等の協力を得ながら、学校の余裕教室等を活用した親子参加型の日本語教室の開設・運営事業を委嘱、展開していく予定です。こうした親子参加型の日本語支援活動(注2)の事業展開を通して、例えば、地域において活動している支援者と関連機関や団体(教育委員会、学校、行政機関や国際交流協会、日本語教育関係機関・団体など)との繋がりが強化され、地域内の支援活動やネットワークの充実がますます図られるようになることが期待されます。

(注1)例えば、現在の日本語教育の施策の推進・展開の基盤となっている報告書として「今後の日本語教育施策の推進について−日本語教育の新たな展開を目指して−」(今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究協力者会議)(平成11年3月19日)が挙げられますが、詳細は文化庁のホームページ: http://www.bunka.go.jp/5/1/C-1.htmlを参照のこと。
(注2)こうした活動は既に幾つかの地域で展開されています。例えば、秋田県能代市ののしろ日本語学習会では、託児施設を活用しての支援活動を展開しており、教室内においては、日本語支援者、託児補助者、学習者(外国人配偶者)、そして学習者の子供(乳幼児)や家族(学習者の夫や義理の父母など)が相互に助け合いつつ、日本語習得や異文化理解の促進に繋がるような空間(状況)が提供されているようです。

文化庁国語課 野山 広

研修会情報

★研修会報告

《異文化のはざ間で育つ子どもたち》

と題する講演=学習会が、3月17日(日)に、練馬区の庁舎の一角で行われました。主催は同区内で中国帰国者向けの日本語教室を開いている同歩会、講師は東洋大学の斎藤里美先生。20数名の参加者の中には、子どもを持つお父さんである帰国者二世も含まれていたため、講演と質疑応答は通訳つきでした。今回私が参加したのは、日頃子どもクラスの授業の中で、「どうしたらもっと面白い授業が出来るのか?」、「授業の中に遊びを取り入れるには?」という悩みを抱えていたからです。何か一つでもヒントがもらえれば、と軽い気持ちで参加したのですが、内容は期待を上回るものでした。
 今の社会、学校と子どもの状況は、帰国者ならずとも厳しいものがあり、〈共働きの急増、余裕のない学校、疲れている子どもたち〉(レジメより)という現状が、子どもたちのテレビ視聴時間の増加や学力低下を引き起こしています。その中で帰国者の子どもたちが固有に抱えているのは、片や学習言語としての日本語力や学力の問題であり、もう一つは家族間のコミュニケーション不足によってアイデンティティ(自分は何者かについての確信)がゆらいでいる問題です。しかも、子どもが一生懸命日本語を勉強すればするほど、家庭内での言語的ギャップが広がってしまうという矛盾があります。
 これに対し講師は、学習言語能力を伸ばす素地は、学校以外の生活の場における豊かな遊びを通して、また家庭内での対話から得られる様々な知識の蓄積を通して培われるものであることを指摘。また、〈家族の共通の言語をどう確保するか〉という問題提起の中で、広がる言語的ギャップを埋める様々な方法を紹介されました。例えば子供向けのルビつきの新聞や雑誌を一緒に読む、面白い記事は切り貼りする、連絡ノートやメモ、家族日記などをこまめにつける、という工夫です。また、すごろくに新しいルールを付箋紙で貼って増やし、自分でゲームを作る、家族で目標を共有するためにそれぞれが5年後、10年後の「ベストシナリオ」を書いて貼っておく、複雑な言葉を使わなくてもできる共通の活動(趣味やスポーツ)をするなど、所沢センターでの実習と重なる面もあって興味深く聴きました。
 この他、〈地域やボランティア、学校に何ができるか〉について、学校で傷ついている子どもたちが無条件に認められる場を地域やボランティアで作る、料理教室、季節の行事など話題や材料を提供する必要性、進学指導だけでなく職業指導の重要性についても語られました。この学習会によって、遊びの持つ創造性について再確認できたこと、ボランティアや取り出し授業を担当する先生方の声が聴けたことが収穫でした。

(所沢センター 村山)

★研修会情報

◆異文化間教育学会 第23回大会

 期日:プレ・セミナー 5月31日(金)  本大会 6月1日(土)・2日(日)
 場所:駿河台大学 (埼玉県飯能市)
 問い合わせ:大会準備委員会  Tel&Fax 0429-74-7104

教材・教育資料

<児童生徒向け中訳教材>

★小学校高学年以降に帰国(来日)し中国語識字力に問題がない子どもたちに教科の力をつけるための補助・自習用教材として便利なものを、以前、当ニューズレターで紹介したものも含め、再整理してみました。

教材名(発行年、発行/著作者)、内容

@中学校社会科重要語句日中対訳集『地理・歴史・政治・経済 重点名詞集』(1997年、府外教※)
 富士教育出版社発行の『入試によくでる社会−大切な用語と語句』の日中対訳版で、地理・歴史・政治・経済の重要語句対訳集。
A中学校英語『NEW CROWN(1〜3年)』(三省堂)日中対訳(1997年、市外教※)
 三省堂発行の教科書の日中対訳版。巻末の単語リストにいたるまで対訳されている。
B中学校英語『NEW HORIZON(3年)』(東京書籍)日中対訳(1997年、市外教)
 東京書籍発行の教科書の日中対訳版。巻末の単語リストにいたるまで対訳されている。
C中学校理科の対訳教材『初中理科中日文対訳』(第1部分、第2部分)(1997年、府外教、市外教)
 “入試で少しでも点が取れる”ことを目的にして、中学で学ぶ内容を整理している。ポイント・重要語句・重要な図・出題のされ方・練習問題で構成されている。
D中学校数学『新訂数学1年』(啓林館)日中対訳(1997年、東大阪市立盾津中学校)
 啓林館発行の教科書の日中対訳版。
E「英・中・日」辞典(NEW CROWN対応・全学年共通)『初中英漢日詞典』(1997年、市外教)
 三省堂中学校英語教科書『NEW CROWN(1〜3年)』準拠の英単語集の日中対訳集。中国から来たばかりの子どもたちが中学校で英語を学習する際の手助けとなる辞書教材。

※府外教は「大阪府在日外国人教育研究協議会」、市外教は「大阪市外国人教育研究協議会」の略。
[@〜Eの問い合わせ先]大阪市外国人教育研究協議会
〒540-0006 大阪市中央区法円坂1-1-35中央青年センター内 TEL:06-6946-7795
「残部が不足しているため貸し出したものをコピー後返却してください」とのことです。

F帰国・来日等の子どものための歴史学習対訳補助教材『日本のあゆみと世界』(中国語版)(2001年、大阪市教育委員会)
 「歴史」を学習する小6〜中3までの帰国・来日等の子どものための教科書の要点や重要語句を生徒の母語(8カ国語)で対訳。時代区分や学習内容は、平成12年度に使用されている中学「歴史」教科書の記述をもとに作成。
[問い合わせ先]大阪市教育委員会事務局 指導部管理課 国際理解担当
〒530-8201 大阪市北区中之島1丁目3-20 TEL: 06-6208-9192

G『中学英語文法の参考』(1999年、中国帰国者定着促進センター)
 所沢センターの内部資料。基本的文法事項の解説と例文からなる。解説は中国語、例文は日本語/中国語 訳つき)
[問い合わせ先]中国帰国者定着促進センター 教務課
〒359-0042 埼玉県所沢市並木6-4-2 TEL: 042-993-1660 FAX: 042-991-1689

H『文型数学』(1990年、中国残留孤児援護基金/中国帰国者定着促進センター)
 数学の文章題で、計算力はあるのに日本語の意味が分からないために解けないという生徒のための読解力養成用教材。キーワード等が中訳されている。

★もっと小さな子どもたちには
I『文型さんすう』(1988年、中国残留孤児援護基金/中国帰国者定着促進センター)
 コンセプトはHに同じ。算数の文章題のキーワード等が中訳されている。
[HIの問い合わせ先](財)中国残留孤児援護基金
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-5-8オフィス虎ノ門1ビル TEL: 03-3501-1050

J『小学校の算数-数と計算・対訳集-』(1997年、川崎市総合教育センター)
 小学校算数の中の「数と計算」の領域に限定しての対訳集。児童生徒の母語6カ国語で対訳。
[問い合わせ先]川崎市総合教育センター
〒213-0001 川崎市高津区溝の口1016-2 TEL: 044-844-3733
郵送などの取り寄せはできません。「ホームページ〈http://www.keins.city.kawasaki.jp/〉よりダウンロードしてください」とのことです。

(所沢センター:大上)

教材・教育資料『日本のあゆみと世界』ロシア語版ができました!!

 第21号でお知らせした、帰国・来日等の子どものための歴史学習対訳補助教材、『日本のあゆみと世界』(大阪市教育委員会作成・8カ国版)のロシア語版を、所沢センターで完成することができました。これで日本、中国、韓国・朝鮮、ポルトガル、スペイン、フィリピノ、英、タイ、ロシアの9カ国語版が揃ったことになります。
 ロシア語版については所沢センターから貸し出すことができます。(コピー後、こちらに原版を返却して下さい。)ご希望の方は当センター教務課(住所は本紙1面に記載)まで、A4の入る封筒に送付先を記入し、切手310円分を貼ったものを同封の上お申し込み下さい。

※大阪市教育委員会連絡先については、この頁上段Fの項を参照して下さい。

斎藤裕子『日本語生活用語集 学校生活分冊〈改訂増補版〉』

 以前NL12号で紹介した日中対訳用語集が10年ぶりに改訂されました。この用語集は、中国から日本に来て間もない小中学生のために作られたもので、学校特有のことばが集められています。「学校での会話」「学校用語」など大きな柱はそのままですが、扱う語彙・表現が大幅に増えていて、俗語・方言(関西弁)も充実しています。また「保護者の皆さんへ」という章では、学校や先生との間の誤解を少しでも防ぐために知っておくとよい、日本の学校のしくみや習慣や考え方が紹介されています。こちらも、大幅に加筆されています。著者の永年の経験が十分に活かされたこの用語集は、中国から来た子どもや保護者にとって有効であるのはもちろんですが、中国語を話す子どもを抱える教師の側にとっても非常に便利で役に立つと思われます。

問い合わせ先:〒546-0035 大阪市東住吉区山坂4-15-1  TEL・FAX06-6607-5923

『子どもがつくり、伝える中国(2) 我的故郷−ぼくのふるさと−』

とよなか国際交流協会・子どもメイト製作

 「みなさんは、ハルビンを知っていますか」という解説文ではじまるこの教材は、中国帰国者の子どもたちが関わり製作したスライドです。現在、中国帰国者の子どもたちが日本で多く暮らしているということは広く知れ渡ってきたように思われますが、彼らは日本の社会では受け身的な存在となっていることも少なくありません。しかし、子どもたち自身の中には、日本人・日本社会に自分たちの存在をもっとよく知ってほしい、私たちのこと(文化)もしってほしいと思っている子どももいます。この教材はそんな思いを持ったこどもたちが製作に関わって、ハルビンを紹介したものです。この教材を製作する中で、子どもたちは自分たちの文化に誇りを持ち、その文化を日本社会に発信していく意義を改めて自覚していったそうです。とかく、異文化をもった子どもたちは、日本文化に「同化」するように求められています。しかし、子どもたちは日本文化と自国の文化の両方を兼ね備えた存在です。そんな子どもたちが製作に関わったスライドを一度見てみませんか。

主な内容
 ・ハルビンの冬(マイナス20度以上にもなる)
 ・松花江
 ・氷の世界で遊ぶ子ども
 ・氷祭りの風景
 ・凍りついた河をどのようにして渡るか
 ・ハルビンのロシア建築
 ・ハルビンの子どもたちが食べているお菓子
 ・中国の学校
 ・ハルビンの人たちのファッション

申し込み方法
 受付:利用希望日の3ヶ月前の毎月2日から電話受付します。
 期間:往復の郵送にかかる日数を含めて、最長2週間
 費用:貸出料500円と送料を郵便振り込み用紙で送金してください。万一破損した場合は実費を負担していただきます。
 申し込み:とよなか国際交流協会・子どもメイト  大阪府豊中市北桜塚3−1−28  TEL06−6843−4343

ニュース記事から(H14.1.11〜5.10)

01/24 強制送還の娘らが行政訴訟−熊本の残留孤児家族、実子ではない妻の娘家族の送還処分に対し
02/08 27日から集団一時帰国の中国残留孤児2人が来月対面調査
02/15 外国人の子ども1万9千人超え過去最高 日本語の教育必要
02/19 在留不許可を取り消し 残留孤児の妻が勝訴(東京地裁)
02/21 新中教審が答申、新しい時代の教養教育−異文化と接触し理解する姿勢を身につけるべき
02/25 外国人児童急増で文科省、日本語教育に指針−JSL(ジャパニーズ・アズ・セカンド・ランゲージ=第2言語としての日本語)カリキュラム
03/01 中国残留孤児の董聖枝さんの身元確認 姉に続き
03/28 中国残留孤児の朱啓蘭さん、岩手の女性のめいと判明
04/24 外務省、難民支援を提言 「認定すれど支援せず」を転換
04/25 余裕教室を6月からNPOなどに活用 大阪の府立高校で

事例紹介

「人にできることは自分にもできる/人のできないこともやればできる」

 所沢センターはこの2月で開設19年目を迎えました。初期の学生は10代だった青年も30代となり、家庭を持ち、働き盛りの年齢になっています。当時は日中の社会の違いも今より大きく、彼らの感じた軋轢は今と比べものにならないほど大きかったはずです。そんな時代を“泳ぎ渡って”今に至る、当時青年クラスだった学生の一人と久々に連絡が取れました。19歳で来日した彼の、日本でのこの10数年の軌跡に耳を傾けてみようと思います。

 定着後、福祉施設に勤めた後、紹介されて旅行会社に転職した。中国に進出を計画していた企業の社長に同行してしばらく中国に行っていたのだが、この人が金持ちを鼻に掛けるような人で約束も守らないことから気が合わず、やり合った末に自分は間違っていないからと辞めた。ここには1年ぐらいいた。
 その後、知り合いの自動車学校の社長から自分のところにと誘われた。しかし、ちょうど飲酒運転で免許を取り上げられてしまっていたため、断ると、それなら運転免許の要らない、社長所有のカラオケボックスの店長にと誘われて行った。ところがこの仕事は毎日帰宅が遅く、結婚したばかりの妻から家庭にいる時間がないので辞めてほしいと言われた。社長に辞めると言うと、給料を上げてやるからと言われたが、給料が理由ではないからと説明し、後の当てもないのに2、3年で辞めた。
 しばらく遊んでいたが、バイク仲間に自分の会社が営業担当を探しているから来ないかと言われ、5時に帰れるしと思って「ちょっと試しに」のつもりで入社。土木建築・砕石の会社で全くの畑違い、一から勉強しなければならなかった。ここはもう7年になる。
 定着後1年のうちに運転免許を取った。当時バイクにかなり凝っていて、原付から400cc、マウンテントライアル用まで何台も持っていた。オートバイ屋で知り合ったツアー仲間と鉄塔ツアー(山林の鉄塔点検用の階段路を上っていく)によく行っていた。旅行会社に勤めていた頃、地元のテレビ局から帰国者ということで生放送で取材されたことがあったが、そのディレクターがやはりバイク乗りで話が合い、一緒にツーリングに行ったりして面白かった。
 仕事に必要だろうと大型免許も取ったのだが、今持っているのは取り直した普免だけ。バイクも売ったり友だちにあげたりして1台も残っていない。今は息子(4歳)がいるから生活は子ども優先。
 一昨年、「1級土木施工管理技士」の資格を取った。資格を取ったのは、仕事をするからには自分を高く買ってもらいたいと思ったからで、会社で生き残るため。
 まず2級を取った。2級は経験者なら講習だけで無試験で取れるが、自分は経験年数が足りなかったので受験、これはわりと簡単に取れた。1級は取ったら給料を2倍にしてやると言われて発奮した。12万円の通信教育費は会社が出してくれ、6ケ月間、毎日1時間は勉強した。5年ぐらい掛けてゆっくり取ろうと思って試しに受けたら1回で受かってしまった。実は、この間に1歳になった息子を親戚に見せるために1ケ月以上中国に帰っていたが、試験には影響がなかった。
 給料は4万上がっただけで2倍にはならなかったが、この不況下で他の人は給料が下がっていることを思うと上げてくれた方だろう。この資格は社長と副社長と自分しか持っておらず、実質上自分がいないと会社は動かないから毎日忙しい。配車から営業、発破まで全部自分がやっている。発破技師の資格も取った。
 去年、土地を買って家を新築した。両親と住んでいる。前庭のタイル貼りも自分でやった。
 負けず嫌いというのか、「人のできることは自分にもできるはずだ」という気持ちと、「人にできないこともやればできる」という気持ちでやってきた。言葉だって二つ覚えたんだし、日本語一つしかできない日本人に負けることはないという気持ちがある。
 今年は宅建(宅地建物取引主任者)の試験を受ける。会社が通信教育の費用を出してくれて、週1回スクーリングに通っている。

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 そういえば、昔の修了生と電話で話すときも、今どんな仕事してる?と聞くことはあっても、今何に凝ってる?と聞いたことはほとんどありませんでした。最近来日した子ならいざ知らず、10数年前にすでに社会人の年齢だった人たちは皆生活を築いていくのに精一杯の様子が窺え、趣味の話などは持ち出すのも憚られたのです。彼とは何年かに一度は連絡を取っていましたが、バイクにそんなに凝っていたというのも今回初めて知ったことでした。
 一人オートバイを走らせて未知の土地を旅し、難路に挑戦する彼のイメージが日本での彼の軌跡にダブります。どの人にとっても、青年時代と呼ばれる時代は挑戦と挫折の時代であるだろうけれど、彼の10数年もまさしく彼がしばしば口にする「挑戦」という言葉そのものだったのだと今更ながら思いました。バイクはそんな彼にとってどんなにか心強い伴侶だったことでしょう。そこで知り合った友人も。
 今は家庭を持ち、落ち着いた生活を送っていますが、その中でもチャレンジ精神を持ち続けている彼の話を聞いていると、この人は一生何かに挑み続けていくのだろうという気がしてきます。また何年後かに話を聞かせてもらうこととしましょう!

(An)