HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第29号(2004年1月22日発行)  PDFファイル
地域情報ア・ラ・カルト
 再研修/遠隔学習課程スクーリングの現場から<神奈川県自立研修センター>
 房総日本語ボランティアネットワーク「地域コーディネーター制度」
 県の事業としての「外国人児童生徒のための高校進学ガイダンス」がめざすもの
行政・施策  厚生労働省から/援護基金から/文化庁から
研修会情報
 研修会報告:緊急シンポジウム「いま、中国帰国生徒特別枠入試を問う」 /『東京23区の公立学校における外国籍児童・生徒の教育の実態調査報告』から自治体職員のみなさんに伝えたいこと
 研修会情報:異文化間教育学会第25回研究大会/「田中宏先生を囲む学習会」
教材・教育資料
 報告書:『2002年度―日本語教育の必要な外国人児童生徒の教科学習支援学生ボランティア 大学・教育委員会・学校との連携−活動報告書』(岡山大学教育学部)
 日本語教育ブックレット1『多言語環境にある子どもの言語能力の評価』(国立国語研究所)
 報告書:『母語による学習支援モデル事業』(横浜市国際交流協会)
とん・とんインフォメーション
 『東京宣言』解説付改訂版
 厚生労働省:中国帰国者生活実態調査結果の概要
 HP紹介:大阪府教育委員会「帰国・渡日児童生徒学校生活サポート情報」
 サハリン帰国者のための新コース 漢字学習(露)開設
 創刊、ニュースレター『日本語教育with kids』
 ニュース記事から
 中国帰国者支援・交流センターから
 情報誌『天天好日』紹介・お願い・「友愛電話」「友愛訪問」
 HP紹介「多言語生活情報」
事例紹介 「やりたいことを大切にして」 −チャレンジし続けるTさん−

地域情報ア・ラ・カルト

★再研修/遠隔学習課程スクーリングの現場から 神奈川県中国帰国者自立研修センター

◆再研修※

 当センターでは毎週土・日の昼間と火・金の夜、再研修講座が開かれている。日曜日は6つの日本語クラスとパソコンクラスが一日ぎっしりと詰まっており大変なにぎわいである。9時ごろセンターに着くと、もうロビーに待機している何人かが笑顔で挨拶してくれるが、その中に3年前に8か月の研修を終えて社会に出ているTさんの顔もある。中国での就学歴が殆どなく、当然中国語も読めずに授業では大変苦労した。日本語はどうしても覚えられないから勉強よりも早く働きたいというTさんの訴えには切実なひびきがあった。当時おぼつかない手つきでひらがなを書いていたが、今はフォークリフト操作などをこなし元気で働いている。ただ日本語力の不足は如何ともし難く、職場の要望もあって再研修に参加するようになったのだが、当時より少しやせて精悍な顔つきになったTさんを見ると、仕事も日本語もがんばってと願わずにいられない。
 私は日曜日、初級後半のクラスと中級前半のクラスを担当している。大部分が働きながら通っているので日本語には慣れており、教師の言うことは大体理解できるし言葉もよく知っている。意欲もあり態度も真面目で上達も早いから教えていて楽しい。だが問題もある。まず、来日してすぐ仕事に就いた人が多いため初歩の学習が抜けていて、簡単な会話でも不自然な言いまわしになり、それが身についてしまっていることである。授業では「もう夜遅いですから静かにしていただけませんか。」「私が日本に来たのは去年の3月です。」などの文をこなしているのに、フリートーキングでは「先生、先週の宿題わたしない。」「仕事いそがしよ。来週休みいいです?」になってしまう。中級前半クラスになると一応の受け答えはできるが、可能や受身、敬語などをきちんと使える人は少ない。書くことでも難しい言い回しをと背伸びする半面、簡体字だらけの文を書いたりひらがなの形すら間違っていたりする。みんなまだ若いのだから基礎が大切、積み上げが大切と細かく直すようにしているが、これには双方の根気と時間が必要である。
 何より大きな悩みは、希望者が多いため、前半期は特に授業の中で個人に対応できる機会がとても少なくなることである。口慣らしのドリルや短文の発表など、もっと数がこなせればもっと上達も早いのにと残念である。

※この部分は神奈川センターNL『飛翔』20号より抜粋

◆遠隔学習課程スクーリング

 今春から正式にスタートした遠隔学習課程スクーリングは、近隣交際会話コースと運転免許学科対応コースが6〜9名、高卒程度国語コース・高卒程度数学コース・漢字ゆっくりコースが1〜3名で、ホームヘルパー受講講座が去年12月からスタートした。
 私が担当している近隣交際会話は平均7〜8名の出席で、これまでに7回のスクーリングを行った。受講者はほとんど前述の再研修とのかけもち組で、「定期的通学が困難」という遠隔学習本来の対象者とは異なるものの、チャンスは利用して勉強しようという人たちである。日本に定住して2〜数年の年配者が多く、毎回課題提出の状況や提出のための疑問などを聞いても特に問題はないという。そして普通のテキストを使う一斉授業ではなかなかたずねたり持ち出したり出来ないような生活の中での疑問点を次々と質問してくる。例えば、お中元・お歳暮って何?いつ、誰に、何を、いくら位、他に物のやり取りをするのは?等々。それを説明しながら意見を求めるとにぎやかな反応がある。とにかく日本語でみんな積極的に参加する。スクーリングの時間が楽しいコミュニケーションの場として機能していることは大切なことではあるが、受講者一人一人の自学自習をどうサポートしていくことができるかに頭を悩ますこのごろである。

(日本語講師:耳野 紀久代)

房総日本語ボランティアネットワーク「地域コーディネーター制度」

 外国人の子に高校入試についての相談を持ちかけられたとき、どうしたらいいでしょうか。自分自身が親身になって相談にのることはもちろんですが、生徒の母語の話せる人につないだり、高校関係の教員に連絡を取ったり、更には学校においての保護者面談での通訳を手配したりしてサポートしていくのが理想だといえます。日本語を母語としない子どもの抱える様々な問題に即時に対応するため、各関係者が互いに連携を取り協力していけるようにネットワークを組み、日常的に協力しあってサポートしていく…。この理想とも言えるサポート体制の実現に向け立ち上げられたのが、〈房総日本語ボランティアネットワーク〉(以下、房総ネット)の「地域コーディネーター制度」です。
 房総ネットは2002年の秋からこの制度を立ち上げました。現在の登録者数は68名、1団体。相談・問い合わせは、外国人生徒・保護者からだけではなく、日本人ボランティアや学校に通学していない外国人の成人からもあり、発足から昨年10月までで約40件にのぼります。
 房総ネットでは、二つのコーディネーターを設けています。窓口的な役割の「連絡コーディネーター」が相談を受けると、その相談に対応できる「地域コーディネーター」(現在、日本語教室関係、学校派遣関係、小・中・高校関係、通訳関係、その他に分けられている)に連絡、地域コーディネーターはその具体的な相談にのり対応しています。
 事務局の白谷氏は「千葉県全域を網羅するように各コーディネーターを募っていき、様々な情報を提供し、将来的には、各地域で『進路ガイダンス』や『学習会』を開いていきたい」と今後の抱負を述べています。こうしたサポートが整えば、日本語を母語としない子どもたちの抱える様々な問題が少しでも解決されていくのではないでしょうか。

(所沢:大上)

【問い合わせ】 地域コーディネーター事務局 (房総日本語ボランティアネットワーク)
TEL/FAX:043-290-2568(千葉大学長澤研究室)
E-MAIL:siratani@dp.u-netsurf.me.jp(事務局:白谷秀一)
URL: http://www.e.chiba-u.jp/~nagasawa/sikiji.html

県の事業としての 「外国人児童生徒のための高校進学ガイダンス」がめざすもの

 三重県上野市では2003年、三重県教育委員会新事業「上野市外国人児童生徒サポート事業」の一環として上野市教育委員会、MIEA((財)三重県国際教育協会)と「伊賀日本語の会」共催による「伊賀地区外国人児童生徒のための高校進学ガイダンス」を開催した。参加生徒及び保護者は予想を上回る70名余。関係者は60名であった。そして、学校現場、行政、NPO、ボランティアとの協働と連携、保幼小中高の連携と理解が生まれた。2001年MIEA主催、2002年MIEAと「伊賀日本語の会」共催で取り組んできた民間の努力が実ったのである。(通訳ボランティアのための事前学習会、行事で不参加の学校への別途「出前ガイダンス」も市教委主催事業として行うことができた。)
 このガイダンスのねらいは、(1)母語で情報を提供する、(2)参加者がガイダンスを通して時間を共有する、(3)ガイダンスに参加して、それぞれ自分は何ができるかを考え行動する、の3つである。さらに、三重県でも高校の入試の特別枠を、外国籍生徒の立場にたって設定することを目指している。
 「上野市外国人児童生徒サポート事業」の一環として、市内小中学校教員対象に「ガイダンスを開催する意味と上野市外国籍生徒の現状を知ろう」の講座を教育委員会が主催した。またガイダンスを行ってみて、外国の人たちに日本語で伝えることの難しさを関係者全てが経験した。(特に、教育行政関係者が認識してくれたことの意味は大きい。)そして、「日本語を教えるためのイ・ロ・ハ」と題して「わかる日本語を話そう」の講座を開催した。いずれも昨年までガイダンスを主導したNPOメンバーや現場教師が行政と協働する形をとった。市内の全ての学校が外国籍生徒の状況を理解しあうことをめざしている。
 地域に生き年齢を重ねるということは人間関係を培うことであり、こうした事業共催の地域的土台も作られる。またITにより、各地の有益な新情報を得ることができる。
 学校現場にいる者が目の前の事実を発信し、共通認識を深め、同時にボランティアやNPOとともに学校を活性化する。そして、行政(という組織ではなく行政に関わる人々)に具体的な取り組みを提案し、行動で示す。
 単なる非難や理想論だけでは物事は進まない。それぞれの立場で知恵を出し合い、できることから始めたい。
 共に汗をかこう!!

三重県上野市立緑ヶ丘中学校 日本語学習室担当 藤本美知代 メール:fu0331@ict.ne.jp

行政・施策

★厚生労働省から

1.訪中調査について

 中国残留日本人孤児の肉親捜しについては、平成12年度より孤児の高齢化に伴う精神的・身体的負担の軽減や早期の帰国に応えるため、厚生労働省職員が訪中し中国政府の協力を得て現地で共同調査(訪中調査)を行う方式に改めました。
 平成15年度は、9月1日から約3週間にわたり、黒竜江省、吉林省、遼寧省及び北京市において、孤児申立者、証言者と面接するなど共同調査を行い、また、継続調査となっていた対象者については中国政府と協議を行いました。
 その結果、日中両国政府で10人の方が日本人孤児と確認されたので名簿の公開を行い、現在、報道機関等の協力を得て肉親情報の収集に努めているところです。
 今後の予定としては、集団一時帰国を希望する孤児は平成16年2月24日から3月8日までの間訪日し、永住帰国に向けたオリエンテーションや施設見学に参加し、親族等から情報のあった孤児については、この間対面調査を行うこととしています。

2.中国残留日本人孤児の肉親捜しに係る全国会議について

 厚生労働省では、親族との離別状況を直接知る養父母等の証言者が高齢化していることなどから中国残留日本人孤児に係る日中共同調査を平成15年度から2か年計画で集中実施することに合わせ、今年度新たに確認された10人の方々の肉親捜しの強化を図ることを目的として、各都道府県の職員を対象として、「中国残留日本人孤児の肉親捜しに係る全国会議」を11月26日に開催しました。
 具体的には、新たに確認された孤児に関する詳細な情報の提供を行うとともに、各都道府県においても肉親情報の収集に努めるよう協力依頼を行ったものです。
 会議に出席された都道府県職員は、説明を熱心に聞かれ、厚生労働省としては今後の都道府県での成果に期待しているところです。

3.中国帰国者生活実態調査(平成14年1月1日調査)結果について

 この度、平成13年度に実施した、中国帰国者生活実態調査の結果をとりまとめました。
 この調査は、平成4年以降、平成13年12月31日までに永住帰国した中国帰国者本人のうち、中国帰国者定着促進センターに入所中の方及び永住帰国後に死亡した方を除いた2,068人を対象に、平成14年1月1日を基準日として実施したものです(うち1,725人から回答)。
 なお、今回の調査は、帰国者本人の健康状態や地域との関わり状況、呼び寄せ家族を含めた子世帯の就労や日本語習得状況など、これまでには調査を行っていなかった事項を中心とした調査として実施したものです。

※調査結果の概要は本紙10・11頁に掲載

 詳細については厚生労働省ホームページ (http://www.mhlw.go.jp/)に掲載予定です。

4.平成15年度身元引受人・自立指導員研修会

 同研修会は、東ブロックが平成15年9月9日、10日長野県で、西ブロックが平成15年11月19日、20日兵庫県でそれぞれ開かれ、全体会議とグループ討議が行われました。
 1日目は、厚生労働省による中国残留邦人等に対する援護の説明及び中部学院大学窪田暁子教授による講演があり、その後グループに分かれて身元引受人及び自立指導員によるグループ討議が行われました。
 今年度の研修会は、身元引受人と自立指導員との合同研修会としたため、グループ討議では、「身元引受人と自立指導員との連携について」というテーマのもとに、それぞれの役割分担や効果的な連携方法等について活発な意見交換が行われました。
 2日目は、前日の討議内容の発表及び厚生労働省への質疑応答が行われました。
 多くの参加者から、他県の実情が把握できて大変よかった、今後の業務を遂行していく上で大変参考になったとの感想が寄せられました。
 同研修会は、身元引受人や自立指導員の方々が日頃抱えている諸問題等の対処方法について意見交換を行い、今後帰国者とその家族の方々が日本社会へよりスムーズに定着自立できるよう指導していただく上で大変意義深い会議であることから、来年度も開催する予定です。

★援護基金から

平成16年度就学援助の募集について

 前号でお知らせした中国帰国者・サハリン帰国者への就学援助の募集を行っています。申請手続き及び申請締切は、平成16年1月31日です。問い合わせは 中国残留孤児援護基金(Tel 03-3501-1050, Fax 03-3501-1026)。

※募集の内容については、当センターホームページ<援護基金>コーナー 基金報 第53号、また<進学進路情報>コーナーでご覧いただけます。

援護基金設立20周年記念事業「日本での適応奮闘記」応募作品選考結果

 上記の「体験記」には49編の応募があり、審査選考の結果、最優秀作品は該当無しとし、3編の予定であった優秀作に6編を選び、これに一歩及ばない8編を佳作としました。また、紙一重で佳作に入らなかったものの高く評価された作品もありました。またの機会に頑張って欲しいと願っております。

優秀作は以下の6名の方々:(敬称略)岩井梅子/笠松恵子/賈長久/塚原愛袈/小林霞美/大橋春美
佳作は以下の8名の方々:(敬称略)長谷川小夜/笠松成玉/猿田吉利/窪田桂子/玉城晴信/森波恵/小林順次/宮下正興

※体験記のタイトル等詳しくお知りになりたい方は、同じく当センター・ホームページの基金報  第53号をご覧ください。

★文化庁から

文化庁日本語教育大会(関西大会:神戸大学)の開催報告

 文化庁は、11月2日(日)に神戸大学神大会館六甲ホール(兵庫県神戸市)で平成15年度文化庁日本語教育大会を開催しました(協力:神戸大学、兵庫県、財団法人兵庫県国際交流協会)。
 日本語教育大会は、日本語教育に関する理解の促進と推進を図るために、毎年、開催しているもので、今年度は、関西元気文化圏共催事業の一環として、8月に開催した東京大会(昭和女子大学)に続いて関西地域で開催しました。
 今回の大会は、「ボランティア活動としての日本語教育の在り方について考える」をテーマとして開かれ、日本語教育関係者を主として延べ300人を超える方々が参加し、関西地域における日本語ボランティア活動に対する関心の高さをうかがわせました。
 大会は、河合隼雄文化庁長官と野上智行神戸大学長の開会の挨拶に続いて、「日本語ボランティアの醍醐味って何?」をテーマに、奥田純子さん(ひょうご日本語ネット懇話会委員、神戸日本語教育協議会副会長)、ジェフ・バーグランドさん(帝塚山学院大学人間文化学部教授)、河合隼雄文化庁長官の3人による鼎談が行われました。日本語・日本文化の話題にとどまらず、異文化間コミュニケーションや適応、心の問題にまで及んだ3人の話や経験談(例えば、河合長官が米国留学時代に、日本語教育に携わったことがあることなど)で、会場は終始和やかで愉快な雰囲気に包まれました。この他、午前の部では、鼎談の内容を踏まえながら、松本茂さん(東海大学教授)による講演「未来を拓くコミニュケーション能力」が行われました。
 午後からは、兵庫県内・外の日本語教育関連機関のコーディネータ役を務めている実践者(担当者)が報告・協議者(パネリスト)、解説者として参加したパネル・ディスカッション「地域における日本語支援活動の充実とコーディネータの存在」、そして、日本語教育の現場で活用可能な実践事例を含むワークショップなどが行われました。参加した皆さんは自分自身が希望・選択したワークショップの講義内容や事例紹介に集中しながら、今後の展望について検討する協議等にも積極的に参加していました。

文化庁文化部国語課 野山 広(日本語教育調査官)

研修会情報

研修会報告

緊急シンポジウム「いま、中国帰国生徒特別枠入試を問う」※

中国帰国生徒特別枠入試シンポジウム開催実行委員会(昨年10月19日、拓殖大学にて)

※先号「研修会情報」コーナーにて紹介

 大学入試においてこの制度が設けられて10年余り、今この制度見直しの動きがあると伝えられる中、この制度の意義と成果をきちんと捉え直し、多文化共生社会における同制度の位置づけを明確にしていくという目的のもとに、このシンポジウムは開かれました。
 第1部は「当事者が語る来日から現在まで」と題され、大学進学を経験した帰国者二世、三世がそれぞれの来日から現在までの“自分史”を語ってくれました。彼らの中には、この特別枠入試により進学を果たした者も、この枠を利用することなく進学することができた者もいたのですが、ともに、高校そして大学という学習機会が日本社会での彼らの“自己実現”に果たした大きな役割について、そしてこの制度存続の必要性について熱く語ってくれたことが強く印象に残りました。第2部「中国帰国生徒特別枠入試の意義と課題」では、帰国生徒受け入れ高校からの報告、送り出す側の中学校日本語学級の現状報告、中国帰国者子女の特別選抜を実施している大学からの現状報告等がなされました。また、海外帰国子女特別選抜についても制度の歴史と問題点が併せて語られました。第3部では「中国帰国生徒特別枠入試制度の可能性と限界」というタイトルのもとに総括討論が行われました。
 資料として配付された「大学における特別枠入試調査・中間報告」(東京外国語大学 倉石一郎氏による)によれば、大学へのアンケート調査の結果、現在制度廃止が確認されているのは2校、また一方、2000年以降も新たにこの制度を導入している大学もあるとのこと。帰国者数のピークは確かに過ぎてはいるものの、呼び寄せ家族を含めた二世三世の大学進学は、現在も帰国者支援の重要なテーマの一つであることに変わりはありません。むしろ、一世が負ってきたハンディを二世三世の世代で再生産しないこと、そのために高校進学、大学進学が果たす役割が重要であることについての認識ははるかに高まっていると言ってよいでしょう。今回のシンポジウムは、こうした時代の流れの中で、この制度の意義を、学校教育の現場における支援者だけではなく、二世三世自身が語ってくれたことに大きな意味があったと思います。

『東京都23区の公立学校における外国籍児童・生徒の教育の実態調査報告』※ から自治体職員のみなさんに伝えたいこと

主催:多文化共生センター・東京21

 9月16日、3年間にわたって多文化共生センター・東京21で実施した調査結果を報告するとともに、外国籍児童・生徒の教育の現状と課題を多くの人々と共有するための研修会を開催しました。当日は、行政関係者8名、国際交流協会7名を含む合計47人の参加がありました。
 まず、当センターより、「就学」と「進学」という視点から調査の報告を行いました。就学に関しては、学齢期の外国籍児童・生徒の統計が不十分な実態を指摘し、統計整備の必要性を提言しました。一方進学については、やはり統計が不十分であること、定時制高校の統廃合などによってますます外国籍生徒の進路選択が限定されてしまうことを問題点として指摘しました。また、「高校進学ガイダンス」参加者へのアンケートから、中学課程での来日が増加しており、十分な日本語能力を習得することなく高校受験を迎えなければいけない子どもたちの状況を報告し、恒常的に日本語を教える機関の必要性を訴えました。
 続いて、早稲田大学大学院日本語教育研究科の川上郁雄教授より、同研究科が新宿区教育委員会との協定に基づいて行っている日本語ボランティア(大学院生)派遣についてご報告いただきました。また、「日本語指導の必要な」という基準が曖昧であるとして、新宿区と宮城県仙台市で実践している「JSLバンドスケール」※※という日本語能力を測定するための客観的な基準を紹介していただきました。
 後半のディスカッションでは、行政関係者や国際交流協会の方々より、各区における取組みについてご発言いただきました。行政関係者の参加が少なく、今後に向けた議論を深めるまでには至りませんでしたが、当センターの調査をたくさんの参加者より評価していただきました。
 当センターは、今後も調査活動を継続し、外国籍児童・生徒の教育実態を明らかにすると共に、行政、学校、地域とのネットワークを築くことによって、調査結果を現場へ活かしていきたいと思っております。

(NPO 多文化共生センター・東京21 調査プロジェクト 鈴木江理子)

※この報告書についてはNL28号で紹介
※※「JSLバンドスケール」については、所沢センター・ホームページ〈教材・論文等・参考文献〉コーナーの〈論文・レポート〉NO.026「年少者日本語教育における『日本語能力測定』に関する観点と方法」をご覧下さい。

研修会情報

異文化間教育学会第25回研究大会

日時:2004年5月29日〜30日 開催地:(京都市)同志社大学今出川校地 連絡先:同学会事務局 龍谷大学文学部小島研究室内 TEL(学会直通):090-8484-9909 FAX(小島研究室):075-343-3414

「田中宏先生を囲む学習会」

は、外国人の人権問題を中心に取り上げ、 各分野で活動するゲストの話を聞き、意見交換を行う学習会。教育・福祉の関係者、留学生・外国人支援を行う人、田中宏氏の教え子などが中心となり、1993年からほぼ月1回のペースで主に名神地区で行われている。

連絡先:(横尾方) TEL/FAX:052-762-5186 E-mail:tanakakakomu@hotmail.com

2月例会は「大学入試制度の改革の行方−外国人学校卒業生の入学資格−」 2月13日(金)午後7時から お話:田中宏さん(龍谷大学教授)  会場:名古屋働く人の家(名古屋市熱田区伝馬2-28-14) 資料代:500円

教材・教育資料

報告書『2002年度 日本語教育の必要な外国人児童生徒の教科学習支援学生ボランティア − 大学・教育委員会・学校との連携 − 活動報告書』

岡山大学教育学部

 この報告書は岡山大学教育学部の学生が中心となり岡山市内の小学校3校、中学校2校の外国人児童生徒に行った教科学習支援の成果をまとめたものである。平成12年から正式に立ち上がった同大学教育学部と県教育委員会との「連携協力事業」はその後も継続され、市教委、地域の留学生や外国人、受け入れ小・中学校との連携を強めながら現在に至っている。
 「岡山大学には日本語教育の教師養成講座はないが学校教員志望者として外国人児童生徒の問題に直に触れ、問題解決に向けて実践力をつけていく体験は、今後の教育現場を変えていく意識ある教員の養成に資することができるのではないかと実感している」という指導教官の光元先生の言葉に共感を覚える。

入手方法:A4サイズの冊子が入る返信用封筒に切手(1冊290円、2冊340円)を貼り、下記の住所に送付。(2001年度報告書の残部もあるので、必要な年度のメモを同封のこと) 〒700-8530 岡山市津島中3-1-1 岡山大学教育学部 光元聰江

日本語教育ブックレット1『多言語環境にある子どもの言語能力の評価』:国立国語研究所

 本紙22号で報告した同研究所の研修会の内容がブックレットになっています(2003年3月刊行)。
 子どもに対する評価をどう考えるか(東京学芸大学:佐藤郡衛)/バイリンガル児の言語能力評価の観点―会話能力テストOBC※開発を中心に(トロント大学、現 名古屋外国語大学:中島和子)/学習言語能力をどう測るか―TOAM※※の開発:言語習得と保持の観点から(筑波大学:岡崎敏雄)の3つの報告がおさめられています。教育において「評価」は極めて重要な問題であり、非常に危険なものにもなり得るものです。「測ろうとしている言語能力とはいったい何か」「能力を評価するということはどういうことか」など重要な問題を考えていく参考となる一冊です。

※OBC:Oral Proficiency Assessment for Bilingual Children
※※TOAM:Test of Language Acquisition and Maintenance

1部500円  連絡先:同研究所 日本語教育研修事務室  電話:03-5993-7667/FAX 03-3900-6559

報告書:『母語による学習支援モデル事業』横浜市国際交流協会(YOKE)発行

 横浜市は市立小中学校に2,000人を越える外国籍の児童生徒の在籍地域である。YOKEは、これらの子どもたちの支援のために、ボランティア教室やネットワーキングの情報を提供したり、支援者たちを対象とするセミナーを開催したりするなど、様々な角度からの支援活動に取り組んできた。平成14年度は、横浜市立港中学校と連携し、「母語による学習支援モデル事業」を試行的に実施し、このほど、この報告書をまとめ、HP上にもその内容を掲載している。※
 外国籍の子どもたちは、それぞれの学校で日本語の習得はもちろんのこと、教科学習も慣れない日本語で勉強して様々な困難に直面している。この「母語による学習支援モデル事業」は、(1)「外国人児童・生徒が学校で、日本語による指導と並行して『母語を生かした教科学習支援』を受けることで、主体的に学習内容を理解し、学校生活を活き活きと送ることができるようにする」、(2)「母語を使っての学習で子どもに自信をつけさせ、アイデンティティの保持・形成に役立てる」の二つを事業の目的に掲げ、学校で子どもの母語ができるボランティアが先生とペアになって子どもの学習を支援する試みである(14年度は中国語のみ。ボランティア派遣期間は2002年12月〜2003年3月。15年度はスペイン語も実施)。
 支援の対象となった生徒は横浜市立港中学校・国際教室に在席する中国語を母語とする生徒約20名。同校は市内最多の中国人生徒51人在籍校(全校生徒の約15%)である。派遣した教科は数学、英語、国語、日本語、技術家庭等。
 12人の派遣ボランティア(32人の応募者の中から当協会が選考。内訳は中国語を母語とするボランティア6人、日本語が母語で中国語がわかるボランティア6人)は、先生の指導する教科内容を子どもの母語(中国語)で通訳する等、学習を支援した(1回の派遣につき100分〔2コマ〕計105回)。
 このような母語による学習支援の取り組みは、全国各地に増加する日本語を母語としない子どもたちのための支援の一つのモデルになると考えられる。

※http://www.yoke.city.yokohama.jp/ の「母語による学習支援モデル事業」を参照。

とん・とん インフォメーション

『東京宣言』解説付改訂版(日本語フォーラム実行委員会編)

 2001年5月に開催された「日本語フォーラム2001」で、「多文化・多言語社会の実現とそのための教育に対する公的保障を目指す東京宣言」(以下「東京宣言」)が採択されました。この「東京宣言」は、21世紀の日本社会における多文化・多民族共生の教育を行う基本的立場を提案するものです。

 「東京宣言」は下記のサイトから総ルビつき日本語版、ローマ字、英語、中国語、韓国語版がpdfファイルでダウンロード出来る他、1冊100円の小冊子の形で入手可能ですが、現状では「宣言」だけでは“絵に描いた餅”に過ぎず、その趣旨をどのようにして実現していくかが問われています。そのためにA4判164頁の解説書が出版されました。解説書の内容は、第1部 4カ国語による「東京宣言」および行動計画、第2部 その解説、第3部 資料集から成っており、第2部では「宣言」および行動計画のキーワードが、各地で活躍する日本語ボランティアや日本語教育関係者により分かり易く解説されています。第3部では法令や先進的な自治体の例等が挙げられています。

解説書入手方法:団体でなくても希望者に頒布致します。下記宛に現金または郵券1000円分を送って下さい。

問い合わせ・申し込みは 〒124-0022 東京都葛飾区奥戸3−17−16 日本語フォーラム全国ネット 事務局
Fax:03-3691-4603 Mail:jimukyoku@nihongo.forum.ne.jp 横山文夫 宛

厚生労働省:中国帰国者生活実態調査結果の概要(平成14年1月1日調査)

@ 帰国者世帯の概要
 帰国者本人の平均年齢は、孤児が60.3歳、婦人等が68.5歳、全体で64.9歳となっており、前回(平成11年12月1日調査。以下同じ。)と比べて全体で約2歳高くなってます。
 年齢別にみると孤児は60歳代が最も多く、次いで50歳代となっています。  婦人等は60歳代が最も多く、次いで70歳代となっています。
 また、帰国者世帯の1世帯当たりの人数は、孤児世帯が2.4人、婦人等世帯が2.6人、全体で2.5人となっており、前回(孤児2.7人、婦人等3.0人)に比べていずれもやや減少しています。

A 帰国者及び配偶者の健康状態
 過去1年間(平成13年1月1日から12月31日)の帰国者本人及び配偶者の入院の有無について聞きました。
 どちらか一方又は両方が入院したことがある世帯は27.1%で、そのうちの45.2%が入院期間が30日以上としています。
 また、本人又は配偶者が介護保険制度による認定を受けてると答えた世帯は10.8%あり、その認定の程度は、「要支援」が最も多く、「要介護1」、「要介護2」の順となっています。

B 地域生活の状況
 帰国者本人の近所とのつきあい状況を聞いた(複数回答)ところ、「招待し合うような親しい人がいる」が24.7%、「立ち話をする人がいる」が27.9%となっていましたが、「つきあいがない」も13.9%ありました。
 また、帰国者本人が参加したことがある地域活動(複数回答)では、「町内会・自治会の地域清掃」が76.9%、「地域の祭り」が30.6%、「防災訓練」が15.5%などとなってましたが、「何も参加したことがない」帰国者も15.9%ありました。

C 日本に在住している家族の概要
 帰国者1人当たりの日本在住の家族数は、本人を含めて孤児が9.9人、婦人等が12.0人、全体の平均では11.1人となっています。
 帰国者の子の数でみると、孤児では「2人」が最も多く、次いで「3人」、「1人」の順となっている。婦人等は「1人」が最も多く、次いで「2人」、「3人」の順となってます。
 孤児1人当たりでは2.7人、婦人等1人当たりでは2.9人、全体では2.8人の子が日本に在住してます。
 子の平均年齢は、孤児の子が33.7歳、婦人等の子が38.8歳、全体の平均では36.6歳となってます。
 また、子の帰国形態をみると、「国費による同伴帰国」が25.6%、「自費による同伴帰国」が6.6%、「呼び寄せ」が62.6%となってます。

(参考)
平成6年度:65歳以上の帰国者本人を扶養するため同伴帰国する成年の子1世帯を帰国援護の対象としました。
平成7年度:帰国者本人の年齢要件を60歳以上に引き下げました。 平成9年度:帰国者本人の年齢要件を55歳以上に引き下げました。
※ 帰国者及びその配偶者の扶養家族となっている未成年の子は、帰国援護の対象となっています。

D 国費により同伴帰国した成年の子世帯との状況
 帰国者を扶養するために同伴帰国した成年の子世帯と同居しているのは、孤児が25.8%、婦人等が40.8%、全体では34.9%となっており、別居までの期間では「1〜2年未満」が最も多くなっています。

E 帰国者世帯と子世帯との生活支援の状況
 子世帯からの「生活費の援助がある」と答えた帰国者は10.9%で、その援助の程度は「こづかい程度」が最も多く、次いで「生活費の一部」、「生活費の大部分」の順となっています。

F 子及び配偶者の状況
 子世帯の就労状況についてみると、子または配偶者のどちらか一方が就労している世帯は36.3%、両方とも就労している世帯は47.8%、両方とも就労していない世帯は10.2%となっています。
 また、子及び配偶者の日本語の習得状況をみると、買い物や交通機関の利用に不自由しない程度以上の日本語を習得している者は70.2%で、未習得(片言のあいさつ程度及び全くできない)は26.7%となっており、前回の帰国者本人の未習得率(孤児32.7%、婦人等32.3%)に比べ低くなっています。

ホームページ紹介:大阪府教育委員会「帰国・渡日児童生徒学校生活サポート情報」

http://www.pref.osaka.jp/kyoishinko/jidoseito/shugaku/

 当ホームページでは中国語、韓国・朝鮮語、ポルトガル語、ベトナム語表記による学校制度のしくみや様々な手続き、地域での教育相談、日本語学習などの情報を自由に閲覧、印刷することができる。
 〈日本の学校制度〉では、幼稚園、小・中・高それぞれの登校/始業時間・給食・清掃・部活動・服装など日本の学校生活の概要がつかめるほか、学級のことや学習内容、学習道具、定期テスト、通知表、卒業後の進路や奨学金についても紹介されている。
 〈教師向け〉のコンテンツの「多言語でお知らせを渡したい」には、学校・学年行事の諸連絡(学校から家庭へのプリントの類)の対訳が載せられており、家庭訪問や授業参観、懇談会のお知らせや保健・安全・衛生関係の諸連絡等についても網羅され大変便利である。また、「先生のための知恵袋」では相談窓口としての様々な機関について、「もうすぐ進路決定」では、中学校卒業後の進路・進学について詳しく書かれている。
 〈保護者向け〉のコンテンツの中の「学校に通うには」では、日本の学校への編入学について、学校教育制度(大阪)や小・中学校への就学(手続きの流れ)を細かく紹介。子どもを学校に通わせるための一連の手続きがわかる。
 他にも通訳派遣制度、外国人学校リスト、地域の日本語教室の情報等支援に役立つ情報があふれている。

サハリン帰国者のための新コース〈漢字学習(露)〉開設

 中国帰国者支援・交流センターでは、2003年10月よりサハリン等旧ソ連圏からの帰国者の遠隔学習課程を開設しています。コースは2つ(就職対応コース/近隣交際会話コ ース)でしたが、新たに2004年2月より学習要望の高い〈漢字学習(露)コース〉も開設されます。教材は、小学校低学 年で学習する漢字約200字を生活の場面によって分類し、初歩から勉強できるように構成されています。主な内容は、
 ⇒漢字とその読み・主な熟語とそのロシア語訳
 ⇒短文形式による練習問題(ロシア語訳付き)
 ⇒チェック用テスト(ロシア語訳付き)

 漢字の筆順も載せてあるので、漢字学習に自信が生まれてくると思います。
 応募方法の詳細については、中国帰国者支援・交流センター(Tel 03-5307-3173)へ。

創刊、ニュースレター『日本語教室with kids』
乳幼児を連れた学習者etc.に開かれた日本語教室を考える会

 本紙25号でとりあげたシンポジウム〈子ども連れで参加できる日本語教室を考える〉をきっかけにメールによる上記ニュースレターの配信が昨年11月に始まりました。
 このニュースレターでは就学前の幼い子ども連れでも参加できる日本語教室の運営に取り組んでいるさまざまなグループの活動を事例として取り上げ、メンバーが互いに情報を交換し蓄積することを目指しています。子ども連れでも参加できる日本語教室を始めたい、しかしどう始めたらいいのか、始めてはみたものの次々に問題が起こるなどという声が多く聞かれます。そうした中、このニュースレターを通してよりよい解決を図っていくことが期待されています。

 配信希望者は同会事務局の田所希衣子さん(jets@sda.att.ne.jp)までメール送付のこと。なお、第2号は2月配信予定。

中国帰国者支援・交流センターから

情報誌『天天好日』紹介

 支援・交流センターでは中国からの帰国者向けの情報誌『天天好日』を発行しています。現在、同センターで把握している約4600世帯に、年8回無料で送付しています。
 内容は、同センターで実施している事業の紹介や中国帰国者の生活に役立つ便利情報、健康相談、日本の文化・風習等の紹介を日中対訳の形式で載せています(日本語部分は、漢字にふりがなが付き)。また、中国帰国者関連ニュースの要約を中文で掲載しています。
 まだ『天天好日』が届けられていない帰国者世帯で、同誌を希望する方は、下記にご連絡ください。

支援者の皆さまへ ★お願い★

 支援・交流センターでは、帰国者の皆さん、特に2・3世の皆さんに、当センターの遠隔学習課程(通信教育)コースのご案内をお送りしたいと思っております。
 ご案内をまだ受け取っていらっしゃらない帰国者をご存知でしたら、ぜひ支援・交流センターに連絡を下さるようにお伝え下さい。

住所:〒110-0015 東京都台東区東上野1-2-13 カーニープレイス新御徒町6階
●『天天好日』希望:
 電話 03-5807-3171 E-mail info@sien-center.or.jp
●遠隔学習課程コース案内希望:
 電話 03-5807-3173・3171 E-mail kyohmu@sien-center.or.jp
FAXはともに 03-5807-3174
http://www.sien-center.or.jp/
『天天好日』・遠隔学習課程コース案内は上記ホームページでも閲覧することができます。

お話ししませんか−「友愛電話」「友愛訪問」

 前号「援護基金から」のコーナーでお知らせした同事業が、中国帰国者支援・交流センター(首都圏センター)で平成15年10月からスタートしました。ことばができないという理由などで家に閉じこもりがちの高齢帰国者等の話し相手をします。定期的に中国語による電話をする「友愛電話」と必要に応じて協力員を帰国者宅に派遣する「友愛訪問」があり、対象は帰国後3年を経過した一人暮らしか夫婦二人暮らし の概ね60才以上の方等です。 この事業について詳しくお知りになりたい支援者は、上記 支援・交流センター「友愛事業」係 電話03-5807-3171・3173 までお問い合わせください。

ホームページ紹介:「多言語生活情報」

制作:地域国際化協会連絡協議会 (財)自治体国際化協会

「一般」「医療」「住宅」「相談窓口」等生活情報を9〜13言語で提供。
言語別の全国外国語対応相談窓口リストも掲載。
PDF版以外にHTML版も充実。
記載言語:日本語、英語、中国語、韓国・朝鮮語、ポルトガル語、スペイン語、ドイツ語(一部)、ベトナム語、インドネシア語、タガログ語、タイ語、フランス語(一部)、ロシア語(一部)
URL:http://www.clair.or.jp/tagengo/

ニュース記事から 2003.9.11〜2004.1.9

09/19 残留孤児の国籍認める 福井の男性に〈東京地裁〉
09/20 残留孤児調査 来年2月に=SARSで3カ月遅れ−再流行なら中止も
09/24 残留孤児612人が追加提訴、国家賠償訴訟〈東京・京都・広島・名古屋 地裁〉
 昨年12月以降の提訴分(東京・鹿児島地裁)も含めると、原告数は計1262。約2400人とされる残留孤児の半数以上が訴訟に加わったことになる。
10/21 戦前に中国移住、出生地不明の76歳に戸籍認める
10/29 徳島でも残留孤児が提訴 徳島県内に住む4人
10/29 在留資格取り消しの「残留孤児」の孫が仮放免
10/30 高知県内の45人の残留孤児、賠償求め提訴〈高知地裁〉
11/10 中国帰国者に「企業研修」 日本の習慣 現場で学ぼう
 厚生労働省は2004年度から、帰国後研修に企業での「職場体験学習」プログラムを新たに盛り込む方針。04年度は全国12カ所の「自立研修センター」のうち、3カ所程度でモデル事業を実施し、05年度から対象のセンターを順次拡大する。
11/19 中国残留孤児・婦人、帰国後の自立困難…生活実態調査〈厚生労働省〉※本紙10・11頁で紹介
11/26 残留孤児10人の名簿発表=2月24日に来日
11/27 残留孤児80人、国に26億円の賠償提訴 北海道〈札幌地裁〉
12/02 残留孤児逮捕は人権侵害 広島の弁護団が抗議声明
12/11 「日本人」になりたい 残留孤児が口頭弁論で訴え〈京都地裁〉
12/17 残留孤児問題で議員連盟設立の方針=田中前外相
12/18 「老後を保障して」と訴え 残留孤児訴訟、国争う構え〈名古屋地裁〉
12/25 残留孤児111人が国に損害賠償求め提訴〈大阪地裁〉原告は計1502人に

事例紹介

「やりたいことを大切にして」 ― チャレンジし続けるTさん ―

 中国で看護婦をしていたTさんは、八年前ニ十歳の時に帰国した。一年間日本語を学んだあと、職業安定所の紹介で診療所に就職、看護師助手として働くかたわら、二年間准看護学校に通い、准看護師の免許を取得。その後定時制高校に入学、現在も看護師の仕事を続けながら、高校に通っている。忙しい生活の中で、どうやっていろいろなことにチャレンジしてきたのか、Tさんに話を聞いてみた。

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○看護師を続けようと思ったのは?
 日本に来たばかりの頃、父が自転車で転倒し一緒に病院に行ったとき、看護婦さんの親切な対応に感激したことが、決意した理由。言葉がわからなくて困っている中国の患者さんを助けたいと思った。最初は言葉の壁があったので、看護婦の仕事を続けるのは諦めていたが、やる前に諦めずに挑戦してみようと思った。

○仕事をしながら、どうやって受験勉強をしたの?
 助手の仕事自体はそれほど難しくなかったが、日本語は患者さんとの話より同僚とのコミュニケーションの方が難しかった。一年目は朝八時から夕方五時半ぐらいまで働いて、夜は看護学校受験に必要な日本語能力試験一級を目指して神田の日本語学校(月七万の学費は自分で負担。十時ごろ帰宅する日々だった)へ通った。土曜日もボランティアの日本語教室で勉強した。試験(国語・数学)対策は、過去の問題を入手して準備。数学はよかったが国語はとても難しかった。

○仕事と看護学校の両立は大変だったでしょう?
 合格してからは午前中働いて、午後一時から四時半ぐらいまで学校で勉強し、その後また七時ぐらいまで働く生活。夜帰ってから学校のレポートやテストの勉強をした。毎週日曜日図書館に行ったり、わからないところを病院の人に聞いたり、ボランティアの日本語教室に行ったりしてがんばった。特に実習などのレポートは思ったことが書けなくて大変だったが、日本語教室の先生方が夜遅くまで手伝ってくれた。この教室は日本語学習の面のみならず、私にとってとても大切な存在になった。ここで人間に対する思いやりや優しさを学んだ。

○学費もすべて自分で?
 准看護学校の学費は、卒業後二年間同じ診療所で働くことを条件に診療所が負担してくれた。准看護師免許は、卒業後すぐに受験して、一回で合格した。

○准看護師の仕事は、どう?
 准看護師の免許をとったとはいえ、かえってその分責任も重くなり、看護師としての重圧に負けそうになることもしばしばあった。働き始めてすぐは、カタカナの薬の名前などが難しく、メモして後で調べた。忙しい中で、医師から受ける早口の指示や電話などには聞き返さなければならないことも多かった。また医療現場での経験が短いため、間違ってきつく注意されたこともあった。看護学校を卒業したばかりの頃は、いつか必ず一人前に仕事ができる日がやってくると信じ、「自分のために注意してくれていることなんだ」と前向きに捉えるようにしてがんばった。

○定時制高校で勉強しようと思ったのはどうして?
 患者さんとより深いコミュニケーションをとりたいと思ったから。高校では、会話力を伸ばしつつ、患者さんとのコミュニケーションの基礎となる知識や文化を学ぶことができる。また将来機会があったら進学したいと考えている正看護師学校の試験準備(英語)ができるという理由もある。
 また、准看護学校のクラスメートに五十代の人がいたことも影響している。その時日本ではいくつになっても勉強ができるんだと思った。中国にいたら無理だったかもしれないが、自分の人間性を成長させていきたいという意味で勉強を続けていきたいと思っている。
 既に二十歳を過ぎていたので、定時制高校には成人入試(試験ではなくレポート提出)で入学。定時制は学生が少ないこともあって、先生や友達とのコミュニケーションがとても密で、勉強以外にもパソコンやハイキング部の活動なども楽しんでいる。

○後輩へのアドバイス
 がんばっていれば、それを見ていて助けてくれる人が必ずいる。看護学校も自分一人の力で卒業できたわけじゃない。周囲のたくさんの人に助けてもらった。困った時は、自分一人で解決しようとせずに積極的に人に相談して、力になってくれる人を自分から見つけるように心がければよいと思う。挫折もあるだろうが前向きに考えて、やりたいことを大切にして少しずつでもがんばってほしい。私の場合は苦しい時も患者さんの笑顔が励みになった。勉強と考えるより、興味をもって取り組むことが大切だと思う。

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 Tさんの向学心と努力には本当に尊敬の念を覚えずにはいられない。でも「がんばれば、このようなことができるんだ」と非常に励まされる一方でまた、私などは「そういうことができるのは特別な人で自分にはとても無理だ」と思ってしまいがちだ。そういう人に対して、Tさんは言う。「日本語の勉強でも仕事でも、今日勉強して、もう明日には大丈夫というものはない。長い目で見て、一歩一歩がんばって。」
 仕事をしながら勉強を続けようとするとき、時間のやりくりや学習機会の有無など物理的なことを考えがちだが、Tさんの話を聞いて人との出会いの大切さを感じた。でもそれはTさんが運が良かったということではない。Tさんのがんばりが周りの支援を呼び込み、その支援に応えてさらにがんばれたという良い循環があったからだろうと思う。また患者さんとの日々のコミュニケーションも励みになったという。こうした人間関係が、目標に向かっていこうとする気持ちを支える大きな柱となるものではないかと感じた。

(所沢 長原)