地域情報ア・ラ・カルト 東京都自立研修センター 〜先が見えない帰国者の就業事情〜 進路ガイダンスの意義と課題 行政・施策 援護基金から 中国残留邦人の要介護支援モデル事業について 研修会情報 研修会報告 連続講座:移住者のリアリティ境界から考える 「中国出身生徒たちの高校進学と大学進学」報告 第1回多文化共生フォーラム 「つなぐ」シンポジウム−第2回− 第2回継承語教師養成ワークショップ 「継承語の力をどう測るか−試案のいろいろ」 教材・教育資料 『中国帰国者三世四世の学校エスノグラフィー ―母語教育から継承語教育へ』 『みんなの日本語 中級T』翻訳・文法解説 中国語版 |
文化庁『日本語学習・生活ハンドブック』 新「ことば」シリーズ22『辞書を知る』 多言語・学校プロジェクト 岩倉市日本語適応指導教室のホームページ とん・とんインフォメーション 新型インフルエンザ情報・地上デジタル 放送支援についての記事が見られます ご存知ですか?「中学校卒業程度認定試験」 ニュース記事から 2009.08.23〜2009.12.25 遠隔学習インフォメーション 「生きているうちに頑張ってみる」 −「高齢受講者へのアンケート」結果より− 「遠隔学習課程」の受講コースの制限について 事例紹介 「日本語の高い壁を乗り越えたい」 |
一昨年来の世界不況の影響が深刻な社会問題となる中、帰国者の近況について本紙45号でも紹介してきたが、今回はまだまだ好転しない就労状況の実態について東京都中国帰国者自立研修センター(以下、自立研修センター)へ取材に伺った。
自立研修センターにおける一昨年の相談内容は、医療・健康に関わるものが多く、次いで日本語学習に関わるもの、職業訓練や資格の習得を含めた就労関係のものが続いている。近年までの相談内容では、就労関係の相談が上位を占めていたが、一昨年の年末以降、就労に関わる相談は減少傾向にある。これは、経済状況が悪化する中で自立研修センターでの就職に関わる情報提供が難しくなっており、相談自体が減少しているためではないかと相談員は話す。
「2004年に『労働者派遣法』が改正され、派遣可能な業種枠が製造業にも拡がったため、派遣会社に仕事が回り、帰国者への求人が減ったことはあったが、今のように『業種を問わず全然無い』ことはなかった。」と相談員が嘆く。自立研修センターでは、相談業務の中で過去に帰国者の就労実績のある会社の情報提供もしているが、「もう半年以上ずっと仕事がみつからない。」「仕事はあるが残業減、または時短で収入が激減。日々の暮らしもおぼつかない。」といった悲痛な声にも正直今はなす術がない状態と相談員は言う。また、就労している帰国者でも「早朝から午後まで連続勤務で、休憩時間はわずか。」「昼間の仕事を終え、夜間はレストランで皿洗いの仕事をしている。」といった事例など、生活を守るために仕事を掛け持ちし、土日祭日とは無縁の生活を続けているという厳しい就労実態を象徴する話もセンターには寄せられている。
帰国者の就職に関しては、頼みのハローワークに足を運んでも、ほとんどが仕事の紹介までには至らず、「仕事を得るためには、もう少し日本語を勉強した方がいい」と助言され、仕事ではなく逆に自立研修センターの日本語教室を紹介されてしまうことも少なくないという。ハローワークの新宿外国人雇用支援・指導センターが帰国者も含む外国人の専用相談窓口であるが、住まいが新宿から遠い帰国者にとっては不便な状況にあり、ある帰国者は「職探しで今頼れるのは、友人・知人だ。」と相談員に語っている。
そのような厳しい状況において、現在「派遣会社」の存在は切っても切り離せない関係にあるが、一言で「派遣会社」といっても様々であるという。
また、就職に有利とされる技術等を学ぶための職業能力開発センターの入学については、昨今の経済状況を反映して、多くの失業者が申し込みをしており、年齢の高い受験希望者については受講可能な科目も少ないため、より厳しさが増すと予想される。
こうした状況を反映して、自立研修センターの日本語教室夜間コースには、昨年9月の募集には定員を超える応募があり受入れ可能な20人を受け入れたという。また、他の民間の日本語教室でも定員をはるかに超える学習者を受け入れているという話も聞く。そういう中で、「年齢が上がると今のような体力系の仕事ばかりではきつくなるので、日本語の力のステップアップを図りたい」という学習者の声は切実である。
更には、親が仕事を失ったことにより保育所に子どもを預けるために必要な就労証明が出せないといった幼い世代をも巻き込んだ新たな問題も顕在化し始めている。
帰国者の世帯を取り巻く状況は決して楽観できるものではないが、自立研修センターとして、日本での生活の要となる日本語学習の支援をはじめとした、様々な相談を通して区市町村と連携しながら日本での生活の安定が図られるように取り組んでいきたいという。
(所沢:小松)
今年度も各地で、日本語を母語としない生徒を対象とした高校進学ガイダンスが開催されました。これまではNPOやボランティアグループが中心となって実施されてきたガイダンスも、近年、NPOやボランティアグループと教育委員会との共催、あるいは教育委員会主催でガイダンスを実施しているところが増えてきているようです。「子どもメール」※1にも、ガイダンスの意義を再確認できるような報告が寄せられています。
フィリピンから来た中学2年生。高校へ行きたいと言うものの、勉強態度は受身で成果も芳しくない状態だったが、説明会に母親と参加し、高校進学について母語でいろいろ知りたいことが分かり、自分が進学できそうな高校の具体的なアドバイスをもらえたと喜んでいた。目標が具体化したことで、以前より教科の勉強にも前向きになり、自分の日本語にも自信が持てた様子。自分達のために母語で高校進学について説明してもらえる機会があることは、生徒にも保護者にも自分たちの存在を認めてもらえることを意味し、大きな安心感を与えてくれたのではないか。
中学2年生の時点で参加させたところ、学校によっては2年生の終わりから始まる、『地域の高校調べ』といった進学へ向けての活動にもスムーズに入ることができ、夏休みには、自分の成績から判断して受験する可能性がある高校の説明会にも、他の日本人生徒と同様に主体的に参加していた。一方、ガイダンスに参加していなかった昨年の3年生は、受験へ向けての準備が、本人にもあまり理解されていなかったために直前でバタバタし、傍で見ていても危なっかしい綱渡りのような受験になった。その地域での進学についての情報を持たない外国につながる生徒や保護者には、ガイダンスへの参加が進学への準備として重要だ、ということさえもわかり難い場合が多いのではないか。
一方、子どもや保護者が実際に参加に至るまでの広報や勧誘に苦労している、という声も少なくありません。ガイダンスの案内は学校経由で配布されることが一般的です。もちろん、外国につながる生徒の指導に積極的な先生にその情報が届けば、その先生が直接生徒に働きかけることで、生徒がその意義を理解し、ガイダンスに足を運ぶことにつながります。しかし、毎日の忙しい学校業務の中ではなかなか手が回らず、その案内が何かに紛れてしまったり、あるいは、たとえ担任が働きかけても生徒自身がその重要性に気づかず、参加に至らずに終わることが多く、結局は、日本語指導者を含む身近な地域の支援者が生徒一人ひとりに声をかけて誘うのが一番効果的な方法になっているようです。これは、外国につながる生徒が進学ガイダンスの意義を理解するには、身近な誰かの支えや信頼関係が必要であるということの現われなのかもしれません。
他方で、外国人コミュニティの口コミを利用する、あるいは、地域発行の情報誌や多言語FMラジオを活用してみようという案や、さらには、多言語によるメール配信や、インターネットのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)など、新たな媒体を使って情報を発信する試みを実際に始めているという興味深い報告もありました(※2)。進学情報に限らず、定住外国人や帰国者に向けて、生活上必要な情報をいかに確実に届けるかについては、今後もさらに検討を重ね、様々な地域で試行し、その結果を地域を越えて共有していく必要がありそうです。
(所沢:齋藤)
※1.「子どもメール」:所沢センターが運営している子ども支援者間のメーリングリスト。詳細は、所沢センターのホームページ(http://www.kikokusha-center.or.jp/)→コンテンツガイド「メーリングリストご案内」参照。
※2.(財)かながわ国際交流財団では、現在、月に3〜4回ほど多言語によるメール配信サービス(INFO KANAGAWA(インフォかながわ)を通じて、「高校進学ガイダンス」など教育分野の他、「新型インフルエンザ」「無料相談会」「定額給付金」などの情報提供を行っている。
http://www.k-i-a.or.jp/kokusai/tabunka/info-kanagawa/index.html
文字変換・表示の技術的な問題があり、現在、財団が提供しているのは日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語のみ。中国語については「東方インターナショナル」に依頼し、中国語ニュースと共に情報配信を行っている。http://www.bbtok.com/
財団法人中国残留孤児援護基金(以下「援護基金」といいます。)は、平成20年度に引き続き厚生労働省からの委託を受けて、
@老人福祉施設等における中国残留邦人のニーズにあった介護サービスとはどのようなものか
A中国残留邦人に対してどのような支援をすれば安心して老後の生活を送ることができるのか
等について調査研究を進めています。
平成21年度は、平成21年9月11日から事業を開始しました。
【事業目的】
中国から永住帰国した残留邦人(以下「帰国者」といいます。)のうち、残留孤児と通称される者であって年長の者は既に70歳台後半に至り、残留婦人と通称される者のほとんどは80歳以上になりました。帰国者の高齢化問題は、待ったなしの状態に置かれています。援護基金は、平成18年度から、帰国者が多く通所している介護事業施設に対して支援を行ってきました。今後さらに高齢化が進んでいく帰国者の要介護問題につきましては、特に重要な問題であると考えております。
援護基金は、平成20年度、厚生労働省の「中国残留邦人の要介護支援モデル事業(以下「モデル事業」といいます。)を受託し、入所者の調査、同支援モデル事業及び通所者の調査に取組み、同省に対して報告書を提出しました。
報告書では、平成20年度モデル事業の成果について総括するとともに、中国における生活習慣の下で生育され、中国語を母語とし、日本語の能力を取得するに至らなかった帰国者が、高齢化して、介護の対象者となったとき、日本語によって介護することは著しく困難であることを報告し、当面する課題として、老人福祉施設等を利用している帰国者に対する中国語話者による支援、同施設等に対するアンケートの実施などを提案しました。
現状、援護基金としては、長期にわたって中国に残留することを余儀なくされ、言語と文化の異なるわが国において要介護状態に至った帰国者の高齢化問題は、高齢者一般の問題とは別に捉える必要があるものと考えます。
本事業は、これら高齢化した帰国者に対し、支援員を派遣することによる効果を実証するだけでなく、派遣方法の違い等を試行し、 また、研究会において検討、分析し、より効果的な支援方法を模索することを目的とします。
援護基金としましては、平成21年度における最重要課題の一つとしてモデル事業を位置づけ、全力でこれにあたっております。
2009年11月28日、東京の「在日本韓国YMCA」にて、鍛冶致さんによる標題の講演が「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」の主催で行われました。
長年、中国帰国者の児童生徒の支援に携わり、その現状に詳しい鍛冶さんは社会学的な観点から移住者の子どもたちの進学について次のように話しています。
まず、アメリカにおける移民青少年研究の近年の知見が紹介されました。それによれば、「アメリカ文化に安易に染まらないことがアメリカ社会での成功をもたらす」というのです。その理由として、自民族の文化を受け入れて家族と太い絆でつながっている子どもは、その人間関係を教育的な資源として活用しつつ、学業をしっかり修めて知識や技能を習得することが可能になるため、高収入の職業に就いて成功する率が高い。一方、自民族の文化に否定的な子どもの場合は、親をはじめとする親族や近隣の同胞集団と良好な人間関係を築くことができず、その結果、教育的な支援や管理を十分に受けずに育つことになりやすい、ということでした。
大阪のある中学校で中国残留婦人の孫を中心とする中国出身生徒の進路を調査したところ、小学校4年から6年で来日した生徒の高校・大学進学率が最も高かったそうです。日本に来る時期がそれより早くても遅くても、進学率や卒業に至る率は低くなるとのこと。
上記のアメリカでの研究結果を裏付けるように、たとえ日本語が上手でも中国語が下手で中国人としての自覚が薄い子どもは、親族や同胞たちと疎遠になる分、そこから受けられたはずの教育的な支援や管理が受けられなくなりがちです。実際、低所得者向けの大規模な公営住宅という環境の中で、“親の言うことを聞かずに育った”中国籍児童の中には、日本の“不良少年”の文化に適応してしまう者も少なくないそうです。
経済的にも文化的にも決して豊かな環境にあるとは言えない中国残留婦人の二、三世にとっては、地縁や血縁で集住することによって形成される濃厚な人間関係こそが唯一の財産なのではないかと鍛治さんは述べています。
(参考文献:鍛治致(2009)「統計で見る外国人児童の家庭環境と教育課題」、『日本語学−多言語社会・ニッポン−』第28巻第6号、5月臨時増刊号、明治書院)
(所沢:小祝)
研修会情報
教員養成大学における多文化共生の教育への取り組みの現状と課題−外国につながる子どもの教育を中心に−
日 時:2010年1月30日(土)
主 催:東京学芸大学 国際教育センター
多文化社会における学び・自立・参加
つなぐ人とその役割−教室・家庭・地域から−
日時:2010年2月13日(土)
内容:多文化社会におけるコーディネーターの実践とその役割
主催:東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター
東京学芸大学 国際教育センター
詳しくは東京学芸大学国際教育センターのホームページをご覧ください。http://crie.u-gakugei.ac.jp
「継承語の力をどう測るか−試案のいろいろ」
母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会
中島和子(トロント大学名誉教授・桜美林大学言語教育研究所客員研究員)他
日時:3月26日(金)/3月27日(土)
会場:桜美林大学淵野辺キャンパス201号室
参加費:無料 (資料代1000円)
詳しくはホームページをご覧ください。
http://www.mhb.jp/
高橋朋子著 2009年 生活書院、A5判 340頁 3500円
本書は、中国帰国者(以下、「帰国者」)の集住地域において三世四世の通う学校での参与観察を続けてきた著者が博士論文を元に著したものです。日本生まれなのに学校の勉強についていけない、日本語でも中国語でも自己を表現する言葉をもち得ていないという、帰国者三世四世の子供たちのdouble limited状況とその分析からなる前半と、学習言語習得に関わる理論の後半とから構成されています。
前半では、教員たちの教育実践、その迷いと悩みの過程と、それぞれの子供たちがもがきながら自分なりの選択を果たしていく過程が描かれており、心打たれます。この辺りは研究論文として以上にドキュメンタリーとして一読を薦めたい部分です。
後半では、こうした現実に根ざした視点から「生活言語」と「学習言語」という二分法に疑問を投げかけます。この仕分け自体は今も無効ではないのでしょうが、生活言語すら両言語で身についていない子供たちに対して学習言語習得を支援することにどれだけの意味があるのか、彼らに「生きる力」をつけてもらうためには何をどうすればいいのかと著者は考え、この二分法以前に、「考える/つながる/伝えるための言葉」という、根源的な「ことば」の獲得に向けて教育支援の目標をシフトさせる必要性を訴えます。そのためには、「ことば」が機能すべき最初の場である「家庭」が、自分がケアされていると感じられる場でなくてはならないのに、現状では、これすらも実現されていないという指摘は重要です。
日本のこのような現状の背景として中国の状況があります。農村部では、急速な経済発展の陰でここ数年、出稼ぎに行ったきりの親から託されたまま、祖父母や親戚の下で育つ子供たちの低学力や逸脱行動や、親について都会に出た子供たちの教育機会の不十分さ、さらには高い学費を出して学校に行かせなくても中学生の歳になれば身体的には労働に従事できて十分稼げるからと親が中学を中退させてしまう例が以前よりも増えていること等が、社会問題化していると聞きます。このような社会にあっては、親にとっては出稼ぎ先が"上海"でなく"日本"に変わっただけ、子供は学校にちゃんと行かせているのだからもう十分のはず、と認識されているのではないでしょうか。中国から来た子供たちを支援するには、こうした中国の現状を踏まえて日本に住む個々の家庭と向き合っていくことが求められるでしょう。
本書の対象は帰国者の子供たちですが、帰国者、更には中国からの子供たちに限らず、外国から来た子供たちの今後の学習支援を考える上で重要な示唆を与えてくれる一書です。今後日本が"移民国家"としての戦略を推し進めようというのであれば、この問題は国の課題として考えていくべきものではないでしょうか。(所得格差の拡大しつつある日本社会で、程度はもちろん異なるとはいえ、日本語母語話者の家庭でもいわゆる"ネグレクト"に近い状態で育ってきている子供たちの言語習得と共通の問題を孕んでいると感じました。)
(所沢:安場)
編著:スリーエーネットワーク
【本冊】2008年、B5判、203頁+別冊70頁、CD一枚付、2940円(税込)
【翻訳・文法解説 中国語版】2009年、B5判、144頁、1680円(税込)
『みんなの日本語』シリーズの中級学習者向け教科書が2008年に出版されています。『中級T』本冊は全12課で構成され、中級前期の学習者を対象としています。後に続く中級Uは、2011年春以降発行予定とのこと。この『中級T』本冊に続き、昨年、翻訳・文法解説中国語版が出版されました。こちらは、第一部が単語、第二部が文法解説となっており、さらに各所に初級T、U及び中級Tの参照すべき課が提示されていて自学自習をする際に大変使いやすくなっています。現在英語、韓国語、中国語が刊行済です。
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kyouiku/handbook/index.html
(冊子はA5判183頁2009年発行)
日本で生活を始めようとする外国人のための多言語対応ハンドブック(韓、中、英、ポルトガル語、スペイン語の5か国語のそれぞれと日本語の対訳)です。すべて文化庁のHPからダウンロードできます。冊子の入手は文化庁に問い合わせてください。(昨年末の時点で中・英・スペイン語版は在庫がないそうです)。
内容は、1.日本語学習の必要性、2.生活情報、3.日本語学習の情報、4.便利な日本語表現の4章からなっており、日本に来たばかりの人に必要な情報がコンパクトにまとまっています。今までにも、生活情報関連の多言語対応ハンドブックはありましたが(本紙40号で紹介した「(財)自治体国際化協会〈多言語生活情報〉」等)、このハンドブックは日本語学習に役立つ情報に頁を割いています。
たとえば、「日本語学習の方法」で紹介されている『日本語ポートフォリオ(日本語版・中国語版・英語版)』制作:青木直子(大阪大学)も便利です。この「ポートフォリオ」というのは、個人の“学習記録帳”のようなもので、例えば、聞くこと・読むこと・やりとりといった項ごとに具体的な行動リストが挙げられており、それぞれについて「一人で/助けてもらえば できる」「次の目標」という三段階評価ができるようになっています。このリストを学習者と支援者が一緒に見ながら、現在の力を確認したり、今後の目標を立てたり等、色々な使い方ができるのではないでしょうか。
また、日本語学習に役立つ便利なサイト(支援情報、オンライン学習サイト等)も多数紹介されており、ウェブ上でそのままそのサイトにとぶことができるので便利です。地域の日本語教室のリストや、文字や会話を学習できるサイトなどは、独力で使いこなすのは難しそうですが、まずは支援者とともに触ってみることから始めれば、その内容がより生かされるのではないかと思います。
2009年3月、国立国語研究所編、ぎょうせい
A5判128頁、本体476円+税
電子辞書の普及により、学校で何かを学習するときだけでなく、日常生活の場面でも、何気なく辞書を使って言葉を調べる機会が増えてきたのではないでしょうか。「言葉のツール」としての辞書には実に多くの種類があり、作る側や使う側の意図も様々です。そうした辞書の多様性に触れながら、辞書の役割というものを改めて考えさせてくれるのが本書です。
TVアナウンサーによる巻頭エッセイや、日本語にかかわる各分野の専門家による座談会に続き、辞書には「知らないことばについて調べる」「どのようなことばがあるかを示す」「ことばを収集・記録する」「ことばの規範・基準を確認する」「ことばの性質を詳しく記述する」といった目的があることや、辞書の編集過程の具体例、さらに辞書を引くには「正しい読み方」「50音順による配列のルール」「文法的な分析」「見出し語のどの意味区分に該当するかの判断」という4つのハードルを乗り越える必要があることなどが述べられています。最後の第3部では「国語辞典」から「コンピュータの辞書」までの23もの分類を、具体的な辞書名とともに紹介しています。
日本語を母語としない人のための辞書には「多くの用例を実際の使われ方に即して示す」「連語を見出しにする」「使用条件を具体的に示す」等の工夫が必要であることなど、私たち支援者にとっても、参考になる指摘が含まれています。
このプロジェクトは、学校教育やNPO等の子ども支援関係者、通訳や翻訳に携わっている人、大学の研究者が、トヨタ財団アジア隣人ネットワークの助成を受け、協働で行っているものです。
外国語を母語とし、日本語指導が必要とされる子どもたちに対する母語指導員や通訳による言語サポートは、人材・コストの両面から、充分には行き届かないことも少なくありません。中でも、日本語を母語としない保護者と学校とのコミュニケーションには様々な困難が伴います。こういった状況をふまえ、このプロジェクトでは、母語による指導のできるスタッフが日々の文書翻訳に割く時間と労力を軽減し、教育内容についての支援などに力が注げるようになることを目的に、外国につながりのある人々が多く住む地域などで翻訳された学校関係のお知らせ文書、教育制度などの説明文、語彙集や教材などを、全国で共有し広く活用するためのしくみづくりに取り組んでいます。
現在使えるのは、多言語の学校関係文書の検索ツール、予定表作成ツール、機械翻訳を利用して異なる言語の母語話者と意思疎通することができるように考えられた多言語筆談ツールです。検索ツールには学校関係文書が多言語で公開されており、参考になります。予定表作成ツールでは、学校行事などの予定表を、日本語の他、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語、中国語、フィリピン語、韓国・朝鮮語、英語、タイ語で作成することができるようになっています。また、多言語筆談ツールは、話した内容をメモにしてホワイトボードに貼っていくようなイメージのツール(PaneLive)と、会話を順番に記録していくツール(mixcha)の2種類があります。機械翻訳を利用することで、言語の異なったユーザー同士が互いに母語で会話できるようになっていて、日本語、英語、中国語、韓国・朝鮮語などに対応しています。
http://www.iwakura.ed.jp/nihongo/frame.htm
このサイトは愛知県岩倉市の小学校の先生が開設したサイトで、外国籍の児童生徒に対する日本語の指導や、日本語母語話者でない保護者に対し、学校からの連絡などを理解できるようにすることなどを目的に作成されています。岩倉市はブラジル人の児童生徒が多いということで、ポルトガル語の翻訳文書や用語集が掲載されている他、学校生活をおくるために必要なことばや、学習を理解するために必要なことばをはじめとして、日本語指導用教材や日本語指導用書籍・教具リストなどの情報も数多く掲載されています。
日本語・中国版 http://www.sien-center.or.jp/magazine/ →46号、47号、48号を参照
日本語・ロシア語版 http://www.sien-center.or.jp/magazine/index2.html
中国帰国者支援・交流センター(首都圏センター)では、中国帰国者向けに情報誌『天天好日』を偶数月に年6回発行しており、普段のニュースで耳にすることばではあるけれどよくわからないものや、解説が必要なことばを取り上げています。新型インフルエンザについての基礎知識も、地上デジタル放送を見るための簡易なチューナー給付の支援についての情報も、この情報誌に掲載された記事です。日本語と中国語/ロシア語の対訳になっていて、日本語の漢字にはルビが付いています。
センターHP:http://www.kikokusha-center.or.jp/
<進学進路支援情報> 受験案内 中国語/ロシア語訳更新
文部科学省では、病気その他のやむを得ない理由で、中学校に行けなかった人のために「中学校卒業程度認定試験」を年に一回行っています。日本に住む外国籍の人であっても平成22年3月31日までに満15歳になっている人であれば、この試験を受けることができます。学齢超過のために日本の中学校に入れなかった人もこの試験に合格すれば、高校入学資格、つまり高校入試を受ける資格が与えられ、高校進学の途が開かれます。文部科学省のホームページから平成18年度以降の過去の試験問題も参照できます。詳しくはお住まいの都道府県の教育委員会にお問い合わせください。
2009/08/24 定時制高校の現状は、統廃合進む中、経済的理由から志願者は増加傾向
2009/09/25 サハリン残留日本人40人が一時帰国 今年で38回目
2009/09/30 厚労省、新たに認定の残留孤児1名の情報公開
2009/10/01 「中国残留孤児の尊厳を守る神奈川の会」30日に設立総会、11月に全国大会開催
2009/10/13 中国が建立した旧満州の「日本人公墓」支援へ=日本政府が管理費一部負担
2009/10/19 定住外国人に公共サービスを保障する「多文化共生推進法」(仮称)の制定を検討/総務相
2009/10/20 中国残留邦人2世3人 加古川の派遣会社を不当解雇で提訴へ 地裁/兵庫
2009/10/28 サハリン日本人会元会長・奈良さん長女 父の遺志継ぎ、残留邦人の力に
2009/11/02 新型インフル:外国語で応じる専用ダイヤルを開設。英語、中国語など5カ国語に対応/滋賀
2009/11/04 ブラジル人学校閉鎖相次ぐ 不況直撃、存続校も運営費難 日本ブラジル学校協議会(AEBJ)の調査で判明
2009/11/04 外国人児童生徒の教育機会・進学、自治体や学校で格差:毎日新聞の調べ
2009/11/05 岐阜県教委、文科省の緊急支援プラン(年齢より下の学年に編入可との通知)と一致しない通達を市町村に送っていた
2009/11/05 愛知県が小学校入学前の外国人の子どもに向けプレスクール運営マニュアル作成 全国初
2009/11/09 もと原告ら日本残留孤児訪中団、ハルビンで中国の養父母への謝恩会を開催。11日には温家宝首相と面会
2009/11/16 文科省、外国人子弟の教育で有識者懇談会設置 日本語教育の環境の改善を目指す
2009/11/17 中国残留孤児、肉親捜しで一時帰国 本年度認定は最少の1人、19日対面調査
2009/11/22 夜間中学の位置づけを定めた法律の制定求め要望書採択へ 神戸で来月全国大会
2009/11/27 群馬や愛知など7県28市町でつくる『外国人集住都市会議』は26日、太田市で会合
「(仮称)外国人庁」の設置などを国に求め緊急提言。子どもの就学義務化の提言も
2009/11/30 岐阜県国際交流センターが主催 大垣市で医療通訳の研修会
2009/12/21 日系ブラジル人の子どもたちを国費で教育する「虹の架け橋教室」各地で始まる。公立校への編入目指す
2009/12/22 長野県開拓自興会が消息不明の県出身残留孤児の最終名簿作成 60人分
現在、帰国者1世世代の平均年齢は60代後半、受講者も約半数は55歳以上というように、日本語学習者の中でも帰国者は、高齢者が多くを占めるという特徴があります。そこで、高齢学習者の学習状況を知るために、昨年10月、全国の遠隔学習受講者のうち、55歳以上の帰国者328名に、学習についてのアンケートを実施しました。55歳から90歳までの164名の方々から回答がありました。(返信率50%)
回答者の平均年齢は66歳、帰国してからの年数は平均17年でした。今回は、その結果から、一部を皆さんにもご紹介したいと思います。回答は、いずれも選択肢方式で複数回答可です。( )内は回答件数。
@ 遠隔学習課程をとった理由
第一位 日本語を身につけないと生活上困るから(134)82%
第二位 遠隔学習課程に学習したいコースがあったから(125)76%
第三位 脳の健康を維持するため(90)55%
これに続き、「教室が近くにないから」(71)43%、「一人で学習するのが好きだから」(54)33%、「身体が悪く教室に通学できないから」(24)15%という結果でした。
日本での生活は長いのですが、未だに日本語にかなりの不自由を感じていることが窺えます。また、老化を食い止めるための手段という高齢者特有の動機が目を引きます。
A 若い頃の学習と違う点は、どんな点だと思いますか。
第一位 記憶力が落ちた (149)91%
第二位 繰り返し学習することが苦痛でなくなった (88)54%
第三位 集中力が落ちた(86)52%
第四位 学習目標が若い頃のように進路を切り開くためだけではなくなった(84)51%
老化による衰えを強く感じる一方、「繰り返す」という学習方法に対しプラスの評価ができるようになるのも高齢者の特徴でしょうか。
B 学習を続けていくのにどんな援助者や仲間がいるといいと思いますか。
第一位 自分の学習を厳しく修正し、指導してくれる強い指導者(112)68%
第二位 自分の学習ペースを尊重してくれる学習援助者(83)51%
第三位 学習以外の話題も気安く話せる援助者(60)37%
三位とほぼ変わらない回答率のものに「ユーモアも交わせるようなリラックスさせてくれる援助者」35%、「高齢で同じ条件を持って励まし合えるような学習仲間」34%もありました。「強い教師」を期待するのは中国の学習文化が背景にあるからでしょうか。しかし、一方で「自分のペースを大事にしてくれる人」「何でも話せる人」「リラックスできる人」という、ゆったりとした受容度の高い学習支援者を希望していることもわかります。
この他、自由記述の中にも高齢となった帰国者の思いを読み取ることができます。(以下は日本語としてはこなれていないところがありますがあえて直訳風に)
「記憶力は良くないけれど、一つ単語を覚えても嬉しい」「日本人なのだから必ず祖国の言語を勉強したい」「日本語学習は私の一生の願い」「生きているうちに頑張ってみる」「学習においてゆっくり行くのは怖くないけど、止まるのが怖い」「28,29年前に遠隔学習のことを知っていたら私の運命は違ったかもしれない。遠隔はどんな条件であっても、どんなところに住んでいようとも平等に教育を受けられる」「遠隔とスクーリング(自治体単位で実施される月一回程度の対面指導)はすごくいいと思う。いつでもどこでも勉強できるのはすごく便利。これからも長期にわたって遠隔を実施してほしい」
アンケートを実施して、高齢帰国者の日本語学習が、単なる言葉の習得という目的だけではなく、いろいろな側面を持つことが再確認できました。日々の生活の中の楽しみのため、健康維持のため、自分が日本での生活を選んだ証として、また、日本人であるというアイデンティティーを追い求めるため、等々。これらの学習動機には、一般の日本人と同様の“生涯学習”的な面もありますが、時に悲壮感さえ感じさせる一世世代の日本語学習に対する覚悟や焦りには、やはり「中国帰国者」ならではの特性を感じます。私たち日本語学習支援者は、まず何よりも、こうした高齢帰国者の学習に対する様々な思いを理解しなければならないと改めて肝に銘じました。
受講待機者が増えていることについては、以前にもお伝えいたしましたが、この待機状態がいよいよ深刻になり、申請条件を変更しなければならなくなりました。つきましては、今まで、受講できるコース数を一人2コースとさせていただいておりましたが、今後しばらくは、一人1コースとさせていただきます。このような対策をとることにより、受講までの待機時間を短縮することもでき、一人でも多くの方に学習機会を提供することができます。そして、一日も早く帰国者の皆さんが“学びたいときにすぐ学べる”状態に持って行きたいと考えております。現在、申請されている方々にはこの旨通知をしておりますが、混乱も予想されますので、支援者の皆様もよろしくご協力のほどお願いいたします。また、来年度上期の募集につきましても例年よりは多少ずれ込むことが予想されます。募集時期が決まりましたら、HP等でお知らせいたします。
帰国者一世の種子島さんは、50代で帰国以来、20年間、困難と相対しながらも、日本語学習を続けてこられました。今号では、種子島さんが現在受講中している〈遠隔学習課程〉「自己表現作文『日本語学習』Aコース」の成果である作文の一部を抜粋してご紹介します。
私は八歳の時、旧満州で終戦を迎え、その後四十五年間中国に残されました。その間日本語を話せる環境がなかったので、日本語は全部忘れてしまいました。平成二年に帰国し、翌日から日本語の壁にぶつかる日々が始まりました。もちろん周りの人とコミュニケーションもとれず、誤解されて悔しい思いをしたこともありました。精神的にも不安が日に日に募りました。既に祖国にいるのに、周りの会話を聞いているとまるで外国に身を置いている感じがして、一時的にですが私は日本人にいじめられていると思い込み、周りの人と距離を置いたこともありました。辛い気持ちが顔に表れ、家庭も暗くなり、二年後、主人も病気に倒れました。私たち家族は日本で暮らしていけるのだろうかと、しばらく悩みました。家族は私を信じて一緒に日本に来てくれたのに、このままでは家族に申し訳ないと反省しました。瞬間的に中国へ戻ろうかとも考えましたが、あれだけ日本に帰りたかったのだから、と思い直しました。そして現実の困難や悩み事などを分析しました。そうすると一つの共通点が見えてきました。根っこは一つ、皆私が日本語ができないことから発生した問題です。日本語の高い壁が私の前に立っていることに気づきました。もしこの高い壁を乗り越えられれば、要するに私が日本語を話せるようになれば、状況はよくなるということを確信しました。そして、本当の日本人のように日本語を滑らかに話せることを目指して、少しずつですが頑張っていこうと決心しました。
この時どうやったら厚く高い壁を乗り越えられるのか、真剣に考えました。まず市が開設している日本語教室に通い始めました。しかし交通があまりにも不便で、また家庭の事情もあり、通学はやめました。そして自学自習していくことを選びました。毎日様々な物や現象、事柄がたくさん目の前に現れます。この目の前に現れるわからないことを学習のきっかけにしようと思いました。そしてテレビを見る時、ラジオを聞く時、他人の会話を聞く時、覚えたい日本語を集めるように気をつけました。また、覚えた言葉を日常生活の中で試しながら使ってみました。近所の人や友人たちは皆私の日本語の先生でした。ときどき孫も発音を訂正してくれました。訂正はいつも謙虚に受け止めます。台所にまで一台小型テレビを設置して、家事をしながら日本語の勉強を続けました。
このような自学方法は自分に合っていたと思います。家事と勉強を両立できますし、楽しみながら勉強できるので今日まで長く続けることができたのだと思います。
私は中国で日中両国は「一衣帯水」の近隣同士であると聞いていました。だからといって、文化が何から何まで同じだと思うのは大間違いです。両国は別々の地域で、長い歴史の中でそれぞれ独自の文化を生み出してきたわけですから、いろいろ違いがあるのは当然だと思います。しかし長い年月をかけて真面目に命がけでやるつもりでいれば、必ず日本語の厚く高い壁を乗り越えられると信じて、必死で頑張り続けてきました。国に「もっと早く帰国させてくれたら、こんな苦労をしなくてよかったのに」と恨み言を言いたかったです。しかしここで立ち止まっても、目の前の困難は解決できません。結局困るのは自分です。日本語を話せるようになれば自立できますし、周りの人とコミュニケーションがとれ、人生が楽しくなると信じました。また自分は日本人だから日本語を話せて当たり前だという思いもありました。このようないろいろな思いが私に日本語学習を今日まで続けさせる強い原動力にもなったのです。このような精神力や信念の支えがあって、主人の看病と三人の孫を育てる手伝いをしながら今まで頑張ってこられました。ここまで来られて本当によかったです。私が今話せる日本語はまだ完璧ではありませんが、今は私が何を話しても相手にはわかってもらえます。あの時のような悩みや孤独感はもうありません。
私は二、三年前からやっと家庭から少し解放されました。また日本語が大分自由に話せるようになったので、私の人生も少し変わりました。自分の時間を利用して、今年の三月からボランティアで「?好! 中国?会?教室」(月二回、十二名参加)を開きました。子どもの中国語教室(六名参加、うち孫が三名)も開いています。
私はこのような機会を持ち、小さな力ですが、社会の役に立てるという幸せを感じています。その気分が私の顔にも表れているようです。ちょっと前ですが、主人の訪問看護師さんが「奥さん、なんか生き生きしているね」と声をかけてくれました。確かに生き生きした気分を自分でも感じています。最近、小さな座談会で戦争体験の話もしました。強い意志で日本語の勉強を長年続けてきて本当によかったと思いました。これからも、さらに日本語を滑らかに話したい、日本語の壁を乗り越えたいという目標に向かって、諦めずに頑張ります。