V.再研修講座 カリキュラム設計の枠組み
 
再研修講座という新たな教育を計画(カリキュラム設計)しようとするときに、この講座の目的をどう捉えるのか、どのような考え方で学習の計画を立てていのくか、コースの特性や目標、学習者のレベルといった言葉をどのような観点からどう用いるのかが、実はセンターごとに異なるというようなことが考えられます。こうした基本的な前提が異なっていてはセンター間で情報を交換したり、カリキュラムモデルを活用しようとしたりするときに、さまざまなくいちがいが生じることになります。そこで、本プロジェクトではモデル作成にあたり、まずカリキュラムの考え方や捉え方の枠組みを整理したものをまとめ、それをセンター間の共通の基盤にしたいと考えました。それが「カリキュラム設計の枠組み」です。カリキュラムモデルも、この枠組みにそって計画を立て、この枠組みに基づいて記述したものです。したがって、モデルの活用、あるいは新たなモデル開発の際には、ぜひこの枠組みを参照していただきたいと思います。


カリキュラム設計の枠組み〈項目一覧〉
カリキュラム設計

A.コース設定
a−1.ニーズタイプ
a−2.学習者タイプ
a−3.コースタイプ
a−4.コース目標
a−5.コース期間・時間


B.コース設計
b−1.コースの指導形態
b−2.コースの構成
b−3.各々のプログラム所要時間


C.プログラム設計
c−1.プログラム目標
c−2.プログラムへのアプローチ(留意点)
c−3.プログラムの学習計画表





A.コース設定


a−1.ニーズタイプ  → 以下の【イ〜ハ】から特定します
まず再研修を受けたいと思うのは何のためかという学習の目的をニーズタイプとして特定します。ニーズのタイプには、日本語がより上手になりたい、もっと正しい発音で話したいというような比較的一般的なニーズ(一般的ニーズ)、運転免許を取りたい、美容師の専門学校に入りたいというような目的のはっきりしたニーズ(特殊ニーズ)が考えられます。さらに、友達や話し相手がほしい、仲間や日本人との交流の機会がほしいといった要望もニーズと捉えられます(非達成的ニーズ)。これらを大きく【イ〜ハ】と分類しました。
イ.<一般的日本語学習ニーズ>
ロ.<特殊ニーズ>
ハ.<非達成的ニーズ>
 
a−2.学習者タイプ  → 以下の【T〜W】から特定します
学習者タイプを分類する時、日本語の既習度や学習適性、年齢、性別、ライフステージ等の様々な要素を考慮しなければなりませんが、ここでは、「現在の日本語レベル〈日本語力〉」と「学習の進め方を決める〈学習適性〉」の二つの要素でコース設定は可能と考え、この組み合わせで「学習者タイプ」の分類を行いました。〈日本語力〉を横軸、〈学習適性〉を縦軸とすると、下表のように大まかに【T〜W】の4つの学習者のタイプが想定されます。
 
 

適 性

日本語
未習〜初歩

日本語
初級〜中級前期

日本語
中級後期〜

学習適性
 


 
 
 


 

 

 W 

【注1】



 T 



 


 U 





 

 V 



 

 
 
a−3.コースタイプ分類  → 以下の【@〜E】から特定します
コースタイプは、「学習目的」(ニーズタイプ)と「学習者条件」(学習者タイプ)を考え併せて、【@〜E】の6タイプに分類しました。[注2]

ニーズタイプ 学習者タイプ

コースタイプ

イ〈一般的日本語学習ニーズ〉+ T
       〃      + U
       〃      + V
       〃      + W

@復習コース
Aレベルアップコース
Bハイレベルコース
Cサバイバルコース

ロ〈特殊ニーズ〉 /

D目的別コース

ハ〈非達成的ニーズ〉 /

Eサロンコース


 
 a−4.コース目標  → 以下のメニューから選択します(複数選択可)
コース目標については、大まかにメニューを設定しました。目標メニューの構造は、1)で日本語学習の目的を明確にし、2)で学習の領域・内容を特定していくようになっています。目標設定の際には1)と2)からそれぞれコースにあった目標を選択します。[注3]

【コース目標メニュー】

1)何のために学習するコースか


2)何を学習するコースか(どんな項目・技能・要素を重点的に学習するか)

 
a−5.コース期間・時間




B.コース設計


 b−1.コースの指導形態  → 以下の【あ〜う】から決定します
コースの形態・指導の方式については大まかに次の【あ〜う】の3タイプを設定し、講座運営側の条件、またコースやプログラムの目的や性格により、どの方式が可能かあるいはふさわしいかが決定されることになります。基本的には【あ】のクラス一斉型で行うことが多いでしょうが、プログラムによっては一部【う】の完全個別型を取り入れるというような運営方式もあるでしょう。
 

あ.〈クラス一斉型〉

基本的に、クラスの学習者が主に一斉授業の方式で、同じ時間 に、同じ場所で、同じ教師のもとに、同じ内容を、同じ教材や学習法を用いて、同じ進度で学習する方式

い.〈クラス個別型〉

 基本的にはクラス単位で進められるが、グループ単位の指導や、個別の指導も半々程度の割合で取り入れられている方式

う.〈完全個別型〉

 クラスの単位がそもそもないか、あっても学習者が一緒に顔を合わせることが前提とされないマンツーマン方式


 
b−2.コースの構成
ここでは、コースカリキュラムを構成するプログラムの種類、およびプログラムとプログラムとの関係、プログラムのカリキュラム内での配置等を決定します。1コースのカリキュラムが複数のプログラムからなるコースもあれば、1コースが1つのプログラムだけで成り立つものもあるでしょう。
また時間軸にたいするプログラム群の配置もここで決定します。例えば、複数のプログラムを時間軸にそって順番に配置するのか、複数のプログラムを同時に進行させるのか等。同時進行の場合には、一回の講座にそれぞれをどう時間配分するかが計画されます。
 
b−3.各々のプログラム所要時間数
コース終了までに一つのプログラムに使われる時間数を決定します。


C.プログラム設計



C−1.プログラム目標
プログラム目標は、コースを構成する一つ一つのプログラムのコース終了までに到達すべき目標を示すものです。したがって、コース目標の中からそのプログラムの目標として取り出したものを、より具体的に(目標によっては到達レベルも表す形で)示す必要があります。そのために、目標を「知識」「技能」「態度」の3つに分野に分け、目標の性格をより明確化することを目指した。 
 
C−2.プログラムへのアプローチの仕方(留意点)
一つのプログラムの学習を計画し実施するに際して、目標の形では表現しきれない指導上の留意点をここに記します。プログラム全体に関わる「活動の進め方」や「指導のポイント」、「使用教材」、「評価方法」等についての覚えや注意書きを示すものです。
 
C−3.学習計画表
一つのプログラムに含まれる具体的な学習内容とその提出順序、所要時間の目安や使用教材、備考からなる計画表です。備考には、活動のタイプや形態、評価方法、その他学習項目を達成するために必要と考えられる伝達事項を記入することにしました。



[注1]学習者タイプについて
・タイプW:公的な支援を受けられない学習者(例えば、帰国直後の自費帰国者等)の中にこのタイプの学習者がいると考えられる。「再研修」という位置づけから、現時点では、正規の学習対象者ではないが、地域の状況に応じて、受け入れの可能性は十分にあるだろう。
表中の空欄に相当する学習者タイプについて:学習適性は低いが比較的高い達成度を見せている学習者ということになるが、こうしたタイプは現実にあまり考えられないし、例があってもかなり特殊であると考え、コース設定のための基本分類からは除外した。
学習者タイプ特定の基準について:これは、実際に再研修にやってきた学習者をテストで測定するというものではなく、だいたいこのような日本語力の人たちを対象とするコースというように指導者側の判断の目安とするもの。

[注2]コースタイプについて:ニーズタイプは3分類、学習者タイプは4分類されているので、それらに基づくコースタイプ分類を行うすると、計算上は3×4=12のコースタイプが成立することになる。しかし、<一般的日本語学習ニーズ>以外は「学習者タイプ」によるコース分けは行わないこととした。なぜなら、<特殊ニーズ>であれば目的により学習者タイプにあまり関わりなくコース設定が可能であったり、また、目的が特殊であればその目的を持つ学習者のタイプ自体がすでに限定されているといったことも考えられるからである。<非達成的ニーズ>については、タイプTの学習者が多いのではないかと想定し、コースタイプは便宜的に一つにした。  

[注3]コース目標について:目標の達成レベルについては、a−2「学習者タイプ」で、学習者のレベルが特定されているので、目標のレベルについても自ずから特定されるという前提に立ち、このコース目標メニューの中では達成レベルは考慮せず、目標の内容・領域のみ示すこととした。