Q1.「子どもたちに日本語を教えたいのですが、どうすればいいでしょうか」

 子どもに対する日本語教育に興味を持っています。教員採用試験を受けようかとも思いましたが、当地には日本語の先生という採用枠はないということでした。どうすれば、子どもたちに日本語を教えることができるでしょうか。

【お答え】
ここでおっしゃっている、
>日本語の先生
というのが、正規の教員だとしたら、まず、現在の学校教育の枠組みでは、言い換えれば、学校教育法の適用範囲では、公教育(小・中・高校など)で日本語を教えたいと思っている方が直にそのポストに付ける方法はないと言ってよいと思われます。
それは、「日本語教育」が正規の科目ではなく、「日本語科」の教員免許がないことが理由にあげられます。
 現状では、大ざっぱに言うと
1.正規の教員で日本語指導の経験や興味や熱意がある方が支援している
2.「加配」という形で1.のような方かもしくはそうでない方が支援している
3.正規の教員ではなく、非常勤講師や教委派遣の指導協力者が支援している
4.ボランティアが支援している
というケースがあります。
 1.のような方は少なくないのですが、希望してもそのポストにつけるとは限らず、また、異動があるとせっかくのノウハウが蓄積されにくいという難点(とは一概には言えないのかもしれませんが)があります。2.の場合も同様ですが、加えて興味がない方が「受け持たされて」しまうと、ご本人も子どもも大変なようです(担当したことがきっかけで興味関心が喚起されたいうこともあるようで、それはそれで良いことですよね)。3.4.のケースは全国的に多く、みなさん大変重要なお仕事をなさっていながら、いかんせん立場や待遇が脆弱で、それぞれに奮闘中と言えるでしょう。
 正規教員としては1.2.、それ以外では3.4.、どちらも「この資格があればなれる」というものではありません。実際に支援している方のお話では、特に2.3.の場合、子どもの母語ができるということが重要なポイントになる場合がありますが。
 また、国レベルの施策も実施は自治体レベルですから、どのような対応がなされているかは地域により学校により異なります。公教育の現場より範囲を広げるとすれば、インターナショナルスクールや私立でイマージョンをやっているようなところ等が考えられるでしょうが、数は多くありません。
 
 このようにご紹介していくと、なんだか八方ふさがりにも見えますが、子どもたちに対する支援はいろいろな立場からなされるのがいいと思っていますので、「どうすればなれるのかな」と思っている方は、ご自身の諸条件を考慮した上で、できるところから始めてください。



Q2.「ポルトガル語の簡単な読み物や教科書を扱っている書店等をご存知でしたら教えてください。」

 ブラジルから来た子どもたちの日本語指導をしているのですが、だんだん母語(ポルトガル語)が曖昧になってきました。
学校以外ではほとんど日本語を使わないようで、来日前にはあまり使うことのなかった抽象的なポルトガル語はほとんどわからないし、書く機会がないため、スペルがわからないようです。
子どもたちに聞くと、家にはポルトガル語の本はなく、CSのブラジル放送は見ていても本は読まないとのこと。
ポルトガル語の簡単な読み物を揃えて子どもたちの手の届く所に置くことで、少しでも母語に触れさせたいので、ポルトガル語の簡単な読み物や教科書を扱っている書店等をご存知でしたら教えてください。

【お答え】
(1)東京の千代田区にイタリア書房 電話 03-3262-1656  ファックス 03-3234-6469
という書店があります。「イタリア」書房ですが、ポルトガル語他の書籍もあり、児童書も扱っているそうです。
宅配のサービス(有料)もあります。
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(2)ブラジル人がよく利用する RIO FASHIONが、インターネットショッピングで本も販売しています。
www.riofasion.com
で、本だけでなく、CDや洋服、香水なども売っています。
ポルトガル語での情報だけですが、宅急便で届けてくれるので、ブラジルのお店がない地域の人には便利です。
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(3)神奈川県横浜市鶴見区には南米出身者が多く、地域住民・子ども・保護者・教員のネットワークを目指してIAPEというグループで活動しています。
IAPEでは、毎週土曜日にポルトガル語とスペイン語の母語教室をおこなっています。
IAPEの教室には、スタッフや保護者がブラジルに行った際に購入する等した書籍もありますが、授業では、先生手作りの教材を使うことが多いです。
日本で過ごした時期の方が長い子どもたち(小学生)が多く、読み書きよりは、母語に触れる機会づくり、という側面が強いので。
先生はお母さんであるボランティアの女性が担当していますが、ネイティブスピーカーであるお母さんたちの積極的な参加もあります。
月に一回は「お母さんの日」を設けて、お母さんたちが交代で読み聞かせや料理教室を行っています。
仕事が忙しく、時間がない保護者が多く、子どもたちも家では、ポルトガル語を勉強するのを嫌がる傾向があるので、母語教室は、ブラジルにルーツを持つ子どもたちが集まって週に1回一緒に勉強する場となっています。


Q3.「子どもたちの編入学年はどのように決まるのでしょうか」

 子どもたちが日本の学校に編入されるとき、年齢通りか下の学年か各地で事情が違うようですが、ご存じのケースを教えていただけませんか。当市の教育委員会の方に編入学年について伺ったところ、原則として年齢通りの学年に在籍させ、事情に応じて、または科目によって下の学年の授業を受ける、という形をとっているという説明でした。
文部科学省も各教委には柔軟に対応するように説明しているということですが、実情はどうなっているのでしょうか。

【お答え】
 編入学年についてですが、まず、文部科学省の「原則」は、おっしゃるとおり
◎年齢に応じ、相当学年に編入させる
となっています。しかし、「但し」と言って
◎特に言葉が不自由である等の事情により、直ちに相当学年の課程における教育を受けるのが適切でないと認められるときは、一時的に適宜下学年で授業を受けさせることもできる
となっていますし、実際にそのような通達が出ています。地域によってはこの「但し」以下を適用しているところはたくさんありますし、子どもの編入学年はその子により、また、その現場の事情(どんな支援が可能か等)により、柔軟に決定されるべきだと思われます。
 問題は、各地の教育(行政)現場での実施の実態が、地域によって異なることです。同じ県下でも市によって違うこともあります(小中は市町村教委が管轄なので)。
また、反対に「県の通達だから」と県の決定に一律に従う地域もあります(どの県、どの市はどうなっているかという一覧表のようなものが、どこかにあるのでしょうか)。
 当センターでは、毎期、日本各地の小中学校に子どもたちを送り出していて、その簡単な追跡調査の結果を事例報告として「紀要」8号に出してあります。
具体的な地域名は伏せてありますが、地域によって対応が異なるということはわかると思われます(「紀要」はホームページからダウンロードできます)。


Q4.「『日本語能力試験』はどんな試験ですか。また、子どもたちが受験すると有利でしょうか。」
「日本語能力試験を生徒に受けさせていて、よい励みになっている」という話を聞いたので、さっそく子どもたちに紹介してみようかなと思いますが、どんな試験ですか。
中学や小学校の子どもたちでも受けられるような制度・内容なのでしょうか。
この試験に通ると、子どもたちに有利になりますか。また私の地域でも受験可能なのかどうか、教えてください。」

【お答え】
 日本語能力試験は、国際交流基金(外務省関連法人)で作成していて、海外では基金の事務所や海外の日本語教師会、大使館、領事館などの支援を受けながら実施、国内では(財)国際教育協会(=文部科学省関連法人)が年一回、12月に行っています。
目的は一般の日本語能力の判定ということで、海外では、ノンネイティブの日本語教師のレベル判定に使われている場合もありますが、今までは、国内との関係としては、大学の国費留学生の選考の際、(または大学によっては、私費の留学生の入学試験の際、)1級や2級がその基準として使われて来ました。
平成14年度より、大学や大学院のための試験は新しいものができることになっていて、日本語もその中に含まれているので、今後の動向は不明ですが、この新試験も、すぐ世界中で行うことは難しいと言われているので、たぶん、「日本語能力試験」のそういう目的もしばらくは残ると思われます。 と書きましたところから御推察の通り、この日本語能力試験は成人向けのものです。また、現在使われているシラバスも10年以上前の初級教科書をにらんだ形で作られていますので古くなってきており、現在、改訂を行っています。
(ちなみに、今のシラバスは、凡人社から 『日本語能力試験出題基準』として販売されています。)
1級〜4級までの試験で、1級と2級は、上に書いたような目的もあったので漢字圏の学生でないととても難しいレベルでした。(大学入試の目的が消えれば、変わる可能性はあります。)非漢字圏の日本語教師は、3級取得者が優遇される…といったレベルです。
 ですので、年少者の日本語能力を判定する試験としてこの試験を利用することが望ましいとは断定できません。ただ、ブラジルでは国内で実際にこの試験を年少者に使ってきました。
現在、ブラジル・サンパウロでは、年少者向けの日本語試験を作成しています(公開までには少し時間がかかるかもしれません)。
 ちなみに、年少者の日本語力評価については、筆記試験で問うものとしては、このブラジルのものの他、オーストラリア、シンガポール、カナダ、英国などの国で中等教育卒業試験や大学入学資格認定試験の一貫として作られているものがあるくらいのようです。口頭試験では、カナダの年少者OPIと言われているもの(OBC)が一番有名かと思いますが、他にもいくつか試行しているものがあるようです。
 そういうわけで、日本語能力試験をお使いになることを手放しでお勧めできるわけではありません。
ただ、試験が学習の励みになったり合格が自信につながったりする場合も、子どもたちによっては、あると思います。つまり、一回合格すれば一生、世界中で通用する試験ではあるからです。最終的な判断は、先生にお任せするしかありません。実施された試験自体も売られていますし、問題集も出まわっています。概要や昨年度の試験、その結果などは、作成機関のホームページでも見られます。
http://www.jpf.go.jp


Q5.「初めて日本語指導担当になりました。まず、どんなことから始めたらいいのでしょうか。」
「これまで、小学校で学級担任をしていましたが、新学期から日本語指導を担当することになりました。
当地では最近、日本語指導が必要な児童が増えてきているようですが、私自身は日本語指導の経験がありません。
児童や保護者への対応、また、学校内の他の先生方との連携など、必要と思われることはたくさんあるのですが、まず、どんなことから始めたらいいのでしょうか。
各地で既に行われている実践などから、アドバイスや有効なアイディアなどがいただけると嬉しいのですが…。」

【お答え】
 こうしたご質問に的確にお答えするのは、簡単ではありません。地域により学校により事情が異なりますし、日本語指導担当の先生ができることも異なるからです。しかし、こうしたご質問が少なくないのもまた事実です。各地の現場での経験が蓄積され、ネットワークによってそれらが流通すれば、こうした課題は解決に向かうのではないかと思われます。
 そこで、六年間日本語指導を担当された先生から提供していただいた「経験の蓄積」をご紹介します。各方面に配慮した様々な工夫がありますので、現場の実情に合わせて、できるところから試してみてはいかがでしょうか。下のタイトルをクリックしてみてください。
初めて日本語指導担当になられた方へ(1)

Q6.「初めて日本語指導担当になりました。参考になる文献や教材を教えてください。」
「私は日本語指導の経験がありませんが、日本語指導を担当することになりました。何か自分で勉強しようと思っています。
参考になる文献や指導に使える教材を教えてください。」

【お答え】
 初めて日本語指導担当になったという方だけでなく、これから日本語指導に携わりたいと思っている方にも共通する質問のようです。文献も教材も例えば、凡人社の出版リストを見たりホームページで検索したりすれば、いくつか出てくるでしょう。
 ここでは、実際に教えている先生から推薦してもらいました。文献・教材・パソコンソフトの順にご紹介しまししょう。下のタイトルをクリックしてみてください。
→初めて日本語指導担当になられた方へ(2)(3)