千葉市地域には相当数の帰国者および呼び寄せ世帯が在住していることは知られている。千葉班では、千葉市地域に在住する帰国者とその家族がどのような日本語習得支援を必要としているのかを調査し、求められる支援を可能とする「支援環境」を整備する、つまり、支援者支援を実施することを目的とした。
帰国者とその家族がどのような日本語学習のニーズを抱え、日本語習得支援を必要としているのかを探ることを調査の目的とした。そのために、以下の調査を行った。
1)帰国者とその家族が、既存の日本語学習支援にどの程度取り込まれているのかを知るために、千葉市地域の日本語教室等への参加状況を調べる。
2)学習者として教室に参加している帰国者にインタビューを行ない、生活上の困難点、日本語使用の必要性、日本語学習上の困難点、ネットワーク、情報へのアクセス等について聞き取りを行う。
3)支援者にインタビューを行い、帰国者とその家族の生活上の困難点、日本語使用の必要性、日本語学習上の困難点、ネットワーク、情報へのアクセス等について聞き取りを行う。
調査結果をもとに、学習の機会が十分に得られていない学習者を支援する体制の基盤を整えることを目的として支援者支援を実施した。
*実際には「潜在的な日本語学習者」にアクセスできなかったのでは?以下、削除?
さらに、そこから日本語教室等にアクセスしていない潜在的な日本語学習者のもつ問題点を明らかにすることが今回の調査の目的であった。
一方で、そのような教室に通っていない、ないしは通うことのできない潜在的な日本語学習者を支援することのできる環境を整えるために、ボランティアを対象とした研修会を行い、支援体制の基礎を作ることを今年度の目標とした。
時期:平成9年11月
対象:「あなたのまちの日本語教室(房総日本語ボランティアネットワーク編)」に掲載されている日本語教室のうち、日本語ボランティアによって千葉市内で開催され、成人を対象とする18教室。このうち回答が得られたのは15教室であった。
方法:各教室の代表者に対する電話による聞き取り調査。
調査者:内海、難波
15教室のうち、帰国者が現在通級している日本語教室は4教室で、その数はそれぞれ4名、6名、1名、1名の計12名であった。過去に帰国者が通っていた教室は3教室で、それぞれ1名の帰国者が在籍していた。
調査時に日本語教室に通う帰国者はわずか12名であった。これは調査前の予想をはるかに下回る数である。4名、6名の帰国者が通う2教室は公営住宅の近くで夜間に開かれており、その地理的時間的条件から、他の教室と比べて多数の帰国者を抱えているものと思われる。
平成9年12月に帰国者を対象とした日本語教室が新たに開設されたが、本調査時には対象となっていない。その後の調査から、この教室には毎回20名程度の帰国者が通っていることがわかった。
日時:平成9年12月5日(金曜日)3:00-4:00
対象:千葉市立稲毛小学校の「コスモス学級」担当教諭2名。
調査項目:帰国者子女の在籍状況
家庭生活の状況
両親と学校との接触状況
両親の日本語使用・学習の状況
調査者:内海、難波
平成9年度現在、3名の帰国者子女がコスモス学級に在籍し、このうち2名が日本語指導を必要とする。公団住宅のある高浜地区に移動する時期が、以前は来日後3年程度であったのが1年以下と短縮傾向にあるため、稲毛小学校に通う子女も減少傾向にある。
子女の両親は千葉みなとのクリーニング工場で働いている人が多い。労働時間が長く、小学校との接触はほとんどない。授業参観、始業式などの式典への参加もない。日本人児童の親との接触もない。
教育は全面的に小学校に依存する両親がほとんどで、母語や母文化の保持にも関心が薄い。一方、病院や諸手続きなどの場面で通訳をしてもらうため、子どもの日本語能力に対する期待は大きい。通訳をすることで、子どもは家庭の生活事情などを把握してしまい、その結果、クラブ活動などに入ることを遠慮してしまう子どももいる。
コスモス学級担当の教諭とは、家庭訪問の際に中国語通訳を介してコミュニケーションする。教諭と日本語でコミュニケーションできたり、生活上の困難を解決できるだけの日本語能力を獲得している両親はいない。仕事に追われ、また日本語による問題解決は子どもに依存できるため、日本語学習に対する関心はそれほど高くない。
日時:平成9年12月6日(土)
対象:高浜コミュニティーセンターで開かれる土曜校で支援する支援者2名。うち1名は千葉市立高浜第3小学校で帰国者子女の学級を担当する教諭。
調査項目:支援活動開始の経緯と活動内容
帰国者子女の生活状況と問題
両親との接触
両親の日本語使用・学習の状況
調査者:内海、難波
当初、土曜校の主催団体は帰国者及びその第2世代を支援の対象とし、日本語習得支援を実施した。しかし、教科書を使って教えるという方法が適切でなかったこと、生活を軌道に乗せることで精一杯の学習者がほとんどで学習が継続できないこと、当事者の心の傷を癒すには至らなかったことなどの理由から、日本語習得支援を断念した。一方で、帰国者子女の抱える深刻な問題を知り、小中学生を対象とした土曜校開設に踏み切ったとのことであった。支援者は、教科の補習、進学相談、レクリエーションの場の設定、親がわりなどの様々な役割を担っている。
両親と支援者との接触はほとんどない。親は生活に追われていて連絡を取ることすら困難である。親が教室に来ることはほとんどなく、最近では学校からの紹介も多い。
日時:平成10年5月16日、6月25日
対象:「日中友好雄鷹会千葉支部日本語教室」の支援者。第1回は3名。第2回は1名。調査項目:支援活動開始の経緯と活動内容
帰国者とその家族の生活状況と問題
帰国者とその家族の日本語使用・学習の状況
家庭訪問型支援のケーススタディ
調査者:内海、難波
<第1回調査>
対象となった日本語教室の支援内容について聞き取り調査を行った。
支援活動は、成人に対する生活支援と日本語学習支援、子どもに対する支援の日本の柱から成っている。日本語習得支援は、一斉学習と家庭訪問による学習の2形態をとる。
生活支援は、相談・依頼のあった学習者に対して実施する。仕事探しのつきそい、労働問題に関する交渉へのつきそい、事故の時に警察に事情説明を行う等である。
日本語学習は、かなの習得と初級日本語の習得を支援する。後者は『新日本語の基礎T』を使用する。家庭訪問は教室開設以前からの継続で2家族に対して実施している。
<第2回調査>
家庭訪問による支援の内容について聞き取り調査を行った。
1)支援対象の家族
幸町団地に住む家族。両親、娘二人(中学1年生と2年生)という家族構成。両親とも働いている。
2)教室参加
前任者より継続して支援している。開始時期や開始の経緯は不明。98年5月までは教室に来ていたが、父親が教習所に通い始め、また、転職して帰宅時間が遅くなったことから、教室をやめてしまった。
3)子どもに対する支援−教科の補習
数学、英語、国語などの教科の補習。日本語は話すには全く問題がないが、教科の学習となると問題がある。学習に必要な用語を知らないという問題と、日本人の子ども同様に教科の内容が理解できないという問題がある。おしゃべりをしたり一緒に遊ぶこともある。むしろそちらを楽しみにしている様子もうかがえる。
4)父親に対する支援−免許取得のための勉強
教習所で使用する教本と問題集を使って勉強。問題集をやりながら単語の説明をしたり答えの説明をしたりする。
食事をとりながら雑談もする。父親は仕事に対して不満を抱いており、よりよい仕事を求めて転職したいという気持ちが強い。そのための免許取得でもあるが、現時点では転職してもあまり労働環境は改善されていないようである。
子どもの教育にはかなり熱意を持っている。大学進学など、子どもに学歴をつけさせるために、よりよい条件の仕事をしたいと願っている。日本語学習に対する目的、そのための目標が明確である。週6日仕事をし、残りの1日は教習所に通うという生活の中で、自宅学習の時間もかなり確保し勉強している。
5)母親に対する支援−日本語学習支援
母親からの質問を中心に、ことばの使い分け、発音、文型の用法などを教えている。
母親も仕事をしているが継続的ではなく、月に10日程度ということもある。生活に対する危機感や日本語学習に対する意欲はあまり感じられない。日本語使用も消極的である。
対象:帰国者とその家族5名
時期:平成9年12月から平成10年1月(計4回)
方法:聞き取り調査(中国語の通訳による)
調査項目:背景(来日時期、家族構成、居住地域、仕事等)
人間関係のバラエティ
日本語の使用状況と学習状況
生活に必要な情報の入手方法
調査者:内海、難波、陳(中国語通訳者)
調査結果の分析から、以下のことがわかった。
1)生活を軌道に乗せることが最優先されるため、日本語能力の獲得を待たずして仕事をしなければならず、その結果、日本語使用及び学習の機会が極めて限定される。また、今 後の学習の継続も保障されていない。
2)職場、研修センター、家庭の往復で、人との接触が少ない。職場でも仕事上必要なコミュニケーションのみが行われるため、新たなネットワークに発展するケースがほとんどない。
3)情報窓口となるネットワークがほとんどない。帰国者同士のネットワークがほとんどなく、日本人とのネットワークもできにくいことから、情報窓口となるのは多くの場合、日本語のできる家族(残留婦人、先に帰国した兄弟等)に限定される。
時期:98年6月24日−99年1月(計6回)
対象:日中友好雄鷹会千葉支部日本語教室に参加する帰国者(第1回は12名、これ以降は5名以下)
担当:内海(第1回のみ)、陳(全回)
調査項目:日本語使用の状況
日本語学習の状況
日本語学習支援に対する期待
<日本語使用の状況>
1)困難を感じる場面
○日常生活で
・学校で先生との交流(託児所、幼稚園を含む)
・ガス、電気、水道などの請求書を読むとき
・病院に行って病気を説明するとき
・仕事を探すときに電話でうまく言えない
・買い物するとき
・区役所、入管などで
○職場で
・仕事に関する会話は大体決まっているので、いつも同じことばしか使わない
・休みの時に日本人と交流するが日本語レベルによって話題が違う(子どもの話題が多い)
日本人の友だちがほとんどいない。ほしいけど知り合うチャンスがあまりない。
2)日本語使用に対する期待
できれば毎日日本語を使いたい。日本に来た以上、日本に落ち着きたい、もっと日本語を理解してもっと話せるようになれば、たぶん仕事も順調にいくようになるし、日本社会においての社会的な地位も高まるだろう。そしてもっと幸せに暮らせるだろう。そのためもっと日本語を勉強したい。
<日本語学習について>
1)目的
・生活のため
・ネットワーク(日本人との交流)を広げ現状を変えたい
2)自宅学習
・時間がないので予習と復習はほとんどできない
・友だちからラジオ教育の教材を手に入れ、今自宅で勉強している(1人)
・今使っている教材は文法がほとんど書かれていないので、時々自宅で中国語の文法書を読んでいる(1人)
・辞書はあまり使わないが、分からないことばがあったら日本人に聞く
・小学生の子どもに教えてもらうこともある(直接教わるのではなく、子どもの使う日本語から学び取る)
3)自宅外学習(日本語教室について)
・教室に来る目的は、日本語学習が第一。次に、友だちと会う、日本人と接触して会話することが目的
<日本語学習支援に対する期待>
1)1対1による家庭訪問型支援について
賛成派:わからないことがすぐ聞けるのでいいと思う。
反対派:各家庭の事情があるので入って欲しくない。
2)電話やファックスを使った支援(通信教育)
電話で聞いても日本語が分からないと思うのであまり賛成しない。表情が見えないし漢字に頼れない。
3)期待
・1週間に2回の教室通いは足りない。毎日あればいい。勉強する環境があまりないので作ってほしい。今の教室での学習時間を延長してほしい。だれが日本人がいてくれるだけでも分からないことを質問できる。
・中国語のできる先生に教えてほしい。文法理解が早まる。全部中国語だと進歩しないので、肝心なところだけ中国語で教えて欲しい。
<教室に参加したくてできない人の有無>
・回りにかなりいる。理由は、仕事が忙しい、乳幼児がいる、家事が忙しい等。
千葉市の日本語学習支援状況を調査した結果、ビジネスマン、留学生、主婦を対象とした昼の教室は数多く開設されている。しかし実際には、仕事を持ち、地理的時間的に極めて限定された条件下でしが学習できない外国人、緊急に日本語能力の獲得を必要としている外国人は、帰国者を中心に数多く存在する。このような、学習の場が得られにくい定住外国人に対する支援を提供できる「支援環境」の基盤整備を目的として支援者支援を実施する。
支援者支援の方法は研修とする。研修の目的は、定住外国人の置かれた状況を理解し、支援に対する意識を高め、新たな支援の可能性を生み出すことにある。そのため、この研修では以下の目的を設定した。
1)日本語教室に通うことのできない定住外国人の状況や問題を知る。
2)外国人と日本語でコミュニケーションする中から外国人の抱える問題や学習ニーズを読みとる技術を獲得する。
3)参加者間のネットワーク生成を促進することで、自発的に新たな支援活動が生まれることを期待する。
研修は以下の通り5回にわたって実施する。
第1回 98年12月12日(2時30分〜4時30分)
「定住外国人について知る1−中国帰国者の現状と問題」
第2回 98年12月19日(2時30分〜4時30分)
「定住外国人について知る2−千葉県在住外国人の現状と問題」
第3回 99年1月23日(2時30分〜4時30分)
「外国人と日本語でコミュニケーションする1−概論」
第4回 99年1月30日(2時30分〜4時30分)
「外国人と日本語でコミュニケーションする2−コミュニケーション活動の実際」
第5回 99年2月6日(2時30分〜5時)
「外国人と日本語でコミュニケーションする3−ニーズを読みとる」
今回の研修に際して、コーディネーションのための委員会を組織し計画・実施にあたった。その構成員は、本プロジェクト千葉班メンバーに千葉大学文学部の吉野文氏を含めた4名である。広く参加者を募りたいとの希望から、本研修を房総日本語ボランティアネットワーク主催の事業とした。各回の運営面では同ネットワークの板倉弘子氏、藤沢明美氏にご協力いただいた。また、第1回、第2回には委員会外から講師を、第4回には千葉大学で学ぶ留学生10名をインフォーマントとして招いた。各回で行われた内容の概略は以下の通りである。
第1回 「中国帰国者の概要と帰国者が地域生活の中で直面する問題」
参加者: |
15名 |
形 態: |
講義 |
講 師: |
平城真規子氏(中国帰国者定着促進センター) |
内 容: |
1.中国帰国者の概要 2.帰国者に対する帰国から定着自立までの援護の流れ 3.「移住者」としての中国帰国者の側面 3−1異文化適応過程におけるストレスの要因と心理的変化の過程 3−2異文化適応と日本語学習 |
感 想: |
(参加者アンケート用紙より抜粋・編集) 「適応・同化などの言葉をあまり深く考えずに生活の中で使ったりするが今日はそれらについて改めて考えてみる機会を与えられた」 「センターは今以上に地域とのつながりがあっても良いのでは。見学はできるのか」 「帰国者は恵まれていると思った」 「今日の資料にあった「ご近所サポーター」をグループで組織して実践している」 「帰りたくて帰ってきた日本で気持ちよい余生を送っていけるようサポートできる方法を考えていきたい」 「中国での資格が日本では役に立たない等、帰国前の情報は十分なのだろうか」 「テレビ番組で見た帰国者のその後が気にかかる。自分には何ができるのか...」 「日本人は帰国者をどんな立場の人間だと思っているのか疑問。かわいそうだと言って何かをやってあげるより、自信を与えて自立できるようにした方がいい」 |
参加者: |
18名 | |
発題者: |
グループ1 |
白谷秀一氏(千葉県立千葉高等学校) 関口和子氏(千葉県中国帰国者自立研修センター) 田中賢太郎氏(千葉大学理学部3年学生ボランティア) |
講 師: |
グループ2 |
横山解子氏(千葉県国際交流協会) 陳王京氏(千葉大学文学部4年、千葉班協力者) |
形 態: |
パネルディスカッション | |
内 容: |
千葉在住の「外国人(=日本語が得意ではない人々)」の中でも、学習の機会が得られにくい労働者、帰国者とその家族について現状、問題、ニーズを探る | |
感 想: |
(参加者アンケート用紙より抜粋・編集) 「宗教に関する事の扱いをどうしたらよいか」 「もう一歩踏み込んで何が足りないか、何を目指しているか探り出して欲しい」 「小さな子供を持つ女性が家庭に閉じこもらず言葉を学ぶこと、他の人たちと交流できる機会を提供していくことは重要な課題であると感じた」 「ボランティアで日本語を教えている学生グループがあってとても驚いた」 「外国人の生の声をひろいあげていくうちに、何ができるかわかってきたのでは」 「ボランティア組織に入れていただくと思うだけで身構えていたが、『個人対個人』から始めたいという気持ちはやはり大事だと感じ気が楽になった」 「ボランティアをしている人にちょっと疑問。ボランティアはどういうふうに思われるのか、動機は、等検討した上で活動した方がいいと思う。頼られるより互いに学んでいくことも大事」 「地域での支援活動を是非実現したい」 「日本語教室のあり方が柔軟でなくてはならない。情報を得る等色々な意味での拠点になれたら。それにはボランティア同士の話し合いが必要」 「帰国者同士のネットワークは必要だが、自分たちのコミュニティーを作りそれが日本人との壁になってしまう危険もある。どのようにネットワークを作ればいいのか」 |
参加者: |
19名 |
進 行: |
富谷玲子(千葉班) |
形 態: |
ワークショップ |
内 容: |
1.自分自身のコミュニケーションの特徴を知ろう
2.わかりやすい日本語・わかりにくい日本語
|
感 想: |
(参加者アンケート用紙より抜粋・編集) 「自分のコミュニケーションを内省する機会になった」 「普段から自己分析するくせはつけているが参考になった事も多かった」 「私自身かなり気短なところがあって、後で失礼だったかと後悔することがある。授業の時は我慢して発話させるように努めている」 「コミュニケーションの難しさ大切さを具体的に聞くことができた」 「習慣になっている自分自身の言葉のコントロールが必要である」 「自分たちの会話分析がおもしろかった。教える立場ではなく外国人に接したは初めてで新鮮だった」 「どの程度のレベルの人に対してのわかりやすい日本語かがわからなくて混乱した」 「日頃意識的に話していなかったので新鮮だった」 「今日学んだことは英会話にも使える方法と同じだと実感した」 「自分の話し方がいかにコミュニケーションしにくいものかわかった」 「自分を見つめ直すことができた」 「言語によるコミュニケーションは非言語に影響されることが大きいと感じた」 |
参加者: |
16名、千葉大学留学生10名 |
進 行: |
吉野文(千葉大学)、難波康治(千葉班)、内海由美子(千葉班) |
形 態: |
ワークショップ |
内 容: |
【実習1】会話と観察 日本人3人と留学生1〜2人でグループを組み、1対1で10分間会話をする。他の日本人はそれを観察する。 【実習2】会話の分析(1) 実習1の会話を振り返り「よかった点」「問題点とその理由」を話し合う 【宿題1】会話の分析(2) 自分の参加した会話の録音テープの文字化 【宿題2】自分自身の会話について気づいたことを挙げる |
感 想: |
(参加者アンケート用紙より抜粋・編集) 「ドキドキした。相手が分かる言葉で話をすることが難しかったが、相手も一生懸命だということが伝わってきた」 「テープを意識してあがってしまった」 「両方とも緊張した。学習者はこちらの質問に答えることで精一杯。場面が不自然で会話にも影響した」 「初対面の相手で緊張した。自分の日本語のコントロールが難しかった。教室外ではなるべく普通に話すようにしている。今回もそのようにした」 「日本語のみで(媒介語なしで)会話していくことの難しさ」 「おもしろかった」 「英語以外での外国人との交流は初めてだった。敬語がつい出てしまって分かりにくかったようだ。相手も楽しかったと思ってもらえたら最高だなと思た」 「外国人と話すのに慣れているはすだが、自分の会話を意識することがなかったので、今日は疲れた」 「外国人と話し、感想も聞けたのは初めてでよかった。どのように受け取られたかいつも気になっていた。テープ起こしをするのがこわい」 「自分の話し方に特徴があることもわかった」 「実習は刺激的で反省点も多かった。今までやったことがないので、自己分析の機会・材料になったが自分の中で消化不良だった」 |
参加者: |
16名 |
進 行: |
内海由美子(千葉班)、難波康治(千葉班)、吉野文(千葉大学) |
形 態: |
ワークショップ |
内 容: |
1.コミュニケーションについて 前回の会話について、自分のコミュニケーションについて コミュニケーションを客観的に見る力について 2.コミュニケーションを通して得た情報の分析 会話からわかったこと・判断したこと |
感 想: |
「ていねいさの問題よりコミュニケーションできるかどうかの問題の方が大きい」 「先週の課題はハードで落ち込んだが、他の人も同じ誤りをしていることを知り少し救われた。ハードな分、充実感もあった」 「学習者の気持ちを考えてコミュニケーションすることが難しかった」 「文字化を初めてやった。無駄な言葉が多く何を言おうとしてうるのか焦っていた」 「ボランティアの意識の問題の方が気がかりでいつも悩んでいる」 「自分で今できることは何かをよく考え、やれることをやってみたいと思った」 「接触場面をモニターしてみるのはおもしろい」 「ニーズ分析はあまりできなかったが、参加者同士で話し合いできてよかった」 「常に自分が日本語教師をしていると意識する姿勢は外国人と接する時にはよくない」 (参加者アンケート用紙より抜粋・編集) |
交流会 |
第5回終了後に1時間程度行った。研修参加者が全員参加した。 |
研修目的に照らして今回の研修内容を検討する。
第一の目的「外国人について知る」に関した講座では、参加者のバックグラウンドの違いから反応も様々であった。支援経験の少ない人には新しい情報があったものの、活動経験が豊富で現場で様々な問題に直面している人からはもう少し議論を深めたいとの感想があった。しかしこの2回の講座が互いの活動について知るきっかけとなったため、参加者間で活動に関する情報交換が活発に行われた。これから活動を始めたいと希望している参加者、今までと違った活動の方向性を探ろうとする参加者には意義があったものと思われる。
第二の目的「日本語による自身のコミュニケーションを見直す」に関した第3〜5の講座は、自己分析の機会になったとの評価がある一方で、不自然な場面で録音され
がら外国人と会話をなければならなかったこと、さらにその文字化をしなければならなかったことからの緊張感は大きかったようである。参加者によるアンケート用紙には、このような研修に外国人と話す機会を求める声が少なからずあった。日本学習支援を通して日頃外国人と接する機会が多いであろう参加者からの声としては意外に感じられる。日本語教室では、テキストを使った学習が優先され、互いに感じたことや話したいことを話す「コミュニケーション」の機会を設ける時間的余裕がないということであろう。コミュニケーションできたという達成感が学習意欲と深く関わっているということを頭では理解できていても、毎回の進度予定をこなすことにのみ追われがちであるという、教科書を中心とした学習支援の問題が多くの現場にあるように思う。
今回、研修という支援者支援の形態をとったことの背景には、参加者同士が研修参加を通してネットワークを築く、そこから新たな活動がうまれる等に対する期待があった。後者については未だその成果は見えてこないが、前者に関しては一定の評価ができる。特に日頃の活動仲間、研修仲間とは違う参加者、例えば留学生や大学生、学生ボランティア等と知り合いネットワークが築かれる機会が生まれた。各回講座終了後も会場では積極的に情報交換を行う光景が見られ、交流会にも講座参加者のほぼ全員が参加した。今後、このネットワークがさらに発展し新たな支援活動が展開されることを期待したい。その中で、私たちにとってもまた違った支援者支援の必要性が見えてくるのではないかと思われる。
なお、全体を通して参加者の意識は高く、年末年始の時期に実施したにもかかわらず、ほとんどの人が5回を通して参加した。
このような「研修」という形は、支援の基盤づくり(支援環境の整備)としては最初のステップにすぎない。このような基盤づくりの活動をどのような形で続けていくことができるのか、またその運営の母体をどのように作っていくかが課題である。
今回の研修の参加者からは「このような研修がもっと行われればよい」「時間が足りなかった」といった意見もあったが、参加者自身が次の活動を考えていくという姿勢はまだみられない。そのような活動を考え主要メンバーとなって実行できるコーディネータ的人材を育成することが必要である。