U.再研修講座 開設・運営のモデル

●再研修講座についての考え方−開設・運営にあたって−
 従来から行われている二次センターの研修と対比させる形で再研修講座の特性と考えられることがらを指摘してみます。
◎指導目的・機能

従来の研修

再研修講座

 とりあえずの自立を目指す
(予備的指導)

 長期的視野に立って学習継続の機会を提供する
(生涯的学習の支援)


 
 二次センターの研修で当初目指されたのは、一次センターを修了した帰国者に対して、定着地での日常生活に一層密着した内容を指導することによって自立の力を付けることでした。しかし、学習者の高齢化や一次センターを経過していない呼び寄せ家族が増えてきたこと等により、一次センターと二次センターの学習期間だけでは自立のために十分な力を付けられないケースが多くなってきたようです。このようなことから現在の二次センターは実質的には、「来日当初の予備的集中指導」を行う一次センターの継続または代替の機能を果たすものとなっていると言えるでしょう。土日でもない平日の昼間にセンターに通っているということは、本来の意味の「定着後」の生活はまだ始まっていないわけで、その意味で「予備的指導」と考えるのが妥当だと思われます。
 これに対して再研修講座は、長期的展望から帰国者の学習支援を目指すものとして位置付けることができます。帰国者のような定住型の人々(成人)の一般的特性として、コミュニケーション上の不全感が生涯にわたる傾向があると言われますが、このことから、これらの人々は潜在的には長期にわたって学習ニーズを持ち続けていると考えられます。
 従来、帰国後の長い期間のうち、最初の1年間しか公的な学習機会が確保されていませんでしたが、再研修講座をうまく機能させることによって、本来の意味の「定着後」の学習機会とすることが可能になると考えられます。
 
◎指導内容

従来の研修

再研修講座

 当面の生活上最低限必要とされることがらや緊急性の高いことがらが中心(サバイバル日本語)
 より学習者のニーズやレベル、適性に合わせた内容(学習者中心の内容)


 
 従来の研修では、学習者はまだ経済的に自立していないこともあり、自宅とセンターとの往復の毎日です。行動範囲や交際の範囲は一次センター在所時に比べれば広くなったと言えますが、生活の体験の中から生まれる学習動機やニーズはあまり期待できません。したがって指導の内容は、指導者側が中心になって当面の生活上最低限あるいは緊急に必要とされる日本語(サバイバル日本語)を選ぶことになります。
 再研修では、より学習者のニーズに沿った内容を扱うことが求められます。学習者のニーズに合わなければ、その講座に通ってくる学習者は徐々に減っていって、講座が終了する前に学習者がいなくなるということも考えられます。一次センターおよび従来の二次センターの研修が実質的には半分以上「義務」であったのに対し、再研修講座の場合はそうではありません。再研修講座に通ってくる学習者の大半はすでに実生活が始まっているわけですから、生活への自信もついていますし、忙しい身でもあります。役に立たないと思えばすぐにやめてしまいます。これは学習意欲の問題ではなく、成人の学習の一般的特性と考えるべきでしょう。
 帰国者の学習レベルやニーズ、適性は非常に多様です。すべての人に合うような講座内容を設定することは不可能と言えます。学習者のニーズに合わせるためには、すべての人に合わせようとせず、ある特定の学習者層に焦点を絞るほうが賢明でしょう。

◎指導形態

従来の研修

再研修講座

 多様な学習者から成るクラス方式
 長期にわたって集中的に継続する密度の高い指導
(開設側主導の固定的形態)

 ニーズやレベルが比較的均等な少人数クラスまたはグループ方式
 学習期間や密度は比較的自由に設定できる
(学習者の条件に沿った柔軟で多様な形態)


 
 従来の研修は、原則として8か月間、毎週平日の午前または午後の3時間程度の学習期間が所与のものとして設定されていました。また、まだ所定の研修を終えていない帰国者全員をともかくも対象としなければならないということから、緊急性と効率性が強く求められていました。この、全員を対象とするという点と、期間が一定に定められているという点が再研修講座と違うところです。
 現在のほとんどの二次センターの物理的条件(指導者の員数、教室数等)からすると、いろいろなレベル、適性、ニーズをもった学習者全員を対象にして、ほぼ毎日授業を行っていくには、クラス内のレベルの格差、適性やニーズの違いにある程度目をつぶらなければならないでしょう。
 再研修講座の場合も予算上の制約はありますが、入所者のすべてに緊急に対応しなければならないこれまでの研修とは異なり、受講者をニーズやレベルを同じくする者に限定し、その受講者にあわせたコース設計を行うことが可能となります。その結果、1コースの受講者数は少なくなりますが、コース数や講座開設期間を柔軟に設定し時間や期間を配分することで、長期的には多くの受講希望者に対応していくことが可能となるでしょう。むしろ、再研修講座では、レベルの格差や適性、ニーズの違いは致命傷になりかねません。焦点がぼやけると、結局は誰のためにもならない講座になってしまい、学習者が通って来なくなって、講座そのものを最後まで維持できなくなってしまう可能性があるからです。再研修講座が小規模の単位になることはむしろ当然のことであり、人数が少ないからといって躊躇する必要はありません。
 
◎指導体制・役割分担

従来の研修

再研修講座

 ほぼ全センターに共通した所定の研修内容、研修期間に対応した安定的・固定的な指導体制と役割分担
 柔軟で多様な対応を支える協力体制が必要


 
 従来の研修では、研修内容や研修期間等の面で大きな変化を求められることがないままにきましたから、指導の体制も時間の経過とともに安定し、固定化してきたと思われます。しかし、再研修講座の場合には、先に見てきたように柔軟で多様な対応が要求されることから、どのようなコースをどのような時間帯に開設するか、どのような形態で指導するか、指導者の配置や教室をどうするか、といったことのほか、ニーズ調査や学習者募集をどのような役割分担で行うか等、授業を担当する者だけでは決められないことがらがたくさん出てきます。協力体制を築いていくためには、センター全体で再研修の意義を理解し前向きに取り組んでいく雰囲気を作っていくことが何よりも大切になると思われます。
 また、二次センターの運営に関しては、自治体の担当者の考え方や助力が非常に大きな影響力を持っていることも事実です。それぞれのセンターが再研修講座のための柔軟で多様な試みを積み重ね、多くのセンター間でその積み重ねを共有化する上で、自治体担当者の支えは大きな力となるでしょう。


●開設・運営のモデル
 各センターが再研修講座を開設・運営する場合の作業手順のフローチャート、および、その解説と各作業段階で必要となる文書等を例として示してあります。


〈作業手順〉

〈解説/【必要となる文書等】〉

 @状況分析
○講座実施の条件把握及び整備
○学習者把握
(ニーズ調査)


・講座運営組織の立ち上げ(コーディネーター、カリキュラム設計担当者、授業担当者等の決定)
・教室開設地・教室数・講師数等、講座運営側の諸条件のチェックと不備な条件の整備(教室の拡張や講師の募集等を含む)


・コース設定のための資料となる学習ニーズ調査の実施(どのような学習者がどのような内容の講座を希望しているかを把握する)[注]

             …【ニーズ調査表】資料2

・調査方法としては、アンケートや電話によるインタビュー等が考えられる


 

Aコース設定
○ニーズタイプ特定
○学習者タイプ特定
○コースタイプ特定○コース目標設定


・@の状況分析をもとに、成立可能と思われるコースを設定し、講座開設地・コース期間・時間帯等を決定する
・Cの【コース設計】の基本となるおおまかなコースのイメージ固めも行っておく
                  ※詳細についてはV章参照


 

B学習者募集
○募集案内作成
○募集活動
○受講者の決定


・Aをもとに学習者募集のための案内を作成
・募集方法としては、案内書の郵送や電話等が考えられる
・定員を超えた場合の対処、定員に満たなかった場合の再募集等についても検討しておく必要があろう

                   …【募集案内書】資料3


 

Cコース/カリキュラム設計
○コース設定(A)の確定
○コースの基本構造決定
○プログラム目標設定
○プログラム開発



・コースの構成(どのようなプログラムを組み合わせたコースにするか)を決定し、各プログラムの学習内容を計画する。プログラムによっては教材開発や外部からのボランティア募集等も必要となる場合があるだろう

              …【カリキュラム設計表】W章参照


・カリキュラム設計の担当者と授業担当者との連絡方法も決定しておく必要がある


 

D学習者データ収集
○学習者カルテ作成


・Bの受講者が決定した段階で(Cの作業と並行して)、学習者データの整理を行い「学習者カルテ」を作成しておく。このカルテは、カリキュラム設計や個々の授業の具体的活動を計画する際の資料となるものであるが、Eの【実施】段階における授業時や授業時間外に学習者からよせられる相談等から得られるデータも、順次記入し蓄積していくようにすれば便利である

             …【学習者カルテ】資料4


 

E実 施
○カリキュラム実施
○フィードバックによる修整


・日々の学習活動の中で、授業担当者が学習者の到達度や学習計画自体についての評価を行うこと、また学習者からのコースについての評価等を得ることが重要である。授業担当者や学習者から得られたこうした情報は、カリキュラム設計にフィードバックする。場合によっては講座期間半ばでのコース修正の必要が生じるかもしれない


 

F最終評価
○修了評価
○学習者によるコース評価
○カリキュラムの改善
○今後の学習継続に向けてのニーズ調査


・上記の種々の評価を最終的に行う
・講座の修了評価については、学習者の自己評価や教師によるペーパー、面接、ロールプレイ等のテストによる評価が考えられるが、再研修のような成人教育の場合はテストというような形式をとらない方がよい場合も多い。しかしその場合でも、学習カウンセリングのような形で日本語力の伸び等学習の成果について教師の評価を学習者に伝え、それを学習者の自己評価や達成感につなげることは、今後の学習継続の意欲を高めるためにも必要であろう
・学習者による最終的なコース評価(授業の中で、またはアンケート等で)は今後のカリキュラム改善の資料とする
・講座修了時点での新たな学習ニーズも把握しておきたい



[注]ニーズ調査について:
 新たに講座を開設する場合、長期的な講座運営の計画をたてるためにも、アンケート方式等による広範な基礎調査を前もって行っておくことが理想的である。それが無理な場合には、二次センターが把握している学習者データの範囲で、ニーズを予測し、実現可能なコースを想定した上で、そのコースの対象になるだろうと判断した者に限定してニーズ調査を行うことも考えられる。いずれにしても、実際に受講する意欲の有無について知るためには、どのような形態(場所、時間帯等)で、どのような内容の講座を予定しているのかを具体的に提示し、その上で受講の意志を問うような形態のものが望ましいだろう。

 

 次の図は、再研修講座開設・運営を、運営組織の役割と機能という観点から整理したものです。講座の開設・運営には、研修規模の大小に関わりなく、基本的にこうした役割と機能が必要になります。運営チームを組織化するにあたっては、コーディネーターを中心にこれらの役割をどう分担しスタッフ間の連携をどうはかっていくかが重要な課題となるでしょう。